違う、そうじゃない
なんだろう。
なんでボクはこんな簡単なこと気にしなかったんだろう。
ボクは凄い事実に気づいてしまった。
「どうしたのボノ。お顔が固いわよ?」
せんりつするボクに、クラーチャが不思議なことはボクの顔くらいっていう調子で聞いてくる。
まさか彼女もこの異常性に気づいていないんだろうか。
自分の身体のことなのに!
ボクはすぐにこの不可思議を伝える為に口を開いた。
「クラーチャ、妖精の燐ぷんってなんで無くならないの!?」
つい大声になっちゃったボクの質問に、クラーチャはきょとんとした顔をして。
しばらくこてんこてんと頭をかしげた後、無邪気に笑って言った。
「そんなの、神様がそうしたからじゃないの? 羽ばたくと燐ぷんが落ちる。燐ぷんがどこからくるのなんて、誰も気にした事無いわ」
ボノったら変なこと気にするのねと笑うクラーチャの態度に、確かになんでそんな事気になったんだろう、と思う。
蝶々妖精が羽ばたけば燐ぷんを落とす、これはお皿を手から離したら落ちる。
それくらい当然のことで、世界はそうなってるんだから疑問に思う方がおかしい。
「そうだよね。おっかしいなぁ、なんでボクは燐ぷんがなくなるなんて考えたんだろう?」
「なんでかしらね。何か原因があるんじゃないかしら」
「うーん。原因……ずっと在るべきものが無くなるように思うような、そんな原因……」
うんうんと唸りながら考える。
そんなボクを見て。
「ボノがまた考え事してる! いっつもほっぺた膨らませるのが可愛い!」
なんてころころ笑い声を上げるクラーチャの事は一先ずおいておいて。
じっと考える。
なんだかつい最近、何か引っかかることがあった気がする。
つい、最近。
そんな昔の事じゃない。
本当にここ二、三日の出来事。
「思い出した! お乳だよ」
ボクがあげた大声に一旦ころりと転がり落ちたクラーチャが、パタパタとボクの目の前に飛び上がってどうしたのと聞いてくる。
「なあにボノ。お乳がどうかした? 飲みたくなった? 私が飲ませてあげよっか」
「いや、飲みたいわけじゃないよ。そうだよ、町にお嫁に行った伯母さんから、近所の奥さんのお乳の出が悪くて皆困ってるっていう手紙をくれたんだ」
「あ、なるほどねー。出るべきものが出ない、それが印象に残ってたのね」
「うん。だと思う。母さんが燐ぷんの薬をすすめようって言ってたから、燐ぷんまでで無くなったらどうしようって思ったのかな」
「うんうん。そうだと思うわよ。私達の燐ぷんはいつでも、いくらでも出るから安心してね」
「解ったよ。はー、もやもやが晴れたよ」
「そう? それは良かったわね。でもボノ、男の子があんな大声でお乳なんていったらだめよ。ふふふ」
クラーチャに言われてはっとしてみれば、なんとなく周りの女の子……年長組だけだけど……の視線がなんだか冷たい。
ち、違うんだ、別に飲みたいとかそんなんじゃ……うわぁぁぁあ、穴があったら入りたい……!