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ちゅう

 クラーチャはお嫁さんになりたいって言うんだ。

 そう話すと父さんも母さんも、笑ってこう言う。


「蝶々妖精が人間の奥さんになれるわけがないじゃないか」


 二人とも笑ってそういうんだ。

 村の他の大人の人に言っても、おんなじことを言って笑うだけ。

 ボクも、あんなに小さなクラーチャをお嫁さんに迎える方法なんてわからないから。

 やっぱり無理だよねって言っちゃったけど。

 なんか、そんな風に言う自分がとてもいやな奴に思えた。


「ボノ、顔が暗いよ。どうかした? お腹いたい? ちゅーしてほしい?」


 鬱々と暗い考えにはまり込みそうなボクを、クラーチャの言葉がさっとすくいあげる。

 ちゅーしてほしいかと聞く、彼女の能天気で明るい声に、ボクは思わず笑っちゃう。

 それはばかだなぁとか、嫌な笑いじゃなくって。

 ボクを必死に元気付けようとしてくれるクラーチャが可愛くて、思わず笑顔になりそうになる。

 そんな笑い。

 ホントはそれだけで悩むのなんて止めちゃえるんだけど、ボクはクラーチャに甘えることにした。


「うん。クラーチャがちゅうしてくれたら、きっと元気になるね」

「ほんと? じゃあ……はい、元気になるおまじないよ」


 小さくっても、彼女の唇はとても柔らかいから、ボクのほっぺたは敏感にそれを感じ取る。

 ああ、クラーチャがヒト並のサイズならなぁ。

 ボクも君にちゅうをしてあげられるのに。

 元気をくれたクラーチャに、どんなお礼をすればいいだろう。

 父さんは、母さんと毎朝ちゅうをするのを見かけるんだ。

 ボクにもするけどそれはほっぺ、母さんとは口でする。

 口はお互い特別だと思った人同士しかしないんだって。

 ……ボクも、元気付けてくれるクラーチャに君は特別だとちゅうで伝えたい。

 でもそれはクラーチャにとって危ないから出来ない。

 どうすれば良いんだろう。


「あ、ボノったら。ちゅうしてあげたのにまーた眉間に皺がよってる。何考えてるの?」

「んと、あのさ。ボクにとってクラーチャが特別なのを伝えるにはどうすればいいかなって」

「あはは、そんなの簡単よ。好きって言えば良いの」

「ボクは父さんと母さんにも好きっていうよ。たまにだけど」

「たまにでしょ?それもお父さんとお母さん以外には普通言わないわよね」


 クラーチャの言葉を考えてみれば、確かに好き好きと人には言わなくなった気がする。

 もっと小さい頃は、構ってくれるヒト皆に好きって言ってた気がするけれど。

 今は言わない。


「ほら。難しく考えないでボノ。君が好きだよクラーチャって言ってみて。私、それだけでとっても嬉しい」

「うん。解ったよクラーチャ。クラーチャ、君が好きだよ。きっと他の誰よりも……好きだ、クラーチャ」

「うふふ! ボノだーいすき!私達、好き同士ね!」

「そうだね、クラーチャ。こういうの、そうしあい……」

「そうしそうあい、ね」

「ああ、そうしそうあい、だね」

「うん。素敵ねボノ。私達は特別同士よ」


 笑顔でさらにちゅっちゅとボクにちゅうの雨を降らせるクラーチャ。

 いつの間にか、悩みは消えて。

 周囲のちょっと年長の女の子達がボクらを睨んで。

 男の子は皆にやにやしていた。

 ……ちょっと恥ずかしくなったよ。

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