夜のお喋り
夕食の後、お父さんとお母さんに行ってきますといって僕は森に入る。
一巡りの内の僅かな日数、ボクは夜の森でクラーチャと過ごす。
夜の森なんて、普通のヒトには危ない事だらけで、好んで入る人なんていない。
でもボクは大丈夫だと言われている。
「こんばんはボノ。今日は一晩一緒に居ようね」
「やぁクラーチャ。今晩は泉の傍で一緒に居よう」
クラーチャはボクが森に近づくと、どこから見ているのか解らないけど一目散に飛んでくる。
月の光は昼間でも鮮やかな輝く蒼色の翅を眩い乳色に光らせて、優しい色を見せるんだ。
ボクはそんなほのかな森の中の太陽のようなクラーチャのあとを付いて、森の中の泉まで辿り着く。
不思議とクラーチャの後に続いて歩けば、木の根に足をとられることも無く、苔で足を滑らせることも無い。
まるで昼間に畑の周りをあるくような気軽さで、夜の森を抜けてしまう。
「ボノが来た」
「クラーチャが連れて来た」
「クラーチャにボノとどんなお話してるのか聞かなくちゃ」
「クラーチャったらいじわるだから。ボノが居る時しかボノ話をしないのよ」
「もっともっと恋の話を聞きたいのにねぇ」
「ボノ、もっと一杯来てくれて良いんだよ?」
泉の周りには、ぺちゃくちゃと楽しそうにお喋りしながら飛んで集まる蝶々妖精が沢山。
そんな彼女達を一先ず置いて、ボクはクラーチャにつれられて岸辺の近くの、柔らかい下草のベッドの上へと寝転がる。
すると、そんなボクをベッドにするかのように、クラーチャがボクの胸の上に寝そべり、他の妖精たちも挙ってボクの身体の上に腰掛ける。
妖精はみんな軽いから、ボクの苦にはならない。
それどころか、皆の魔法の力でまだ少し夜の外で眠るのには涼しすぎる風がさえぎられて、心地よい温度がボクを包む。
すると、妖精の皆とクラーチャのお喋りが始まる。
「ねぇクラーチャ。ボノは優しい?」
「優しいわ。ちょっと口数は少ないけど、私のお喋りをちゃあんと聞いてくれるもの」
「クラーチャ、恋ってどんな気分?」
実を言えば彼女達の話題は、そんなに代わり映えはしない。
それでも皆クラーチャの話を聞きたがる。
「そうね。一息で目が離せなくなって、二息に胸が苦しくなって、三息めにはなりふりかまわず傍に居たくなって。四つ息する時には傍に居るだけで幸せになるのよ」
「幸せってどのくらい? 森の蜜を飲むときより凄いのかしら」
「森の蜜は一瞬だけど、ボノの傍に居る間はずっと幸せなのよ」
「恋するって楽しい?」
「とっても楽しい! ボノと離れている時も、ボノが私の事を考えてくれるかしら? ボノが私に会いたがってたらどうしようとか。考えるだけで胸が弾んで、何時も頭はボノの色。とっても楽しいのよ」
「クラーチャはボノのお嫁さんになるの?」
「ボノが心底私を好きになってくれたらなるわ」
ああ、またこれだ。
ボクはヒトで、クラーチャは蝶々妖精。
君はボクの身体の上に乗れちゃうほど小さいのに、どうやってお嫁さんになるのさ。
花嫁衣裳は誰が作るの?
そもそも村の結婚を取り仕切る村長さんは許してくれるのだろうか。
恋妖精の燐ぷんは、大事な大事なこの村の稼ぎの一つになっているっていうし。
クラーチャ、君のお願い聞いてあげたいけど、ボクにはその方法がわからないよ。
君には解るのかも知れないけど、ボクには教えてくれないね。
その内その内というけれど、その内っていつなのさ。
瞼を閉じてもきらきらと感じる君達の翅の輝きがあっても、心地よいクラーチャ達の声を聞いていると眠くなってしまうから。
「ねぇクラーチャ……には……の?」
「それはね……」
野良仕事で疲れても、この続きを聞けるくらい大人になったら。
ボクは君をお嫁さんに出来るのかな。
クラーチャ、ボクにもいつか蝶々妖精がヒトのお嫁さんになる方法を教えてね。
今は心地よい音色に包まれて眠るけど。
絶対だよ、クラーチャ。




