ボクと彼女の識別法
クラーチャ達蝶々妖精は服を着ない。
それを見てボクは常々思っていた言葉を、肩に乗ってボクの頬をつっつく彼女にぶつけてみた。
「ねぇクラーチャ」
「なぁにボノ」
「君ってつるつるしててカエルだよね」
「やだボノ。私あんなにぬるぬるしてないわ」
ぐぐっとボクの頬をつくクラーチャの指先に力が入るのが解る。
でも人間の子に突かれるほどの圧迫は感じなくて、ボクは話を続けた。
「ぬるぬるはしてないね。すべすべだね」
「珠のお肌っていうらしいわ」
「珠ってなに?」
「んー、石がね、丸くてぴかぴかですべすべなの」
「そんなのがあるんだねぇ。クラーチャは物知りだね」
「ずーっとずーっと昔の話よ。村の村長の娘が珠を一杯繋げた首飾りを鹿一頭分のお肉と沢山の小麦と交換したの」
「……なるほど。村長さんの奥さんがつけてる首飾り、あれが珠なんだね」
「あら、村長は娘を奥さんにしたの?」
「ん? 村長さんの奥さんは村の外から来た人だから娘なんかじゃないよ」
「?」
蝶々妖精は、子供を作ったりしないらしいから、人が入れ替わってるのに気づいてないのかな。
……ボクってちゃんとクラーチャにボクだと解ってもらえているのかな。
そうなると、ちょっと気になって。
ボクは頬っぺたを押し続けるクラーチャの腕にそっと触れる。
押すとも意識しないくらいそっと柔らかく、万一力を入れすぎても大丈夫なように、彼女の腕の内側から。
羽毛のような軽さを感じながら、ボクはカエルのお腹のようにツルツルで、春の日を受けると眩く光る肌に触った。
「ねぇクラーチャ。ボクの顔と他の子の顔、区別できる?」
「匂いで解るわ」
「いや、顔で見分けてよ」
「そんなの無理よ。貴方達ヒトの顔って広くって、部分部分はなんとなくわかるけど、全体を見渡すのは大変だもの」
「そっかぁ、無理かぁ」
「逆に聞くけれど、ボノは私を仲間達の中から見つけられるのかしら」
「……言われて見ればボクからもクラーチャ達妖精の顔は小さすぎて見分けるの無理かも。髪型も皆似た感じだし」
「ふふふ、ヒトが私達を見分ける方法があるんだけど、教えてあげよっか?」
クラーチャのいたずらっぽい言葉に、ボクはちょっと惹かれた。
実を言えばボクはクラーチャが寄ってくるからクラーチャだと解るくらいの、なんとも薄情な友達だったからだ。
クラーチャは匂いとは言えボクが解るのに。
ボクが彼女を解らないのはなんか、悔しい。
「どんな風に見分けるの? 教えてクラーチャ」
「ふふ、いいわよ。翅を見るの。私達はみーんな翅の模様が違うから。私の翅を覚えてね、ボノ」
翅を見る。
なるほど、そんな方法があったのかと納得すると共に、ボクにクラーチャへの頼みごとが一つ増えた。
「クラーチャ、じゃあボクにじっくり翅を見せてよ。いつも君はすぐボクの肩に乗っちゃうから見えないんだ」
「あはは! だーめ、飛んでるときに頑張って覚えて」
きゃらきゃらと笑いながらボクの頬をつつくのをやめると、指先よりもっと大きい感触がボクの頬をついた。
あ、ちゅーされた。
そんな事を思いながら、僕に向かって飛んでくるときの、二枚が何枚にも増えて見えるクラーチャの翅の模様をどうやって知ろうか。
ちょっとボクは頭を悩ませた。