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末永く幸せに暮らします

 思えば、ボクとクラーチャの付き合いも長いと思う。

 六歳の頃から九年。

 毎日会って、話して、触れ合って。

 そんな関係を続けて僕も今年は成人で、今日は成人を祝う村の祭りだ。

 この日は若い成人だけで夜通し過ごして結婚相手を決める。

 当然あぶれる人間もいるけれど、なぜか毎日クラーチャと過ごすのが主な仕事のボクにヒトが集まる。

 そんな囲みから抜け出したボクは、森に来ていた。


「ボノどうしたのー。今日はお祭りでしょ?」


 少し森に入って、月明かりの中の燐光を探した僕の前に、何時ものように素早くクラーチャがやって来た。

 いつの間にか、不意に見るとどきりとさせられる裸体をさらすクラーチャの問いに、ボクは僅かに唾を飲み込む。

 そして、一つ深呼吸をして、言葉を手向ける準備は出来た。


「あのねクラーチャ」

「なあに、ボノ」

「今日の祭りは、結婚相手をね、決める祭りなんだ」

「知ってるわ」

「それでさ、お嫁さんって考えたら。ここに来ずには居られなかった。君の所にこないなんて、選べなかった」


 ボクの言葉を聞いて、珍しく瞼をしっとりとさげて、少し俯き、沈黙したクラーチャ。

 しばらく翅を羽ばたかせて上下した彼女は、ゆっくりと目を開くと、上目遣いで僕に言った。


「それは、ええと、私の事を本気でお嫁さんにって思ってる?」

「うん。思ってる。おしゃべり好きのクラーチャ、僕を元気付けてくれるクラーチャ、可愛いクラーチャ、君は僕の太陽なんだ。ずっと一緒に居てくれないかい」


 ボクは思わず跪き、クラーチャに向けて手を差し伸べる。

 おとぎ話の勇者が助けたお姫様に問うように、そうして彼女の言葉を待った。

 クラーチャは、ふらりふらりと飛ぶと、ボクの指先に止まって、声を震わせながら言う。


「ねぇボノ、本気なのね?」

「本気だよ。そしてどんな相談を君にした時よりも真剣だ」


 ボクの答えに、とても小さく大切な彼女は、指先へのキスで答えた。

 そして、ボクの差し出した手のひらにのると、決意を籠めた固い声で言ったのだ。


「ボノ。もし私と結婚するなら恋妖精の燐ぷんも、月光の粉もあきらめなくちゃいけないならどうする?」

「死ぬ気で村の皆を説得するよ」

「本当に、諦められる?」

「諦める。誓うよ」

「じゃあボノ、お願いがあるの。私の翅を千切って、ボノ」


 思考が止まった。

 頭が理解を拒否する。

 でもクラーチェは恥らうように背を向けて、翅をさしだしてさらにボクに迫った。


「ボノ、良く聞いて。これはどうしても必要な事なの。私が好きなら一気にやって。少し、痛いと思うけど。私は平気だから」

「そんな、あの、でも」

「ボノ、私が好きなら、やって!」

「あ、あう……」

「お願いよ……私も怖くなる前に、お願い」


 か、考えろ!?

 いや、考えるべきなのか!?

 彼女の翅をむしるなんて、そんなのダメだ!

 あんなに楽しげに飛ぶ彼女の翅をむしるなんて、ダメだダメだダメだ!」


「クラー……」

「ボノ!最後のお願いよ。本当に私を愛しているなら、翅を抜いて。でなきゃ、私もうあなたとはいられない」


 手が勝手に動いた。

 やらなければもう一緒に居られない、そう聴いた瞬間にボクは。

 野蛮にも跪いて立てた左ひざにかけていた左手で、クラーチャの翅を掴んでむしりとった。

 この時ボクはどんな顔をしていただろう。

 ただ、ボクに解るのは。

 意識を失う直前に輝きを放つクラーチャの姿を見たことだけだった。




 一夜明けて、ボクは見慣れた自分の部屋で目を覚ました。

 そして、ボクの寝床を共にする、見慣れた見慣れない女の子を見て思わず体が硬直させる。

 クラーチャだ。

 ボクと並んで違和感の無い、ヒトの大きさのクラーチャが同じ寝床で寝ている。

 何時も裸のはずの彼女はきちんと服を着ていて、昨夜どうこうしたわけじゃないのは解ったけど、凄く混乱した。

 思わず大声を上げて叫んだボクに、寝ぼけ眼をこする母さんが部屋を覗き込んでくる。


「なあにボノ。朝っぱらからうっさいよ」

「いや、だって! クラーチャが!」

「なによ。祭りでパートナーに選んだんでしょ? 親なし子だけど良い子なんだからちゃんと面倒見てあげるのよ」


 親なし子って、と思わず口をパクパクさせていると、もぞもぞとクラーチャが身体を動かし、起き上がってボクと顔を合わせる。


「おはよう。ボノ」


 にこりと笑顔で挨拶する、綺麗なクラーチャに僕は思わずどういうことか聞いた。

 その結果、答えはこういう事だった。

 蝶々妖精は神様との約束で、貴重な薬になる燐ぷんがえられなくてもいいくらい、想いあったヒトと蝶々妖精を、翅をむしる事で妖精をヒトにすることで夫婦にするんだって。

 これは様々な制約を課せられた蝶々妖精に神様が許した数少ない自由で、恋したヒトと妖精本人以外に邪魔は入れてはいけない神聖な行為らしい。

 思わず、ボクは妖精をやめてよかったの? と聞いてしまったけれど。

 クラーチャは笑顔を作って無言のままに、いつかしたいねと言い合っていた、唇同士のキスで答えた。


 こうしてボクはクラーチャをお嫁さんにして、末永く幸せに暮らす事になったのだった。

 おしまい。

超短文+駆け足で駆け抜けましたが、変に引き伸ばしたりするよりも、思いついたままに完結(二人を幸せに)してしまえとこんな形になりました。

読んでくださった皆々様、閲覧ありがとうございます。

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