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卒業の日

作者: katodai

「以上で卒業式を終了します。卒業生退場」

「3年A組、起立!礼!」



 卒業式を終えて、全員が一つの桜の木の下で集合している。

 今年の桜は早咲きで、3月なのにほぼ満開だ。

「写真撮ろうぜ!」

「おっ、いいね!」

 周りにはテンションを上げる人、

「ありがと」

「もう、泣かないでよ~」

 涙をこらえきれずに泣いてしまう人。

 そして、僕のように学校を見渡して、最後の日を満喫する人など様々だ。

 そう、もう最後なんだよな......

(ひかり)!ボーッとしてないで来いよ!」 

 親友の佑樹に呼ばれて、桜の木から少し離れる。

「僕は別にボーッとしてないよ!ただ学校を見てただけだよ」 

「まあ、いいや。とりあえず光も写真撮ろうぜ!」

 ニカッと歯を見せて笑い、カメラを僕に見せる。

「しゃーないな。少しだけだぞ?」

 冗談っぽく言って、カメラを近くに置いて一緒に桜がバックになるように立つ。

 佑樹の隣に立った途端にいろんな場面で助けられた言葉が思い出が浮かぶ。



 修学旅行の班決めで仲の良い友達が別のクラスの時に言われた

『修学旅行、一緒の班にしようぜ』

 の言葉から、思えば仲良くなったのかも知れない。

 その時の佑樹のイメージはトラブルメーカーって感じだったな......

 そして、思った通り......いや、思った以上にいろんな事に僕を巻き込んでいったな......

 特に、全然話した事のない人との会話に無理やり僕を加えた事は何度もあったな。

 人見知りの僕にとってみると、怖いに近かったんだよなぁ。

 そして、席替えの時に言われた

『俺が委員長だから、席を近くに出来るように頑張るよ!』

 の言葉から、授業中にもおしゃべりが止まらなくなったな。

 先生からしてみると迷惑だっただろうけど、楽しくて止められなかったんだ。

 だからこそ、退屈な学校が楽しくなったんだ。



 今思えば、僕は本当に良い友達に巡り会えたんだな......

 よくイジられキャラ扱いされたけど、悪くない時間だった。

 そういう事を考えながらカメラに目線を送る。

 この写真は将来の思い出の為の物と考えると少し寂しく感じるが、表情に出さないように一緒に写る。

 それでも、100%の笑顔か?と聞かれると少し違う表情になってるとは思うけど......

「なあ、光」

「どうした?」

 カメラをポケットに入れた佑樹に声を掛けられる。

「お前は俺といて楽しかったか?」

 笑いながらも真剣な声で聞いてくる。

 僕は迷う必要もなく頷く。

「そっか、思い返すと俺が引っ張り過ぎたと思ったからな」

「確かに、僕は振り回されたよ」

 苦笑いを浮かべて話しを繋ぐ。

「でも、僕は楽しかったよ。見たことのない世界を教えてくれて、人と話す楽しさを教えてくれて。本当に楽しかった。それは誰が何と言っても変わらないよ。だからさ、ありがとな」

 真剣に聞いてきた佑樹に僕も真剣に答える。

 佑樹は安心したように、口を緩ませてる。

 そして「プッ」と吹き出してから、明るい笑顔を見せる。

「光って本当にタマに恥ずかしい事をさらりと言うよな」

「んなっ!?今のはお前に合わせて!」

「冗談だよ。俺も今までありがとな!」

 笑顔を見せてお礼を言われた。

 ......なんだよ、お前も恥ずかしい事言ってるじゃんかよ。

 

「よし!とりあえずお前との思い出作りは終了だ!俺はもう帰るからな。俺がいなくてもしっかりしろよ?」

 僕に笑顔を見せる......が、切なさを隠しきれず、僕に一度背を向ける。

 僕だって切ないし、実際かなり涙を堪えているが、コイツには絶対に見せない。

 今まで助けられたんだからこそ迷惑をかけたくないし、大切に思ってるからこそ笑顔で終わらせたい。

「悪いな。んじゃ、今度こそ」

 今度こそ佑樹は最高の笑顔を見せて握りこぶしをつき出す。

 僕はそれに対応して今度こそ100%の笑顔で自分の右手を握ってそれにぶつける。

 そして――


「「――じゃあな」」


 たった一言にいろんな意味を込めて僕は佑樹に背中を向けて、また桜の木の下に歩く。

 あいつの言葉の重みを考えながら......

 少し強い風が吹いて、桜が宙に舞う。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  はじめまして、マムシといいます。  今は卒業の季節という事で読ませて頂きました。  卒業した当時の事が思い起こされて良かったです。
[一言] いい話だ。
2014/09/25 22:36 退会済み
管理
[一言] とても綺麗な文章で、ほっこりしました!
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