二百文字小説「煩悩の人」

第二百三十五話

　ふいにハーモニカを吹きたくなって、引き出しから取り出した。

　昔使っていたもので、よく吹いたなあ。

　学生の頃は毎日吹いていた。

　寮生の集まりではこれに合わせてみんなで歌ったものだ。

　あの頃はテレビもないし、カラオケもなく、音楽と言えばこれだけだった。

　ピアノは手が出ないけど、ハーモニカは安くて手軽だったから。

　今思えばいい時代だ。

　川原で座って聞かせたっけ。

　可愛かったな。

　今では、隣でいびきを聞かせてもらっている。