春寒
先の話の流れが変わってきたので、すこし話を変えています
エスカレーターで地下1階まで降りと、日も傾きかけてきたからか、仕事を終えたサラリーマンや主婦など買い物をする人が増え、混雑していた。
活気あふれる店内と人混みに酔いそうになる。明るい照明に照らし出されたキラキラしたお菓子などが目に入る。棚にはスーパーで見かけない商品なども陳列されており、また、高級そうなお惣菜なども品よく置かれている。どこを見ればよいか迷ってしまう。
「どうしようかな」と独り言ちる。
あれこれ悩み果物コーナーから順番に店内を回ることにした。
「近くのスーパーよりやっぱり高いわね」
内心苦笑しながら彩りあふれる苺などを見ていた。
望月家は、昔からの名家であるためお金は不自由していない。
しかし、祖母は贅沢を嫌い、雪華のさほど欲しいものはないため質素倹約になってしまった。
「うーん 夕食はお惣菜でいいか。和菓子はおばあちゃんに買っていこう」
母が離婚して祖母の家で暮らすようになって、お嬢さまだった雪華も家事をするようになった。初めのうちは何もできなかった。根気よく祖母宅の家政婦に教わるようになって、今では一通り料理もできるようになった。
買い物が終わって、周りの人々がわざわざしているのに気付いた。
「あの家族みんな美形ばかりだよな~」「仲よさげで理想的家族だよな」と小声で話している様子が耳に入り、みんなの注目を浴びている方を顔を向いたあと、体が硬直して瞠目した。
そして、雪華の息が一瞬止まった。
「あれは佐藤さんの息子さんの家族じゃないかしら、帰国したみたいね」物知り顔の中年の女性が言った。父親の横顔がはっきり見えた。
その後ろには小柄な優しそうな女性と中学生の女の子と小学生の男の子が一緒に歩いている姿も見えた。4人は楽しそうに話し声も聞こえてきた。
「今日は夕ご飯は何がいい?」
継母の優しげな声が問いかけている。
「うーんとね、ちらし寿司!」
中学生ぐらいの勝気な感じの少女が宣言する
「えーやだよ、お肉がいい。すき焼きはいいよ」
小学生のヤンチャなボーイソプラノの声の男の子が反論する
「いい加減にしないか、少し落ち着け」
家族に穏やかな顔を向けて、穏やかな声の父親が姉弟をたしなめる。
その声を聞こえた。直後に頭が真っ白になり、血の気が引き顔面蒼白になる。動悸がする。
すぐに目をそらして、その場から立ち去った。その雪華の走りゆく後ろ姿を見つめる人がいた。
早足でデパートの外に出て、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
震える指先もゆっくりと落ち着いてきて、駅前のベンチに座った。
(あんな所で会うなんて・・・まだ、ドキドキしている。
父は渡航していたはず。帰国したのかな?
まあ、お金だけ振り込まれているだけで、
連絡は取っていないし。私には関係ない)
事実、母と離婚してからは父親も私も行き来をしていない。一応連絡先は知っているしているが・・・
(でも、本当に素敵な家族だったな)
父親は40代半ばではあるが、切れ長な目元している。昔は、冷淡な視線で私たち親子を見ていたのに、今は穏やかな優しい目をしている。前髪は後ろになでつけて精悍な額を出している。清潔感があり雰囲気が落ち着いて渋いイケオジだ。継母は小柄で苦労を知らない可憐で若々しい女性だ。子供たちは天真爛漫で屈託ない感じだ。その家族は愛に溢れていた。
(やっぱり写真よりは老けてたな)
昔、父親の写真は数枚を見た。遠くから隠し撮りしたであろう写真は、先ほど見た笑顔な高校生時代の父親の写真が数枚と、母との結婚写真1枚だけが別宅に残されていた。
結婚式の父親は、口を引き結び冷淡な表情で姿勢よく母親と映っていた。結婚式の写真の母親は希望に満ちた目をして、柔和な笑顔をみせていた。
写真の母は若く、これから幸せになると信じている笑顔の写真を、今見ても目頭が熱くなる。
両親はどちらの実家も地元では名のある家であった。母が大学生の頃、高校の先輩であった父親とお見合いをして、大学卒業と同時に結婚した。
物心ついた頃に耳にはいった話では、父は幼馴染の女性が本当に好きだったらしい。そのため、母の縁談は当初から拒否していた。しかし、両親からの反対され、家業も不振であったので渋々結婚したという経緯だったらしい。
私が幼いことに両親が不和が深刻になり、父は家が帰らないことが多かった。私は幼いことから目にしないので父親という認識は薄かったのだと思う。そのため何度かあっても『たまに合うおじさん』という思いだった。そんな希薄な関係性のため父も頭をなでられることもなかった。
両親の噂話は尾ひれがつくが、それでも事実は隠しようがない。別宅に私と母親が暮らしていた私たちにもお手伝いさんや近所の人の話が聞こえた。相手は幼馴染でお似合いの相手だったと。
2人の交際は彼の父親の両親からの強い反対を受けて別れて、彼女は故郷を離れ、数年後戻ってから、また愛し合ったらしい。
その時には祖父が亡くなり、家業も安定したので、私が小学高学年に離婚し父親は間を置かず幼馴染の彼女と再婚した。その時はすでに私より少し離れた異母妹がいた。
噂話が好きな人がいるのはわかる。小さいからわからないと思ったのか、わざと聞かせようとしたのか、私の前で話し続けた。私が成長とするととにその話の内容が次第に理解できた。
いろんな思いが走馬灯に流れてきた。幸せな家族の中に私はいない。自分から母に付いていこうと決めた。しかし、幼いは親の愛情を欲していた。
今、笑顔の母に会いたい。父親に見てもらいたい。でも、、、そんなことをかなわない思いとしっている。
空虚な瞳から涙の涙が溢れ出す。
私は、なぜ泣いているか、悔しいのか、寂しいのか、あの家族が幸せなのが憎いのか、なぜ母は自殺したのか、なぜ、なぜ、なぜ、、、、、湧き上がる感情が止めどもなくあふれ出る。あぁ涙が止まらない。
春の夕暮れ残照の帰る人々の中で、私は身じろぎせず声も出さず泣いていた。
道に長い影がゆっくりと近づいてきた。そして、頭上から声をかけられた。
「大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど・・・」少年のような青年が混じった声が聞こえた。泣いた顔を上げることなく、「平気です」と答えて足早にその場を離れて家に帰った。
買ってきた物を台所に置いて自室に戻った。ベットにうつぶせなり枕に頭を押し付け嗚咽がもれた。
私は不幸なの?
翌朝に、スマホに父親にメッセージを入れた。
【高校入学します。学費はいりません】
少し間をおいて、もう一度メッセージした。
【明日、母のお墓参りに行きます】
折り返しのメッセージはなかった。
暗い話を読んで頂きありがとうございます。最後はハッピーエンドになるはず・・・?




