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おっさんのごった煮短編集

平民聖女の受難

掲載日:2026/03/05



 ワルシャー大陸のほぼ全土を占める大帝国、ゴルゾナ帝国は大陸最西端の魔境から始まったと言われる。


 神代の昔、ワルシャー大陸に住まう人族は、強力な魔族と魔獣の跋扈する大陸で、逃げ惑い、僅かな集落に隠れ住むように暮らしていた。

 旧き神の1柱、創造の御業に与した神の中にあって、人族に目をかけた神ダボラは、人族に加護を与え、魔族や魔獣に打ち勝ち、その生活圏を拡げる足掛かりをつくった。


 そうして、加護を得た人族の一部が、魔を遠ざけ、国境を引き、人を集めて国が形作られていった。大陸東方と北方に纏まっていた人族はそれぞれに国を興しては大陸中央を目指し、強力な加護を持つ者達は指導者として国を率いていった。


 やがて、大陸の西方を除く地域がいくつかの人族の国に支配されるようになったが、西方に追いやられた魔獣や魔族を駆逐することは叶わなかった。


 ダボラは加護を与え、人族から信仰を集めたことで、その力を高めたが、その事で魔獣や魔族を創造し、庇護した神マリガトは不満を溜めていた。

 しかし、僻地に追いやられた魔族たちはマリガトを信奉することが減り、それによって、マリガトの力もまた、落ちてしまっていた。


 そうして、遂に強大な加護に耐えうる器を持つ者達の出現で、西方の辺境が拓かれ、魔族、魔獣たちは駆逐されたのだ。


 西方を開拓した者達は其処に新たな国をつくり、ゴルゾナ王国が建国した。


 建国より5代目の王に、ある神が接触したのが、ゴルゾナが大帝国へと変貌する転換点であった。

 創世の旧き神々に比べれば、まだ若い神であったラドーカルは自らの力を高め、神々の王座に君臨する野心から、ゴルゾナの王に呼びかけた。


 「そなたの国の人族へ、我が加護をやろう。さすれば、国は富み、兵力は増強し、いずれは大陸を統べる皇帝とそなたの子孫はなるだろう」


 この言葉に王は歓喜し、契約は結ばれた。


 しかし、ラドーカルの言葉は虚偽に満ちていた。

 ラドーカルは加護を与えるのではなく、器を持った人族と神界を繋ぎ、神気を人界へと流したのだ。

 国の人間に1人、ラドーカルの加護を与え、加護を持つ者が亡くなれば、また新たに1人、加護を与えるとラドーカルは宣うと、王へと、信仰の普及を要求した。


 神気を人界へと持ち込むのは禁忌であった。なればこそ、ラドーカルはバレぬようにと、人族の魂に通路をもうけて、こっそりと流すことにしたのだ。


 結果は上々で、ゴルゾナの土地は実り多くなり、人々は病むことが減り、屈強な肉体と優れた知能を持つ者が増え、国は栄えた。

 そうして、ゴルゾナは他国へと侵攻を進め、ラドーカルとの契約より200年の時を経て、遂に大陸全土を手中に収めたのだ。


 勿論、ラドーカルの企みは他の神々の知れるところとはなった。しかして、気付くのが遅すぎたのだ。人族を贔屓し、魔族、魔獣を追いやっただけのダボラは、魔族を愛するマリガトを零落させるつもりも、自らの神力を高めるつもりもなく、それ故に人族の繁栄を見て、手を引いてしまっていたし、その他の神々は人界に然程の興味も持っていなかった。

 それがために、神気をゴルゾナの支配地に送り込み、現世利益で信者を増やし続けたラドーカルの禁忌破りに気付いた時には、すでにラドーカルの力は他の神々でどうすることも出来ない程に膨らんでいた。



 そんな顛末もあり、ゴルゾナ王国から、ゴルゾナ帝国へと変貌した大帝国にあって、ラドーカルより加護という名の神気のパイプ役を押し付けられる者を、帝国の皇族、貴族たちは「聖人、聖女」と呼んだ。

 ラドーカルが適性のある者から、適当に選んで認定し、皇族へと伝える。あとは、神界と人界の神気の通り道となっただけの人間を生かして置けば良いだけなのだが。

 神の力で加護を受けた者がいることで、国に繁栄があると喧伝することで、帝国への忠誠と、神への信仰が高まる訳であり、皇族や、貴族の者が選ばれたさいには、それは盛大に式典が催され、「聖爵」へと叙爵された上で、一生を専用の宮で、潤沢な予算を与えられ、皇族に次ぐ待遇を約束される。


 ただ、問題だったのは帝国の皇族、貴族は選民思想の塊だったことだ。


 神ラドーカルは「この国の人族に加護を与える」と言ったが、ゴルゾナの支配階層にいる者達はこれに領民や、奴隷を含まなかった。

 彼等にとって、国に生きる庶民階層以下の人間は、そこを治める貴族、皇族の所有物でしかなく、謂わば家畜同然であった。

 だからこそ、ラドーカルが庶民や下手をして奴隷へと加護を与えたさいは、調べた上で「神罰受刑者」と称して拉致し、独房に閉じ込めた上で水のみを与えて餓死させるのが習わしだった。


 「偉大な神の加護が間違って家畜や穢らわしい奴婢たちに与えられるなど、虫唾が走る」


 皇族、貴族でないものを聖爵に据え、聖人だ聖女だと敬う気持ちなど、彼等には一切無かったし、ラドーカルとしては、誰がなろうと構わない上に、自分が選んだ人間がひと月と経たずに死んだところで、そもそも人族の一生など、神たる彼からすれば一瞬で、然程違いもないと気にも留めなかったのだ。



 そして、またしても1人の少女が「神罰」を受けたと官吏に捕縛され、独房へと監禁された。


 皇族や貴族たちはいつものこと、何故、神は栄誉ある加護を畜生に与えるのか、さっさと死んでしまえばいい、罰当たりがと。そう考えていた。

 水のみを与えて、僅かに生き長らえさせるのは、傲慢にも加護を宿したことへの罰であり、慈悲では無かった。


 少女の家族は「神罰」を受けた者を生んだと村八分となり、家に火が放たれ、家人たちは近親の者を含めて石打ちに遭い死んだ。


 ゴルゾナは繁栄を極めており、その幸福は神ラドーカルと、その信任を受けた皇家のおかげだと、信じ切られている。その信奉により、庶民たちは、幸福を打ち破り、破滅を齎すと虚偽の教えに疑いを持つ事なく、行動していた。


 それでも、親しい者、家族を失った者、度重なる「神罰受刑者」の一方的な捕縛と、裁きも経ず、死体すら返されない、その不合理に疑問を持つ者は僅かにはいたのだ。


 長い時を経て、そうした者達は陰に隠れて、その数を徐々に増やしていた。



 神罰受刑者を監禁する専用の牢は、大抵にして、ただの荒屋であり、ろくに補修もされず、窓もなければ、外から鍵をかければ、内から出ることが出来ないだけの、廃屋に手を加えただけのものが殆どであった。


 少女も、突然に家族から離され、森の深くに連れて来られたと思えば、窓に木が打ち付けられたボロボロの小屋に閉じ込められたのだ。


 これまでの神罰受刑者と同じであれば、彼女も早晩、餓死する運命だったであろう。

 だが、そうはならなかった。


 ラドーカルも、そしてゴルゾナの支配層もやり過ぎたのだ。


 地に充ちた神気によって、人族の器は確実に引き上げられたが、同時に飽和した神気は人界を崩壊へと向かわせていた。

 ラドーカルは信仰により他の神々を圧倒する神力を手にしたが、禁忌を犯し、自らの神域の神気を垂れ流し続けたことで、そのものの存在が希薄になっていることに気付いていなかった。


 神々は結託し、雌伏の時を過ごす中で、他の階層に住まう神へと助力を求めた、異界渡りを成し、あらゆる階層を繋ぐことを可能とする存在を呼び出したのだ。


 少女は隔離された小屋から、忽然と姿を消すと、秘密裏に神罰受刑者を調べ、帝国の裏を暴こうと奔走する者たちの前に現れる。



 「悪神とそれに従う邪教の者を討つ時が来た」


 少女の口から、男とも女とも取れぬ、言い知れぬ不安を呼ぶ声が鳴り、その言葉は魂へと届き、聴く者を跪かせた。


 少女は虚実を混ぜ、ラドーカルと皇族、貴族たちの所業を語り聞かせた。


 皇家は悪神ラドーカルと手を結び、民衆から生贄を捧げては庇護を受けていたと、事実を歪曲していながらも、結果としてはそうなっている現実を喧伝し、今まで疑う事なく神罰の徒を処刑していると信じていた民達は罪悪感を怒りに塗り替えて、貴族、皇族の元へと押し寄せ、その屋敷を打ち壊していった。


 さて、ラドーカルはその頃、消滅の危機に瀕していた。適当に自ら選んだと思っていた少女であったが、その実は、この世界の神々が平伏し顕現をはたした、より高次の階層より招かれた存在により、誘導された結果だった。


 そんな存在と、自らの神域と、その神気を流し込んだ世界とを自ら繋いでしまったのだ。彼女はラドーカルの神域もろとも、ラドーカルの神気を余すところなく自らの住まう結界の内側へと吸い込んでしまった。


 この世界の神なら、それ程の膨大な神気を自らの神域に取り込めば存在諸共崩壊してしまうが、彼女にとっては小腹を満たす程度のものだった。とは言え、それこそが、この世界の神々が彼女へ報酬として提示したものだ。

 気まぐれに面白そうだと、その程度の報酬で乗ってくれたのは、彼等にとっては僥倖であったろう。


 空になった神域で自らを維持できず、ラドーカルはあっさりと消滅した。神々の王を目指した男神は自らの欲望のために消え去る事となった。


 神気を失ったゴルゾナにおいて、その恩恵を最も受けていた皇族と貴族たちは呪いのようにその身を滅ぼし始めた。

 病に苦しみ、肉体は衰えた。そこに民衆が攻め込んで来るのだ。彼等は為す術なく刈り取られた。



 神々はこれを教訓に人界への干渉を戒め、神界へと引き篭もるようになる。報酬を得て、ラドーカルの遺したものを取り払った少女の姿をしたナニカは元の階層へと戻っていった。


 神気を失った大地は、その恩恵を失った反動で枯れ、粗悪な物へとなった。人々は病に冒されるようになり、劣悪な環境は争いを呼んだ。


 為政者がいなくなり、船頭のいない者たちは荒波の中で数を減らしていく、それでも、真に自由を手にした人族は、やがて新たな秩序を得て、また、繁栄を手にするのかも知れない。



 

 


感想お待ちしておりますm(_ _)m

щ(゜д゜щ)カモーン

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― 新着の感想 ―
神が調和を考えずに手を貸すと碌な事にならないと言うことやね。
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