第十四話 12月17日 神様編その11「鬼ごっこ」
きょきょきょきょきょ
が、が、が、が、が
か、か、かわいそうに
な、な、な、なんどめだい
「五月蠅い!」
怪異どもの囁きに怒鳴り返す。月の光も届かないほど白奈出山の深部まで来てしまった。獣たちの気配は消え、代わりに禍々しい妖気が漂っている。至るところから視線を感じる。
だが気にしてはいけない。そんな暇はない。異常に成長した草を掻き分け、両手を前に突き出して樹々を避けながら、真っ暗な山を駆け上がる。
鬼ごっこを始めて体感結構な時間が経った。二時間はとうに越えている気がする。だが実際には数十分も過ぎていないのだろう。仕事中時間がゆっくり進むのと同じだろう。
そしてその間、神様を全く振り切れなかった。多少距離は稼げたが、それも精々少し立ち止まって休めるていどのものだ。死はすぐそばにある。
悲鳴を上げる足に鞭を打ち更に加速する。やはり白奈出山に来る途中に一度追いつかれたのがまずかった。体力をかなり持っていかれてしまった。あの時の攻撃さえなければもう逃げきれている想定だった。そう考えると車で轢いて神様の体力を少しでも削ったのは良策だったのかもしれない。引き換えに車は壊れたが。
こ、こ、こ、こ、こ
こんばんは
あ、あ、あ、あ、あ
あずまさん
「黙れ!」
私の絶叫は闇に吸い込まれて行った。前に突き出した手に固いものが当たる。樹だ。横に避けて前へと進む。視覚は当てにならない。白奈出山はほとんど異界同然だ。迷い込んだが最後、基本的に外には出れない。出口自体は存在するが、常にあちらこちらに転移しているせいで、見つける事すら困難を極める。唯一頼りにできるのは己の直感、ようは霊感のみ。そしてこれは怪異たち、神様にも当てはまる。
私の作戦はこの白奈出山の性質を利用して、神様を異界に封じ込めることだった。
(そのためには、神様を振り切らないといけないんだけどね)
や、や、や、や
やっと
「ちっ」
私が怒鳴っているのも要因だが、神様を振り切れないのはそれ以上に、この怪異たちの囁きのせいでもある。奴らがぺちゃくちゃ私に話しかけるせいで、神様に私の位置がばれている。仮に神様をまけたとしても、これではすぐに居場所がばれる。
「いい加減に……」
その時、足元に何かが———見えているわけではない、感じるのだ———手のようなものが現れた。脚を掴もうとしているのか。咄嗟に跳び上がり回避する。奴ら、遂に直接ちょっかいをかけにきやがった。面倒な……。
直後、顔面に衝撃が走った。体勢を立て直そうとするも空中ではバランスが取れない。私は仰向けに転倒した。一瞬、上田の姿が見えた気がした。




