第十三話 12月17日 神様編その10「はねる」
意識がぼんやりしてきた。夜の道路沿いの木立が揺らいで見える。サイドミラーに目をやると、神様の長くて歪な姿がすぐそこまで迫っていた。
アクセルを踏み込み加速する。頭から流れる血が瞼の上に溜まり、手の甲で拭う。さっき追いつかれた時、車窓を破られたのが不味かった。外に引きずりだそうとする神様に髪の毛を鷲掴みにされて、頭皮の一部ごと持っていかれた。深い傷なせいか、血が止まらない。痛みはもう我慢するしかないが、視界が血で覆われるのだけはヤバい。人を轢いていないだけ幸運だ。
カーナビが示すには、白奈出山まであと一キロもない。この山道を突っ切れば到着だが、現状は芳しくない。大分体力を使ってしまった。山に入ってあちこち逃げ回れる気がしない。もし次捕まったら、絶対に振り解けない。今度こそ頭をもぎ取られる。
死ぬかもしれない、と久しぶりに最悪な言葉がよぎった。小さい頃にも何回か死にかけたが、その都度生き延びてきた。その積み重ねで多少は死に対する耐性がついたつもりになっていた。数少ない自信になっていたくらいだ。
それがこうも、こうも、あっさり崩されるとは。体だけじゃなく精神的にもくるものがある。本当に最悪の気分だ。
その時、機械音声が車内に響いた。
「目的地、100メートル前です」
再度、サイドミラーに目をやる。多少は距離を離せている。周囲に人の気配もない。車もない。
私は急ブレーキをかけた。全身が前へと引っ張られるが、身を捩って後部座席に視線を向ける。ここまで来たら、もう車はいらない。野郎にも傷を負わせてやる。
アクセルを踏み込んだ。ぎゃぎゃぎゃぎゃ、とタイヤと地面が擦れる音が響く。神様の姿がどんどん近づいてくる。そして、
どん
と車体が揺れ、ギャシャッと鉄の潰れる音がした。跳ね飛ばされた神様が、夜の道路を転がっていく。私は車から飛び出した。フラフラする足を叩き、山の中に進む。「一発くらわせてやった」という快感もあったがそれ以上に「私は死にに行くのだ」という絶望感が胸の辺りに渦巻いていた。




