第十一話 12月16日神様編その8 「顕現」
天罰祭に部外者は参加できない。昔は出店がたくさんあって、参加者も結構いたというが、今となっては、儀式をする形式だけの祭りだ。
△△寺の住職にダメ元で事情を説明して、参加させてもらおうとはしたが、イカれ女扱いされて追い返された。なぜ部外者が参加できないのか尋ねたが、難しい言葉をだーっと羅列されて、一方的に会話を打ち切られた。
だが、例え参加がタブーだとしても、神様の本体が来るかもしれない以上、意地でも潜入しなければいけない。
私は今、寺の端っこにある橋の下に潜んでいた。△△寺の周囲は、水の流れる堀に囲まれている。丁度、本殿の後ろにあるのが、私のいる橋である。橋といっても、動物が渡るような小さな橋である。上から見て、ギリギリ私が見えないくらいの広さの。
時刻は午後五時。そろそろ日も暮れる。祭りの開始が何時からは知らないが、さっきからごちゃごちゃ声が聞こえるから、もうすぐなのだろう。
にしても、堀の水がだいぶ臭い。死んだ魚でも沈んでいるのか。水が腐っているのか。だんだんと臭いがキツくなってくる。前に、胃腸と脳みその飛び出た、死のラインを手前奥手前へと行き来するような拷問の末に死んだとしか思えない幽霊と出会した時に、嗅いだことがある。胃液が沸騰するような、激臭。死臭だ。
聖なる場所でそんなことがあっていいのだろうか。死体を掘りに捨てるような行為。
いや、違う。それは違う。私の頭上、橋の上を、誰かが渡っている。おそらくは住職だ。何やらごにょごにょ話しているが、臭いについて話しているようには聞こえない。この臭い、気づいているのは私だけか。
するとだ、この臭い、まさか。
神様。黒い手が、橋から垂れている。私の体くらい指先でつまめそうな程大きな手が。直観的に分かった。いる。目の前に元凶が。
住職らはこいつにも気づいていないようだ。それもそうか。私が潜入した時、この祭りはあまりにも警備がざるだった。本当に神様が、天罰神が来るなんて知らなかったのだ。見えないのだ。
黒い手は、ゆっくりと私の前を通り過ぎていった。




