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◆◆市立第四中学校 生徒会記録  作者: 雨宮 叶月


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9/12

配信【噂の心霊スポットに行ってみるwww】  ※保存データの書き起こし

※この配信のアーカイブは現在非公開。保存されていたデータを書き起こしている。



2017/12/25  18:23分開始



「はーい皆さんこんばんは、心霊動画配信者のアズキです!クリスマスのリア充潰す」


『こんばんは!』

『こんばんは~』

『草w』


「え、今日は300人も!ありがとうございます!えっとですね、今日は視聴者さんからDMをいただきまして、◆◆市に来ております!」


『わくわく』

『おー、何?気になるー』


「この町に、今月12月からあるはずのない標識を見つけたらしいんですよ。噂としては、『地図にない標識A-32を通ると戻れない』といわれているそうです。」


『怖っ』

『標識A-32?』

『聞きなれない単語…』

『心霊か?それ』


「とりあえず車に乗り込んで視聴者さんとかこの町の人の体験談を読みますね。

……わー、星が綺麗!自然が豊かな町ですね、ここ」


 (アズキは空にカメラを向ける。)


『きれー』

『普通に良い』

『おい俺も連れて行ってくれ。写真だけ撮って帰る』

『草』


「はい、じゃあまず…DMをくれた方の体験談です。

 私は散歩が趣味なのですが、ある日見たことのない標識があるのに気付きました。真ん中にA-32、と記載されていて、一体何の標識なのだろう、と感じたのを覚えています。その道はいつも歩くコースではないので私は通らなかったのですが、近所の教師の方がその道を歩いていました。家に戻って、その標識があった場所をマップで調べてみたのですが、そこには何もなかったのです。後日、標識がある道を通った教師の方が行方不明になっていたことが判明しています。これだけではあまり強い証拠とは言えませんが、私は心底あの道を通らなくて良かったと思いました。

 しかも、その標識があった場所はそんな道あった?と疑問に思うほど長々と続いていたんです。どこまでも永遠に道が続くと錯覚するような一本道でした。」


『こ、怖い』

『やばーw』

『ま、まあアズキさんなら大丈夫でしょ…?』

『地図にないなんてガクブル』


「ありがとうございます!いやぁ怖いですねー。じゃあ次の話読みますね!ちょっと長いのでデータ見せながら!」


(画面上に長文の文書が出現)


「 アズキさん初めまして。『地図にない標識A-32を通ると戻れない』という噂について私の体験談をお話しします。ひとつ申し上げますと、あの道は通らないでください。本当に戻れません。

 

 その日は12月の中旬に入ったばかりで、友達と遊んだ帰り道にちょっといつもと違う場所を歩いてみよう、と思い立って別の道を歩いていました。家に帰ると勉強しなさい、と言われるのもあって息抜き感覚だったのかもしれません。それが息抜きだなんておかしいですが(笑)

 

 『標識A-32』を見たのは、空がオレンジ色に染まり、太陽が赤く燃えながら沈んでいる頃のことです。あれ、こんな標識あったっけ、何を表しているのだろう、と思って、さらに一本道がずっとずっと続いているようで好奇心を持ちました。そのときはその道の先に何があるのか何も考えておらず、まっすぐ進んでまたまっすぐ帰ればいい、道に迷うことなんかない、と浮きたった気持ちでその道を走り抜けました。向かいから吹いてくる風が心地よかったのを覚えています。


 『標識A-32』を通り過ぎて50メートルほどのところで、視界が歪みました。目の前の景色がぐしゃっと握りつぶされたような。

 しかしそれも数秒ほどでおさまり、なんだったんだ、と思って振り返りました。


 ……後ろには、何もなかったんです。道も、家も、田んぼも。私の真後ろに、A-32と書かれた看板がいくつも並べてありました。横に一列、ずらーって。標識と標識の間にまた標識があって、元の道を戻るなんてことは不可能でした。


 仕方がないのでそのまま走って進んだんです。ふと後ろを振り返ると、また真後ろに標識A-32があって、私をとにかく前に進めさせたいのかもしれない、と漠然と思いました。

 それからも走って、走って、でも空の色は全く変わらなくて、太陽も沈まなくて、怖かったです。もしかしたら自分はずっと走らされるのかもしれない、一生家に帰れないかもしれないという恐怖と心配がぐちゃぐちゃになった感情でいっぱいでした。

 

 しばらくして、前方にひとつだけ家があるのが見えました。そのときは救いだと感じて、入ったんです。……そこには、若いお兄さんがいました。白いシャツと黒いズボンで、新人サラリーマンって感じでしたが、目の前の椅子に座ってにこにことこちらを見ていたんです。こんばんはとかここはどこですかとか聞いたのですが、答えてくれなくて。やっとお兄さんが口を開いたと思ったら、『進み続けてください。困ったらこちらに戻ってきてください』と言ったんです。言ったといっても口は全く動いていなくて、声も男とも女ともつかないようでした。私は困惑しながらもその家を出て、走りました。標識は、あの家の前で止まっていました。


 やがて現れたのは、森でした。あれは森です。緑の葉をつけた背の高い木がたくさん集まっていて、入り口ははっきりと分かりました。……でも、今は冬なんですよね。緑の葉が存在している、しかもこんなにたくさんなんて信じられませんでした。それでもとりあえず進んで、落ちた葉をザクザクと踏みながら誘導されているような一本道を歩き続けました。


 太陽は沈んでいるのに、柔らかな日の光が美しく差しているその場所に、祠がありました。私たちのイメージ通りの祠で、お札が何重にもたくさん貼ってあったり、綱でぐるぐる巻きにされていました。そこで立ち尽くしていると、どこからか声が聞こえたんです。


 『願いは』


 私は一瞬迷いました。ここから出してほしい、というよりも、受験とか、健康とか、そういうことを願いたいと欲張ってしまったのです。それで、私は答えました。


 『私が心から望む願いを全て叶えて欲しい』


 その声は沈黙しました。そして承知した、と言うと目の前に人が現れたんです。


 ……中学生の時、私が好きだった人。運動も、勉強も、性格も良かった。Bくんと呼びますね。


 Bくんは、中学2年生で亡くなりました。……私のせいで。

 夏休みのとき、二人で歩いていたら、飲酒運転の車が突っ込んできたんです。Bくんは私を庇ってその車に轢かれました。私も無傷というわけではなく、3カ月ほど目が覚めない状態でしたが、Bくんは即死でした。ずっと謝りたくて、心の底で会いたいという気持ちがあったことをその声は見抜いていたのかもしれません。


 私は呆然と経っていました。Bくんは、綺麗なままだったんです。でも正気に戻って、泣きながら謝りました。ごめんなさい、ごめんなさい、私が死ねばよかったのに、ごめんなさい、本当にごめんなさい。


 Bくんは、涙を拭きながら謝る私をゆっくりと抱きしめてくれました。○○(私の名前)のせいじゃない、○○は悪くない。ずっと会いたかった、って言ってくれて。夢かと思いました。夢だったのかもしれませんが。


 あのときのように、私に向かって微笑むその顔を見て、思わず好きだったよ、と呟いてしまいました。はっとした時にはもう遅くて、Bくんは驚いたような顔をしてこちらを見ていました。

終わった、と思いました。私の軽はずみな一言で、私の夢は終わってしまう。


 でも、Bくんは今もそれは変わらない?って聞いてきたんです。今も変わらない、と言ったら俺も好きだよ、って。


 その瞳は嘘を言っているようには見えませんでした。私はまた泣いて。Bくんは変わらず私の手を握ってくれました。


 もう戻れなくても良い、と思ったんです。このまま、幸せな気持ちで過ごしたい、って。そんなとき、声がしました。


 『にえをささげてください』


 私は最初、何を言われているのか分かりませんでした。でも、『にえ』が『贄』という漢字に変換された瞬間、ゆっくりと顔を上げました。


 『お前にはたくさんのものを与える。成功、健康、長寿、恋愛。しかし、お前のその幸福はお前と釣り合わない。贄をささげたら均等になる。今から言う特徴の贄をささげたらその男とも一生いれるだろう。』


 それからその声は贄の特徴を述べました。Bくんは、俺のことなんか見捨てていい、とか言っていましたが、私は考える時間が欲しい、と言ってその話を切り上げました。


 『よい。結論は12月中に出せ。ただし、今の時点で依り代をささげよ。依り代がなければお前が贄となる。』

 

 背筋が凍る程度ではありません。寒気が全身を襲いました。私は震える手でポケットから神社で買ったお守りをささげました。


 そのあと、私はもといた街に戻りました。『標識A-32』の後ろに。時間は、全然経っていなくて、でも隣にはBくんがいて、そのまま家に帰りました。実感が湧きませんでしたが、それから今に至ります。


 あの道を通るのはおすすめしません。ですが、私の経験がお役に立てばと思います。」


『……』

『……』

『……』


(コメント欄は沈黙している)



「……すみません、俺こういうのに良いコメント言うの苦手なんですけど……すごい体験ですね。」


『草』

『もっとほかに言うことあるだろ』

『草w』

『いや……配信だと忘れるくらい聴き入ってた』


「まあ、俺は心霊動画配信者なので…突撃しますw」


『キタ!』

『キター!』



「送ってもらった地図をもとに進みますねー」


(アズキはエンジンをかけ、車を発進させる)


「カーナビに沿って行くと……あったあった!これが道路標識A-32ですね!」


『うおおおおおお!』

『マジか!盛り上がってきた!』

「アズキさん大丈夫なんだよね?』

『進め進め!』


「じゃあ行きますね!レッツゴー!」


(アズキが道路標識A-32を通り過ぎる)


『どうだどうだ…?』

『何か変わりましたか?』

『気分上々!!!』

『だいじょうぶー?』

『にえ』

『ここからが楽しみなんだよ!』


「うおっ!視界が歪む!」


(アズキが車を停止させる。)


「あーっ!景色が変わったああああ!おもしれえ!

……500人も来てる!ありがとうございます!」


『キターーーーー!』

『うおおおおおおおおおおおおお!』

『うおおおおおおおおおおおああ!』

『わああああああああああああ!』

『いえええええええええええ』

『おおおおおおおおおおおおおお!』


(コメント欄が盛り上がっている)



「さっきまで夜だったのに夕暮れだ…とりあえず進みます!」


『めっちゃ一本道』

『アズキお前この一本道でも迷えるんじゃないか?w』


「ちょっとやめてくださいよ!俺が前の心霊スポットで迷ったこと出さないで!恥ずかしい!」


『かわええwww』

『これだからアズキの配信を見るのはやめられないwww』

『おいw』

『草』

『草』


「お、これが家ですかね?入ってみますか。……わっ!?確かに後ろに標識が…」


(延々と並んでいる標識に驚きながらも家に入るアズキ)


「……お兄さん?えっと…こんばんは。アズキです……」


(にこにことしたお兄さん)


『すげえええええ!』

『今俺たちはすごい瞬間を目撃してるのかもしれない』

『釣りという可能性はないよな?』

『さすがにない。メリットがないだろ』



「進み続けてください。困ったらこちらに戻ってきてください」

「あ、はい……」


『草』

『草』

『www』


(アズキは再度車に乗り込む)


「このままいったら次は森のはずですねー。

………え、カーブ?カーブなんてありました?」


『カーブ???え???』

『初耳なんだけど』

『なんかおかしくなってる?』


「ま、まあとりあえず曲がります。えーっと、進んで…………またカーブ?マジで?」


『怪奇現象じゃん』

『怖っw』

『ループとかありえない…?』


「曲がります、進みます……カーブって。ループじゃん。」


『やばいやばいやばい』

『大丈夫か!?』

『おかしいってもう』


「曲がる、進む、……カーブ………一体何なんだよ!」


『落ち着けって』

『これが心霊だぜ、諦めろ』

『怖い怖い』

『とりあえず歩いたら?』


「……そうだな、歩くか。」


(アズキは車から降り、道を進む)



「………あった!森!」


『良かったなぁ(泣)』

『ここまでの道のりは長かった…』

『草www』



「えーっと、じゃあ入ります!……おい、なんだよこの標識!邪魔すんなよ」


(道路標識A-32が森の入り口をふさぎ、アズキを囲む。)


『にえ』


「……今、声しなかったか?俺の気のせい?」


『した!』

『え、してないって。聞こえなかった』

『したかも…分からん』


「おい!待て!あそこに影が!やめろ!近付くな!」


(アズキは顔を真っ青にし、腰を抜かす。)


「やめ……」


(赤い手がちらりと映る。何かの白い生き物の顔が現れ、生配信は終了)


『え、何!?今めっちゃ怖かったんだけど!?』

『釣りだろ。お疲れさまでした~w』

『怖すぎ』

『近付きたくない。アズキは大丈夫か?』

『ねえ、さっきの白い顔、顔のパーツ全部空洞じゃなかった…?』

『おい今夜だぞ!やめろよ!寝れないだろ!』

『にえをうけとりました』


____これにてコメントは途切れている_____


配信者アズキはそれから配信をしていない。




なお、ここからは別紙※


「 ……はい。あのアズキとかいう配信者は消えたんですね。ありがとうございます。

 

 実は、贄の特徴は『18歳以上の男で、○○とBの本名と顔を知らない人物』なんです。そんな人物なんて分からなくて、このままじゃ強制的に私が贄にされる、そんなときに見つけたのがアズキという配信者でした。『道路標識A-32』がある道を通ろうと計画していて、これは運命なのだと思いました。


 その声は、贄を連れてくるときはその人物があの空間に入ったときに『にえ』と言え、そうしたら贄だと分かる、とも言っていたんです。


 アズキさんは心霊スポットに入り浸っているということで、遅かれ早かれ取り返しのつかないことになっていたと思います。霊の私利私欲に利用されるのではなく、一人、いや二人の人間の幸福のために活かされたのなら良いのではないかと思いますね。


 ……Bくん?私の隣にいますよ。綺麗なままで、これから私と一緒に生きていくんです。…ああ、『生きる』ってそういうんじゃなくて、『人生を楽しむ』って意味ですよ。色々なことを二人で経験していきます。今は東京タワーに行きたいらしいですが。ふふっ、もう少し大人になったら行きますよ。


 ところで、私考えたんですよ。道の途中にいたお兄さんって誰なのか。アズキさんにDMした人の話によると、そのお兄さんは新人サラリーマンじゃなくて教師のようですね。恐らく、何らかの理由でその道を行き、祠に何かを願った。『贄』を要求されたが、そんな人物に心当たりなどなく、依り代もなかったのかもしれません。それでお兄さん自身が『贄』となり、あの家にずっと縛られ続ける………ということも考えられますよね。すみません、素人の考察ですが。


 まあでも、『地図にない標識A-32を通ると戻れない』という噂についてですが、『道路標識A-32』を通るとなんでも願いが叶います。ただし、『贄』を要求されることもありますが。会いたい人にも会えますし、はたして『戻らない』という選択はその人の願いなのか、それとも別のものか―――ぜひ、その目でお確かめください。ありがとうございました。」



「……あ、そういえば『道路標識A-32』、2月には消えたそうですよ。」






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