『禁忌』2
始まる静かなる戦闘…
「悪かったね。で、話ってなんだ?」
「結論から話します。ある依頼の元、私達はあなた方、《《七人の魔法使い》》を始末します。」
「…ん、まぁ、そんなことだろうとは思ったがよ。」
嫌な予感はしていた。七人の魔法使いというワードから、三蔵だけの問題ではないと。
「《《私達は…》》」狙ってくるのは複数人。既に動いているのか、それとも既に事を終えているのか。――分からない。
「クロガネくんだっけか?七人の魔法使いがどんなメンバーで構成されてるかわかってるのか?」
「えぇ。それはもちろん。」
「だったら俺が言いたいことわかるよな…。それはクロガネくん――禁忌だぜ。歴史的大事件になる。」
「そうでしょうね…。」
三蔵の表情は険しくなっていた。
「――《《メッセンジャー》》を殺す事は、世界の人々が歩んだ歴史。その語り部を…歴史を消すってことだ。」
そういうと、三蔵はクロガネに向かい魔杖を構えた。雨雲の隙間から月の光が二人を照らしている。それは決して美しいものではなく、異様な空間に変えていた。
「私達、殺し屋の世界でも禁忌です。そういう依頼は仲介元も決して受け付けない。ですが、今こうして貴方の前にいる。それが全てです。」
「なるほどなぁ、肝座ってんな…。」
「すぐ他の方々も後を追わせます。」
クロガネも同様に魔杖を構えた。
なるほど——
一番最初の犠牲者は、俺ってわけか。
見せしめだな。
三蔵の頭の中で、これからやるべき事が、自ずと決まっていた。
(俺がやるべきなのは奴を殺すことじゃねぇ。この話をあいつらに伝える事。…奴はきっと少しの緩みも見逃さない。そこが狙い目。致命傷を避けつつ瞬間移動の時間を作る。)
「メッセンジャーはな、――この世の宝だ」
【メッセンジャー】
メッセンジャーとは、過去・現在・未来を通して世界の歴史を語り継ぐ存在である。
魔法界におよそ百名ほどしか存在せず、その寿命は一律三百年。寿命が尽きるその前に、必ず後継者を見つけ、その力を託していく。
ただし、寿命を迎える前に力を譲ることは禁じられている。
その存在は極めて希少であり、ひとりでも失うことは歴史の断絶を意味する。
ゆえに、メッセンジャーを殺すことは魔法界最大の禁忌とされている。
【七人の魔法使い】
現実界で密かに活動する正義の魔法仮面集団。
組織は三人の《《メッセンジャー》》を筆頭とし、その力を受け継ぐ候補者たちによって構成されている。
創立者の一人・水戸三蔵もまた、候補の一人である。当初は四人から始まり、
後に仲間を増やして七人となったことから
《《七人の魔法使い》》と呼ばれるようになった。彼らは《《メッセンジャー》》の力を借り、現実界で暗躍する悪と戦い続けている。
三蔵は、ずぶ濡れの体を奮い立たせ、アスファルトを強く踏みしめた。その動きに、向かい合うクロガネがわずかに頬を吊り上げる。冷たい瞳が、興味と警戒のあいだで静かに揺れた。
三蔵は前へ一歩踏み込み、左手を顔の前に持っていくと、一瞬にして仮面が出現した。
そして――間髪入れず放った。
『雨鋭魔法!』
地面を叩いていた雨が、まるで逆流するように空へと舞い上がる。
次の瞬間、鋭い水の槍となってクロガネへと襲いかかった。
『防御魔法』
低く、落ち着いた声が響く。
クロガネの周囲に淡い光の膜が広がり、水の槍は次々と弾かれて砕け散った。
わずかな水しぶきすら届かない。
――全ての攻撃が防がれたように見えた。
だが、その眉がわずかに動く。
クロガネはすぐに悟った。
三蔵の狙いは、最初からこれではなかったのだ。
(そういうことか……視界を…)
「もっと……もっと多くの雨を!」
三蔵は魔力を解き放つ。
空気中の水分が共鳴し、雨が奔流となってクロガネを包み込む。
勢いは増し、瞬く間に視界を覆い隠した。
「これほどの水量を一人で……見事だ」
感嘆の言葉を口にしながらも、クロガネの瞳は冷たく光る。
そこに浮かぶのは賞賛ではなく、獲物を見定めるような、恐ろしい静けさだった。
「あと――少し!!」
三蔵は魔杖を強く握りしめ、空気を震わせるほどの魔力を込める。
そして、渦巻く水の壁に向かって叫んだ。
『氷雨魔法!!』
瞬間、水の奔流が一斉に凍りつく。
轟音とともに氷が拡がり、クロガネを包む透明な牢獄が形を成した――。
「簡単には抜け出せないぞ」
(もし奴が瞬間移動を使えば……その隙に、俺も“ヴァニシエーレ”で――)
再び、雨が落ち始める。
氷の外からはクロガネの姿が見えない。
だが、確かに感じる――微かに魔力の気配。まだ、そこにいる。
三蔵は息を呑み、魔力を練り上げる。
唇が静かに動いた。
『瞬間移動――』
――その瞬間だった。
ドスッ!!
鈍く重い音が、雨音を断ち切る。
三蔵の身体がわずかにのけぞった。
ゆっくりと視線を下げると、自らの胸部に、黒い何かが突き刺さっていた。
冷たい感触。遅れて、痛みが襲う。
(……後ろ、から……?)
振り向くことさえできなかった。
雨の向こうで、氷の牢獄が静かに砕けていく音がした――。
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