『魔法使いの戦闘』3/7
ついに殺し屋と護衛の戦闘が始まる!
「おい!目ぇーつぶれ!失明するぞ!」
カンは叫ぶや否や勢いよく飛び出した。相手が構えるより早く、唇の形で詠唱を紡ぐ。
「閃光魔法!」
鋭い閃光が周囲を突き刺すように弾け、護衛たちの視界を一瞬にして奪った。続けてカンは次の呪文を放つ。
「耳鳴魔法!」
耳を引き裂かんばかりの高周波が響き、護衛たちは咄嗟に耳を押さえ、膝を折ってその場に崩れ落ちる。保護魔法で身を守っているカンだけには無害だった。さらに詠唱を続けようとするが、先頭の男がよろめきながらも立ち上がり、拳銃を構えて発砲した。弾丸はカンの左足をかすめ、カンは反射的に防御魔法を張って身を守る。
「魔法は撃たせん!」
先頭の男は下唇を噛みきるように拳を固め、全身の力を振り絞って撃ち続ける。隙を与えまいという執念が弾幕となって襲い掛かる。
さらに、最初に放たれた魔法の効力が徐々に薄れると、床に崩れていた者たちも苦しげに起き上がり、先頭の男に合流していった。戦闘が激化する中、少女はその混乱を利用して行動を始める。
「貫通魔法」少女は静かに魔杖を振り、自身を透過して迅速に次の部屋へ、また次へと滑るように移動していく。フロア全体に魔法と銃声がこだまし、その喧騒を背に彼女は一歩ずつ、着実に目的地へと向かう。
だが運悪く、廊下の曲がり角で護衛三人と鉢合わせしてしまった。彼らは一瞬ためらったが、すぐに拳銃を向け発砲する。少女は壁をすり抜けて接近し、すばやく左右に翻弄しながら弾丸をかわす。護衛たちの動きがわずかに乱れた隙を突き、少女は反撃に移る。
閃光魔法。
先端から放たれた光線は稲妻のように走り、目にも留まらぬ速度で護衛の胸を貫いた。彼らはその場に崩れ落ちる。振り返れば、少女の姿はもうそこにはない——彼女は既に先へ進んでいた。
やがて、少女は工場長・薬楽大輔のいると言われるオフィスへと近づいていく。途中で遭遇した護衛も冷静にかわし、ついにオフィス前の廊下までたどり着いた。外からは中の様子がうかがえない。少女は身を低くして、上半身のみをすり抜けさせ中を確認した。オフィスの中は電気が灯り、部屋全体が明るく照らされていた。
(ここも……保護魔法で覆われてるのかな)
少女は魔杖の先端をそっと床につけ、慎重に罠の有無を探る。結果…異常はなし。
詮索魔法を解除し、前身する。残りの下半身も壁を抜け、静かに物陰に身を潜め、わずかな隙間から視線を伸ばす。
(見ずらいな、明るいから解除しようかな暗視…いや、また暗くなるかもしれないか、)明かりがあり、見ずらくなっている視界だったが、いつ暗くなるか分からない為、暗視魔法の解除はしなかった。
少女は別の隙間からも覗く。すると、事前に写真で確認していたターゲットである薬楽らしき男の姿を確認した。
驚いたことに、彼はまるで緊張感など存在しないかのように悠然とコーヒーを口に運び、護衛たちと談笑していた。部屋全体を包む静けさと明るさの中で、薬楽だけがまるで別世界にいるかのようだ。
この部屋は防音室になっており、中の音は外に漏れず、外の物音もまた中には届かない構造だった。少女はその防音の特性を瞬時に理解し、行動をさらに慎重にせざるを得ないと悟る。
「あーところで、今奴らはどの辺にいるんだい? 先ほどから情報が回ってこないが、連携はちゃんと取れているのかね」
薬楽が椅子にもたれかかり、落ち着いた声で問いかける。
「申し訳ございません。男の方は階段付近で戦闘中、少女の方は見失ってしまいました」
「少女一人見失って、それでもプロかね、君たちは……まぁいいか。ガキがここまで辿り着いたとしても、こちらにも魔法使いがいるからな」
少女は言葉の一つひとつを噛み締めるように聞きながら、心の中で警戒を強めた。オフィス内には護衛が四人いる。しかし誰も魔法使いではない。彼らの性別や人数、そしてなぜこの部屋に魔法使いがいないのか、何一つ手がかりがない。
そのとき、近くの護衛が小さな声でつぶやくのを少女は聞き逃さなかった。
「連携狂ったの、あの魔法使いが原因だっつうの」
その一言で、少女の頭の中に光が走る。
(魔法使いが複数人いるとしたら、この状況はおかしい。外の護衛と建物内の護衛で連携に差があるのはなんで?しかも外の護衛の数は建物内に比べ少なすぎる。中と外で指示者が違う? 連携が取れていない?時間稼ぎの罠が増えたのはなんで?……いや、それは別として、もし仮に魔法使いが一人だとしたら——)
少女は仮説を瞬時に組み立てる。魔法使いの護衛は、現実界の護衛側から見ても珍しい存在。あの護衛の言いぶりからするに、魔法使いは最近配属されたばかり。外でバラバラに動く護衛たちは魔法使いを否定する派閥。独断で動き、連携なんて存在しない穴だらけの部隊。仮にそうだとしたら、やはり魔法使いは――「一人だけだ…」
残る謎は、魔法使いの正確な居場所と、時間稼ぎの意味だけ。だが、ここで長く考えている余裕はない。少女はすぐに行動に移そうとした。
その瞬間、背後からかすかな気配を感じる。
「この感じは……」
少女は振り向き、壁を見つめた。そこから、ゆっくりと、すり抜けて現れたのは——
「お待たせ、ほんと無事でよかった」
小声で陽気に告げたのは、怪我を負いながらも笑顔を崩さないカンだった。
「どんな感じだ?」
状況を確認する声も、少し軽やかで、しゃがみ足で少女のそばまで来る。だが、決して平然としていられるような怪我ではない。
「あの数を……」
少女の胸に心配と尊敬の念が湧き上がる。人見知りの性格を押しのけ、勇気を振り絞って声をかけようとしたその瞬間、薬楽が動いた。
「魔法使いを直前に雇った理由、わかるかな、諸君?」
椅子から立ち上がり、護衛たちに問いかける。
「相手が魔法使いだからでしょうか?」
護衛の一人が答えると、薬楽は苦笑した。
「違う違う、そんな簡単な話じゃないよ。僕は何事も、常に“一番”が良いんだ。だから、魔法界のボディーガードをこちらで雇った——世界初の試みさ」
誇らしげに語る薬楽を前に、二人は魔杖を握る。カンに仮説を話す時間はない。しかし、不思議と二人の呼吸はぴたりと合っていた。やるべきことは、自然と定まっていた。
「今ここで仕留める!」二人の意思が——初めて揃う。
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