第9話『鋏と少女』
窓から入る暖かい日の光と中庭から聴こえる鳥のさえずりであたし、アニマ・アヴァロニムスは寝落ちしていたことに気づいた。
「はぁ、最悪」
その時には案の定、今日の授業は終わっており昼休みになっていた。
日の傾きから察するに14の刻は過ぎているだろうか、そうなると3刻は寝ていることになるが。
まぁ過ぎたことはいっか、お腹すいたし食堂に行こう。
そうして食堂へと続く廊下を歩いていると周りが何か噂話をしているのか、ヒソヒソと小声で喋る声がする。
「最近、平民のくせにこの学園に入ってきた身の程知らずがいるらしいですわ」
「一説によると『軌跡』様の弟子で特別編入で入ってきたとか。一体どんな卑しい手を使ったのかしら」
「それに父親は蒸発、母親は水商売しているとか。ほんっと穢らわしい、高貴なる学園の栄誉に泥をかけるつもりなのかしら」
耳を傾けてみるとどうやら最近入学してきた平民の少女の話をしているらしい。
にしても、廊下とはいえこんな社交的な場で陰口を叩くのには関心しないが。
ま、赤の他人のことだ。
関わらないのが吉ってやつだな。
「おやぁ?そこにいるのは…あの『切り裂きジャック』を生み出した『アヴァロニムス男爵家』のご令嬢、アニマ・アヴァロニムスじゃあないですかぁ?」
突如、後ろから聞き覚えのある奴らの声が聞こえた。
「うわ、最悪」
「最悪とは失礼な。私たちが貴族としてのマナーを『教育』してあげたというのに」
「はぁ?『教育』という名の虐めだろ、自分の思い通りになる駒としてのな」
奴の眉がピクリと動く。
「…被害妄想も程々にしてくれません?あらぬ罪で両親に泥をかけたくないの、謝罪してちょうだい」
「やーだね」
「…そう、なら力ずくでいかせてもらうわ」
そういうと奴は髪を留めていた櫛兼杖を手に取り火の玉を飛ばしてきた。
すかさずあたしは太ももに隠していた鋏を取り、詠唱を開始する。
「我が刃よ。理を知、感じよ。気は物体と、幽なる霊は実体と。現世に有りし物成らば、現世に留まりし者成らば。切り裂さけると、斬り刻めると。思え、想え!」
切り裂きし者
詠唱を終わらせ鋏の刃を交差させる。
すると火の玉は真っ二つになり、そこからまたふたつに…ふたつとなり、それを続けるうちに消えた。
◈◈◈◈◈
「ふぁ…」
「どうしたんですの、ミネ」
「今日色々あって疲れたなぁ、って」
私、ミネルヴァは転入初日の今日起こった出来事を思い出しながら食堂近くの廊下を歩いていた。
「やんのか!?」
すると食堂の方から何やら騒がしい声が聞こえた。
「おや、あの方はアヴァロニムス男爵家のご令嬢ですわね」
ちょっと近くまで行くとマカが小声でそう言った。
「アヴァロ…?」
「ええ、少し前に色々ありまして彼女とは顔見知りですの」
へえ、と思いながら彼女の方を見ているとマカがそこで待っててくださいましと言い、歩き出した。
「そこのあなたがた、何をやっているのです?みっともない争いは人目につかないところでやってくださりません?」
マカが威圧しながらそう言うとアニマを囲っていた3人は逃げるように教室棟に行った。
「あ、ありがとう…」
「いえ、彼女たちがわたくしの通行の邪魔をしていたので少し手助けしただけですわ」
「…は、まぁそういうことにしときますわ」
アニマとマカは少し会話をした後、別れた。
「ではミネ、行きましょうか。車が待っているのでしょう?」
そうして私の転入、その初日は終わった。
学園生活が、始まった。




