第8話『図書室と少女』
昼、学校が終わったミネルヴァとマカは図書室に行くために四棟へと来ていた。
魔導学園の四棟にはこの王国の文化や歴史を保存・保管するのが目的の部屋などが多く存在し、その研究や考察などをする部活動室も同じ数だけ存在する。
その中でも特に大規模の部屋を有する部活が存在する。
それこそがミネルヴァが入部しようと思っている『図書室管理部』だ。
「おおお…!」
二人は図書室に着き中に入る。
そこには本が上の本棚までびっしりと敷き詰められ、ミネルヴァはその膨大な量に圧倒される。
「図書室では静かに、ですわよ」
マカはミネルヴァにそう言うが彼女は近くにあった本棚にいつの間にか移動しており聞いてない様子だ。
「はぁ、まったく…仕方ないですわね」
マカは少女の楽しそうな顔を見て少し微笑んだ後近くにあった椅子に座る。
しばらく椅子の近くにあった本棚から取り出した本を読んでいると『図書室管理部』のバッチを付けた薄黄色の髪の女性が近づいてきた。
「見学ですか〜?」
どこか気の抜けた声でマカに話しかける。
「えぇ、気になっていたもので」
マカは本を閉じ膝に置いたあと、女性に軽く会釈しそう答える。
「あの子もですか〜?」
女性はどこか嬉しそうな顔をし、少女を手で指さした。
「そうですわ」
マカがそう言うと女性が背中に隠していた紙を取りだし彼女に渡す。
「ではお願いしますね〜」
図書室の隅にあるカウンターに戻りながら女性はマカに手を振る。
「ミネ、一緒に記入しましょう」
女性がカウンターに戻ると、マカはミネルヴァのいる本棚へと歩いていった。
⬛︎
学園内、大魔道士室。
暗い部屋に灯りを灯すロウソクが、不思議な雰囲気を醸し出すその大きな部屋の椅子に、7人の男女がテーブルを囲うように座っていた。
「ローグ。お前の見解を聞かせろ」
藍色の髪色に、両手に手袋をした男性…『氷結の大魔道士』ドゥナクがテーブルに肘を置く。
「…ミネルヴァ・アーカイブスは無詠唱で少なくとも、2属性以上の魔術を行使できる」
その問いに『輝跡の大魔道士』ローグは素直に答えた。
「そうか。じゃあ次、『彗星の大魔道士』」
ドゥナクが隣に座っていた泥酔中の女性、『彗星の大魔道士』セナを起こしながら言う。
「ふぇ…?あ、ミネルヴァちゃんのことね〜。りょーかいりょーかい」
そう言いながらセナは大きな欠伸をしたあと、話し始めた。
「あの子はね、全ての属性を使えるよ〜」
セナのその言葉に周りの大魔道士が思わず立ち上がる。
「セナ、お前それ…言ってることわかってんのか?」
大柄の身体をした男性、『豪傑の大魔道士』ゴロスがセナに向かってそう言う。
「うん。わたしの六星占術がそういってるからね、真なる言の葉だよ。これは」
セナがそう言うと間髪入れずにドゥナクが発した。
「だがそれだと貴族連中、特に公爵家が黙ってないぞ…。どうするんだ、ローグ」
「公爵家はどうしようもないね」
ローグは冷静な声でそう返す。
「なら…」
「でも大丈夫。一つあるよ」
ローグは考えがあるのかニヤリと笑い、そう言った。
「それは…?」
ドゥナクは気になるのかローグに質問する。
「ミネルヴァを大賢者の称号に昇格させる」
ローグのその言葉に、その部屋にいた大魔道士全員は驚いた顔をした。
——魔道士の頂点『大賢者』。
その座は『始まりの魔道士』が一人『原初の大賢者』以来、空いたままだった。
だが今、平民出身の少女をその座につかせるためにローグは動き出す。
そして、その選択が、終わりの始まりとなる。