第6話『魔法と少女』
「本日の授業は、魔法を実際に使ってみよう」
ミネルヴァ転入一日目・1時限目『魔術』。
コートはそう言うと教室の生徒を中庭へ行くように、と促し教室の外へ出た。
その後に続くように他の生徒も出ていきマカとミネルヴァもそれに続く。
中庭。
「魔法とは『詠唱によってマナを力に変換する技術』、魔術とは『それを行使すること』。人によっては使える力『適正属性』が変わる訳だが…」
コートはそこまで述べるとミネルヴァを指さす。
「ひぇいっ」
指を指されたミネルヴァは思わず驚き声を出した。
「お前は『特待生』で転入生だ。故にこの学園ではまだ適正属性をまだ検査していないのでな」
とコートは言ったあと少女にこちらにこい、と手で招く。
ミネルヴァはおどおどしながらもコートの近くまで歩いたあと彼女から杖を渡された。
「これ、は…?」
少女はそれを見て不思議そうに尋ねる。
「杖だ。主に魔術を行使するために使う」
コートはそう答え、こう続ける。
「あの的に何か魔法を撃ってみろ」
と中庭の奥にある丸い的を指さした。
「えっ、とあ」
ミネルヴァが詠唱できない、と言おうとしたのだがコートはつべこべ言わずに、と少し冷たく言う。
もうどうにでもなれ、とミネルヴァは目を瞑ると魔術を行使するために自然に発生しているマナをその肌で感じとる。
少女はそのマナを杖の先に一塊にするように螺旋状に描き、凝縮する。
そしてそのマナの塊を的へ撃つ。
するとその塊は音を越える速さで的へと直撃し、的を破壊した。
「…は?」
コートは詠唱もせずに魔術を行使した少女と粉々に破壊された的を見て思わずそう呟く。
その光景を見た他の生徒も次々とザワザワし始め、その声に気づいたのか少女はずっと瞑っていた目を開けると目の前には破壊された的があった。
「…」
少女はその的をしばらく凝視した後コートの方向を向くと的の方を見てポカンとしており、少女はやっと自分がやったのだと自覚する。
「あばばばばば」
少女はこの後すぐ気を失い倒れた。
そして、この日の出来事はすぐに学園内に広まることになる。
⬛︎
「…あれ」
ミネルヴァは目覚めると知らない部屋のベッドで寝ていた。
「えっと…私、は」
と少女が意識を失う前の出来事を思い出そうとするとベッドの横にある椅子に座っていた山吹色の髪の凛々しい顔をした女性が口を開く。
「貴女は先の魔術の授業で気を失い、約3時間ほど寝ておりましたわ」
その女性は読んでいた本を閉じ、そう答える。
「ありがとう、ございます…えっと」
少女が名前を思い出そうとすると女性は名乗った。
「わたくしはマカ=アルバートン。アルバートン公爵家の第一王女ですわ。マカでよろしくってよ」
マカが名乗り終え、少女の方を見るとつい先程まで彼女が読んでいた本『魔導恋物語』に目をやっていた。
そんな少女を見たあとマカは彼女を見てこう言った。
「わたくしと『オトモダチ』になりましょう。ミネルヴァ嬢」
その言葉を聞いた後、いきなりのことに驚いたのかしばらく少女は固まる。
「わたくしはずっとこの本…『魔導恋物語』を語ったりできる本トモダチが欲しかったのですが周りには本がお好きな方々がいなかったので、その…よろしければ」
マカがそこまで言うと固まっていたミネルヴァが遮る様に発する。
「は、あの!わ私、で…よければ!」
少女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらそう言った。
その返答にマカは嬉しそうに絵になる笑みを浮かべた後ミネルヴァの手を取り、
「えぇ!今日からわたくしたちはオトモダチ、ですわ!」
⬛︎
午前中の授業は終わり、マカとミネルヴァは昼食を食べに食堂に来ていた。
「こっちですわ!ミネルヴァ嬢」
マカは凛々しい声で少女の手を引き、バイキングのあるところまで案内した。
「ここで食べたいランチを皿に盛るんですの」
とマカはトングでタリアータを取りながら少女にバイキングのルールを教える。
その後マカはミネルヴァが盛り終わるのを待ち、二人で近くに空いていた席に座る。
しばらくそこでランチを食べているとある女性たちがミネルヴァの座る机の前に立ち、不快そうな顔をした。
「やだぁ!平民のみすぼらしい!下品な女性が!わたしたちと同じ空間で!ランチを食べるだなんて!」
女性たちはそう言うとミネルヴァが食べていた皿を床に落とす。
「あ、あ…」
ミネルヴァは床に落ちた皿を見て言葉にならない声をだす。
「平民のあなたには!その床に落ちた残飯がお似合いってよ!」
その女性たちの振る舞いに怒りを覚えたのかマカは椅子から思わず立ち上がる。
「貴女方?」
マカは怒りを胸の内に隠しながら女性たちに向かって発する。
「あ!すみませんね、マカ様!でも、マカ様の隣にこんな下民がいましたのでぇ」
女性たちはミネルヴァを蔑むような目で見ながらマカに返答した。
「…ッ!」
マカが思わず手を上げようとすると二人の青年が間に割って入る。
「なにするんですの!セスタ兄様!」
セスタと呼ばれた赤い髪に王子のような顔立ちの青年はキレ気味のマカの耳元でこう返す。
「お前が手を上げる必要はない」
「…わかってますわよ」
この返答にマカは少し不機嫌そうに返した。
「お前らには謹慎処分を言い渡す」
と、隣で女性たちに向かってとある紙を見せていた青い髪にメガネをした青年、ユウが冷たい目で彼女らを見ながらそう言う。
「なっ!でも平民がっ」
女性たちはその言葉に不服だったのか反抗しようとしたがユウはメガネをくいっ、と上げながらこう返した。
「この学園に入学する権利を持つのは『魔法の才能』がある者。条件さえ満たしていれば貴族だろうが平民だろうが関係ない。それが…規則だ」
その返答に何も言い返せなかったのか女性たちは少しキレながら食堂を出る。
「大丈夫ですの!ミネルヴァ嬢」
マカは女性たちが出ていったあと机の下に隠れて震えていた少女にそう聞いた。
「あ、わた、私…」
と少女がマカを脅えた目で見ると彼女は少女に顔を見せないように抱きつく。
「大丈夫ですわ!わたくしは、大丈夫ですから!」
その彼女の目には少しの水溜まりができていた。