第9話 灯の導き
リアが助けに行く少し前に遡る―
レッド達は、クルセウス一行に連れられ、謎の洞窟へと向かった。
「入口のほうの魔獣は狩りつくしたのですが、奥がまだ…」
「わかった。クラ、ジェル、警戒して進めよ。」
「わかってるのよ。」「わかった。」
二人は同時に返事をして、奥へと進む。
「おーい!ベテルギウスの三人を連れてきたぞ!」
「やっと来たか!よろしく頼むぜ!」
「こちらこそ、よろしく…それで、この奥が狩れてないんだっけ?」
軽く挨拶をかわし、本題へと入る。
「この先に進みたいんだが、どうもダコウモリがいて通れないんだ。」
―ダコウモリとは通常のコウモリと比べて狂暴で、巣に近づけば空から攻撃を喰らい、手が出せない。
「それなら、氷河世!…とやれば邪魔にならないのよ。」
クラは一撃でダコウモリの巣を凍らせ、動きを封印させた。
「おぉ!」
「ナイス!嬢ちゃん!」
簡単に使った氷河世は実際は上級魔法で、長めの詠唱を唱え、発動することが多い。
しかし、クラは上級魔法を極め、詠唱などしなくても魔法が使えるようになったのだ。
「よし、じゃあ先に進もうか…ぁ?」
「どうしたんだ?」
突然クルセウスの一人、ジス・ケイドが止まり、レッドが声をかける。
すると、ジスは指を奥のほうに向け、ガタガタと震えた。
その方向を見て、レッドも動きを止める。
ジスとレッドの視線の先には、大量の魔獣と、明らかに強そうな魔獣がいた。
「あ、あれは何ですか?」
「あ、あれは、そ、その…」
そう言ってジスは魔獣たちに背を向け、
「皆さん、頑張ってくださーい!!」
と言って逃げ出した。
「ちょ、まっ――」
レッドは最後まで言い切ることができなかった。
後ろから何か大きい存在の気配を感じる。いてはいけない何かの気配を感じる。
レッドは恐る恐る振り返る。
そこには明らかにヤバそうな魔獣が、いた。
◇ ◇ ◇
「なんだ…この魔獣は…」
今まで感じたことのない膨大な覇気がレッド達を包み込む。
蛇のような形をした魔獣、そんな形の魔獣でこれだけの覇気を持つ蛇は一つしか知らない。
―『毒沈之蛇』。Sランク級の、天災級魔獣―
「これは、やるしか選択肢はないのよ!氷河世!」
クラが上級魔法を放ち、洞窟の中をすべて凍らせた。
うろうろしていた魔獣は氷漬けとなってひび割れ、少し触ったらばらばらになりそうである。
しかし、毒沈之蛇は凍りもせず、平然としていた。
「俺も行くぞ!はぁぁぁっ!」
レッドは剣を抜き、毒沈之蛇にとびかかる。
「攻撃、来る。レッド、避けて。」
「オッケー!ありがとう!」
そう言ってレッドは進行方向を急速転換する。
毒沈之蛇はレッドの進行方向だった場所に毒吐息を吹きかける。
「あれはやべぇな。喰らったら終わりだ。」
すぐに、クラは氷魔法で攻撃し、少しづつ、少しづつ、凍らせようとする。
「全然効かないのよ!レッド、とりあえず頼むのよ!」
「オッケー!物理攻撃は俺に任せろ!」
そう言って、洞窟の壁を使い、走っていく。
「剣技!『龍飛之舞』!」
レッドは回転するように空中を飛び舞いながら剣を振り回し、力を入れた一発を打ち込む。
剣はきれいにささり、傷をつけることができた。
「クラ!魔法攻撃だ!」
「わかったのよ!氷之刃!」
クラの魔法は傷口へ一直線に進む。そして傷口にヒットし、ダメージを与えた。
しかし、その傷口はすぐ防がれ、再生してしまった。
「ちょ、嘘…だろ?」
◇ ◇ ◇
「とにかく、王都の状況は分かった。ところで君のペンダントが光ってるけど、大丈夫?」
「え?」
急にギルドマスターに言われ、ペンダントを見ると、強く、光を放っていた。
「す、すいません!ちょっと行ってきます!」
「ハハハ。いってらっしゃい!」
リアは大急ぎでエレベーターに乗って100階から1階まで降りた。
「本っ当に、何が『魔物狩りぐらいできる』なの!」
そう言ってリアは走り出す。そういえば、急いで出ていく前に渡されたものがあった。
このよくわからない剣型のキーホルダーをギルドマスターからもらった。
リアが普段つけている剣のイヤリングとは違うのか、振ると何か起こるらしい。
「このキーホルダーを振るだけで何か起こるって本当かなぁ?」
そういって、実際に振ってみる。すると持っていたキーホルダーは通常の剣に早変わりし、手には剣がしっかりと握られていた。
「私の腰に剣が刺さってること知らないのかな?まぁ、使ってあげる!」
そう言ってリアは洞窟へと向かう。
◆ ◆ ◆
「もう、ダメだ…天災級のバケモンに勝つなんて無理に決まってるだろ!」
「あきらめは早いのよ!とりあえず防御してあげるのよ!」
「私も、あきらめません!」
二人は何か希望はないかと探っているが、レッドは諦めていた。
毒沈之蛇は今にも毒吐息を吹きそうだ。
「「も、もう駄目だ…!」」
ついに、三人とも諦め、息を吸い始めた毒沈之蛇に向き合う。
そしてレッドは頭を下につけて土下座のポーズで早口謝罪をし始める。
「すいませんでした!ほんっとうにすいませんでした!俺が全面的に悪かったから命だけは助けてお願いだから本当に、なんでもしますから許―――。」
「―――情けない」
一瞬、洞窟内に風が吹き、時間が止まった。複雑な構造になっていて、風はここまで来れない筈なのに。時間は普通、止まらない筈なのに。
「「リア!」」
「危機の灯の導きで来たら吐息で殺されそうになってたなんて。」
「そいつの吐息は危険すぎるのよ!当たったらひとたまりもないのよ!」
クラがリアにそう告げる。しかし、リアは一切驚かなかった。
「逆に、私がこの魔獣の毒に耐えれないと思う?」
そう聞いた瞬間。リアに向けて強烈な毒吐息が放たれた。
しかし、吐息はすぐかき消さた。
「天災魔獣だろうと、私たちの敵は、討つわ!」
剣を両手で構えて、涼しい顔で、そう言って見せたのであった。
天災級の魔獣とリアとの戦いが始まる―
次回 第10話 聖なる力