第7話 氷の戦士
グラ・カタロスというギアの兄は、リアへ牙を向け、一対一の戦いが始まる…
「俺の弟、こんな姿にされるなんて、思ってもなかったなあ?」
リアは後ろを振り向き、声が聞こえて早々飛んできた刃物をギリギリ避けた。
「へぇ?今のを避けるなんて、やるじゃないか?」
そう言ってリアをほめる。
「あなたは誰?その男となんの関係があるの?」
「俺はギアの兄、グラ・カタロス。俺はコイツを脱獄させてコイツがやりたかったことをやらせただけだ。」
この事態を生み出した本人―グラ・カタロスは微笑みを浮かべてそう言った。
「それじゃ、もういいでしょ?この人の気が済んだのなら―」
「俺はコイツの兄だ。兄には弟が困っているときに助けてやるという義務がある。だからなぁ?可愛い弟がこんな目にあってんなら、その仕返しするっていう義務があんじゃねえの?」
そう言って、リアに敵対心を向け、目を光らせる。
「私に暴力を振り始めたのはそっちのギアって奴のほう。私も正当防衛をしただけ―」
「最初に殴ったのは誰かなんて関係ない。俺の弟は俺が守るっていう義務があんだよ。」
リアはため息をつき、ギアの兄、グラに視線を向ける。
「リア、俺たちも戦う―」
そう言いかけた時、速攻でグラは、
「ダメだ。ダメだ!お前らはギアに何もしてないだろ?お前らは殺せない。理由が無いからなぁ?」
と言った。
「あいつらに邪魔されるのは面倒だ。お前らとは壁を作らせてもらおう。」
そう言ってグラは自らの魔法で氷の分厚い壁を作り出し、隔離された状況となった。
「つまりあなたは私を殺すか、私に殺されるかのどちらか、ということ?」
「その通りだ!ギアに重傷を負わせるぐらいの力、見せてもらおう!」
すぐさま、グラは飛び掛かってきてリアを蹴り飛ばそうとする。
しかし、リアは自分の片腕を前に出し、軽々と受けて見せた。
「いいねぇ!いいねぇ!」
そう言って、グラは手から氷の塊を出し、それを剣の形に変えた。
そしてすごい勢いで突っ込んでくる。これは体一つで防御できるものではない。
「焔獄天輪!」
リアは炎魔法でグラの手持ちの氷を溶かそうとした。
―しかし、その氷は溶けることなく剣の形のままだった。
「もらったぁ!」
グラは剣に力を込めて一振りし、剣は地面に刺さった。しかし、手ごたえがない。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
上から声がして、氷を一度溶かし、盾の形にしてリアが持っていた氷の剣を止めた。
リアの氷の剣は力に負けて少しづつ溶けてきてしまった。
「へぇ!こんな短時間で俺の技を習得するなんて!いいねぇ!」
リアは氷を捨てて溶かし、水に戻した。
リアにとって、相手の技を盗み自分のものにするのは得意技であった。
技術は能力とは違って、理論がわかれば習得できるものが多い。
「あなたの技を習得するなんて簡単な話よ!」
リアが言う通り、人の技を盗み見て習得するのは朝飯前である。
「でも、俺の技をなめてもらったら困るなぁ!」
氷を自分の足に装着し、氷の剣を持ち、氷の盾を持った『氷の戦士』になった。
―氷の戦士。どこかで聞いたことあるような。
「さぁ!俺も本気を出してやる!」
グラはさっきよりも遥かに強そうな、硬そうな剣を持って向かってくる。
リアは氷の剣を持って構え、グラの攻撃を防御しようとする。
―ああ。そういえばA+の冒険者だった。
「はぁぁぁぁぁっ!」
リアは剣でグラの剣を止め、押し合う。リアの剣が力に負けて溶けていく。
「ハハハハハ!強化した氷の剣に勝てるわけないだろ!」
―そうそう。氷の戦士は炎に強いのに水に弱いとか。
…水に弱いのか。氷の戦士は。
氷を着ているのに?氷が守るのに?
「さぁさぁ!このまま何もしないと殺しちゃうよ?殺されちゃうよ?」
―なるほど。そういうことか。
リアは魔力感知を最小限にして、グラの能力を見る。
「やっぱり。やっぱり、そういうことだったんだ!」
そう言ってもう片方、剣を作り出し、グラを遠くまで飛ばした。
「おぉ!何がわかったのか知らないけど!君の期待は裏切られると思うよ?」
「そうなの?じゃあ、攻撃させてもらうわね?」
そう言ってリアは魔法の杖を手に持ち、空に向けて魔法を放つ。
そしてそこには大きな水の塊が生成されていた。
「な、な、なんだ?氷に水なんて、き、効くわけがないだろ?」
予想していなかったことが目の前で起こり、グラは焦る。
さっきまでの余裕そうな顔は、どこへ行ったのだろうか。
「能力感知を使うまでわからなかった。『属性逆転』の能力を持ってるなんて。」
「な、なんのことを言っているんだい?水で攻撃なんて魔力の無駄だろ…?」
そう必死にあがこうとするも、リアは聞く耳を持たない。
そして、リアは空中で水の槍を作り出し、グラに向けて放つ。
必死にグラは抵抗するも属性は『炎』。盾は水で消火された。
『氷の戦士』は氷属性を使って攻撃しない。火属性を使って攻撃する、『炎の戦士』なのだ。
この『氷の戦士』=『炎の戦士』と考えたのは、リアが氷の剣で防いだ時に、『溶けた』からだ。
氷で氷を攻撃して、片方が溶け始めるなんてことはあり得ない。
そして、リアにこのカラクリを見破られた時点で、グラは負けたのである。
「さようなら。」
その一言だけ残して、リアは氷の剣でとどめを刺した。
ギアに操作されていたドラゴンはその戦場をただ、見ているだけだった。
次回 第8話 危機のペンダント