第46話 レースと協力
魔法レースに参加する教師10人は朝早く学校に集合していた。
「今日は魔法レース当日です。生徒達にとってはクラス対抗リレーみたいなものだが、私達にとっては、犯罪者と教師との争いでもある。生徒を誰一人失わない為にも、全員が協力して生徒を守りましょう。」
「「はい!」」
朝の朝礼が終わり、教師がそれぞれ準備を進める。
ヴァルディ先生は、教師それぞれに危機のペンダントを渡していた。
「これ、リア先生の分ね。一応どのクラスが危機的状況なのか、わかるようになっている。例えば、3組の先生が危機のペンダントに衝撃を与え、危機を知らせたとする。すると、他のクラスの危機のペンダントには、3と表示されて光る。」
そう説明して、リアに危機のペンダントを渡す。
「ありがとうございます。」
「リア先生の活躍を皆期待してるから、頑張ってな。」
そう言って、ヴァルディ先生はリアの肩をポンと叩き、戻っていった。
リアの担当するクラスは8組。
8組にはクラ、ジェル、シイアの魔法科を希望した三人がリアの担当になっている。
校長先生が色々と操作してくれたのだろうか…?
それはわからないが、助かる。
魔法レースは時に一泊二日になる可能性もあると聞いている。
毎日、シイアに溜まった放出できないマナを吸収し、シイアの治療を行っている。
ちなみに、採用試験中の吸収はクラ達が行っていた。
しかし、マナの限界貯蔵量が少ないものだから、吸い取って、魔法を使って、吸い取って…を繰り返していたらしい。
シイアのマナ放出機能も少しずつ回復し、少しだけ吸い取らなければならないマナは減った。
それでも今は必要な治療なので、シイアから離れるのは難しいのだ。
一応、校長先生にこのことを説明してあるから、多分操作してくれた筈だ。
すると、レテリア先生がリアのもとへやってきた。
「リア先生、魔法レース頑張ってくださいね!」
「勿論、頑張ります!レテリア先生は…?」
「私は4組担当です。私も頑張りますよ!」
普通、クラス対抗なので、先生同士の間にもライバル心が芽生えるが、魔法レースは教師が犯罪者から生徒を守れるかという試験のようなものである。
つまり、これはレースではない。協力ゲームだ。
そして魔法レースの開会式が始まった。
「これより、10クラス合同の魔法レースを開催する。ルールは簡単。10クラスそれぞれ同じ距離のルートを進み、目的地により早く着いたクラスの勝利だ。どこも、同じ強さ程度の魔獣が出る。どこで休憩するか、どういう作戦で進むかは君たち生徒次第だ。教師は君たちが危険な目に遭った時しか、手を貸さない。戦いの際は、協力して戦うように。決して教師を当てにするな。いいな?」
ヴァルディ先生がそう説明した。
「リア先生、それではこれを。」
そう言ってリアに渡そうとしたのは、秘書だった。
「危機のペンダント、ですね。」
「ええ。9人の教師それぞれの危機のペンダントと接続されているものです。」
どうやら用意してくれたペンダントは通常のペンダントとは違い、誰が危険な状態になっているのか、番号を映して教えてくれる、『危機のペンダント』の上位版らしい。
「それでは、始めたいと思います。位置について、よーい、どん!」
その掛け声を合図に10クラスは同時に別々のルートへと入っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「今、大魔法学校の生徒が現地を出発した。現場までの見込みは一時間だ。」
「ふ、そうか。また近づいてきたら報告しろ。」
「御意」
そんな連絡をしていたのは、リア達とは少し離れた場所にいた一人の男だった。
「今回は新米教師が一人参加しているということらしい。今回は必ず仕留めろ。いいな。」
「わかりました、ボス。今回は我らの圧勝でしょう。」
そう言って、もう一人の男はニヤリと笑った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
出発してから三時間経った。
途中で魔獣に会い、生徒達は魔法を使って魔獣を狩っていた。
このレースでは、途中で仕留めた魔獣を調理して食事をする。
丁度、お昼時なので、一度足を止め、火を焚き、食事の用意をし始めた。
魔法レースに向けて、始めにサバイバル知識と生活魔法を学ぶ。
それをしっかり使えているのが、この子たちの素晴らしいところだ。
クラ達は授業を一日しか受けていないが、やはりリアと一緒に冒険をしていた故にある程度のサバイバル知識は身についていた。
クラは元々魔法使いなので、生活魔法はすべて知っている筈である。
一方、ジェルはケガ人などの手当を行う係になっている。
そして、シイアは魔法は使えないが、これでも浮遊都市の国王の娘。
料理などの家事はお手の物だった。
それぞれの長所、短所を活かしてしっかりと分担していた。
「みんな、お昼ご飯できたよ~」
そう言って、倒した魔獣を使ったシチューを皆に配った。
「リア先生の分もあるよ!」
そう言って、シイアはリアにシチューを渡す。
「いいの?ありがとう!」
リアはありがたく、そのシチューを貰った。
「お、おいしい…!」
シイアの使った魔獣の肉は臭みがあって独特なのだが、臭みは全くなく、柔らかかった。
シイアのシチューを平らげ、出発の準備を始める。
すると、リアに向かって氷の刃のようなものが高速で飛んできた。
リアはすぐに感知し、氷の刃を粉々にする。
誰かに、狙われてる――
確かに飛んできた氷の刃。
明らかに魔獣が作ったものではない。
誰かが作った氷の刃だ。
それをリアに投げてくる。
生徒よりも先に教師を狙う。
そう考えると、教師を殺し、生徒を奪おうとしているのだろう。
まぁ、もう少し猶予を与えよう
そうリアは考え、生徒と共にゴールを目指して出発した。
次回 第47話 10の襲撃




