第35話 恐怖の裏
今回で第三章は終わりです!
「お前、ガチでふざけるなよ。」
リアはそう言って、『笑』の情をにらみつけた。
リアの薄赤い瞳は、獲物を捕らえるかのように赤く光る。
既に、先ほどのパンチで、『笑』の情は瀕死に近い状態になっていた。
「…なんなんだ…お前!そんな怒りに任せただけで…」
「うるせぇ」
そう言って、蹴りを入れる。
通常のリアならあり得ない行動が、行われていた。
「なんでシイアを捕まえてきた?答えろ。」
「考えればわかるでしょ。あいつが一番魔力量が多かった。だから生贄にしようとしただけだ。」
『笑』の情はこれでも最適なルートを選んだ。
黙って答えなければ確実に殺される。
今、『笑』の情にとってピンチであり、どこか隙がないかと、探っているところだった。
「あの子はとても大事な子だ。それをお前の都合で奪うとか許されない筈だろ。」
「奪われたのが悪いだろ!」
「そうか。ならなぜ傷つけた?」
「抵抗したか――」
「嘘だな。抵抗していない。万が一、抵抗したとしてもあの子にそこまでの力はない。私と互角に戦えるんだから、それぐらいの力はあるだろ?そしたら抵抗しても連れてこれている筈だが?」
「…ああ!もうわかった!私がボコボコにしたかったからしただけだ!何か文句でもあるか!」
「あるに決まってるでしょ。まぁ、シイアのことを謝られても、私はお前を殺す必要がある。」
そう言ってリアはさらに『笑』の情へと近づいていく。
「私を怒らせたのが悪かったな。さよなら。」
『笑』の情は横から殺意を感じ、それを避けた。
そして『笑』の情は、空に逃げ出し、リアを見下ろした。
「アハハハハ!私のこと、殺せてないじゃん!残念だったね!」
そう『笑』の情はリアに言った。
「そう。残念だったわね。」
その言葉の本当の意味は、すぐに分かった。
手足が、ないのである。
いつの間にか、知らない間に、痛みもなく、手足は地面に落ちていた。
「ハァァァァァァ?」
「避けれたと思い込んで喜んでる奴を殺すのが一番簡単。」
そう、リアは言って、『笑』の情の心臓を聖剣で突き刺した。
◇ ◇ ◇
「お待たせ!終わったよ!」
そう言って戻ってきたのは、怒りを解放し終えたリアだった。
こうして、戦争は、幕を閉じた――筈だった。
「…まだ私はぁぁ…まだ、まだ!」
心臓を突き刺されてもなお、『笑』の情は必死に生きていた。
「私が死ぬなら…あいつも道連れだ!」
そう言って、周りにいた魔獣を飼して命令する。
『リアという少女と、シイアという少女を殺せ』
そうして、『笑』の情はニヤリと笑いながら、死んだ。
「さて、それじゃあ戦争の片づけをしないとね!」
すると、急に母は剣を持ち始めた。
「お母さん、どうしたの?」
「リア、シイア、あなた達、何者かに狙われてるわ。」
「えっ?!」
リアはあたりを見渡し来ていないかを確認する。
「危ない!」
そう言って母は剣で相手の攻撃を防いだ。
そして、あっさり襲い掛かってきた魔物を切り刻んだ。
「ふぅ、助かったよお母さん、ありがとう。」
「良いのよ、全然。それより、ケガはない?大丈夫?」
「大丈夫。」
こうして、『笑』の情が用意した刺客は、リアでもシイアでもない、一人の女性に倒された。
◇ ◇ ◇
こうしてリア達はこのヴェルデン都市の復興を始めた。
「リア、はいこれ。」
ミシアはリアに何かがたくさん入った袋を渡す。
「あ、これって魔晶石!ありがとう!」
「いいのよ。これで助けるべき者を助けてあげて。」
リアは魔晶石をありがたくもらい、負傷者のもとへと走っていった。
リアがだいぶ離れた時、ミシアはボソッと独り言を言った。
「…はぁ、もうちょっと我が子と居たいんだけど、もう時間かぁ。」
「これで回復してあげて、ロディ。」
「ああ、任せて。悪いけど、あっちの方に応援に行ってくれる?」
「わかった。」
そう言って、リアはレッドのもとへと走った。
「レッド!何か手伝うことってある?」
「ああ、リア!少し相談したいんだけどいいか?」
リアはレッドのもとへと到着し、頷いた。
「前みたいな家だと今回みたいに魔物の襲撃で家が壊されてしまうと思う。だから少し近代化してやりたいんだけど…やっぱりこの周りの豊かな自然も守りたいんだ。どうしたらいいと思う?」
「うーん…あ、そうだ!」
そう言ってリアは何かをひらめいた。
「カタロス兄、ちょっと手を貸してくれない?」
「ん?ああ。」
グラ・カタロスは何をやるか分からない。リアに聞くも、じっとしてるだけという。
「終わったよ。ありがとう、ギア。」
「お前、何したんだ?」
「ギアの属性変化の能力を貸してもらおうと思って。」
「ちょ、そんなことできるわけねぇ…いや、お前ならあり得るか。」
リアは他人に能力を付与する付与能力を応用し、その逆を行うことに成功した。
そして今、リアは属性変化の能力を持っている。
「属性変化、鉄」
リアは属性変化を家に付与する。
属性変化は見た目を一切変えず、属性のみ変えるため、とても役に立つ。
そして、リアの属性変化によって木材でできた家の属性が鉄に変わった。
「それじゃあ、試しにこの家燃やしていい?」
「はぁぁ?!頑張って作った家を燃やすっていうのか!」
「えい。」
建築をしてくれた人の言うことをガン無視して、リアは火を放つ。
「ああああ!おめぇ!何してくれてんだ!」
「別に?私は丈夫な建物になってるか確かめただけだよ。ほら。」
リアはマッチの方に指を指し、見せる。
家は、一切として燃えていなかったのである。
燃え移るような動きもなく、ただマッチが燃えているだけ。
「ど、どういうことだ?嬢ちゃん?」
「私は家が燃えないように、そして丈夫になるように属性を木から鉄に変えただけ。だから燃えないの。」
そう言ってリアは自慢げに説明する。
「あ、はぁ…」
しかし、あまりわかってもらえなかったようだった。
「これで街は一通りもとに戻ったかな。」
空は橙色に染まり、カラスが鳴きながらどこかへ飛んでいく。
そして、リア達の前には来た頃よりも美しい景色が広がっていた。
「とりあえずは一件落着、かな。」
「そうなのよ。だいぶ疲れたのよ。」
「ま、帰ったらのんびり過ごそうぜ。」
「だね。それじゃあ、私たちは帰ろっか。」
そう言って、リア達はヴェルデンの街に背を向けて、帰ろうとする。
「ま、待って!」
そう言ったのはキャトリア兄弟の長男、テディだった。
「僕たち三兄弟も連れて行ってほしい!お願いだ!」
「なんで?」
リアは聞いた。
なぜ、リア達についていきたいのかと。
「僕たちはリアみたいに強くなりたい。俺らは大人になったらこの街を守らなきゃいけない。だから、戦い方を学ばせてほしいんだ。」
そう、テディは答えた。
「わかった。みんなも、大丈夫だよね?」
レッド達は顔を見合わせて頷いた。
「俺たちは三人を歓迎するよ。…ただ、お前らがいない間、ここは誰が守るんだ?」
「それは、私のドラゴンに任せることにするわ。ドラゴンで対応が難しそうなら、しっかり私が来ることにする。」
「どうやってドラゴンの危機を知るんだ?」
レッドが聞くと、リアはチッチッチと言って一つのペンダントを取り出した。
「みんなが私にくれた、危機のペンダント。これ、私とドラゴン用に作ってもらった特注なの。」
それなら納得できると、みんなが頷いた。
「それじゃ、よろしくね。」
ドラゴンは「わかった」と鳴き、リア達を見送った。
こうしてヴェルデンの街での騒動は幕を閉じたのであった。
第三章 ヴェルデンでの再会 終了
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