第29話 ■■
リアに、ミシアの剣が振り下ろされたからである。
リアは目を閉じ、死を覚悟した。しかし、なかなか剣は当たらない。
リアは目を開けて目の前を見る。
「え―――」
「あなた、私の格好で私の子供を襲うなんて。許せないわね。」
リアの目には二人の『ミシア・カップ』が映っていた。
リアを庇った母は、もう一人の母を洞窟の遥か奥までぶっ飛ばした。
「リア、大丈夫?」
「――え、あ、うん。大丈夫。」
リアの状態を心配してから、喋れる状態になったと判断し、また喋り始めた。
「久しぶり、リア。こんな形で会うことになるとは思ってなかったけど、しっかり生きていてよかった。」
そう、リアに言った。
「あそこの魔晶石を守ってるのは偽物。私はあんなところ守るなんて仕事しないわよ。」
「え…じゃあ、本当の『お母さん』?」
「もちろん。」
そう言ってお母さんは剣を偽物の方に向ける。
「さて、随分とまぁ、私の子供を傷つけてくれたじゃないの。どうしてくれるの?」
「はぁ…まさかご本人登場するとは思わなんだ。俺はこの魔晶石の守護をする者だ。」
「なんで魔晶石取らせてくれないの?あれぐらい取らせてあげたって、いいじゃない。」
「ふん。俺はな、この魔晶石を守るため居るんだ。ちなみに良いことを教えてやる。戦う人が『強い』『勝てない』と思ってる人に俺は変わる。だから、お前も軽口叩いてる暇はないと思うけど?」
「そう?私の子で苦戦してたんだから、大丈夫そうだけど…」
そう言って、母はリアの方を向く。
「リアはちょっと休憩しておいて。人の戦闘を見て、学ぶのも大事なことよ。」
そう言われて、リアはコク、と頷く。
正直、本当にあの女性が自分の母なのか、半信半疑の状態であった。
さっきまで偽物の母だったと考えると、あっちも偽物かもしれない、と思ってしまう。
「…これがシイアの言ってた『人を信じれない』って気持ちなのかな。」
しかし、もし自分の母が味方なら――そう思うと心強かった。
「俺はお前より強い者になれる。それを忘れるなよ。」
そう言って偽物の母は、ゴーレムのような形に変形してから、また変形を始める。
しかし、その変形は終わることはなかった。
「…はぁ?お前、も、もしかして――お前より強い奴、いないの…?」
それを聞いて、リアは驚いた。
リアを守ってくれた、自分の『母』がこの世の中で『最強』ということである。
「だから言ったじゃない。私の子で苦戦してたんだから、大丈夫そうだって…」
「それとこれは話が違うだろ!お前の強さが異常なんだよ!」
そうは言うものの、偽物の母にはまだ、策があった。
「でも、お前が最強なら、自分自身と戦わせたらいいんだろ?」
そう言って、偽物の『ミシア・カップ』になった。
「最強のお前と最強の俺、どちらが強いのか、見ものだな。」
「なるほど。確かにそれは軽口を叩いてる暇ぐらいしかなさそうね。」
そう言えば、こんな人だった、とリアは思い出す。
母は昔から何でも舐めてかかるタイプだった。しかし、舐めてかかっても大丈夫な人間だった。
大体舐めてかかっていく人ほど、返り討ちにされて終わるタイプなのだが、母だけは特殊だ。
そのテンプレートともいわれるパターンを覆してくるのだ。
偽物のミシアは剣を持って、母へと突っ込んでいき、母を斬った。
しかしその斬った傷は何もなかったかのように残らなかった。
逆に、リアの母を斬ったはずの偽物に斬った傷がついていた。
「な…なぜだ?俺は確かにお前を斬った筈だ…なのに何で斬られてないんだ…!」
「あなたはリアの記憶をもとに私を演じている。でもね、リアとは何年も会っていなかったの。だから、リアには知らない技術だったのかもしれないわ。」
「ま、まさか俺の変形の能力の仕組みがわかっていたというのか…!」
「わかってるも何も…普通に考えればそれぐらいしかないと思うんだけど…」
リアの母――ミシアには、本当に軽口を叩く暇があった。
なぜなら、既に勝敗は確定しているから。
しかし、リアの母は、とどめを刺そうとしなかった。
リアの母は、リアに近づいていき、リアの手を取った。
「私が最後に倒しても意味がないでしょ?やるんだったら自分の手でやりなさい。あれは偽物。本当の私はここに居る。躊躇なく殺ればいいわ。あなたなら、出来る――。」
その言葉には、母の温かみがあった。
「わかった。頑張る…!」
「ええ。頑張って。あなたは私の子なんだから、もっと強い筈よ。」
そう言われてリアは魔法の杖を取り出す。そして詠唱の準備を始める
通常、魔法の杖は使用魔力をできるだけ減らして、最大限の魔法を放つものである。
しかしながら、リアの魔法の杖は通常の物とは、違う。
リアが魔法の杖を使うということは決して、『甘え』たわけではなかった。
リアの魔法の杖は――
「万物の理を司る、深遠なる摂理よ。我が前に立つ、形あるもの、形なきもの、そのすべてを──」
――魔法を進化させるモノなのだ。
「存在を構成する微塵の原子、魂を繋ぎし根源の鎖。今、この刻、その結びつきを断ち、在るべき姿を崩壊せしめん!」
魔法の杖は通常見ることもできないほどに眩しく光り輝く。
「魂魄の塵と化し、虚空へ散れ!第8階帝魔法、魂魄原子霧散!」
魔法の杖の先から、巨大な閃光が飛び出し、偽物の母を襲う。
逃げ場はなく、偽物の母は、その閃光に包まれるしか、道はなかった。
偽物の母――万事之石を守る者は、閃光に包まれ、ボロボロと崩壊し、やがて消え去った。
そして、ミシアは、リアの方へと向かい、リアに抱き着く。
「討伐、お疲れ様。そして、お久しぶり――」
「お母さん―――助けてくれて、ありがとう――」
――― 第29話 「再会」 ―――
次回 第30話 笑う襲撃者
内容がタイトルでわかりそうな場合や、隠した方がいいな~と個人的に思ったらタイトルは■で隠します。
一応、最後に表記します。(忘れてたら教えてください…)




