第21話 剣聖を超える者
剣聖が「苦」の情の味方に――?
リアとシイアが着いたころには戦場は悲惨な状態になっていた。
ベテルギウス三人も、何とか持ちこたえている様子だが、兵士の中には瀕死状態の兵士もいる。
「時間かかっちゃった!ごめん!」
「いいのよ。それより、前を見るのよ。」
「前?」
そう言われて、「苦」の情のほうを見る。
そこにはこちらに剣を向けた剣聖――カトス・トレア・レグミシアが立っていた。
「なんでカトスが私たちに剣を向けるの?」
「簡単よ!私が剣聖を操っているだけ。操作対象に剣聖が含まれていないとでも思った?」
そう言って、リア達を見下した。
「剣聖はこの国で一番強いんでしょ?それなら私たちは勝ったも同然。さぁ!すべての兵を皆殺しにして、シイア姫をあの娘から奪うのだ!」
そう命令すると、剣聖はすぐに、リアのほうへと向かってきた。
リアは空中に飛び、剣を回避するが、剣聖も空高く飛び、殺そうとしてくる。
「うわあっ!」
ギリギリでリアは回避し、地面へと戻る。
「なんで「苦」に支配されちゃったの、カトス!」
リアは剣聖に聞くが、何も答えてはくれない。殺意をこちらに向けてい来るだけだ。
リアは深くため息をついて、最悪剣聖を殺すことを覚悟した。
「仕方ない!みんなはどこかに避難して!私達5人で戦うわ!」
そう言ってリアは兵士全体を避難させる。
これからの戦いは、相当周りに被害を与えるだろう。
「レッドとクラはジェルを守って、ジェルは私とシイアを治療して!」
「わかった!」
「わかったのよ!」
「わかった。」
三人がまとまり、二人の治療の準備を行う。
「話し合いは終わった?それじゃ、存分に苦しんで、死ね!」
「苦」がそう言うと、剣聖はリアを狙って一直線に襲い掛かってくる。
剣聖は全力でリアに剣を振り下ろし、切断しようとする。
リアは手元から取り出した剣で剣聖の剣をピタリと止めた。
「な、なに?剣聖の剣を――」
リアが取り出した剣、それは訓練時に貰った、木刀たった一本だった。
剣聖の剣は、木刀すらも斬れなかった、そういうことになる。
「本当は斬られるだろうけど、魔力を込めてるから、通常とは違うの!」
そう言って剣聖を振り払い、距離を置く。
剣聖はすぐに体制を立て直し、またリアのほうへ向かってくる。
「リア!その腰の剣は使わないのか?」
「この剣?緊急時にしかあまり使いたくないの!」
レッドは緊急時って一体どんな時なんだ、そう思ったが、言わないことにした。
リアにとって緊急時はそう来るものではないだろう。
そう考えると、あるのに使われない剣が可哀そうだと思ってしまう。
リアは魔法で剣を作り出し、剣聖の攻撃をまたピタリと止める。
剣聖の剣がリアの剣に負けたのか、少し剣聖の剣に切れ目が入っていた。
するとリアは剣聖ごと剣を振り下ろし、剣聖の剣を真っ二つにした。
剣聖の剣は、普通の剣に斬られたのである。
「これで武器はなくしたわ!あとは剣聖を封じ込めればしっかり戦える!」
「なんでこの国で一番強い剣聖が、あの少女たった一人に剣を真っ二つにされるの!考えられない!」
そう言って、「苦」の情は頭を抱え込む。
しかし、剣聖にはまだ攻撃手段が残っている。
ベテルギウス四人がまだ見たことのない「剣聖の魔法」が。
しかし、「苦」の情は剣聖に魔法を使わせなかった。
「苦」の情は、剣聖に手を当て、マナを吸い取り始めた。
「あなたはもう使えないわ。最後に私のマナの一部となるがいいわ!」
そう言って、どんどん剣聖のマナを吸い取っていく。
「ぐぐぐぁ…がはっ!」
マナを吸い取られている剣聖は見てられないほどに苦しそうである。
「どう?マナを吸い取られる気分は?苦しい?苦しいよね!」
そう笑いながらもどんどんマナを吸い取っていく。
そうして剣聖のマナを吸い取る「苦」の情は、剣聖を超える者になっていく。
剣聖はマナの枯渇によってその場で倒れてしまった。
「ジェル、剣聖の手当と治療を、レッドはジェルと剣聖を守ってて。」
そう言ってリアは剣聖を超える者に立ち向かっていく。
もうすでに、「苦」の情は剣聖の力を上回っている。
操っていた時さえ、マナを少しづつ吸っていたのだから、剣聖が「苦」の情と合体したと言ってもいい。
既に「苦」の情は、「苦」の情ではなくなっている。
「…まさか、この国に剣聖を超える人がいるなんて。それもたった一人の少女だなんて。」
そう言って、「苦」の情はリアのほうに手を向ける。
「そういう人にこそ、私は苦しんでほしい。憎いからね!」
そして、「苦」の情はリアに指さして、それからこういった。
「特にあなたみたいに、人生無双モードをエンジョイしてる奴とかはね!」
そう言った。
「剣聖の力と私の力との融合魔法で存分に苦しめ!終焉之噴火!」
マグマの壁がリアとシイア二人を囲って、徐々に迫ってくる。
「マグマに焼かれて、苦しんで、死ねぇ!」
リアは何も言わず、何も抵抗せず、マグマに呑まれていく。
「アッハッハッハ!抵抗せず諦めて死んでいくなんて!まぁ、そのほうが手間が省けて嬉し――」
「私は別に諦めてなんかないし、死んでもないわよ?」
マグマのほうから声がした。
「苦」の情は、声のした方に恐る恐る振り向く。
そこには、火傷もせず、溶けもせず、焼かれた痕もない、無傷のリアがいた。
「お、お前たち二人はマグマに飲み込まれた筈!なのに!なぜ生きているの!」
自分の攻撃が一切効かなくて、どうしても知りたくて、リアに問う。
「こんなこと言うと『ずるい』って思われるかもだけど、私とシイア、火炎耐性あるから…」
「はぁ?!そんなの卑怯じゃないの!何も効かないじゃないの!」
火炎耐性という言葉を耳にした瞬間、我慢できずに、言葉を吐いた。
そして「苦」の情は大量の魔力弾を撃ってきた。
「これなら、これなら!耐性もないからようやくあなたを苦しめられる!」
「――切断」
リアがそう言い放った瞬間、放たれた魔力弾は粉々に刻まれた。
「防御!」
クラはリアの頭上に防御陣を作り、「苦」の情の不意打ちを防いだ。
「ありがとう、クラ!」
「こっちも魔力の限界があるのよ!なるべく早めに終わらしてほしいのよ!」
リアは頷いて返答し、「苦」の情のほうを向いた。
「ああ!なんで!なんで私の邪魔をするの!せっかく、せっかく!!不意打ちができると思ったのに…!」
「苦」の情はリアとクラへの憎しみを持っていた。
――憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。
なぜ、みんな、私の邪魔をするの?
なんで私の思いは、気持ちは、願いは、誰にも、どこにも、届かないの?
―『殺せ』
――『邪魔者を』
―――『邪魔者を殺せ』
――――『自分の思いが届かないのはすべて』
―――――『邪魔する奴らのせいだから』
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す――。お前たちは!私が!泣いて叫んで私を邪魔しなくなるまで!」
――『そうだ。私はやればできる筈。私の苦しみは、こんなものでは、終わらない!』
「苦しめて、それから殺してやる!」
「苦」の情は不気味な覇気をまとい、その覇気はリア達をも包み込んだ。
「苦」の情、覚醒…?!
次回 第22話 支配を支配する者
テスト期間でなかなか更新できていません。すいません。




