第18話 剣聖の訓練
まずは、各それぞれの実力を見よう、ということになった。
「じゃあ、まずはレッド君から見ていこうか。剣、魔法、どっちを使う?」
「俺は剣を使います。」
「わかった。じゃあ、木刀で戦おう。」
そう言って剣聖はレッドに木刀を渡した。
「それじゃあ、よーい、はじめ!」
リアの掛け声とともに、戦闘が始まった。レッドは剣を構え、相手の動きを確認する。
しかし剣聖は一歩も動かない。レッドはそれを見て、一直線に走り出す。
そして剣聖の頭をめがけて、木刀を振り落とす。
しかし、レッドの一撃は軽々と受け止められてしまった。
すぐにレッドは立て直し、相手の動きを見る。
次は剣聖が攻めてくる―――と考えたのが一足遅かった。
剣聖の木刀はレッドの頭上で寸止めされていた。
「僕の勝ち、かな。君は成長し甲斐がありそうだ。」
そう言って剣聖は木刀を手元まで戻した。
「ありがとうございます。」
レッドは少し落ち込んでいた――のかもしれない。
こんなにあっさりと負けたことはないのかもしれない。
剣聖相手に落ち込む必要はないような気がするが、
レッドにとってはショックだったのかもしれない。
「じゃあ次はクラちゃん。剣、魔法どちらで戦う?」
「私は魔法を使うのよ。」
「わかった。じゃあ僕は防御だけするから、魔法を放ってくれる?」
「わかったのよ。」
そう言ってクラは魔法の杖を右手に持ち、剣聖のほうを向く。
「上級魔法、煉獄天輪!」
青と赤の混じった紫色の炎が剣聖を燃やし、黒い煙が出ていた。
「上級魔法、蒼天覇煌!」
「中級魔法、雷神轟槌!」
「伝説級魔法、終焉轟雷!」
どんどんと、魔法を撃っていく。威力としては申し分ない筈だ。
しかしリアには煙の向こうの顔が平然とした顔をしていると分かっていた。
「うんうん。威力としは十分じゃないかな。ただ、発動に時間がかかるね。」
そう言って、剣聖はリアのほうを向く。
「じゃあ、次はリアちゃんかな。剣と魔法、どちらで戦う?」
「私は両方使ってるの。剣と魔法を一緒に使ってる。」
「じゃあ実践のほうが早いね。どうぞ。」
リアは木刀を受け取り、構えた。
「一つだけ、あなたに言っておくのよ。受け止められないと思ったらストップ!と言ったほうがいいのよ。」
「わかったよ。心に留めておく。」
この時、剣聖は、ストップ!という必要はないと思っていた。
しかし、その考えは一瞬にして、裏返される。
「第5階帝魔法――絶界滅神黎明」
リアがそれを唱えると、周りは急に暗くなり、闇に沈む。
「ス、ストップ!ストップ!待って!」
剣聖にそう言われて魔法を中止する。周りの闇はすぐに晴れた。
「ちょ、ちょっと!僕の知らない魔法使ってない?!」
リアが発動した魔法を見て戸惑う剣聖。そしてクラ。
「だ、第5階帝魔法…!あれは…ネタじゃないなんて!」
クラが言う通り、第4階帝以上の魔法はネタ魔法だ、使えない魔法だと言われていた。
しかし、そんなネタ魔法を目の当たりにし、「ネタ」ではないと、そう感じた。
通常、魔法は級によって分かれている。
初級魔法、中級魔法、上級魔法、伝説級魔法、神話級魔法。
そして上級魔法から第1階帝魔法、第2階帝魔法と名付けられている。
第4階帝魔法からは神話級魔法の、その先の魔法のことである。
しかし、リアが使おうとしたのは第5階帝魔法。神話級を遥かに超えた魔法である。
「ちなみに第何階帝魔法まで使えるの?」
「私は第6階帝魔法まで使えるよ。とりあえず、本気を出したほうがいいかなって思ったけど…」
残念ながら、剣聖では第5階帝魔法は受け止めきれない。
なぜなら剣聖が使っている防御の強さは第2階帝魔法までしか止められないからである。
「じゃあ、魔法なしでお願いできるかな?リアちゃん。」
「わかりました。魔法は使わないで木刀だけ使います。」
そういってリアは魔法を封じ、木刀のみで戦うことにした。
「それじゃあ、よーい、はじめなのよ!」
まず、リアは相手の動きを探る。しかし剣聖はなかなか動かない。
剣聖はリアの出方を見ようとした。しかしそれはかなわなかった。
リアが動いてから、姿が見えないのである。
先ほどまで立っていた場所から姿が消えている。
何かの術かと思い、すぐ周りを警戒するが、判断は遅かった。
既に背中に木刀を向けられ、ギリギリのところで停止していたからである。
――剣聖は、リアに惨敗したのである。
「君は強すぎる…剣聖でも異常と呼ばれるのに、それ以上だなんて…!」
そう言って、剣聖は落ち込む。
剣聖でも何でもない一般の冒険者に惨敗したのである。
自分が本当に剣聖なのだろうか?本当に実力があるのだろうか?
そう、思ってしまうほどのことであった。
「リアが強いのは私達もわかってるのよ。リアは私達から見ても異常存在なのよ。もしリアに世界で一番強い剣を持たせたら、崩壊する可能性もあるのよ。」
「そう?別に変わらないと思うけど…」
結局、最初の試験…?ではリアが強すぎるために、リアは訓練が免除になった。
正確に言えば、免除するしかなかった―そう言えるだろう。
こうして、次の日も三人は剣聖の訓練を受け、そして6日が経った。
「明日、戦争が起こる。各自、自分の命を最優先で行動するように。」
「俺らは強くなったはずだ。一週間の努力、見せつけてやろう!」
「私も、回復術、強くなった、と思う。」
いざ、全力を尽くして、戦争に挑まなければならない。
「絶対に勝つぞ!」
「「おー!」」
一体どれだけ恐ろしいものが待っているのだろうか。
この時まだ、この戦争が異常であることを、知らなかった。
第19話 戦争の始まり
あと残り0日――