第14話 四人の新入生
「はーい、みんな!席について!」
友達と話をしていた生徒達は席につき、前を向いた。
「今日は、新入生が四人います!入ってきて!」
先生がそう言ったのと同時に扉を開いたのは、レッドだった。
「さぁ、四人とも。みんなに自己紹介してあげて。」
「僕はレッド・バーン!よろしくな!」
「私はリア・カップ。みんな、よろしくね!」
「私はクラ・レミス。…よろしくなのよ。」
「私、ジェル・ミアール。仲良く、してね。」
四人は順番にそれぞれ自己紹介をする。
「はい、よくできました。それじゃあリアさんの席は…」
リアの席はシイアの隣、レッドの席はシイアの二つ前。
クラの席はシイアの二つ後ろ。そしてジェルの
この席の配置を見て、リアは何かがおかしいと思った。
不自然にシイアを囲むような配置。そして、その席が四人が来るまで、空いていた。
これは前からリア達が潜入して護衛をするということを考えていたのだろうか。
きっちりと四人。しかも子供の姿になれるという四人が潜入することを。
「よろしくね。シイア!」
「…よろしく。」
ようやく喋ったと思えばたった一言だけだった。だが、これは一歩かもしれない。
彼女がしっかりと人と喋れるようになるための一歩なのかもしれない。
シイアはおそらく人間不信で間違いないだろう。
これだけ誘拐されそうになっていて人を疑わないなんてことはないだろう。
しかし、リアはだからこそシイアの心の扉を開きたいと考える。
リアはシイアを人間不信という暗闇から明るい世界へと進めるよう梯子をかけてあげたい。
自分も同じような経験をしたような気がするなら、寄り添ってあげるべきだと。
それからリアとシイアは毎日のように登下校を一緒にした。
シイアが狙われるなら登下校時だろう。だから一緒に帰宅する。
王から護衛中は王城に滞在しても良いという風に言われている。
「じゃあ、ここの問題はなぁに?リアさん。」
「そこは28です。」
「正解!」
通常の小学生生活を送り、登下校をシイアと共にしていた。
そんな日々が一週間程、続いただろうか。
一週間経ち、ある日沈黙の登下校中、シイアはリアに質問した。
「ねぇ。あなたは私を誘拐しに来たんじゃないの?」
「逆よ。逆。私は誘拐を阻止するために来てるの。だからそんな変なことしないわ。」
「信じられない。今なんて誘拐するには絶好のチャンスな筈なのに。」
「私はあなたと同じような思いをしたことがあるような気がするの。…その心が閉ざされているような感覚。」
それを聞いてシイアは少し目を大きくして、リアの話に耳を傾ける。
「私はね。小さい頃、一度心を閉ざしたの。その時のことは覚えてないけど。でもね。心が閉ざされたときの感覚は残ってる。記憶がなくても、ずっと残り続けてるの。」
そう言ってリアは西に沈もうとする太陽を見つめて言う。
「だからこそ、私は同じ思いをした人に寄り添ってあげたい。同じ悲しい思いをした人に寄り添ってあげたい。だから、私はシイアに寄り添ってあげようって思ったの。」
そう言ってリアはシイアと目を合わせる。
「私、あなたに寄り添ってあげたい。そう簡単に心の扉が開くわけじゃないかもしれないけど、少しづつシイアに信用されるようになりたいなって思う。」
シイアも人を信じたい。けれどなぜか信じることができなくなっていた。
昔から仲良くしていた父にも冷たい態度をとり、やがて話さなくなった。
父に限った話じゃない。父と話さなくなった頃には誰とも話していなかった。
みんなの心の中にある気持ちがわからない。嘘をついているようにしか思えない。
みんな、私を誘拐するためにいるのではないか、と思うことが多々ある。
みんな敵、敵、敵。信じられるのは自分しかいないんだ。
みんな私を誘拐しようとする。みんな私を殺そうとする。
私は悪いことなんてしてない。何も悪いことしてない!
なのになんで私に怖い思いをさせるの?なんで寄ってたかって私をいじめるの?
「私、周りのみんなが敵だと思ってた。」
私の周りには敵しか存在しない。味方なんて誰一人いない。
みんな私をどん底に落とすんだ。みんな、みんな。
――みんな、敵だ。
いつからかシイアは精神的に不安定になり、人間を信じられなくなった。
それからというもの誰とも喋らなくなった。
どんなことを言われても心に響かなかった。誰の言葉も。
しかし、リアの言葉は違った。
嘘が一切感じられない。嘘の気配が、嘘をついた時の魔力の漏れが、感じられない。
リアからは『事実を言う時の魔力の漏れ』しか感じない。
「私はリアを信じたい。そう思う。」
リアを信じたい。
「だけど、私の体が言うことを聞いてくれない。」
心は信じたいと思っても体が思うように進まない。どこかでリアを拒否している。
「私はいつでも待ってる。急いで私を信じようとしなくても良いよ。」
「…わかった。もう少しだけ時間がかかる…」
「大丈夫。信用を失うのは簡単だけど取り戻すのは難しいから。」
信用を得るほうが格段に難しい。そうリアは母に教わった。
「私はシイアが心を開いてくれるまで待つよ。一年後でも、百年後でも。」
リアはそう言ってまた、歩き出した。シイアもリアに続いて歩く。
シイアの信用を勝ち取ることができるのはまだまだ先の話かもしれない。
けれどリアは無理に信用しろと言うつもりはない。
「私は信じてもらうために私なりの努力をするわ。」
――シイアの心の闇に、少し、一本の希望が見えていた。
リアなら私を守ってくれるかもしれないと期待するシイアであった。
次回 第15話 リアと過去




