第13話 無言の姫
浮遊都市フラスカイの入口から少々歩き、魔車を使って移動する。
魔車とは魔力で動く列車のことである。
「これで魔車って乗れますか?」
「ええ。可能ですよ。こちらへどうぞ。」
そう言われて連れていかれたのは、普通の車両とは一味違った車両だった。
「ここは?」
「ここはそのパスポートをお持ちの方のみ入ることができる専用車両なんです。」
このパスポート、もしかして普通に売っているのではないかと疑問に思ってしまう。
四人は特別車両に入り、王都メープルに向かう。
下から見ると、浮遊都市は小さく見えたが、いざ降り立ってみると、広大な土地であった。
そのため、すべての街を徒歩で移動することは難しいという。
「魔車なんて乗ったの久しぶりだな!」
「レッドは乗ったことあるの?」
「一回だけな。」
そういうと、そういえばそうだったなと、クラがうなずく。
「そうそう。あの時、魔車の中で他人の使い魔に嚙みつかれたのよ。」
「それで、ビビッて、ちょびってた。」
それを聞いてリアはクスクスと笑う。
レッドは顔を赤くして、「そういう恥ずかしいことを暴露するな!」と怒鳴った。
その時、列車の外の景色が少し変わったように見えた。
もうすぐ、王都へ着くころだろうか。
『次はメープル駅。メープル駅。お出口は左側です。』
外の景色を見ると、乗車した駅の周りの景色と比べて、随分と発展している。
「あ!メープル駅着いたよ!」
「よし!それじゃ、国王のところに行きますか!」
こうして四人はお城へと向かった。
◇ ◇ ◇
「国王陛下。四人組の冒険者が訪ねてきているのですが。いかがいたしましょう?」
「通せ。その四人組は私が呼んだのだ。丁重に扱うように。」
「はっ。」
そして、四人組は王のもとへとやってきて、ソファに座った。
「兵の者は外に出るように。」
「はっ。」
そう言って兵を外へ追いやる。なんだか気まずい雰囲気だ。
「シイア。入れ。」
そういうと、何も言わずにシイアと呼ばれる少女―お姫様が部屋に入ってきた。
「四人の冒険者よ。よく来た!私はこの国の王。ミラフス・メープルだ。」
「私は、リア・カップ。よろしくお願いします。」
「俺…いや僕はレッド・バーン。よろしくお願いします。」
レッドの対応が意外とちゃんとしていることにリアは少し驚いた。
「私はクラ・レミス。よろしくなのよ。」
「私は、ジェル・ミアール、よろしく、お願いします。」
こうして自己紹介が終わると、国王の顔がニコニコの笑顔に変わった。
「よし!堅苦しいのはもう終わりだ!ハッハッハ!」
一瞬、場が凍り付いたように感じられた。
「…そ、そうですか。それでどんなご用件で?」
「堅苦しいのは好きではない!敬語などいらんぞ!」
またしても場が凍り付く。本当にこの人、国王なのだろうか?
「それじゃ、友達ぐらいの勢いで行くぜ?」
「うんうん。それぐらいが丁度ええ!」
「なんでこの浮遊都市フラスカイに招待してくれたんだ?」
すると、満面の笑みを浮かべた顔がだんだんしぼみ、少し真剣な顔に戻った。
こっちのほうが国王としての威厳がある。
「それはな、私の娘、シイア・メープルの護衛を頼みたいのだ。」
「この子の、護衛をですか?」
ミラフスはああ、と言って話を進める。
「実は最近、娘を狙っている奴がいるんだ。それも組織でな。身代金要求のために狙っているのだと思うのだが…どう思う?」
「国王の子供を狙うのなら国王の跡継ぎをなくすためか、身代金要求か、あるいは単なる殺人鬼かのどれかでしょう。」
やはり、そうか、と肩を落として、下を向く。
「それで、兵をずっと置いておくにもこの子が可哀そうだ。そして兵の中に狙っている奴がいる場合もいる。だからこそ、今、冒険者の中でも活躍している四人を呼んだんだ。」
「ちなみにこの子は学校に行っているの?」
「ああ。娘は今、小学校に通ってる。小学6年生だ。」
しかしまぁ、少しぐらいは何か喋るかと思ったが、何も喋らない大人しい子だ。
「ちょっと一つだけいい?」
そうミラフスにクラが聞くと、「ああ、ええよ。」と答えた。
「狙われているということは、小学校にこの子が言ってる間も護衛をしなきゃならんのよ。教師が狙ってる可能性も十分にあり得るのよ。」
「うむ…確かに。そう考えると護衛の方法を考えねばならんな。」
そういうと、リアが手を挙げて、「ちょっといい?」と聞いた。
「私はいろいろとスキルを持っているけどその中で変身というスキルがあるのは知ってる?」
そうリアが聞くと、ミラフスは頷きながら答えた。
「もちろん知っとる。スキルの中でも難しいとされるスキルだがな。」
「それ、私、普通に使えるし、応用でほかの人にもつけられるけど…どう?」
そうリアが提案するも、国王も、三人も理解していないような顔で言う。
「つまり、俺らが子供になるってこと?」
そうレッドが聞くので、「うん。」と答えて見せた。
「プープップ!リアはおバカさんだなぁ!」
「リア、残念だけどスキルは自分にしか効かないのよ。」
そう、リアはバカにされたので、「むうぅ!」と口を膨らませて、レッドの肩を掴んだ。
「はへ?」
「強化変身!」
そうリアは唱え、レッドに変身のスキル効果を与える。
その瞬間、みるみるレッドの体が縮んでいき、最終的に子供の体になった。
「はあぁぁぁぁ?俺が……小さくなってるー!」
「ほら、出来たでしょ?」
そう言って自慢げにクラのほうを見る。それを見たクラは動揺していた。
「こ、これは前代未聞なのよ!こんなことできるわけないのよ!」
「別に幻覚の魔法が使われているわけじゃないし、しっかり現実だな。」
そう。特に幻覚を使ってだましているわけではなく、歩く歩幅もスピードも、力も子供に変わっていた。
「どう?いつも使ってる剣が重いでしょ?」
リアが自慢げにレッドに尋ねる。
「重くなったら意味ねぇじゃねえか!戦えない!」
「それだったら、魔法でなんとかなるから、確かに名案だな!」
そう言って、ミラフスとリアはハイタッチをする。
その状況をずっと静かに見守っているシイア。
「それじゃ、明日からシイアさんの護衛、頑張りますね!」
「おう。よろしく頼んだよ。リア、レッド、クラ、ジェル。」
「なんでか知らないけどあんたに名前を呼ばれるとむず痒くなるのよ。」
「まぁまぁ…」
こうして四人は王城で眠りについたのであった。
『無言の姫』、本当に何も喋らなかったな―――。
信頼がないだけなのかもしれない。もしかしたらミラフスとはしっかり話しているのかもしれない。
でも、そんな感じがしなかったのは、私だけだろうか。
何かが切れていた。心の奥にある扉が閉まっているように見えた。
シイアの魔力は一般の人より少し上で上級魔法は使えるだろう。
人が生きている中で必ず漏れる魔力がシイアからは漏れていなかった。
本当に生きているのだろうか――そう思ってしまう。
まだ、無言の姫の心の扉を開くのは、時間がかかるのかもしれない。
そう。私もいつだったか、心の扉が閉じた時があったような気がする。
記憶があやふやだけど、何かに閉じ込められていたような、そんな気が―――する。
次回 第14話 四人の新入生




