第10話 聖なる力
「天災魔獣だろうと、私たちの敵は、討つわ!」
剣を両手で構えて、涼しい顔で、そう言って見せた。
「ついにリアが剣を持ったのよ。」
「ギルドマスターからもらった物だけどね。」
そう言っていると、蛇はだんだんこちらへ突進してくる。
リアは高く飛び空中で体を捻って剣を一気に振る。
レッドが斬った時よりも、早く、正確に。だが、少し傷の深さが深くなっただけ。
毒沈之蛇にとっては痛くもかゆくもないだろう。
―だが実際、そう見えただけであった。
蛇は悲鳴を上げて地面に潜り込み、洞窟が揺れ始める。
「どういうことだ?俺たちが戦っても潜らなかったのに…!」
「…骨が一番硬くて切れないけど、身のほうなら切ったから―」
そう言いかけると、地面から蛇が顔を出してリアを噛もうとする。
しかしリアはすぐに反応して地面―いや、蛇の頭を蹴り、口の中を切り裂いた。
痛みが激しいのか、全身が地面に出てきて、倒れこみ、じたばたと動く。
リアはすぐに動きながら、体の下半身をみじん切りにする。
「――やっぱり!この剣、痛覚増強の効果があるみたい!」
「何それ!俺もつけてほしいけど、とりあえず頑張れ!」
レッドがリアを応援し、何度も何度も斬りかかる。
しかし、なかなか切れない。蛇も悲鳴をあげているが、すぐに再生する。
「ちょっとだけ、本気を出すから、下がっていて!」
そうリアが言うと、わかった、と言って戦場から離れた。
『私』が殺されれば、ここにいる三人も、殺される。
それなのに三人は逃げない。逃げようとしない。
いつでも逃げられる状況なのに。いつでも見捨てられる状況なのに。
でも――三人は逃げなかった。『私』が戦って、いつでも放って行けるのに。
だから、私はこの三人がいい人たちだって思う。いい人達に出会えたなって思う。
「時間遅延」
リアが時間を遅くし、この蛇の全体を切り刻む。骨が見えるまで。
この生物の動力源は、骨の中にある。
いい人達と思うから、いい出会いだと思うから―
「助けてあげたいと思う!」
魔力を剣に込め、剣が光輝きだす。
「聖なる力を込め、剣に宿す。」
下がって見ていた三人はその光に目を奪われる。
最近冒険者になった筈なのに、戦いに慣れている。
あり得る筈が、ない。
剣を持ち、リアは構える。蛇は攻撃態勢に入る。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そしてリアは剣を一直線に振る―
その瞬間、目の前は白い光に包まれ、大爆発を起こした。
天災魔獣はボロボロと体が崩れはじめ、死んだ。
攻撃は防がれ、容赦なく切り刻まれ、天災魔獣は死んだ。
こんなことあり得る筈がないと三人は思った。
聖なる力を使い、戦う人なんて
―――『聖女』しかいない。
聖なる力は聖なる人を救い、穢れたものを浄化する。
その聖なる力を操る人、操れる人こそ、聖なる少女―聖女である。
その少女が目の前にいる。いや、そんなはずはない。
なぜなら―
「聖女は40年前に死んでいるから」
聖女が子供を残し、それがリアだというなら40歳以上の筈だ。
しかしリアは19歳だ。若すぎる。そう考えればリアは『聖女』ではない。
リアは聖なる力を剣に与え、振ったことで、剣がボロボロになってしまった。
「無理させちゃって、ごめんね――」
リアは剣をこんなひどい姿にしてしまったことを謝る。
剣も文句は言わない筈だが、リアは謝る。リアにとって『剣』は大切なものだから。
◇ ◇ ◇
「…これで、終わったのかな…」
リアが呟いても、三人は反応しない。
正直、三人は見たこともない威力に、驚いていた。
剣を使っている人の中で、あんな威力の高い攻撃を放つのは、『剣聖』ぐらいだ。
すると、レッドがはっ、と現実に戻ってきた。
「あ、ああ。助けてくれてありがとう。」
「いいよ。全然。―ただ、やっぱりこの力を使うには早いのかもしれない。」
そういうと、クラとジェルも現実に戻ってきた。
「さっきの、力のこと…?」
ジェルが、リアに聞き返す。
「そう。私がお母さんから教えてもらったこの力。」
◇ ◇ ◇
その夜、ベテルギウス一行やクルセウス一行は城内に泊めさせてもらうことになった。
「いやぁ、我が国のために戦ってくれたこと、感謝する。」
「いえいえ。魔獣使いの人たちは私がもっと早く出るべきでした。」
「いやいや。住民の中に死人が出なかった。それは、この王都の住民を全員守ったといっても良い。それは誇るべきところだ。」
そう、王がおっしゃるのであれば、誇るべきところだろう。
「そうだぞ!リア!俺らより格段に強いから、これからも頼むぞ!」
レッドがリアに期待する。リアはできる範囲で期待に応えたいと思った。
―――「この剣を使うのは、慣れてからにしよう。」
腰の剣を手に持ち、そう言った。
リアは戦っていた時、何かの加護を感じた。ある筈のない加護を。
聖なる力を使うのは初めてだし、そもそもあることも知らなかった。
ただ、その加護が私の本当の力を引き出した。
「一体、私にこの力があることを伝えてくれた人は、誰?」
◇ ◇ ◇
次の日から王都の復興が始まり、街がざわついていた。
「私も復興のお手伝いをします。何かできることはありますか?」
「本当かい?助かるよ。それじゃこの建物をもう一度戻したいんだが…俺の『建築士』スキルで戻せる大きさじゃねえんだ。なんか方法はねぇか?」
そう言っておじさんがリアに聞く。
「それならスキルを一度貸していただけませんか?」
「スキルを貸す?一体どうやって?」
そういうと、リアはおじさんの手を握り「ムーブ」と唱え、「コピー」と唱えてから、もう一度「ムーブ」と唱えた。
「これで私も『建築士』のスキルが使えるようになったはずです。」
「そんなことできるのか?!」
リアは設計図を見て、イメージする。
「建築!」
そうリアが唱えると、壊れた家がみるみるできていく。
「そうそう!これだよ!すげぇな嬢ちゃん!」
こうしてリアはたくさんの建物を建築し、街の復興は1日で終わったのだった。
◇ ◇ ◇
リアは復興の手伝いのお礼として、ベテルギウスシェアハウスを作ってもらい―結局リアが作った―そこに四人は住んでいた。
ある日、そのシェアハウスに一通の手紙が届く。
『私はフラスカイの王、ミラフス・メーテルと申します。実はあなたたちにお願いがあってこの手紙を送りました。緊急のことですのでなるべく早めに来ていただけると助かります。』
フラスカイ―浮遊都市フラスカイ―は、空中に浮かぶ幻想的な都市であった。
そしてそこの王からの『緊急願い』という招待状を受け取ったのであった。
――第2章に続く――
次回 第11話 浮遊都市からの手紙