黒猫ミーアとふしぎの森
森の近くの小さな家に、黒猫の兄弟が住んでいました。
兄の名前はミーア、弟の名前はマルといいます。
兄弟はいつも一緒。
遊ぶのも、寝るのも、食べるのも一緒で、お出かけも一緒。
とっても仲良しです。
家の近くの森は木々がうっそうと生い茂っていて、
足を踏み入れてもいつのまにか元の場所に戻ってきてしまうため
まわりの住人達からは「ふしぎの森」と呼ばれていました。
「ふしぎの森」には伝説があります。
空に虹が橋をかけたとき、
橋のふもとには願いを叶えてくれる魔法の花が咲くというーー。
その日は長く降っていた雨があがり、まぶしい青空に虹がかかりました。
マルは「今ならまほうの花を見つけられるかもしれない!」と、ふしぎの森へ走って行ってしまいました。
ミーアは急いで後を追いましたが、すばしっこい弟を見失ってしまいます。
もう森の中に入ってしまったのかもしれません。
ミーアとマルはいつも一緒だったのに⋯⋯ミーアは心配と不安でいっぱいです。
マルが迷子になっていたらどうしよう。
このまま帰ってこなかったらどうしよう。
一人で泣いていたらどうしよう。
ミーアは一人で森へ入るのは不安ですが、覚悟を決めてマルを探しに行くことにしました。
森へ行くと、まぁるい入口が3つありました。
入口はそれぞれ、赤い花、黄色い花、青い花でふちどられています。
マルがどの入口から入ったのか分からないと追いかけることができません。
困っていると不思議な声が聞こえました。
『目的のものがある色の入口を選んでお入りください』
目的のものと言われてもどうしましょう。
だって目的はマルを見つけることなのですから。
ミーアは少し悩みましたが、マルの首に付いているリボンが赤色なのを思い出して、赤い花の入口に飛び込みました。
赤い花で囲まれた入口をくぐると、そこは木漏れ日がキラキラと降り注ぐ森の中。
森の中は所どころ光が照らしていて神秘的な景色が広がっています。
草木は青々と生い茂り、花も咲いていて優しい風に揺れています。
ミーアは、けもの道を歩きながら叫びました。
「おーい! マルー!」
ガサガサ。ゴソゴソ。
誰かがいる気配がします。
ミーアはマルかもしれないと思いまわりを探し始めました。
右の茂みにもいない、左の茂みにもいない。
後ろの茂を覗き込むと、そこにいたのはオレンジ色のうさぎさん。
残念、マルではありませんでした。
「こんにちわ、うさぎさん。弟を探しているんだけど黒猫を見なかった?」
うさぎさんは首を横にふって応えました。
「ずっと隠れていて気づかなかったわ。弟くんはこっちに来たの?」
「どっちに行ったのかは知らないんだ」
「それなら、小鳥さんに聞いてみたらどうかしら?」
たしかに! 空からなら遠くまで見えるかもしれない。
ミーアはうさぎさんにお礼を言って、小鳥を探しながら歩きました。
チチチチチ。
けもの道を進んでいくと小鳥の声が聞こえました。
「小鳥さん、お願いがあります。弟を探しているので助けてください」
木の枝に止まっていた小鳥さんは葉の陰から覗き込んで様子を伺っています。
「ぼくと同じ黒猫がいたら教えてほしいんだ」
「黄色の木の実をくれるなら空から見てきてあげてもいいよ」
周りを見回すといろんな色の実がなっている木がありました。
赤い実、白い実、黄色い実。
ミーアは木の周りをぐるりとまわり、
なるべく大きくて美味しそうな黄色い実を選ぶと、
ひょひょいと木に登って実を傷つけないように丁寧にとりました。
「はい、どうぞ」
「美味しそうな木の実をありがとう。飛んで見てくるから待っていて」
小鳥さんは差し出された木の実を満足そうに受け取ると、木々の間を飛んで行きました。
しばらくすると、小鳥さんが戻ってきて言いました。
「この先に小さな池があるよ。そこに住んでいるカエルくんが黒猫を見たそうだ」
「ありがとう小鳥さん!」
ミーアが急いで池に向かうと、そこには緑色のカエルがいました。
「カエルくん、黒猫を見たって本当かい?」
「ああ見たよ。ちょうちょを追いかけていたよ」
「どっちに行ったか分かるかい?」
「どっちだったかなあ? クルクルまわる葉っぱに乗って遊んでいたからわからないや」
ミーアはしょんぼり。
「左に行けば花畑があるから、もしかしたらチョウチョがいるかもしれないよ」
「ありがとう、カエルくん!」
お礼に大きな葉っぱを池に浮かべてあげると、カエルくんは喜んで飛び乗りました。
左の道を進むと、カエルくんが言っていたように花畑がありました。
たくさんの大きな花が風に揺れています。
「おーい! マルー!」
呼んでも返事はありません。
代わりにひらひらと飛び回っている水色のちょうちょ達の姿が見えました。
「弟を探しているんだけど黒猫を見なかった?」
「あの子はあなたの弟なの?」
「追いかけられて うっとうしかったわ」
「お花もふんじゃうし、私、怒っていたのよ」
ちょうちょ達が口々に言います。
「弟が迷惑をかけてごめんなさい」
「あなたは素直なのね」
「あやまってくれたからもういいわ。早く弟くんを迎えに行ってあげて」
「バラの迷路があるほうに行ったから危ないわよ」
危ないと言われたミーアは大慌てで迷路に向かいました。
迷路の入口は、アーチ型のバラのトンネルでした。
アーチの前にはとぐろを巻いた青いヘビが一匹。
どうやら迷路の番人のようです。
「ヘビさん、こんにちわ」
「やあやあ! 本日2人目のお客さんだね」
「弟を探しているんだけど黒猫を見なかった?」
「黒猫ならさっき見たよ。迷路を通りたかったらなぞなぞに答えてごらん」
ヘビさんはツルバラをくわえて、アーチのトンネルを通せんぼした。
バラのアーチにツルバラとヘビさんの2本の橋がかかっています。
「クネクネの僕と、ジグザグのツルバラ。どちらが長いかな?」
ミーアは見比べながら悩みました。
ジグザグのツルよりもクネクネのヘビさんのほうが長く見えます。
でもヘビさんは「なぞなぞ」と言っていました。
「黒猫くん、よく考えてね。答えを間違えると迷路から出てこれなくなるよ」
不敵に笑うヘビさんを見てミーアは答えを決めました。
「長いのはツルバラだ。だってアーチをグルッと囲んでいるんだもの!」
「大せいか〜い!! おめでとう。キミは真ん中のバラの道へどうぞ」
ヘビさんがにょろりと移動して、バラのトンネルが通れるようになりました。
トンネルをくぐると、右、左、真ん中の3つの通路があったので、ミーアは言われたとおりに真ん中の道へ進みました。
迷路の中には赤、黄、白、ピンク、いろんな色のバラが咲いています。
あっちに行ったり、こっちに行ったりしながら迷路の出口にたどり着くと、待っていたのは紫色のクモ。
「クモさんこんにちわ。弟を探しているんだけど黒猫を見なかった?」
「ぼくは見てないよ。なぞなぞの答えを間違えたんじゃないか?」
「そんなあ⋯⋯」
ヘビさんは『答えを間違えると迷路から出てこれなくなる』と言っていました。
このままではマルにもう会えなくなってしまうかもしれません。
「さて、無事にゴールできたきみは、魔法の花に願いを叶えてもらえます」
泣きそうになっていたミーアは、ハッとして顔を上げました。
「どんな願いをするか決まったら、この先にある魔法の花にお願いしてね」
そんなの考えるまでもありません。
ミーアの願いはこの森に入ったときから決まっているのです。
魔法の花に願いをするため、ミーアは走って出口を抜けて花が咲くところへ向かいました。
魔法の花は、虹色に輝く花でした。
きれいな花に見とれながらも、ミーアは願いを叫びました。
「ぼく⋯⋯ぼく、マルと一緒におうちに帰りたい⋯⋯!!」
すると魔法の花から目を開けられないほどの光が放たれ、虹色の道が現れました。
虹色の道は線を描いて森の外に続いています。
ミーアが虹の道に乗って歩きはじめると、すぐ近くでマルが泣いているのが見えました。
「おーい! マルー!」
「おにいちゃんー!」
ミーアとマルは抱き合って喜びます。
虹の道を一緒に歩いていると、助けてくれたみんなの姿が見えました。
ちょうちょもカエルくんも楽しそうに遊んでいます。
小鳥さんが飛んできて「会えてよかったね」と言ってくれました。
うさぎさんが手を振っているのも見えます。
二匹は仲良く虹の道を歩いておうちへ帰ることができました。
「ただいま、おにいちゃん」
「おかえり、マル」
空に虹が橋をかけたとき、
橋のふもとには願いを叶えてくれる魔法の花が咲くというーー。
黒猫の兄弟は今日も仲良く昼寝しながら、ふしぎの森の夢を見るのです。
ふたたび虹がかかったら、次はどんな願いをするのかな?
読んでくださり有難うございます!
そして、あけましておめでとうございます。
企画への参加は初めてで少しドキドキなのですが、書いていてとてもハッピーな気持ちになれました。
読んでくださった皆様にも幸せが訪れますように。