Act.5 Darker, Darker yet Hopeful
龍種は、私たち人間種から見れば遥かに長生きで、知恵をたくさん積み重ねられて、自由気ままに暴武を奮う存在である。
故に畏怖され、崇拝され、憧れを抱かれる。
自由に空を飛び、大地を揺らす、生き物としての超えられない壁を感じさせる。それが龍種である。
最初は私も、異種族の壁をアルドラサクスに感じていた。
しかし龍にも感情があり、責任があり、誇りがある。私たちと尺度が違うだけで、共通するものはあるのだ。
アルドラサクスはよく『龍には各々役目がある』という。役目を果たせなかったり見失ってしまった龍は、同種が葬りにくるという。そういった龍には『龍裁』が下される。
逆に、己が見つけた役目を果たし切った龍は永劫の誉れを得るとされ、死して尚語り継がれる。そういった龍には、『龍葬』として最上位の龍が死を見届ける。
私はこれを、すごく……美しいと思うのだ。
強くて、かっこよくて、尊敬し合う龍の関係が私は好きだ。
「アルドラサクス……」
私は、神刀を振り下ろしたままの姿勢で止まったアルドラサクスに声をかける。
もしかしたら、アルドラサクスは廻夜龍ヴァルキドの死を見届けられなかったのかもしれない。アルドラサクスは仲間思いだから、それをずっと悔いていたと思う。だからこそ、ヴァルキドへ再会の喜びと追悼の意を示したのだと思う。
「『龍葬』は終わった。また1つ、宙には星が増えることだろう」
アルドラは天を見上げ、神刀は闇に紛れて消えた。なんだか泣き出してしまいそうな彼の姿を見て、私は言葉が出なかった。
「黒剣『夜廻』の回収は済んだ。あとは、ヴァルキドが愛した人間の英雄に夜廻を託す」
「えぇ、そうね。あなたの巫女である私が責任を持って人選するから。少し、休みましょう」
「あぁ……。先に桜百肢のとこへ行ってやれ、お前をひどく心配していたぞ」
「うん。わかった」
私はゆっくりとその場をあとにした。
今はアルドラが独りでいられる時間が必要だろう。
もしまた会えたなら、きっとまたアルドラはヴァルキドを自分の配下に置くのだろう。彼は優しいし強制するのを嫌うから、ヴァルキドも慕うはずだ。
私は湖畔の水辺にある砂利道を進んで、少し考える。
アルドラが放った制裁の黒雷は少なくともメシア宗教国に降った。どこの国でもアルドラサクス討伐の依頼が出されるだろうが、それを受ける命知らずは冒険者にはいない。
アルドラサクス未だ健在という事実はたくさんの新聞社を通して報道され、各国の王が震えることになる。アルドラサクスが制裁を加えるような悪事を働く者はより震える。
アルドラサクスの龍巫女である私が狙われるのも増えるだろう。
「お嬢様!」
桜百肢がものすごい勢いで私に抱きつく。
龍の儀礼をよく知る桜百肢は、龍巫女としての私の役割の重さと危険性を理解していた。
「心配させてごめんね、桜百肢」
「いいえお嬢様、謝らないでください。あなたは成すべきことを成したのです」
私は桜百肢の背中をポンポンと叩きながら、少し考える。
私を狙う人間が増える。
私が龍巫女であると知るものはほんの一握りで、同時に私を暗殺可能な者たちである。当然そんな上澄みたちが暗殺の依頼を受けるわけがない。
逆に、龍に詳しくない人間や名誉欲の強い愚か者が挑んでくるのは考えるまでもない。
私は武器商人。
私を殺せないのに殺そうとする人間がいて、当然万全を期したがる。
「──だから、そんな無力な者たちに武器を与える」
武器を持った暗殺者や冒険者がその武器の素晴らしさを語り、シャトー・アルドラはさらに大きくなる。
「また稼ぎどきですか? お嬢様」
「あら、声に出ていた?」
「いえ、笑っていらしたので。切り替えがお早いことですお嬢様、どこまでも着いて行きますよ」
儲けどきがきてついつい表情が緩んでしまったらしい。功名心を煽れば私を暗殺するためでなく、もっと他のことに注力するやつも出てくるだろう。武器を持ったものたちの可能性は無限大だ。
「よーっし! まだまだ仕事を頑張るわよ!」
アルドラの願いがヴァルキドへ届くように。
仲間たちとこの先も稼げるように。
私は夜に浮かぶ星を掴むために手を伸ばしつづけるのだ。
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