Act.1 Chateau・Aldor
世の中にはご機嫌な金儲けの手段がある。とりあえずそこに投資しておけば食いっぱぐれない、みたいなファンドだ。人々はこれをヴァイスファンド(悪徳的な金脈)と呼ぶ。
ヴァイスファンドを簡単に言えば、主にタバコや酒、銃などの武力、カジノ・賭博場などを主とする投資先だ。
もっと簡単にこれの活用方法を言えば、いま挙げた分野に金を払っていれば良い。
魔法やら科学やらが一般的なこの世界では、特に戦闘手段はあらゆる評価基準において重視される。
だから個人的には、教育もヴァイスファンドだと思う。もちろん、戦闘分野の教育の話だが。
とにかく、私たちの会社『シャトー・アルドラ』はこれらヴァイスファンドに大きく関与している。表向きはただの運送会社だが、裏向きには武器の密輸入から調達・カジノ運営・より美味い酒とタバコの生産に力を入れている。
そんなことをやってる会社に金を渡すのは戦争に手を貸すようなものだ、と思われるかもしれない。けど、需要はある。
だっていつ殺されてもおかしくないから。
銃で不意打ちされるなんて普通。
むしろノーモーションで魔法を撃たれるほうが厄介なわけだ。
それが魔法のある世界。
なら人はどうすべきか?
答えは簡単。
「自分も武器を持つ」、これに尽きる。
そうすれば私は金を稼げる。
人々は他人を傷つける道具や技術で仮初の平和を得る。
まさに理想的な関係である。
善意だけでは、人々が手を取り合うことはできない。
しかし武器があれば、手を取り合おうとする。
なんともおかしな話だが、血で染まった手でも繋がなければ平和は訪れない。
それがこの世界であり、私が武器商人をやる理由である。
平和と戦火のバランサー、素晴らしきボランティア活動だと思う。お金は当然いただくが、相手は命より安いものを渡してるだけなのだ。だから私からすれば、私は無償活動を行っているに等しい。
賭博や酒に関してはノーコメント。この会社では、私の専門じゃない。
「桜百肢ー? カジノ運営の進捗はどうだった?」
「純資産が潤沢ですね」
「重畳ね。大勝ちした客にシークレットサービスしたのが功を奏したの?」
「はい、お嬢様の手腕が成せる技といったところでしょうか」
「私じゃなくて、貴女ね。その案出したのも、実行したのも」
「ならご褒美を……! 休暇と称して私とお嬢様、女性同士水入らずの、いちゃいちゃ温泉旅行へいきましょう!」
「そうねー、考えておくわねー」
桜百肢は私を敬愛しすぎだと思う。
大した恩義は売っていない。
彼女自身がただ有能なのだ。
私は書類仕事、ともいえる魔法技術の教育理論についてをまとめていた。
人間が扱えるもののなかで、起源がはっきりしていないものは総称して魔法技術と呼ばれる。
代表的なのはもちろん魔法だが、呪法や〝祝福〟もある。深みまでいけば〝禁忌〟、〝権能〟、〝龍威〟などなど。
私は元聖女である。その名残で、聖女しか使えない〝祝福〟を扱える。これもさらに枝分かれしていってさまざまな能力に分類されていって、果てがない。
魔法技術は覚えなくてはならない固有名詞が多すぎるし、どれも抽象的なのでそれ専用の単語が欲しいといつも思う。
「結論、各異能の適性がわかる検査方法を確立させてしまえば特許として取得できちゃうかな……?」
私は試験紙に薬品を垂らせば判別できるような、あらゆる異能の適性を調べる方法を模索している。これさえあれば、より人生の方向性が明確になる。間違いなく儲かる。
羽ペンにインクをつけて、治験を試してみたい検査をいくつか書き上げようとした。
それができなかったのは、私たちの事務所がものすごい力でぶちあけられたから。
突風で羽ペンも考案書も飛んでったわ。
「百足、リリヴェル、いるか! いるな! 荷物をまとめたらすぐに発つぞ!」
この騒がしくて慌ただしいのは、シャトー・アルドラの看板であり問題児……太古龍アルドラサクスだ。
百足と呼ばれてイラついたのか、桜百肢の舌打ちが聞こえた。
「アルドラさん……。龍酒作りに何年かけるつもりです? あなたが専念しているせいでしわ寄せが私とお嬢様にきているのですが?」
「くははっ、知らん! 酒は時間と手間をかけるほど美味くなる道理だ、気長に待て」
バキッと桜百肢から何か動く音がした。
ここで喧嘩されると私が死ぬのでやめて欲しい。
「リリヴェル、準備はできたか! 久方ぶりのアーティファクト調達だぞ!」
「そんな早く用意できるわけないでしょ」
「ならば疾く用意しろ! アーティファクトの独占販売は我らの専門だろう!」
そうだけども。
アーティファクトの調達となれば必然的に準備をしなくてはならない。
なぜならアーティファクトとは『再現性が非常に低い特殊な武具・装飾』と定義されている。
再現性が低いということは極めて希少ということで、とんでもなく価値が高い。加えて魔法技術に匹敵、または凌駕する特殊性を兼ね備える。そのため、ただでさえ高い価値を跳ね上げる。
アーティファクト専門のコレクターもいる。
アーティファクトを扱う勇者や魔王もいる。
アーティファクトを国宝とする国もある。
持てばその価値ゆえに多くの種族から狙われる。すればこそ、持つものを選ぶ。
そのアーティファクトの独占販売を狙っているのが我らシャトー・アルドラである。
「それで、今回はやたら興奮してるけどまた同族のアーティファクトなのかしら? アルドラサクス」
「流石リリヴェル、相変わらず冴えているな」
アルドラサクスは、人間態のときに必ず羽織っている黒いファーコートをはためかせてこう言った。
「今回の俺の狙いは黒剣『夜廻』。夜にしか姿を見せず、夜に躍動するアーティファクトだ」
「……なるほどね、『夜』ってことは、そういうことね?」
私が聞くとアルドラサクスはニヤリと笑う。
その表情で全て理解した。
「桜百肢、温泉旅行はまた今度。その濡れ鴉の髪に似合うような着物を仕立ててあげるわね」
「〜〜〜ッ! はい! お嬢様!」
「アルドラサクス、上裸なのはなんとかならない?」
「ならんな! このコートを含めて装飾品は俺の鱗からできたものだ。それ以外は鬱陶しくて敵わん」
そのセンター分けにした煌びやかな紫色が混じる黒い長髪は鬱陶しくないのはそういう理由なのね……。
実はいつもわかってても聞いちゃうんだけど。
「さて、シャトー・アルドラの本業に移るとするわよ。『アーティファクトは、所有すべき者たちの元へ』」
「もちろん同意です」
「同じく! 同胞の誉れある死には、永劫の誉れが約束されているのだ!」
目標物は、黒剣『夜廻』。
夜とついているのならば、アルドラサクスの眷属の死体からつくられたアーティファクトであり、ドラゴンウェポン。
所有者は不明であるが、アルドラサクスが認めてない以上戦闘は止むなし。
入手難易度は……。
まぁアルドラサクスのやる気次第ね。
普通の冒険者ギルドならA〜SSまでかしら。
私はアーティファクト『獣刻印の魔鎖666』を忍ばせて、本日の業務に取り掛かることにした。
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