表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白雷の聖痕者  作者: YY
第1章
9/89

第8話 追及のち変貌

 石造りの、さして広くもない部屋。

 窓はなく、出入り口は1箇所だけ。

 調度品は最低限で、かなり簡素な雰囲気だ。

 強いて言うなら、壁に取り付けられた大きめのガラス……魔道具が目を引く。

 だが、テーブルに着いた人物は、それらに関係なく凄まじい存在感を放っていた。


「お2人とも、ご足労頂き有難うございます」

「いえ、お気になさらず」


 美しく輝いているようにすら感じる、姫様。

 その顔には可憐な微笑を浮かべているが、目は全く笑っていない。

 彼女が見つめているのは僕ではなく、返事も出来ずに直立不動で立って、冷や汗を流しているミゲル審査官。

 これからのことを思えば若干気の毒ではあるが、身から出た錆と言うやつだ。

 他人事なのでボンヤリとそう考えていると、返事がないことには何も言わず、姫様が話を進めた。


「ミゲル審査官、どうして呼ばれたかわかっていますね?」

「い、いえ、わたしには何のことか……」

「そうですか。 アリア、あれを出して」

「は、はい!」


 ミゲル審査官の返答に落胆することもなく、姫様は背後に控えていた、この場にいる最後の1人に指示を出した。

 身長はかなり低く、140セルチ台半ばほどしかない。

 薄紫色の髪を三つ編みにしており、銀色の瞳は不安そうに揺らいでいる。

 幼い顔立ちだが美少女と言って差し支えなく、胸元は身長の割に育っていた。

 着ているのはメイド服だが……やけにフリルが多く、丈が短い。

 ちなみに僕も昔、エレンに着させられたことがある。

 それはどうでも良いとして、アリアと呼ばれた少女が取り出したのは、1枚の鏡。

 何が起きるのかと見守っていた僕の目の前で、鏡から光が照射され、ガラスの魔道具に浴びせ掛けた。

 すると――


『おいミゲル、本当に大丈夫なのか?』

『心配するな、この魔道具の力は間違いない。 軍の訓練で何度も使っているからな』

『それなら、僕たちにも勝機はあるかも……? シオン=ホワイトはヤバいくらい強いけど、あくまでも『剣技士』だからね』

『そうでなくては困る。 折角、厄介なリルム=ベネットを排除してくれたんだ、このチャンスを逃す手はない』

『けどさ、あれだけ強かったら、優勝しなくてもソフィアは同行を許すんじゃない?』

『そこは任せろ。 優勝さえさせなければ、あとはわたしの権限で何とでもしてやる』

『それで、わたしたちが同行することになったら……』

『あぁ、隙を見て殺せ』

『約束の金は用意出来てんだろうな?』

『当然だ。 ソフィアを殺しさえすれば、言い値を支払おう』


 あのとき、ミゲル審査官と『獣王の爪』が密談していた様子が、はっきりと映し出された。

 なるほど、『獣王の爪』が選別審査大会に参加したのは、取引をしていたからか。

 これで1つ疑問が明らかになったが、新たな謎が出て来たな。

 何故、王国軍でも上の階級であろうミゲル審査官が、姫様の暗殺を企てたのだろう。

 まぁ、これに関しては僕が聞かなくても、姫様が説明してくれるはずだ。

 何ともなしにミゲル審査官を盗み見ると、顔面蒼白とさせて身を震わせている。

 思わず哀れになりそうなほどだが、同情はしない。

 それは姫様も同じらしく、冷徹に問い質した。


「何か弁明はありますか?」

「こ、これは、その……」

「ミゲル審査官……いえ、ミゲル、貴方は魔蝕教(イクリプス)ですね?」

「な!? ど、どうして……」

「あまり、わたしを侮らないで下さい。 それくらいのことは、以前からわかっていました。 ただ、貴方は用心深かったですから、証拠を掴むことは出来ませんでした。 しかし、今日は相当焦っていたようですね。 これほど簡単に尻尾を出すとは。 魔道具を通じてわたしに聞かれないようにはしていたようですが、こちらが能動的に監視している可能性を考えなかったのは、愚かとしか言いようがないです」

「ぐ……!」


 魔蝕教か……。

 確か、「世界は魔王に支配されるべき」と考えている集団だった気がする。

 そのルーツや規模は不明だが、世界各地に教徒が潜伏しているらしい。

 これまでは目立った活動をせずに力を蓄え、魔王復活に合わせて動き始めたと言ったところか。

 確かに『輝光』である姫様が死ねば、人類にとっては大打撃。

 そう言う意味では狙いは悪くなかったが、相手が悪かったな。

 この話の結末が見えた気がして、ほとんど興味を失っていると、姫様が駄目押しの一言を放つ。


「それで? まだ答えを聞いていませんが、何か弁明はありますか?」

「う……うぉぉぉぉぉッ!!!」

「きゃあ!」


 拳を振り上げたミゲル審査官……ではなくミゲルが、アリアの持つ鏡に叩き付けた。

 その拍子にアリアは転んでしまったが、怪我はなさそうだ。

 鏡が破壊されたことで映像が途切れ、それを見たミゲルは狂笑を浮かべて口を開く。


「くくく……これで証拠はなくなった! お前たちが何を言ったところで、わたしの人脈があれば生き残れる! 残念だったな!」


 目を血走らせて喚くミゲルに対してアリアは委縮していたが、僕と姫様は溜息をついていた。

 あの鏡が、どれだけ高価な魔道具かは知らないが、僕が姫様なら――


「あれはコピーです」

「……は?」

「ですから、あれはコピーです。 オリジナルは別の場所に保管しています」

「そ、そんな……」

「更に言うなら、今この部屋の様子も記録されています」

「な、何だと……!?」

「今までの言動を含めれば、貴方が助かる道はないと思いますが?」

「く……くそぉぉぉぉぉッ!!!」


 雄叫びを上げたミゲルが、今度は姫様に殴り掛かった。

 せめて道連れにしようと思ったらしく、その執念だけは称賛に値するが……正しいことではない。

 即座に判断した僕は左手に直剣を生成し、ミゲルの右腕を斬り飛ばす。


「ギャァァァァァッ!!!?」

「うるさい」

「ギッ……!?」


 あまりの激痛にのたうち回っていたところを、喉を踏み付けて黙らせた。

 泡を吹いて失神したミゲルを睥睨した僕は、自分の髪を1本だけ抜いて傷口をきつく縛る。

 これで、すぐに出血死することはないだろう。

 彼が死んだところで僕は痛くも痒くもないが、姫様たちはまだ用があるかもしれないからな。

 一連の出来事を黙って見ていた姫様に目を向けると、ニコリと笑って魔道具らしき宝石を取り出し、何事かを告げる。

 すると、すぐに外から2人の審査官が部屋に入って来て、ミゲルを担いで出て行った。

 審査官たちは全く取り乱していなかったので、事前に取り決めていたらしい。

 こうして部屋に残されたのは、無表情の僕と笑顔の姫様、オドオドしたアリア。

 暫くそのまま時間が過ぎ去ったが、ニコニコ顔の姫様が口火を切る。


「助けて下さって、有難うございました」

「いえ。 姫様なら、自分で対処出来たでしょうし」

「あら、気付いていたのですか?」

「神力が活性化していましたから」

「流石ですね、素晴らしい観察眼です」

「恐れ入ります」


 これ以上ないほど、楽しそうな姫様。

 今のところ当たり障りのない会話で、本心は見えて来ない。

 だが、そろそろだろう。


「ところで貴方を呼んだ理由ですが、お聞きしたいことがあります」

「何でしょうか?」


 来たか。

 僕が密かに身構えていると――


「貴方は……誰ですか?」


 姫様の鋭い声が、部屋に響き渡る。

 先ほどまでの笑顔も鳴りを潜め、嘘偽りを許さない迫力があった。

 怯えたアリアは肩を震わせたが、僕の心には小波1つ起こせない。


「質問が漠然とし過ぎています。 もう少し、具体的にお願いします」

「……選別審査大会の最中、貴方のことを徹底的に調べました。 グレイセス内は当然として、王国外の村や町にも問い合わせました。 アリア、結果はどうだったかしら?」

「は、はい! せ、正式な出生届だけではなく、各地の孤児院なども調べましたが……シオン=ホワイトと言う人物が存在した形跡は、見付かりませんでした」

「聞いての通りです。 この事実を踏まえた上で、改めて問います。 貴方は誰ですか?」


 この短い間に、そこまで調べたのか。

 ブラフの可能性もあるが、この様子だと恐らくそうではない。

 ならば、適当に誤魔化すのは下策だ。

 ここで信用を失うと、これまでの苦労が水の泡になる。

 ただし、真実を話すこともしないが。


「僕は記憶喪失の子どもでした」


 これは出任せ。


「記憶喪失……?」

「はい、本名も実の両親が誰かも知りません。 10年ほど前に山道で倒れていたところを、エレン……育ての親に助けられ、それ以降は彼女とともに生きて来ました。 シオン=ホワイトと言う名前も、エレンからもらったものです。 親と言っても、当時の彼女は20歳前の若い女性でしたが」


 これも嘘の割合が大きい。


「……その方と連絡は取れますか?」

「不可能です」

「不可能? どうしてですか?」

「3か月ほど前に、事故で死んだからです」


 本当は事故ではなく殺害。


「……! そうですか……」

「僕たちは人里から離れた場所で暮らしていたので、最低限の常識や教養などはエレンから学びました。 付け加えるなら彼女自身も似たような境遇で、誰かに育てられたそうです」

「……その誰かと言うのは、誰ですか?」

「1度聞いたことがありますが、言葉を濁されました。 それ以降は聞かないようにしていた為、わかりません」


 この辺りは、ほとんどが作り話。

 とは言え、姫様たちには確かめようがない。

 それゆえに難しい顔で考え込んでいたが、長々と黙ることはなかった。


「一応、辻褄は合っていますね。 アリア、どう思う?」

「え、えぇと……だ、断言は出来ませんけど、信用して良いように感じました」

「そうね、わたしも同意見よ。 わかりました、取り敢えず貴方の生い立ちに関しては信じます」

「有難うございます」


 なんとか切り抜けられたらしい。

 それにしても、生い立ちに関しては……か。

 と言うことは、姫様にはまだ聞きたいことがあるんだろう。

 おおよそ見当は付いているが。


「続いての質問ですが、良いですか?」

「断る権利があるんですか?」

「ありませんね」

「でしたら、聞かないで下さい」

「そんな、邪険にしないで下さい。 可愛い顔が台無しですよ?」

「そうですか」

「もう……。 とにかく、聞かせてもらいますね」

「どうぞ」


 話すのは面倒と言うのが本音とは言え、仕方ないな。

 僕に冷たくされた姫様は悲しそうにしているが、どうせ演技だろう。

 それにしては真に迫っているが。

 どちらにせよ気を取り直したようで、居住まいを正して問を投げて来た。


「聞きたいのは、貴方の聖痕者としての力についてです」


 やはり、そこは外せないか。

 だが、まだ質問の範囲が広い。

 ここは余計なことを言わず、沈黙を選択しよう。

 僕が口を閉ざしていると姫様は小さく嘆息して、言葉を付け足した。


「本来の『剣技士』ではあり得ない双剣……これは、聖痕にイレギュラーが起きたからだと言っていましたね?」

「そうですね。 あくまでも、推測の域を出ませんが」

「貴方自身も、本当のところはわからないと?」

「はい。 最初からそうだったので、何が原因かは不明です」

「なるほど……。 では、次です。 決勝戦で魔道具を破壊した手段について、説明して下さい。 あれには物理攻撃が効かないので、『剣技士』にはどうしようもなかったはずなのです」


 たぶん、これが本命だろう。

 僕が逆の立場でも、絶対に押さえておきたいポイントだ。

 アリアですら真剣な面持ちで、こちらの答えを待っている。

 一瞬とぼけようかと思ったが、ここは素直に教えた方が良さそうだな。


「魔法で破壊しました」

「魔法ですって……? 貴方は『剣技士』でしょう? まさかそれも、イレギュラーだとでも言うつもりですか?」

「そうとも言えますが、少し違います」

「どう言うことですか?」

「こう言うことです」


 そう言って僕は、両手のレザーグローブを外した。

 姫様とアリアは訝しそうにしていたが、構わず両手の甲を見せ付ける。

 そこには――


「2つの、聖痕……?」


 呆然と声を落とすアリア。

 チラリと視線を向けると、大慌てで口元を隠していた。

 しかし、彼女の反応も無理はない。

 僕の右手には『剣技士』の聖痕、左手には『攻魔士』の聖痕が刻まれている。

 1人の人間に2つの聖痕など、双剣を扱うことよりも、よほどの一大事。

 そのことは姫様も承知しているようで、今までで最も固い顔付きになっている。

 それでも彼女は現実から目を背けず、建設的な行動に出た。


「アリア、調べて頂戴」

「は、はい!」


 姫様に呼び掛けられたアリアは我を取り戻し、モノクル型の魔道具で検査を始めた。

 その様子を姫様は見守り、僕は静かに受け入れる。

 受付のときよりも念入りに調べられたが、結果はわかっていた。


「し、信じられませんが……間違いなく、両方とも本物です……」

「……そう、有難う」


 アリアに礼を述べた姫様は、おとがいに手を当てて俯いた。

 さて、どう出て来る。

 ひとまずレザーグローブを装着し直した僕は、姫様からの言葉を待った。

 すると、時計の秒針が1回転する頃になって、姫様が重々しく口を開く。


「シオンさん……と呼んで良いですか?」

「構いません」

「有難うございます。 ではシオンさん、2つの聖痕を持っていることに関しては、説明出来ますか?」

「すみません、双剣と同じくわかりません。 1つ言えるのは、最初から2つともありました」


 これは嘘ではないが、本当ではない。


「そうですか……。 わたしたちの他に、このことを知っている者はいますか?」

「いませんが、あとで話すつもりの人ならいます」

「それは誰ですか?」

「リルム=ベネットです」

「彼女ですか……。 なるべく秘密にして欲しいのですが、他に話すつもりの人はいますか?」

「いえ、僕としても無暗に教えたくありませんから。 リルムにも口止めするつもりです。 彼女なら、黙っていてくれるでしょう」

「……随分と親しそうですね」

「姫様?」

「何でもありません。 アリア、ここで見たことは他言無用よ。 こんなことが世間に知られたら、混乱を招いてしまうわ」

「か、かしこまりました!」


 姫様に釘を刺されたアリアは、壊れたオモチャのように何度も首を縦に振った。

 何と言うか、この子は見ていて飽きないな。

 僕が少々失礼なことを考えていると姫様は大きく息を吐き出して、椅子の背もたれに体を預けた。

 その顔からは色濃い疲労が見て取れるが、どこか嬉しそうでもある。


「シオンさんは、わたしが思っていたよりもずっと、とんでもない人のようですね」

「それは褒められているんでしょうか?」

「さぁ、どうでしょうね。 ……それでは、次の質問です」


 楽しそうに笑っていたかと思えば、急に表情を引き締めて背筋を伸ばす姫様。

 まだあるのか?

 僕が想定していた質問は、ほぼ出尽くした。

 だが、姫様から飛び出したのは――


「シオンさんはどうして、わたしの旅に同行しようと思ったのですか?」


 当然と言えば、当然の疑問。

 どれだけ実力があろうが、どれだけ出自が確かだろうが、志をともに出来なければ本当の仲間にはなり得ない。

 そんな当たり前の事実に今更気付いた僕は、無性に恥ずかしくなった。

 こう言うところは、人間関係の経験が少ない弊害だな……。

 内心で反省した僕は数瞬瞑目し、今度こそ真なる胸の内を明かした。


「正しいことだと思ったからです」

「正しいこと、ですか?」

「はい。 エレンが言っていたんです。 僕の力を、正しいことに使って欲しいと」

「……そうなのですか」

「ですが、僕には何をすれば良いかわかりませんでした。 そんなときに姫様の話を聞いて、魔王を倒すのは正しいことだと思ったんです。 だから、同行しようと決めました」

「……」


 僕の本心を聞いた姫様は、沈痛な面持ちで黙り込んでしまった。

 何かまずいことを言ってしまっただろうか?

 仮にそうだとしても、なかったことには出来ない。

 あとは姫様が判断することだ。

 彼女がどのような決断を下すか、僅かに緊張しながら待っていると――


「わかりました、貴方を受け入れます。 ともに行きましょう、シオンさん」


 華やかな笑みを咲かせて立ち上がり、机を回り込んで手を差し伸べて来た。

 至近距離で見た姫様はあまりに美しく、まさに『グレイセスの至宝』。

 僕は思わず息を飲んだが、すぐに返事をする。


「はい、よろしくお願いします、姫様」


 レザーグローブを外して握り返した姫様の手は小さく、繊細で、柔らかかった。

 強力な聖痕者にはとても思えないほどだが、それに反して感じる神力は凄まじい。

 改めて姫様の力を、文字通り肌で感じていた僕の一方、彼女もこちらの手の感触を確かめていたが、どうにも様子が変だ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 頬が紅潮し、目をトロンとさせ、息が荒くなっている。

 遂には両手で僕の手を包み込み、徐々に顔を近付けて来た。

 このままだとキスしてしまうが、止まる気配はない。

 そうして、とうとう僕と姫様の唇が触れ合う――


「コホン」


 寸前、アリアが咳払いした。

 それを聞いた姫様はハッと意識を取り戻し、大慌てで後ろを向いてしまう。

 その豊満な胸に手を当てて、何度も深呼吸を繰り返していた。

 訳がわからない僕は説明を求めるようにアリアを見たが、彼女は明後日の方を向いてダラダラと汗を流している。

 何か隠しているな……?

 仲間になった傍から不信感が生まれたが、秘密を抱えているのは僕も同じ。

 そう言う意味ではお互い様なので、ひとまず様子を見よう。

 すると、辛うじて復帰を遂げた姫様が、何事もなかったかのように振り返った。

 顔は赤いままだったが。


「失礼しました」

「いえ、お気になさらず」

「ところで、最後に確認しておきたいことがあります」

「何でしょうか?」


 それまでの様子もどこへやら、神妙な面持ちの姫様。

 いったい何を聞かれるのかと、僕は様々なパターンをシミュレートしていたが――


「シオンさんは、本当に男性なのですか?」


 その全てが外れた。

 想像の斜め上を行く問い掛けだったが、即答出来る。


「本当です」

「本当の本当ですか?」

「本当の本当です」

「本当の本当の本当ですか?」

「本当の本当の本当です」

「本当の本当の本当のほんと……」

「流石にしつこいですよ」

「ご、ごめんなさい。 そうですか、本当なんですね……ふふふ……」


 姫様の怪しい声が、石の部屋に響く。

 はっきり言おう、怖い。

 助けを求めるようにアリアを見ても、深く溜息をついているだけだ。

 どうやら僕は、考えていたよりも厄介なことに首を突っ込んだらしい。

 今後のことに思いを馳せて、旅立つ前から疲労感に襲われつつ、聞いておきたいことがある。


「姫様、僕からも質問をして良いですか?」

「え? あ、はい、何でも聞いて下さい。 シ、シオンさんになら、スリーサイズとかでも……」


 何やらモゴモゴ言っているが、取り敢えずスルーした。


「ミゲルが怪しいことは、以前からわかっていたんですよね? それなのに審判に任命したのは、何故ですか?」

「それは……」

「炙り出す為ですよね? つまり、この選別審査大会の裏の目的は、彼を捕らえることにあった。 違いますか?」

「……そうです」

「そして、その思惑に巻き込まれた僕は、決勝戦で苦戦を強いられたと」

「怒りましたか……?」

「いいえ。 ただ、確認したかっただけです」

「そう言ってもらえると助かります。 ですが、シオンさんに余計な負担を掛けたのは確かなので、わたしに出来ることがあれば遠慮なく言って下さい」


 恥ずかしそうにモジモジしながら、姫様がそんなことを言い出した。

 どうにも、先ほどまでと印象が変わりつつある。

 しかし、頼みたいことがあったので都合が良い。

 そう考えて要求を告げると、姫様は一転して渋い顔になったが、嫌だとは言わなかった。

 こうして選別審査大会は幕を閉じ、僕は旅に同行することになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ