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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第3章

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第30話 家族

 拠点に帰った僕たちは、広い部屋に通された。

 壁や天井に至るまで様々な書類が埋め尽くしていることから、たぶん作戦会議室のような場所だと思われる。

 部屋の真ん中には大きめのテーブルが設置されており、ヴェルフによって人数分の椅子が置かれた。

 リーダーが率先してすることには思えないが、彼は何事も自分で動くタイプなのかもしれない。

 そのせいでナルサスさんが苦労することもありそうだが。

 とにもかくにも準備が整ったと判断したのか、ニヤリと笑ったヴェルフが口を開く。


「では、作戦の内容を話そう。 質問はあとで受け付けるから、まずは最後まで聞いてくれ」


 そう前置きしたヴェルフから、作戦の詳細が明かされた。

 正直な感想としては、特に搦め手のないオーソドックスな手段。

 ただし、それゆえに必要なピースは多く、実行に移すのが困難だったのだろう。

 話を聞きながら概要を整理していると、ようやくしてヴェルフが締め括った。


「以上だ。 何か質問はあるか?」

「質問って言うか……すっごく単純ね。 でも、わかり易くて良いかも」

「そうだろう、リルム=ベネット。 細々とした作戦を立てるより、こう言う真っ向勝負の方が俺の性に合っている」

「貴方の性に合っているかどうかはともかく、シンプルな方が意思疎通が楽なのは間違いないわ。 複雑な作戦になればなるほど、綿密な打ち合わせが必要になるしね」

「わたしとしては、もう少し参謀らしい案を出したかったがな。 リーダーであるヴェルフの意思を尊重した。 それにキミたちと協力するなら、ルナの言う通りシンプルな方が良い」

「そうですね、ナルサスさん。 要となるメンバーは決まっているのですか?」

「理想を言うならここにいる全員ですが……少数に絞った方が良いと思います、ソフィア姫」

「そうですね、最初で躓いたら台無しですし……。 わたしも、少数精鋭が好ましいと思います」


 ナルサスさんの返事を聞き、同意して頷く姫様。

 ここまでは良かった。

 特に問題なく会議が進み、具体的なことを詰められている。

 ところが意外にも、アリアによって場は混沌とし始めた。


「ではソフィア様、その場合はどう分かれましょう? わ、わたしは出来れば……シオン様と一緒の方が……」

「アリアちゃん……今は真面目な話し合いの最中なのよ? 個人的な感情は抜きにしなきゃ。 ……まぁ、わたしもシオンくんと一緒が良いけど」

「修道女、あんたも抜け駆けしてんじゃないわよ! そう言うことなら、あたしは絶対シオンと一緒だから!」

「痴女レッドは黙っていなさい。 シオンはどうなの? 誰と一緒にいたいの?」

「ルナさん、さり気なくシオンさんに擦り寄らないで下さい。 勿論、わたしは一緒ですよね、シオンさん?」


 少女たちから熱い眼差しを向けられて、僕は呆れ果てた。

 いくら彼女たちの想いに――なるべく――報いると決めたとは言え、時と場所と場合を考えて欲しい。

 全力で嘆息した僕をヴェルフは面白がるように、ナルサスさんは気の毒そうに見ている。

 まるで他人事のようだが、それで済むと思うな。


「僕はあくまでも実行者の1人に過ぎません。 詳しい作戦や分配を決めるのは、彼らの役目です」

「お、おい、シオン!?」

「そう来るか……」


 いきなり水を向けられたヴェルフとナルサスさんから、焦った空気を感じる。

 だが、言ったことはあながち間違いじゃない。

 実際問題として、僕をどう扱うかは彼らに任せようと思っていた。

 そのことがわかっているのか、ヴェルフたちは文句を言えず、姫様たちの視線は彼らに移っている。

 あまりの迫力に彼らはたじたじになっていたが、意を決したかのようにナルサスさんが言葉を連ねた。


「要のメンバーだが……ヴェルフとわたし、シオン、それから……ソフィア姫とルナに任せたいと思う」

「はい、わかりました」

「うふふ、良い判断ね」

「なんでよ! 納得出来ない!」

「わたしも、説明して欲しいです……!」

「そ、そうです。 ち、ちゃんと、理由を聞かせて下さい」


 ナルサスさんの発表を姫様とルナは即座に受け入れ、リルムたちは当然の如く反対した。

 サーシャ姉さんは相変わらずだが。

 しかし、それを予見していたナルサスさんは勢いに押されつつ、冷静に粘り強く説得を続ける。

 そんな彼にヴェルフは、無言でエールを送っているようだった。

 一方の僕はメンバー分配のバランスを客観的に見て、問題ないと考えている。

 だからこそ口を挟まず沈黙を保っていたのだが、ようやくしてリルムたちも矛を収めた。


「む~! しょうがないから、今回は従ってやるわよ!」

「わたしも、別のところで頑張ります……。 残念ですが……」

「まぁ、わたしはまだまだ戦力としては微妙だし、仕方ないか……」


 ひとまずの承諾を得たナルサスさんは、心底安堵した様子だ。

 ヴェルフは快活に笑っており、姫様とルナは上機嫌。

 お世辞にも纏まっているとは言い難いものの、戦える状態にはなったと思って良い。

 その後は順調に細かい部分を確認し、最後に結構日時を決めることになったのだが――


「明日の深夜だ」


 想像以上に早かった。

 姫様たちも同じ感想のようだが、ナルサスさんは動揺していない。

 きっと、準備が出来ればすぐに仕掛ける手はずだったのだろう。

 そのことを察しながら、念の為に聞いておくことにした。


「随分と急だが、間に合うのか?」

「間に合わせる。 とは言え、その為にはキミたちにも動いてもらう必要があるが」

「それは構いませんが、具体的には何をすれば良いのですか?」

「ソフィア姫たちには、ラギに伝言を頼みたい。 あとで手紙を渡すから、それを渡すだけで大丈夫だ」

「まぁ、それは必須よね。 でも、遠話石で伝えれば済むんじゃないの?」

「わたしたちとラギは遠話石で繋がっていないんだ、リルム。 こちらの魔力を登録していることがバレたら、彼の身が危険だからな」

「確かにナルサスさんたちの仲間ってわかったら、すぐにでも処刑されるでしょうね……。 そうでなくても、フランムのギルドって立場が危ういらしいし」

「そうですね、サーシャ様……。 では、ヴェルフ様の手紙が用意出来たら、フランムに戻りましょう。 強行軍にはなりますが、そうすれば明るくなる前には着くはずです」

「すまないな、アリア。 シオンたちにも、無理をさせてしまう」

「気にするな、ヴェルフ。 それより、手紙はどれくらいで書ける?」

「それほど掛からないと思うぞ。 30分もあれば充分だろ」

「わかった。 では、それまでは適当に休ませてもらおう」

「それが良いな。 ナルサス、休憩室に案内してやってくれ」

「了解した。 ソフィア姫、こちらです。 皆も付いて来てくれ」


 そう言って出口に向かったナルサスさんに続いて、僕たちも部屋をあとにしようとしたが――


「そうだ、悪いがシオンだけ少し残ってくれるか? 時間は取らせない」


 ヴェルフに声を掛けられて立ち止まる。

 どうするか考えたが、それは一瞬で、すぐに口を開いた。


「姫様たちは先に行って下さい。 すぐに向かいます」

「……わかりました。 皆さん、行きましょう」


 こちらのことが気になるようだったが、ひとまず言うことを聞いてくれた。

 作戦会議室に僕とヴェルフだけが残され、沈黙が落ちる。

 話があるのは向こうなので黙っていると、ようやくして静寂が破られた。


「シオンには家族がいるか?」


 唐突な問い掛け。

 何故彼がそんなことを聞いたのかわからないが、答えは決まっていた。


「育ての親、あるいは姉はいた。 もう死んだが」

「……そうか、悪いことを聞いたな」

「気にしなくて良い。 だが、急にどうしたんだ?」

「いや、何と言うか……お前を見ていると、弟を思い出してな。 見た目は全然違うし、性格ももっとヤンチャだったが」

「ふむ……。 聞かない方が良いかもしれないが……」

「ボアレロに殺された。 両親と一緒にな」

「……すまない」

「俺から振った話だ、シオンが気に病むことなんかないぞ? それに、明日にはこの気持ちに決着が付く」

「お前の本当の目的は復讐なのか?」

「いいや、違う。 フランムを取り戻したいのは間違いない。 ただ、その過程で家族の仇を討てるなら……そう思っていることも事実だ」

「なるほどな……」

「こんな俺を、リーダー失格だと思うか?」

「そんなことはない。 むしろ、フランムを取り戻すと言う正義感だけで戦っているより、よほど人間らしいと感じた」

「そう言ってもらえると助かる。 さて、そろそろ準備しないとな」


 そう言ってヴェルフはテーブルに着き、ラギさんへの手紙を書き始めた。

 もう僕は出て行って構わないのかもしれない。

 しかし……なんとなく、今の彼を1人にしたくなかった。

 端の椅子に腰掛けて、無言で待ち続ける。

 ヴェルフがこちらを見ることはなかったが、手を動かしながら微笑を浮かべているように見えた。

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