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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第3章

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第27話 棘

 フランムの北東エリアに足を踏み入れた僕たちは、急に雰囲気が変わったことに気付いた。

 粗野で騒々しいのは今までと似ているが、活気があって嫌な感じはしない。

 何が違うのかと周囲を探ったが、複雑な事情などなかった。

 単純に王国軍の姿が消えて、ギルドメンバーが集まっているだけだ。

 どうやらこの辺りは、ギルドの縄張りらしい。

 フランムの王国軍とギルドの仲が悪いのはルナから聞いているので、こうして線引きがはっきりしているのも頷ける。

 理由がわかってすっきりした僕は歩みを進め、やがて1つの建物の前で止まった。

 目印でもある看板は出ているがボロボロで、営業しているのか疑わしいほど。

 しかし他にそれらしきものはなく、姫様たちと目配せしてから中に入る。

 予想通りと言うべきか薄暗く、念の為にいつでも戦えるよう備えた。

 だが、そんな僕の警戒は無用だったようだ。


「おう、来たか……って、全員で来たのかよ」

「何か不味かったかしら?」

「いや、そう言う訳じゃねぇが……スゲェ顔ぶれだと思ってな」


 感心と呆れが混ざった声を発したのは、ギルド長であるラギさん。

 店の1番奥で酒を飲んでいた彼の顔は少し赤かったが、酔っている訳ではなさそうだ。

 ちなみに、彼とは先の戦闘が終わってから軽く挨拶しているので、一応は顔見知りと言うことになる。

 それゆえに会釈するだけに留めていると、ラギさんは乱暴に近くの椅子やテーブルを動かして、僕たちの席を用意した。


「まぁ、取り敢えず座れよ。 今日は貸し切りにしてるから、気兼ねする必要はねぇぜ」

「はい、失礼します」


 ラギさんに促された姫様が最初に座り、僕たちもそれに倣う。

 尚そのとき、リルムとアリアは酒の匂いに顔を顰めていたが、サーシャ姉さんは逆に羨ましそうだった。

 それはそれとして、全員が話す態勢になったのを確認したラギさんは、早速とばかりに口を開く。


「なぁ、嬢ちゃん」

「ずっと言いたかったのだけれど、わたしのことはルナと呼びなさい。 子ども扱いされているようで、不愉快だわ」

「わかった、わかった。 じゃあルナ、お前ってもしかして特殊階位か? あんな武器見たことないしよ」

「そうよ」

「ほう、あっさり認めるんだな。 しらばっくれるかと思ってたぜ」

「別に、隠すつもりはないもの。 厳密に言えば、旅を続ける以上は隠し続けるのは無理ね」


 自身の考えを明かしたルナは、チラリとサーシャ姉さんを見た。

 それを受けた彼女は僅かにたじろいだが、意を決したかのように告げる。


「じ、実は……わ、わたしもそうなんです……」

「は!? 本当かよ!?」

「ひ……!? え、えぇと……く、訓練を始めたばかりの素人ですけど、一応そうです……」


 ラギさんの勢いに怯えつつ、サーシャ姉さんはしっかりと答えた。

 これは、彼女なりの決意の表れだと思う。

 隠れることなく、矢面に立って戦うと言う覚悟。

 男性恐怖症は、未だに克服出来ていないようだが。

 そんな彼女に姫様とリルム、アリアは苦笑し、ルナは無関心なふりをしながら満足そうに見える。

 サーシャ姉さんがこちらをチラリを見て来たので、力強く頷いた。

 それを受けた彼女はホッと笑みを浮かべており、僕たちの反応から嘘じゃないと察したのか、ラギさんが大きく息をついてから話を再開させる。


「俺の想定ではお姫さんと嬢ちゃ……ルナだけだったんだが、嬉しい誤算だぜ」

「それは、どう言う意味ですか……?」

「焦んなって、ちびっ子。 まずはいくつか確認させてくれよ」

「ちびっ子……」


 ラギさんの言いように、アリアはショックを受けたらしい。

 とは言え、巨漢のラギさんから見ればアリアは、紛れもなく小さな子どもだが。

 それにしても、確認したいことか。

 どこまで話すべきか迷うが、ここで求められるのは臨機応変な対応。

 姫様に視線を向けると頷き、ラギさんに向かって言い放った。


「全てに答えられるかわかりませんが、お聞きしましょう。 その代わり、わたしたちの話も聞いて頂きます」

「良いだろう。 最初に確認しておきたいのは、お前らは何の為にフランムに来たんだ? まさか、観光って訳じゃねぇだろ?」

「国王様に、奴隷の待遇改善とオアシスの町への侵攻を止めるよう、お願いする為です」

「お願いだぁ? そんなもん、ボアレロが聞く訳……って、オアシスの町だと?」

「どうかしたの?」


 何やら引っ掛かりを覚えた様子のラギさんに、リルムが問い掛ける。

 それを受けたラギさんはしばし考えていたかと思うと、少し声を潜めて尋ねて来た。


「なぁ、もしかしてこの間の侵攻からオアシスの町を守ったのって、お前らか?」

「ふふん、その通りよ」

「リルムさん……それは一応、秘密だったのですが……。 まぁ、良いでしょう。 わたしたちだけの力ではありませんが、手を貸したのは確かです」

「なるほどなぁ。 これで1つ、謎が解明されたぜ」

「謎って何かしら?」

「俺らはフランムにいるからな、王国軍がどれくらいの規模で攻めたか知ってんだよ。 で、今回ばかりは無理かと思ってたんだが、こないだガレンの野郎から連絡があってな。 助っ人がたまたまいて、助かったって言ってたぜ。 どんだけ強い助っ人だよって思ったが、ルナたちなら納得だな」

「ガレンと連絡ですか。 彼とは親しいんですか?」

「親しいっつーか……腐れ縁みたいなもんだな、白い嬢ちゃん。 ガキの頃は良く一緒にいたから、今でもたまに連絡取ってるってくらいだ」

「なるほど。 それで彼は、僕たちについて他に何か言っていましたか?」

「いや、特には。 あぁ、全員美少女だったとか言ってたな。 話半分に聞いてたが、珍しく本当のことを言ってやがった」


 いや、本当じゃない。

 僕は男だ。

 そう言いたくなったが、話が脱線するのを嫌って黙り込む。

 姫様たちが何とも言い難い顔をしていたが、無視して言葉を連ねた。


「僕たちがフランムに来た理由を知りたかったようですが、どうしてですか?」

「まぁ、どんな奴らか知りたかったんだよ。 目的によっては、この話はここまでにするつもりだったぜ。 だが、お前たちが少なくとも敵じゃねえことはわかった」

「そ、それでは、ほ、本題は何なんですか……?」


 ビクビクしながら問を投げるサーシャ姉さん。

 そんなに無理しなくても、こう言うときは任せて良いと思うんだが。

 もっとも、彼女が男性恐怖症を克服したいなら、それを邪魔するつもりもない。

 彼女の言葉を聞いたラギさんは再び沈黙し、意を決したかのように語り出した。


「お前ら、レジスタンスって知ってるか?」


 彼からタイムリーな話題が飛び出したが、僕はひとまず様子を窺った。

 もっとも、リルムやアリア、サーシャ姉さんが素直に驚いていたので、さほど意味はない。

 そんな僕たちに苦笑を浮かべたラギさんは、単刀直入に告げる。


「出来ればだけどよ、あいつらの力になってやって欲しいんだ。 俺らも出来る限りサポートはしてんだが、フランムで生活する以上は限界があってな……」

「まぁ、ボアレロに睨まれたら終わりでしょーね」

「そう言うこった、魔女っ娘。 今でも立場は危ういからな、これ以上は厳しいってのが本音だ。 勿論、それなりの報酬は用意するぜ」

「話はわかったわ。 でも、約束は出来ないわね。 わたしたちは、レジスタンスがどう言う組織かまだ知らないから」

「そりゃそうだ、ルナ。 つっても、俺がここでいくら説明したところで、完全には信用出来ねぇんじゃねぇか?」

「そうですね。 貴方が嘘の情報を与えて、僕たちを騙す可能性は捨て切れません」

「はっきり言うな、白い嬢ちゃん……。 だが、それくらいの方が頼り甲斐があるぜ」


 苦笑を浮かべたラギさんが、1杯の酒を一気に飲み干す。

 先にも言った通り鵜呑みには出来ないが、彼のことはある程度信用して構わないと思った。

 その感想は僕だけじゃないようで、少女たちとアイコンタクトを取ると、代表して姫様がこちらの事情を明かす。


「ラギさん、落ち着いて聞いて下さい」

「何だよ、改まって?」

「わたしたちの目的は伝えましたが、それに対して国王様は条件を出しました」

「……その条件ってのは?」

「もうわかっているようですが、レジスタンスの壊滅です」

「やっぱそうかよ……」


 盛大に嘆息するラギさん。

 しかし、姫様の話は終わっていない。


「ですが、わたしたちは素直に従うつもりはありません。 場合によっては、レジスタンスに加担するつもりでした」

「なるほどな……。 具体的には、どうすれば力を貸してくれるんだ?」

「レジスタンスの目的が、フランムにとって有益かどうかの判断が最重要かと。 仮に国王様以上の悪事を働くつもりなら、許す訳には行きません」

「それはねぇよ。 ただ、俺があれこれ言うより、本人と直接話した方が早そうだな。 ちょっと待ってろ」


 そう言って席を立ったラギさんは、店の奥へと姿を消す。

 どうするつもりだ?

 姫様たちも不思議そうにしていたが、やがて彼は1通の手紙を持って帰って来た。

 それをテーブルに置いたラギさんは、酒を口に含んでから説明し始める。


「こいつは、俺からの紹介状だ。 話をするにしても、無駄な戦闘は避けるに越したことねぇだろ?」

「それはそうですが……良いんですか? もしわたしたちが、本当はレジスタンスを壊滅させるつもりなら、みすみす懐に敵を入れることになってしまいますが……」

「見くびんなよ、ちびっ子。 俺にだって、その程度を見極める力はある。 仮に敵対することになるとしても、話も聞かず一方的にってことにはならねぇだろうよ」

「話を聞いた上で敵対するかもしれないけどね」

「それはもう仕方ねぇな、魔女っ娘。 あいつに、お前たちを説得する力がなかったってだけだ。 受け入れるしかねぇよ」

「あいつと言うのは誰かしら?」

「レジスタンスのリーダーだ、ルナ。 ちなみに、そいつとも腐れ縁だな。 だから、あいつのことは良く知ってるが……あとは本人から話を聞いてくれ。 そうすれば、あいつがどんな奴かわかるだろうよ」


 どこか楽し気に言い切ったラギさんは、グラスに酒を注いだ。

 話は終わりのようで、こちらから意識を逸らしている。

 彼の言う通り、レジスタンスのリーダーに会ってみなければ、答えは出せない。

 そう結論付けた僕たちは誰からともなく席を立って、断りを入れてから店をあとにする。

 すっかり日は暮れて夜になっており、月が見えた。

 これほど過酷な環境でも変わらず綺麗なことに、なんとなく感慨深くなる。

 だが、今はその思いに蓋をして、今後のことについて話し合うべきだ。


「姫様、方針は決まりましたが、具体的にはどうしますか?」

「そうですね……今から向かいましょう」

「え、今からですか? 付く頃には、真夜中になっちゃいますよ?」

「だからこそですよ、サーシャさん。 どう言う流れになるとしても、レジスタンスと接触していることはなるべく知られたくありません。 この時間なら仮に誰かに見られても、奇襲を掛けるつもりだったと言い訳が出来ます」

「まぁ、真昼間から堂々と行くのは変かもね」

「そうね、痴女レッド。 どの道、ボアレロにはもう勘付かれていそうだけれど」

「ルナ様の言う通りかもしれません……。 あの方は何と言いますか……不気味です……」


 不安そうに顔を曇らせたアリア。

 気持ちはわからなくもないが、今はボアレロ国王よりレジスタンスだ。

 そう考えた僕はアリアの頭を撫でながら、纏めるように言い放つ。


「そうと決まれば、行きましょう。 念の為に言っておきますが、紹介状を持っているからと言って油断はしないで下さい」

「は、はい!」


 僕の言葉に返事してくれたのはアリアのみ。

 他の少女たちは、不満そうにしていた。

 アリアの頭を撫でているのが気に入らないようだが、この程度今更だろう……。

 内心で思い切り呆れた僕は特にフォローすることもなく、手を止めてスタスタと歩き出した。

 その後ろを姫様たちは無言で付いて来ているので、取り敢えず良しとする。

 こうして僕たちは、レジスタンスの拠点に向かうべくフランムを出た。











 真夜の大陸にあるデュエの居城。

 庭園のフラワーガーデンで、彼女は日課の手入れをしていた。

 その一方で頭の中では様々な思考を巡らせており、顔は真剣そのもの。

 最優先事項は言うまでもなく魔王だが、『魔十字将』である彼女には、他にも仕事がある。

 その中でも大きなものをノイムたちに任せた訳だが、不安な思いを消せない。

 レリウスがシオンに敗れたことで、自分の腹心も……と言う思いが強くなっていた。

 今回のターゲットはシオンやソフィアたちではないが、状況によってはぶつかる可能性もある。

 そう考えたデュエが、暗い面持ちで手を動かしていると――


「いや~、マジで死ぬかと思ったぜ」

「わたしもだ、スール。 流石に、もう駄目かと思ったな」

「ふん……僕は生きて帰る自信があったぞ」

「良く言うぜ、クロト。 合流したときは、腕も脚もなかったくせによー」

「う、うるさいな。 スール、お前こそほとんど半身がなかったではないか」

「しょーがねぇじゃん! アリアのやつ、馬鹿みたいにデカい剣で斬りやがって。 あとちょっとで、全身潰れてたぜ」

「お前が敵の名前を覚えるとは、珍しいな。 それにしても『輝光』……恐るべき強さだった」

「ノイムが敵を褒めるのも珍しいな。 とにかく、まずはデュエ様に報告しよう」

「だな、クロト。 あ~、失敗したって言いたくねぇ~」


 良く知る少年たちの声を聞いたデュエは苦笑を浮かべ、安堵したように息をついた。

 そして3人がフラワーガーデンを通り過ぎるのを待ち、こっそりと背後に回って声を掛ける。


「良く戻りました」

「へ!?」

「デ、デュエ様!?」

「こちらにいらっしゃったのですか……」


 最速で振り向いたスールに、驚愕したクロト。

 ノイムは落ち着いて見えたが、心臓が跳ねる思いだった。

 腹心たちの反応に満足したデュエは、クスリと笑って口を開く。


「どうやら『輝光』たちと戦ったようですが……帰って来てくれて、本当に嬉しいです」

「勿体ないお言葉です。 残念ながら、目的は達成出来ませんでしたが……」


 デュエの前に跪きながら、無念そうに声を発するノイム。

 彼に倣うようにスールは慌てて、クロトは静かに同じ体勢を取る。

 2人も悔しそうにしており、それを見たデュエは優し気な笑みを湛えて告げた。


「気に病まないで下さい、ノイム。 スールとクロトも、恥じることなどありません」

「ですがデュエ様、ノイムの言う通り僕たちは、役目を果たせませんでした……」

「確かにそうかもしれません、クロト。 ですが貴方たちは、もっと大事なことを成し遂げてくれました」

「もっと大事なこと、ですか……?」

「はい、スール。 『輝光』たちと戦って生きて帰ったと言うことは、彼女たちの戦闘データが増えると言うことです。 それだけでも、大きな働きです。 そして何より、わたしは大事な腹心を失わずに済みました。 生きて帰ったことこそが、最大の功績です」

「デュエ様……有難うございます!」


 感極まったように叫ぶスール。

 ノイムとクロトも感激した様子で、主を見つめていた。

 まるで聖母のような優しさを見せるデュエだが、それだけで『魔十字将』を名乗れるはずはない。


「それに心配しなくても、わたしたちの代わりに『輝光』やイレギュラーが働いてくれるでしょう。 そう言う意味では、この展開は好都合です。 そろそろ魔蝕教が動き出す頃でしょうし、データも取らせてもらいましょう」


 怪しげな光を瞳に宿し、ニヤリと笑うデュエ。

 自分たちの主が持つ攻撃性を垣間見て、ノイムたちは身震いした。

 チラリと視線を移したフラワーガーデンには、多数の黒薔薇が咲いている。

 まさに、美しい花には棘があるものだと、3人は痛感していた。

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