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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第3章

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第22話 アリアの戦い

 アリアとスールの戦いは、初っ端からフルスロットルだった。


「やぁッ……!」

「そりゃッ!」


 大剣で斬り掛かるアリアと、両手の指の間にナイフを挟んで、鉤爪のように振り乱すスール。

 破壊力ではアリアが断然上だが、手数ではスールが圧倒している。

 単純な戦闘力は、総じて互角。

 アリアの一撃をスールは正面から受けず、ナイフを駆使して受け流す。

 逆にスールの連撃をアリアは、バックラーによるパリィと豪快な一閃によって強引に止めていた。

 見た目に反する戦法を取る両者は、なんとなくちぐはぐしていて面白い。

 しかし本人たちは真剣で、接近戦では埒が明かないと考えたスールが変化を加える。


「こいつでどうだ!」


 アリアから距離を取ったスールが、両手のナイフを高速で投げ放つ。

 『剣技士』であるアリアには、遠距離攻撃が有効だと判断したらしい。

 その考えは間違っていないが、正解だとも言い切れなかった。

 迫り来るナイフを静かに見据えたアリアは、大剣を振り上げて弾き飛ばす。

 そこまではスールも予想していたが、問題はこのあとだ。


「【ブレイブ・キャリバー】……!」

「おっとぉ!?」


 神力の刃を飛ばす、遠距離斬撃スキル。

 サイドステップすることでスールは避けたものの、もう少しで両断されていた。

 彼もこのスキルの存在自体は知っていたが、以前とは比べ物にならないほど精度が上がっている。

 威力と速さだけではなく神力の消費効率も改善したようで、大して消耗した様子はなかった。

 そのことにスールは硬い面持ち――ではなく、楽し気な笑みを浮かべる。

 怪訝に思ったアリアは眉を顰めたが、彼はテンション高く言い放った。


「良いね! お前、思ったよりやるじゃん!」

「……」

「おーい、ちょっとくらい話してくれたって良くねぇ? いくら敵とは言ってもロボットじゃねぇんだし、コミュニケーションは大事だろ?」

「敵と無駄話をするつもりはありません」

「お、やっと声を聞かせてくれたな。 可愛い声してんだから、どんどん話した方が良いぜ?」

「……」

「まーたダンマリか。 しょーがねぇな、お望み通りやってやるよ!」


 肉食獣のように低い体勢を取ったスールを見て、アリアは目を細めた。

 ヴァルには及ばないが、彼も相当なスピードファイター。

 はっきり言ってアリアが苦手なタイプだが、だからと言って逃げ出す訳には行かない。

 腹を括った彼女は大剣とバックラーを構え直し、スールは――


「行くぜ、『剣技士』……いや、アリアッ!」


 凄まじい速度で駆け始めた。

 アリアの周囲を回っているようだが一定ではなく、ルートやスピードを不規則にしている。

 ヴァル戦を経験している彼女にとっては驚くに値しないとは言え、厄介なことに違いはない。

 注意深く様子を窺っていたアリアだが、遂にスールが攻勢に出た。


「ほれッ!」


 足を止めないままナイフを間断なく投げ付け、アリアを的にする。

 対する彼女は、バックラーによる防御と体捌きで凌いでいるが、攻撃するチャンスがない。

 出来れば【ブレイブ・キャリバー】で反撃したいところだが、スールの速さに付いて行けるレベルにまでは達していなかった。

 だからと言って接近を試みたところで、高確率で逃げられる。

 どうするべきか迷ったのは一瞬で、アリアは静かに瞳を閉じた。

 それを見たスールは驚いたように眉を跳ねさせつつ、警戒心を強くしている。

 暫く様子を見ていたスールだが、ずっと手をこまねいているのは彼の性に合わない。


「ほらよッ!」


 正面と見せて右――と思わせて左に位置取ったスールが、投擲モーションに入る。

 入念にフェイントを混ぜた攻防は、彼の勝利に終わる――かに思われたが――


「【ブレイブ・キャリバー】……!」

「んな!?」


 スールがナイフを投げると同時に、アリアがスキルを繰り出した。

 視覚を遮断して余計な情報を削ぎ落とし、反応を速めたのはスールにもわかる。

 だが、それにしても速過ぎた。

 今度こそ驚愕したスールは全力で後退したが、神力の刃が彼の体を袈裟斬りにする。

 傷は浅いが、精神的なダメージは計り知れない。

 そして、視界に映るアリアの姿が、より一層彼を動揺させた。

 右肩と左腕、更に右脚。

 3本のナイフが体に突き立ちながら、表情を一切変えていない。

 戦慄したスールの目の前でアリアはナイフを無感動に抜き、やはり淡々と回復薬を取り出して飲む。

 確かに回復薬を飲めば済む程度のダメージだったが、だとしても常軌を逸していた。

 そのときになってスールは、アリアが勝利の為なら手段を選ばない覚悟を秘めていると悟る。

 深呼吸したスールはアリアに視線を固定し、苦笑しながら言葉を紡いだ。


「悪かったな、アリア。 どうも俺は、お前を見くびってたみたいだ」

「そのままで結構です」

「ったく、そうは行かねぇっての。 負けちまうだろーが。 それより……」


 そこで言葉を切ったスールはアリアをジッと見つめ――


「そんなスカートで戦って恥ずかしくねぇの? パンツ丸見えだぜ?」


 言葉を濁すことなく、心底不思議そうに問い掛けた。

 それを受けたアリアは微動だにせず、はっきりと言い返す。


「下着を見られる程度で、集中が途切れることはありません」

「いや、集中がどうとかって話じゃねーんだけど……」


 呆れた様子のスールが溜息をついた瞬間――アリアがスカートを捲り上げた。

 反射的に瞠目したスールは、何のつもりかと尋ねようとして――


「はぁッ……!」

「ちょ!? それは卑怯だろッ!」


 虚を突いたアリアの斬撃を、ナイフで防ぐ。

 受け流すことが出来なかったせいで押し合いになり、優勢なのはアリア。

 必死そのものなスールに向かって、アリアは当然のように声を発した。


「色仕掛けが通用するなら、使うことに躊躇はありません」

「躊躇えよッ!」

「何なら、全裸になりましょうか?」

「ぜ……!?」


 アリアの爆弾発言を受けて、スールの腕が刹那の間だけ緩む。

 そこに付け込んだアリアは大剣を振り切り、スールを後方に弾き飛ばした。

 腕が痺れる感覚にスールは顔を歪め、アリアは追撃を掛ける。


「【ブレイブ・キャリバー】……!」

「こんの……!」


 近い間合いから飛来した神力の刃を、スールはギリギリでガードした。

 ナイフが嫌な音を立てて軋み、遂には砕け散る。

 両手に無数の傷を負いながらもその場を脱したスールは、呼吸を乱しながらアリアを睨んだ。

 一方のアリアも倒し切れなかったことを悔しく思っていたが、表情には出していない。

 両者無言でいた中、先に口火を切ったのは当然と言うべきかスール。


「なんでそこまでするんだよ? お前は特殊階位じゃないし、別に命を懸ける理由なんかないじゃん。 俺が言うことじゃないかもだけど、もっと自分を大切にしなよ」


 スールとしてはアリアを思っての発言と言うよりは、ただただ不思議で仕方なかった。

 ところがアリアは少しの沈黙を挟んでから、自身の心を確認するかのように言葉を連ねる。


「わたしには守りたい人がいます。 少しでも近付きたい人がいます。 それを成し遂げられるなら、わたしの恥などどうでも良いことです」


 感情の窺い知れなかったアリアが初めて本心を語ったように感じ、スールは表情を改めた。

 ふざけた態度を取って見える彼にも、譲れないものはある。


「そうかよ。 でも、俺にだって大事な人はいるぜ。 たぶんお前と同じ……いや、もっと大事に思ってる人がな」

「わたしの気持ちの方が強いです」

「いーや、俺だね」

「わたしです……!」

「俺だッ!」


 子どもの喧嘩のように言い合う少女と魔族。

 視線で激しく火花を散らしながら睨み合っていたが――


「……ふふ」

「あはは!」

「……何がおかしいんですか?」

「え、アリアだって笑ってたよね?」

「……戦闘中に笑う訳がないでしょう」

「笑ってたじゃん……まぁ、良いや。 とにかく、どっちの気持ちが強いかはっきりさせようぜ」

「そうですね。 当然、勝つのはわたしです」

「へッ! 言ってろよ。 行くぜ、アリア!」


 アリアは神力を、スールは魔力を練り上げ――同時に動き出す。

 両者の間で激突し、大気が震えた。

 怒涛の猛攻を仕掛けるスールと、一撃の威力で対抗するアリア。

 少しでも距離が空けば、【ブレイブ・キャリバー】と投げナイフの撃ち合い。

 暫くそんな攻防が続いたが、先に痺れを切らしたのはスール。


「やっぱりやるな、アリア! ここからは俺も超本気だ!」


 突然ナイフを消したスールが、血の滴る両手を前に突き出す。

 それを見たアリアは何が目的かわからなかったが、全神経を総動員して警戒し――


「パチンってな!」


 スールが指を弾いた。

 瞬間、アリアを中心に魔力が膨れ上がり――爆発。

 咄嗟に右に避けたお陰で直撃ではなかったが、至近距離での爆発によってダメージは受けている。

 威力自体はそこまで高くないのが救いだが、アリアは極めて厳しい表情を浮かべていた。

 そして、彼女の懸念は現実のものとなる。


「どんどん行くぜッ!」


 連続で指を弾いたスールによって引き起こされる、爆発の嵐。

 いくら威力が低めとは言え、これだけ纏められると無視出来ないダメージになる。

 未だにクリーンヒットは許していないアリアだが、それも段々と難しくなって来た。

 手数が多い上に不可視の攻撃で、指を弾いてから発動までが速い。

 段々と追い詰められたアリアは爆発の衝撃で服がボロボロになりながら、なんとか突破口を探す。

 だが、そんな都合の良いものが簡単に見付かるはずはない。

 だからこそ彼女は、強引に突破する決意を固めた。


「【ブレイブ・キャリバー】……!」

「むむ!?」


 爆発を受けながら放ったアリアのスキルは、スール――ではなく、彼の足元に直撃した。

 最初彼はアリアがミスをしたのかと思ったが、そうではない。


「目くらましか!」


 盛大に巻き上がった砂埃によって、スールの視界は閉ざされていた。

 確かに彼の能力は、対象を視認しなければ使えないと言う制限がある。

 ダメージを蓄積させながらも観察し続けていたアリアは、そのことに気付いていた。

 アリアの能力の高さをスールは再認識していたが、だからと言って負けるとは思っていない。

 冷静に周囲を注意深く探り、どこから攻撃されても対処出来るように備えている。

 砂埃が収まったら、今度こそトドメを刺してやろう。

 そう考えていたスールの気持ちが届いたかのように、やがて砂埃が晴れ――見た。


「なん……!?」


 驚愕に目を見開くスール。

 彼の視線の先には、その場から1歩も動かずに神力をチャージして、超巨大な大剣を掲げたアリアの姿があった。

 自身の判断ミスを嘆きつつ、スールは勝負を諦めていない。


「負けられねぇんだよ!」


 傷付いた指を何度も弾く。

 過去最高記録を更新する連続爆発。

 アリアの全身を凄まじい衝撃が襲い、意識が遠退き――


「グ……【グランド・ティアー】ッ!」


 塔のような大剣が振り下ろされた。

 頭上から落ちる神力の塊を前にして、スールは――


「ちくしょう……」


 無念そうに、それでいて清々しさも感じる苦笑を湛え――砂漠が激震した。

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