表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/98

第16話 水着デート ソフィア編

 最後の待ち合わせ場所は、これまでと一風変わった雰囲気だった。

 町全体に流れている音楽ではなく、特殊な曲が流れている。

 優雅かつ楽し気で、心が躍りそうだ。

 そして、その感覚はある意味正しい。

 何故ならここは、ダンスエリア。

 パートナーを見付けた者たちが、炎を中心にステップを踏んでいる。

 踊り方は決まっていないらしく、各々が自由に楽しんでいた。

 そこまで考えた僕だが、視線の先には既に目当ての人物の姿があった。

 この短い間にも何人もの男性に誘われては、笑顔で丁重に断っている。

 何と言うか、流石だ。

 そんなことを思っていると、彼女の視線がこちらを向いた。

 しかし近寄って来ることはなく、無言で何かを訴え掛けている。

 気持ちを察した僕は苦笑を漏らし、足早に近寄った。

 そして正面で跪き、手を差し伸べながら願い出る。


「僕と踊ってくれませんか、姫様?」

「はい、喜んで」


 満開の笑みを咲かせた姫様が僕の手を取り、次の曲が流れるまでダンスの準備をする。

 両手の指を絡ませて、それらしいポーズを取った。

 至近距離で見つめ合うことになった姫様の顔は、相変わらず非常に綺麗。

 幸せそうな笑みを浮かべており、そのことが僕は嬉しい。

 ちなみに、僕にダンスの経験などないので、見よう見まねに加えて相手の呼吸に合わせるしかないな。

 それゆえに若干緊張していると、クスクスと笑った姫様が声を発した。


「そんなに気負わないで下さい。 ダンスの大会ではないのですから、気楽に踊れば良いのですよ」

「そうですが、姫様に恥をかかせる訳には……」

「シオンさんと一緒なら、どんなに恥ずかしくても平気です。 ですから、気ままに、思うままに楽しんで下さい。 それが、わたしの望みです」

「……わかりました、有難うございます」

「こちらこそですよ」


 そう言って微笑んだ姫様は、僕の体に自分の体を密着させた。

 サーシャ姉さんには及ばないまでも、巨大な双丘を押し付けられて心臓が跳ねる。

 本当にこのパーティの少女たちは、スキンシップが激しい。

 もっとも、最近の僕も自分からキスしている訳だが。

 こちらが意識していることに勘付かれたのか、姫様は悪戯っぽく笑っている。

 別に良いんだが、なんとなく悔しいので軽く反撃しておこう。

 ちっぽけなプライドに従って顔を寄せた僕は、姫様のおでこにキスをした。

 そのことに驚いた姫様は目を丸くしており、満足した僕は言い放つ。


「すみません、姫様の水着姿が素敵過ぎて、思わずキスしてしまいました」

「……別の意図があったように感じたのは、気のせいですか?」

「気のせいです」


 間髪入れずに答えたが、姫様はまだ疑っているようだ。

 中々鋭い。

 それでも言及して来ることはなく、ソワソワした様子で別のことを問い掛けて来た。


「この水着……そんなに似合っていますか?」

「えぇ、それはもう。 まるで、姫様の為に作られたかのようです」

「そ、そうですか……有難うございます」


 体を密着させながら、恥ずかしそうに俯く姫様。

 はっきり言って、かなり可愛い。

 彼女が選んだ水着は水色で、上品な袖付きのオフショルダースカートビキニ。

 泳ぐ為と言うよりは、衣装としての側面が強いように感じた。

 そうこうしている間に前の曲が終わり、いよいよダンスが始まる。

 楽しむように言われたが、やはりそうするには最低限踊れないと駄目な気がした。

 密かにやる気を出した僕は、周りの動きをそれとなく観察しつつ、姫様の動きに合わせる。

 徐々にだが、表現力などは別として、普通に踊れるようになって来た。

 そのことに安堵した僕は、更に上達するべく試行錯誤しようとして――


「こちらに集中して下さい」


 姫様の声を聞いて、意識を向ける。

 目の前の姫様はふくれっ面を作っており、機嫌を傾けていた。

 そのことに苦笑した僕はこれ以上の上達を諦め、ひたすら彼女と視線を絡め続ける。

 僕が足を引っ張っているので、ダンスのクオリティ自体は低かったかもしれないが、この場の誰よりも楽しんでいる自信があった。

 それは、姫様の様子を見ても間違いない。

 動きは緩やかでステップも拙いが、心底楽しそうな姫様を見ていると、そんなことはどうでも良くなる。

 そうして僕たちが踊り終えると、周囲から大きな拍手が起こった。

 内心で戸惑っていたが、姫様は余裕綽々で手を振っていたかと思うと、いきなり僕の手を引いて歩き出す。

 拍手が背後に遠ざかり、やがて僕たちは人気のない路地裏――ではなく、背の高い建物の上に辿り着いた。

 狙いがわからなかった僕が黙っていると、姫様は夜空を彩る花火を見ながら呟く。


「綺麗ですね」

「姫様ほどじゃないですが」

「ふふ……そのようなセリフ、どこで覚えたのですか?」

「どこと言われましても、思ったまま言っただけです」

「え? 何かの影響ではないのですか?」

「少なくとも、僕にそのつもりはありません」

「そ、そうなのですね……」


 突然モジモジする姫様。

 何かあったのか?

 訳がわからず小首を傾げた僕に対して、彼女は1つ深呼吸してから言葉を紡いだ。


「2人きりで花火が見たいと思ったのですけれど、早速嬉しいことがありました」

「それは何よりです」

「シオンさんは、わたしと一緒にいて楽しいですか?」

「勿論です。 先ほどのダンスも、凄く幸せな時間でした」

「そうですか。 では……他の人たちと一緒にいるのは、どうですか?」


 姫様の表情に、僅かながら緊張の色が含まれる。

 その意味を漠然と理解しながら、僕は誤魔化すことなく答えた。


「楽しいです」

「……わたしといるときよりもですか?」

「比べられるものじゃありません。 それぞれ、楽しさの種類が違うので」

「それなら、誰か1人しか選べないとなったら、どうするのですか?」


 要はこれが聞きたかったんだろう。

 このあとのコンテストもそうだが、今の僕に誰か1人を選ぶことは出来ない。

 それゆえに、答えはこうだ。


「選びません。 全てを手に入れる方法を探します」

「……欲張りですね」

「すみません。 ですが、今の僕は本気でそう考えています」

「はぁ……本当に困った人です」

「軽蔑しましたか?」

「いいえ。 困るのは確かですけど、それでもわたしはシオンさんが好きです」


 言葉通り困った様子ながら、微笑を浮かべた姫様。

 そのことを申し訳なく思いつつ、僕も本心を明かす。


「僕も好きです」

「え……?」

「姫様もリルムもアリアもルナもサーシャ姉さんも、皆が好きです」

「……浮気性ですね」

「サーシャ姉さんには、ハーレムを作りたいのかと言われました」

「ハーレム……。 確かにそんな感じかもしれません。 それでシオンさんは、本気でハーレムを作るつもりなのですか?」

「明確にそうだとは言えません。 ですが、方向性は似ているかもしれないと考えています」

「そうですか……」


 僕の告白を聞いて、姫様は難しい顔で考え込んだ。

 こちらとしても、かなり無茶苦茶なことを言っていると思っているので、何を言われても仕方がない。

 だが姫様が放った言葉は、僕にとって予想外なものだった。


「それなら、わたしはハーレムで1番を目指します」

「え?」

「ですから、シオンさんがハーレムを作ると言うなら、わたしはそこでの1番を目指します」

「あの……僕は全員と平等に接するのが目的なんですが……」

「わかっています。 なので、わたし以外の女性と関わって欲しくないとは言いません。 他の人とキスしたりするのも……我慢します。 ですが、わたしが勝手に1番を目指すのは許して欲しいです」

「……わかりました。 姫様の気持ちを押さえ付けるのは、僕の本意じゃありませんから」

「有難うございます」


 そう言ってニコリと笑った姫様は、僕の手を取って指を絡ませ、寄り添って来た。

 本当は様々な感情が渦巻いているはずだが、僕を困らせないようにしているのだろう。

 この健気な少女に、僕が出来ることはないんだろうか。

 必死に頭を働かせて考えを巡らせていた、そのとき――


「あ……」


 姫様の声を聞いて咄嗟に振り向き――唇が重なる。

 彼女が何を思ってこんな行動に出たのかわからなかったが、求められるのなら最大限応えなければ。

 そう決めた僕は今までで最も激しく、姫様とキスをした。

 ビクビクと震える姫様に構わず続け、ようやくして距離を取る。

 2人の口の間に透明の橋が架かり、落ちた。

 姫様は熱に浮かされたように息を荒げていたが、構わず尋ねる。


「満足しましたか?」

「……全然です」

「もっとしますか?」

「はい……時間の許す限り、お願いします」

「わかりました」


 改めて姫様と向かい合った僕は、今度は自分から口付けした。

 お互いが溶けて混ざり合うほど、強く抱き締め合う。

 これで何かが解決するとは思わない。

 それでも、ただこのひとときだけでも、ほんの微かでも、姫様を満たせるなら構わないと思った。

 こうして僕と少女たちの関係に、変化が生まれ始める。

 その先に待ち受けているのが天国か地獄か……このときの僕に、それを知る術はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ