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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第3章

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第2話 出航

 遂に、アリエスを発つ日がやって来た。

 街の修復作業も8割以上が終わり、普通に生活する分には何ら問題ない。

 それによって王国軍、ギルドともに通常業務に戻ることが出来、守りも万全になっている。

 2週間以上も滞在したので多少の愛着は沸いているが、ここで止まる訳には行かない。

 そうして熱砂の大陸に渡るべく、アリエス最大の船着き場から船に乗ろうとしているのだが――


「女王様、本当に頂いてよろしいのですか……?」

「勿論です、ソフィア姫。 是非とも使って下さい」

「ですが、この船はアリエスの技術の結晶です。 そのような大事な物を……」

「良いのです。 貴女たちは魔王を討つパーティであり、我が国の英雄。 そのような方々にこそ、使って欲しいですから」

「……かしこまりました。 そうまで仰って頂けるなら、有難く使わせて頂きます」


 見送りに来てくれた女王様に対して、深々と頭を下げる姫様。

 彼女の言う通り、僕たちは船を譲り受けたのだが、それがとんでもない代物だった。

 サイズが大きく設備が充実しているのもあるが、そんなことはオマケに過ぎない。

 最大の特徴は船を操作する魔道具で、目的地を設定するだけで自動運航が可能。

 しかも、天候や海が荒れたときはそれに合わせた航行になるので、本当に何もしなくても良いくらいだ。

 勿論、手動での操作も受け付けており、その場合は誰でも簡単に扱える設計。

 更には魔家と同じく小型化出来るので、持ち運べると言うスーパーアイテム。

 魔道具としての名前は、魔船シップ

 船乗りの仕事がなくなるのではないかと心配になるほどだが、ここまでの船を造るには莫大な費用が必要らしいので、そう言うことにはならない。

 まさに国宝級の物を授かって恐縮している姫様に、女王様は優しく微笑み、次いでこちらを向いた。

 彼女が何を訴えているのかわからないが、取り敢えず目礼しておく。

 すると女王様は苦笑した後に、後ろを振り返った。

 そこにはカティナさんとユーティさんを筆頭に、数多くの国民の姿がある。

 僕たちに声援を送る者、感謝を伝える者、涙ぐんでいる者。

 その中にはルナに宝物の石を渡した少女の姿もあり、元気良く手を振っている。

 どう反応すれば良いかわからないのか、ルナは困った様子だったが、ほんの微かに手を動かしたのを僕は見逃さない。

 国民たちを愛おしそうに眺めた女王様は、再びこちらを向いて言葉を連ねた。


「わたしがこの光景を見られるのも、皆さんのお陰です。 改めて、有難うございました。 特に『救国の修道女』、貴女には感謝しても仕切れません」

「じ、女王様、お礼なら何度も言って頂いたので、もう大丈夫です!」

「何度言っても足りないほどなのですよ。 貴女の名は、いつまでもアリエスで語り継がれることでしょう」

「そ、それは光栄ですけど……恥ずかしいと言いますか……せめて本名にして欲しいと言いますか……」


 両手を胸の前で、わたわた振っているサーシャ姉さん。

 あの呼び方が相当恥ずかしいようだ。

 一方でカティナさんも、アリアに別れの言葉を述べている。


「『剣の妖精』、本当に有難うございました。 アリエスを救ってくれたこともそうですが、我が軍の者たちに指導までして下さって……」

「い、いえ、気にしないで下さい。 わたしは皆さんと一緒に訓練しただけで、指導なんて大層なことは……」

「何を言うのです! 『剣の妖精』と訓練出来ることが、どれほどの刺激になったか! そうだな、お前たち!?」

『はいッ!!!』

「そ、それなら……良かったです……」


 すっかり王国軍のアイドルになったアリアは、あまりの迫力に縮こまった。

 サーシャ姉さんもそうだが、通常時のアリアは途轍もなく恥ずかしがり屋だからな。

 そんなことを思っていると、複雑そうなユーティさんがルナに声を掛ける。


「えっと、ルナちゃんも有難うね。 ギルドの皆も、本当に感謝してるのよ?」

「報酬はもらったから、もうお礼は必要ないわ」

「えぇ……それはもう、本当に遠慮なく使ってくれたわね。 お陰で暫く、わたしのご飯は簡易食糧よ」

「わたしに文句を言うのは、お門違いよ。 嫌なら今後は自分たちだけで守れるように、もっと強くなることね」

「わかってるわよ。 あ、そう言えば、慈善事業団体から巨額の寄付があったって聞いたんだけど、心当たりない? 外見の特徴が、ルナちゃんそっくりだったんだけど」

「……他人の空似でしょう」

「ふふ、そう言うことにしておきましょうか」


 ぶっきらぼうに言い捨てたルナを、苦笑して見つめるユーティさん。

 僕は初耳だったが、たぶんルナ本人だろう。

 彼女の外見はかなり特徴的だからな。

 どんな心境の変化があったのか知らないが、良い傾向だと思う。

 このあと僕も、女王様たちと挨拶を交わしたのだが――


「シオン殿になら『剣の妖精』を任せられる。 2人で元気な子どもを作ってくれ」


 などと言われ、反応に困った。

 アリアは頭から湯気が出そうなほど赤面し、他の少女たちは冷たい眼差しを向けて来ていた。

 これは僕が悪いのか……?

 尚、カティナさんはユーティさんに頭を叩かれ、女王様はクスクス笑っていた。

 とにもかくにも、別れを告げた僕たちは魔船に乗り込み、ようやくして出航する。


「じゃあ、動かすわよ!」


 ろくに挨拶することもなく、ずっと魔道具を弄っていたリルムが大声を張り上げた。

 よほど早く行きたかったんだな。

 相変わらずな彼女に苦笑していると、魔船がゆっくりと進み出した。

 その途端、見送りに来てくれた国民たちの声が大きくなり、僕たちの行く末を祝福してくれている。

 それに対して姫様は優雅に、アリアとサーシャ姉さんは控えめに手を振っていたが、ルナは無視でリルムの眼中には入っていない。

 ちなみに僕は、軽く手を挙げるに留めた。

 こうしてアリエスをあとにした僕たちは、川を南下して海に出て、熱砂の大陸を目指す。

 だがその前に、清豊の大陸でもう一波乱あるとは思っていなかった。

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