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白雷の聖痕者  作者: YY
第1章
6/91

第5話 選別審査大会

用語解説

・キロル=㎏

 早朝と呼べる時間は過ぎ去り、今は午前9時頃。

 選別審査大会の会場を訪れた僕は、その威容を見上げていた。

 石造りの巨大な建築物で、広大な面積を誇っている。

 ここは王国軍の訓練施設なのだが、今日は会場として1日貸し切るらしい。

 審査官も軍の関係者が担当するようで、ピリピリとした緊張感が漂っている。

 もっとも、その原因のほとんどは参加者にありそうだが。

 既に多数の聖痕者が集まっており、互いに牽制し合っている。

 やはりパーティでの参加が多そう……と言うか、見える範囲では僕以外の全員がそのようだ。

 少しでも有利に戦おうと思うなら、それが当然だろう。

 残念ながら背中を預けられるような仲間は、僕にはいないが。

 僅かながら寂しい思いを抱きつつ、受付の列の1つに並んだ。

 かなり待ち時間がありそうだが、開始時間までには充分間に合うだろう。

 このような場でも僕の外見は目立つらしく、あちらこちらから視線が飛んで来たものの、完全無視を決め込んだ。

 その一方でリルムを探してみたが、先に受付を終えたのかまだ来ていないのか、見当たらない。

 意識を受付に戻したところ、書類の束を抱えた審査官が列の前方から歩み寄り、参加者に紙を配っている。

 そして僕のところに来ると一瞬だけ驚いた顔になったが、すぐに真面目な表情で説明してくれた。


「円滑に受付を済ませる為に、事前に参加用紙の記入をお願いします。 筆記具はこちらでお貸ししますので」

「わかりました」


 用紙と筆記具を受け取った僕は、その内容にザっと目を走らせた。

 特に変わったところはないが、1つだけ微妙なものがあるな。

 とは言え、ここまで来て参加を取りやめる選択肢はない。

 筆記具を握った僕は、サラサラと用紙に必要事項を書いて行った。


 名前:シオン=ホワイト

 年齢:17歳

 性別:男性

 身長:160セルチ

 体重:48キロル

 階位:剣技士


 こんなところか。

 一応、男性と言う文字は大きめに書いておいたが、効果があるかは知らない。

 それから暫くすると、ようやく僕の番が回って来た。

 参加用紙を受け取った係員の女性は、スムーズに処理しようとしていたが、性別の欄を見て瞠目している。

 そして、何度も僕の顔と用紙を見比べてから、言い難そうに指摘した。


「あの、性別を間違えてますよ?」

「合っています」

「え、でも……」

「合っています」

「……わかりました」


 断固として譲る気配のない僕に押されたのか、係員は渋々頷いた。

 不満そうにされても、事実なのだから仕方ない。

 どうしても納得出来ないなら、身体検査でも何でも受けるが、恐らくそうはならないだろう。

 すると、それまでは多少緩い雰囲気だった係員が、極めて真剣な面持ちで声を発した。


「続いて、聖痕を見せて下さい」

「はい」

「失礼します」


 魔道具らしきモノクルを装着して、聖痕をじっくり眺める係員。

 どうやら、偽の聖痕である可能性を疑っているようだ。

 最重要事項と言っても過言ではないからな、慎重になるのもわかる。

 だが、仮に聖痕の見た目を偽装出来たとしても、肝心の神力が使えなければどうしようもない。

 そう考えると、ある意味無駄な疑いにも感じた。

 その後も係員は検査を続けていたが、ようやくして満足した笑みを見せた。


「お待たせしました、これで受付は完了となります」

「有難うございます」

「こちらは参加者の証にもなる、魔道具です。 使い方は後ほど説明があるので、どこか見え易い場所に付けて下さい」

「はい、わかりました」


 係員から受け取ったのは、小さな白いブローチ。

 取り敢えず左胸の辺りに付けたが、どのような効果があるのだろう。

 まぁ、あとで説明してもらえるのだから、今は考える必要はない。

 思考を打ち切った僕は、いよいよ会場内に入った。

 外から見てもかなり広かったが、この場に来ると規模の大きさを、より一層実感した。

 訓練用の器具以外は何も置いていないかと思えば、どこからでも見える位置に巨大なガラスが設置されている。

 サイズは比べ物にならないほど大きいが、村や町に置いてある魔道具と同質の物。

 更には会場を取り囲むように、膨大な数の審査官が陣取っていた。

 過剰な人員登用な気もするが、それだけこの選別審査大会が重要と言うことかもしれない。

 辺りには先に受付を終えた聖痕者がおり、パーティ間で最後の打ち合わせをしたり、準備運動をしている者もいる。

 おおよそ、500人と言ったところか。

 外の連中も含めれば、最終的には1,000人前後になりそうだな。

 多いと言えば多いが、大陸中から集まっているにしては少ない気もする。

 とは言え、魔王討伐の旅に同行しようと思えるほどの実力者なのだから、そんなものかもしれない。

 遠く離れた場所にリルムを見掛けたが、互いに視線を交換するだけに留めた。

 しかし、戦意剥き出しなのは明らかで、見た目通り燃えている。

 彼女もソロ参加らしく、外見の良さも相まって注目を集めていた。

 ソロ参加が自分だけではないことに、なんとなくホッとしていると、定刻になって――


『皆さん、おはようございます。 ソフィア=グレイセスです。 本日はお集まり頂き、誠に有難うございます』


 巨大なガラスに姫様の姿が映し出された。

 その瞬間、全ての審査官が一斉に敬礼する。

 また、参加者の中には王国軍所属の聖痕者もいるようで、そう言った者たちも同様だ。

 今日の姫様も美しいドレス姿で、優し気な微笑を湛えているが……どこか凄味を感じる。

 ほんの少し警戒を強くした僕に反して、辺りの空気はどことなく浮付いていた。


「いやぁ、やっぱ綺麗だよなぁ」

「だね。 『輝光(ルーチェ)』の名に恥じない美しさだよ」

「世界で1人の、特殊階位(ユニーク・クラス)ですからね。 憧れます……」

「魔王を討伐する使命を持ってるのは、大変だなって思うけどね~」


 最も近くにいたパーティの会話を盗み聞きした僕は、スッと目を細めた。

 特殊階位、『輝光』か……。

 魔王の復活に合わせるかのように現れる、人類の希望そのもの。

 過去の『輝光』が全てグレイセスの姫だったのと同じく、今回もそうらしい。

 エレンから話は聞いていたが、どれほどの力を持っているか気になるな。

 だが、今は選別審査大会に専念しよう。

 意識を切り替えた僕がガラスを見つめると、姫様が淑やかに口を開いた。


『早速ルールの説明をしますが、まずは受付で配った魔道具の効果をお教えします。 王国軍に所属していればお馴染みでしょうけど、その魔道具を装備していると、肉体へのダメージを肩代わりしてくれます。 範囲は訓練施設内に限定されるので実戦では使えませんが、訓練での怪我を予防出来ます』


 なるほど。

 痛みを伴わない訓練はどうかと思うが、優秀な人材を不慮の事故で失くす心配がなくなる点は評価出来る。


『ただし、ダメージを肩代わりすると言っても、致命傷を受ければ相応の衝撃が発生するので、過信はしないで下さい。 そして一定以上のダメージを受けると、その魔道具が赤く光ります』


 ふむ、それなら訓練の緊張感を保ちつつ、安全を確保出来るかもしれないな。

 今は白いブローチだが、これが赤くなるのか。

 と言うことは、もしかしたら……。


『具体的な審査の内容ですが……これから皆さんには、一斉に戦って頂きます。 相手は味方以外の全員です。 時間は無制限で、こちらの合図があるまで続けて下さい。 魔道具が赤く光った方は失格になります。 失格になっても戦闘を続けた場合、本人は勿論、パーティ全員に厳罰が与えられます。 魔道具は激しく光るので、「気付かなかった」は通用しません』


 やはりそうか。

 これだけの人数をどうやって審査するのか気になっていたが、随分と思い切ったものだ。

 しかし、意外と理に適っている。

 1対1の戦闘力だけではなく、乱戦での対応力も測れるからな。

 加えて、いつ終わるかもわからない戦いと言うことは、身体的な継戦能力は言うに及ばず、精神的な持久力も試されるだろう。

 もっとも、このルールだけでは不充分だ。


『また、逃げ回って生き残っても意味はないです。 その辺りは審査官が厳しくチェックしているので、そのつもりでお願いします』


 だろうな。

 そうじゃなければ、これだけの人員を割く理由がない。


『パーティで参加している場合は、1人でも残れば次の審査に進めます。 ですが、失格した方は戦闘に復帰出来ません。 以上です』


 これに関しては、僕やリルムにとってはどうでも良い。

 最初から1人だからな。

 姫様の説明が進むにつれて、浮付き気味だった空気が張り詰めた。

 微妙な距離感を保ち、パーティで陣形を組んでいる。

 これから周り全員が敵になるのだから、正常な判断だ。

 若干入れ込み過ぎな気もするが、いつでも戦える状態にはしていた。

 そのことを感じ取ったのか、姫様がニコリと笑って――


『準備は良さそうですね。 それでは、選別審査大会……開始です!』


 力強く宣言した。

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