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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第2章

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第26話 アリエスの真実

 アリエス2日目の朝。

 僕たちは約束の時間少し前に、宮殿を訪れた。

 グレイセスの王城とは雰囲気がかなり違うが、歴史の深さと美しさは負けていない。

 門を潜ると庭園が広がっており、左右に1つずつ大きな噴水がある。

 まるで出迎えてくれているかのようだが、果たして……。

 胸中で警戒を強くした僕は、目を向けずに意識だけで周囲を探った。

 庭園には巡回している王国軍の兵士が見受けられるのだが、こちらをチラチラ見ている者もいる。

 『輝光』一行とは言え余所者に違いはないので、当然と言えば当然かもしれないが、それだけではないような気がした。

 その考えは僕だけじゃなく、姫様たちも思うことはありそうだ。

 しかし、それを口にするほど軽率な者はおらず、姫様が率先して呼び掛ける。


「女王様は奥でお待ちです。 行きましょう」


 姫様の言葉に従って、僕たちは宮殿の中へと向かった。

 その間も兵士たちから視線を感じたが、黙殺する。

 そうして玉座の間に入った僕たちの目に飛び込んで来たのは、3人の美しい女性。

 向かって右側に立っている女性は、肩より少し長い紺色髪で、敏捷性を重視した軽鎧を装備していた。

 『剣技士』らしく、腰には剣を佩き、左手には盾を装備している。

 厳しい眼差しを向けて来ており、どう見ても友好的とは言えない。

 対する左側の女性は、同じく紺色の髪を長く伸ばし、身に纏っているのは動き易そうな軽装。

 彼女は『弓術士』のようで、背中に担いでいるのは長弓。

 温和な笑みを浮かべているが、油断していないことが伝わって来た。

 そして、2人の間にある玉座に腰掛けているのは――


「ようこそおいで下さいました、『輝光』と同行者の方々。 わたしは水王国アリエスの女王、エレオノール=アリエスと申します」


 柔和な笑みを湛えて、名乗ってくれた女王様。

 サーシャ姉さんより少し明るめの水色髪で、緩やかに波打っている。

 その頭には華美な王冠を被っているが嫌味な感じはせず、とても似合っていた。

 豪華な青いドレスも同様で、彼女に相応しいと思わされる。

 まさに、女王様になるべくしてなったような人だな。

 3人とも20代半ばから後半くらいに見えるが……国王様たちの例があるからな、何とも言い難い。

 密かにそんな感想を抱いていた僕をよそに、丁寧に一礼した姫様が返答した。


「お初にお目に掛かります。 わたしは聖王国グレイセスの姫であり『輝光』でもある、ソフィア=グレイセスと申します。 本日は貴重なお時間を頂き、誠に有難うございます」


 姫様の挨拶は、礼を失するようなものではなかっただろう。

 だからこそ僕も出来るだけ適切に、言葉を選ぼうとした――が――


「ア、アアア、アリア=クラークでしゅ!?」

「リルム=ベネットよ」

「ルナ」


 目を回す勢いで取り乱したアリア。

 辺りをキョロキョロ見渡しながら、ぞんざいに言い捨てたリルム。

 極めて面倒臭そうに、一言だけ発したルナ。

 緊張し過ぎているアリアはともかく、リルムとルナの態度は不敬罪になっても不思議はない。

 実際、右側の女性の柳眉は逆立ち、口元がピクピク痙攣している。

 明らかに怒っているな……。

 思わず溜息を漏らしそうになったが、女王様は楽しそうに笑った。


「クスクス……ソフィア姫のお仲間は、随分と個性的なのですね」

「も、申し訳ありません……」

「責めているのではないですよ? むしろ魔王と戦うのなら、それくらいの方が頼もしく思います」

「そう言って頂けると救われます……」


 すっかり恐縮した姫様と、優雅に笑う女王様。

 完全に主導権を奪われたな。

 別に喧嘩を売りに来た訳じゃないが、なるべくこちらがリードする形で話はしたい。

 そう考えた僕は、少しでも流れを引き戻すべく口を開いたが、予想外の反応があった。


「申し遅れました。 僕は……」

「イレギュラー、シオン=ホワイトさんですね?」

「……ご存知だったんですか?」

「選別審査大会のことは、アリエスにも伝わっていましたから。 しっかりとチェックさせてもらいましたよ。 双剣を使う『剣技士』、そして何か別の力も持っていそうですね」


 どことなく探るような女王様。

 なるほど、グレイセスとアリエスがいくら友好的な関係とは言え、無条件じゃないと言うことか。

 どんな人間が姫様に同行するか、調べていたらしい。

 他にどんなことを知られているのかわからないが、やはり気を許すことは出来ないな。

 すると女王様は、最後の1人に向かって声を掛けた。


「そちらの方は、リベルタ孤児院で働いていた修道女でしたね。 確か名前は……サーシャ=リベルタさんでしたか?」

「え!?」

「うふふ、貴女の貢献の高さはアリエスでも有名です。 いつか、お会いしたいと思っていました」

「そ、そんな、恐れ入ります」

「ですが……リベルタ村のことは残念でした。 皆さんが安らかに眠ることを、祈るばかりです……」

「……ッ! どうして……」

「村に駐留していた王国軍の、定期連絡がなかったのが切っ掛けです。 調べに行かせたところ、惨状を目にしたそうです。 ただ、何が起こったかは把握出来ていないので、よろしければ教えてもらえませんか?」

「……わかりました」


 サーシャ姉さんは、事の顛末を語った。

 突然現れたレリウスに、他の村民が皆殺しにされたこと。

 自分も殺されそうになったところを、僕に助けられたこと。

 言葉にするのも辛いだろうに、サーシャ姉さんは最後まで話し切った。

 それを聞いた女王様は目を閉じて、大きく息をついてから口を開く。


「そうですか、魔族が……」

「はい……」

「貴女たちがここに来た理由も、わかった気がします」

「女王様、それって……」

「えぇ、ソフィア姫。 そろそろ本題に入りましょうか」

「……かしこまりました」


 ここからだな。

 姫様と目を合わせた僕は、次いでリルムを見やる。

 すると彼女は、魔箱から1本の細い棒のような物を取り出した。

 虚空から物を取り出したことに女王様は目を細め、残りの2人は唖然としていたが、一々説明を挟みはしない。

 そうしている間にもリルムは準備を進め、3つの小瓶を揃える。

 さぁ、どうなることやら。

 今後の展開をいくつかシミュレートしながら、僕はリルムに頷いて見せた。

 それを受けた彼女も小さく頷き、説明を開始する。


「今から、実験をするわ」

「実験だと?」

「そうよ、ぺちゃパイ」

「誰がぺちゃパイだ!? わたしには、ちゃんとした名前がある!」

「知らないわよ。 名乗られてないんだから」

「この……!」

「落ち着いて、カティナちゃん。 確かに名乗ってないんだから、仕方ないわよ。 おっぱい小さいし」

「姉さんッ!」

「はいはい。 えっと、タイミング的にどうかと思いますけど、ついでだから自己紹介しておきますね。 わたしはユーティ=ルイス。 アリエスのギルド長を任されています。 ほら、カティナちゃんも」

「……カティナ=ルイスです。 アリエスの王国軍で、軍団長を務めています」


 2人は僕たちと言うよりは、姫様に対して挨拶をしていた。

 どうやら姉妹だったらしい。

 そして、右側の『剣技士』が妹のカティナさんで、王国軍の軍団長。

 左側の『弓術士』が姉のユーティさんで、ギルド長。

 アリエスの王国軍とギルドの連携が密なのは、彼女たちの仲が関係していそうだ。

 そんなことを思いつつ目礼すると、ユーティさんは笑みを返してくれたが、カティナさんには顔を背けられた。

 僕は何も言ってないんだけどな……。

 そうしてなんとか場が落ち着いたのを見計らって、再びリルムを無言で促す。

 僕の合図に対して彼女は肩をすくめつつ、何事もなかったかのように話し始めた。


「この小瓶には、3種類の水が入ってるわ。 1つは光浄の大陸の水、1つはセレナで買った水、1つはアリエスの水路に流れてる水よ」

「……それが何だと言うんだ」

「黙って聞きなさい、ぺちゃパイ」

「カティナと名乗っただろうッ!」

「うるさいわね。 とにかく、続けるわよ。 水の説明はしたから、次はこの棒ね。 これは水質を調べる魔道具で、水に触れさせたらそこに含まれる精霊を可視化出来るの」

「……そのような魔道具、存在しましたか?」

「昨日作ったのよ、女王様。 あたしの名前、聞き覚えない?」

「リルム=ベネット……あ、もしかして『紅蓮の魔女』? 魔道具開発で有名な」

「その呼び方は好きじゃないけど合ってるわよ、ギルド長。 あたしにとっては、こんなのオモチャみたいなもんよ」

「御託は良い。 それで? そのオモチャがどうしたと言うんだ?」

「だから慌てないでってば。 じゃあ、まずは光浄の大陸の水からね」


 そう言って小瓶を空けたリルムは、魔道具の先を水に付けた。

 すると水の中に光が灯り、鮮やかに彩っている。

 最も強い光は青で、他にも赤や緑、黄色などが少量混ざっていた。

 魔道具の効果に満足したリルムはニヤリと笑い、女王様たちに向かって言い放つ。


「ご覧の通りよ。 青が水の精霊、赤は火の精霊、緑は風の精霊、黄色は地の精霊ね。 当たり前だけど、ほとんどが水の精霊だったわね。 じゃあ、次はセレナで買った水よ」


 別の小瓶を空けたリルムは、同じように魔道具を水に浸した。

 その結果、先ほどよりも青の光が強く、他の色は見られない。

 このことからも、純粋で上質な水だと言うことがわかる。

 それを見た女王様は神妙な面持ちで、カティナさんは厳しい表情、ユーティさんは不安げな顔だ。

 しかしリルムは構うことなく、淡々と実験を続ける。

 そうして最後に空けた小瓶に、魔道具を入れると――


「これが、この国で起きてる体調不良者続出の正体よ」


 水が激しく発光した。

 色は青だが、明滅を繰り返している。

 まるで、精霊が苦しんでいるかのように。

 既に見たことのある僕たちに動揺はなかったが、女王様たちは違った。

 諦めたように溜息をついている女王様。

 苦々し気に表情を歪めているカティナさん。

 辛そうに眉を落としているユーティさん。

 彼女たちの反応を見た僕は、確信を抱いて問を投げる。


「女王様たちは、知っていたんですね。 アリエスの水が汚染されていることを」

「……はい」

「エレオノール様!」

「良いのです、カティナ。 ソフィア姫が訪ねて来ると聞いたときから、こうなることは予想していました」

「女王様が他国の水を支給したことを、船員たちに聞きました。 それは、汚染された水を使わせない為ですね?」

「ご名答です、シオン=ホワイトさん。 しかし、それにも限界はあります。 この件は、一刻も早く解決しなければなりません」

「と言うことは、調査は進めているんですか?」

「勿論です。 ……と言いたいところですが、大きな問題が立ちはだかっています」

「エレオノール様! これ以上、他国の者たちに事情を話す必要はありません! 我々だけでも、必ずや……」

「いい加減にしなさい、カティナちゃん。 今はプライドに拘ってる場合じゃないでしょ?」

「姉さん……でも……」

「カティナちゃんが、アリエスを大事に思ってることはわかってるわ。 だからこそ、今は女王様に任せましょ?」

「……申し訳ありません、エレオノール様」

「気に病まないで下さい、カティナ。 貴女の気持ちは、確かに受け取りました」


 落ち込みそうだったカティナに笑い掛けた女王様は、気を取り直すように僕と相対した。

 真摯な眼差しを真っ向から見返し、僕も本心をぶつける。


「女王様が国民に真実を打ち明けないのは、過度な混乱を避ける為だと考えています。 アリエス……いえ、清豊の大陸にとって水は単なる資源ではなく、生きる上で本当の意味での拠り所。 そこに問題が生じたとなれば、ちょっとやそっとのことでは済まないでしょう。 それこそ、他国に付け入る隙を与えることにもなりかねません」

「貴様……脅すつもりか?」

「そんなつもりはありませんよ、カティナさん。 僕はただ、事実を確認したいだけです」

「シオン=ホワイトさん、貴方の言う通りです。 わたしたちに猶予は残されていません」

「では、聞かせて下さい。 立ちはだかっている大きな問題と言うのは、何ですか?」


 僕の踏み込んだ問い掛けに女王様は数瞬瞑目し、カティナさんを見やった。

 対するカティナさんは悔しそうに俯いたが、すぐに顔を上げて声を発する。


「……汚染の源は、既に判明している。 地下水路の最奥だ。 浄化する為の解毒薬も用意してある」

「それでも解決出来ないと言うことは、その源に何かあるんですね?」

「あぁ、魔族がいる。 相手はたった1人だが……我が軍の精鋭でも歯が立たないほどの手練れだ」

「なるほど……。 その魔族の特徴はわかりますか?」

「銀髪のオールバックに真紅の瞳、メガネを掛けている。 高身長の老人で、武器はレイピア……それくらいだな」

「レリウス……」

「何?」

「その魔族の名前は、レリウスです……」

「リベルタ村を襲った魔族か……」

「はい……」

「そうか……」


 カティナさんが語った魔族の特徴を聞いて、サーシャ姉さんが割って入った。

 今度こそ確定だな。

 此度の騒動を引き起こしたのは、レリウス。

 それならば、やるべきことは決まっている。


「カティナさん、その場所に僕を案内して下さい」

「貴様を? わかっているのか、相手は魔族だぞ? それも、恐ろしく強力な」

「だからこそです。 中途半端な戦力を送るくらいなら、僕だけの方が良いでしょう」

「……随分と自信があるようだが、それを証明することは出来るのか? 言っておくが、双剣が使える程度でどうにか出来る相手ではないぞ?」


 仕方のないことではあるが、カティナさんは僕の実力を疑っている。

 しかし、ここは辛抱強く説得するしかない。

 そう考えた僕は、なんとか言いくるめるべく口を開こうとして――


「お兄……シオン様なら、大丈夫です! 絶対、誰にも負けません!」


 意外なところからの、援護射撃。

 思わぬ大音声に驚いて振り返ると、全員がアリアに注目している。

 ハッと我を取り戻したアリアは恥ずかしがりつつ、僕を真っ直ぐに見つめていた。

 そんな彼女に苦笑を浮かべた僕は、もう1度カティナさんに言い募る。


「アリアの言う通り、僕は負けません。 ですから、任せて下さい」

「……ふん。 いくら仲間の信用があったところで……アリア?」

「え?」


 尚も拒否しようとしたカティナさんだが、遅ればせながらアリアの名前に引っ掛かりを覚えたらしい。

 当のアリアは困惑しており、素っ頓狂な声を上げている。

 するとカティナさんは、おとがいに手を当てて、ぶつぶつ言い出した。


「グレイセスのアリア……アリア=クラーク……『剣の妖精』!?」

「へ!?」

「あ、貴女があの、『剣の妖精』なんですか!?」

「え、えぇと、その……」

「良くわかりましたね、カティナさん。 そう、彼女はグレイセス最強の『剣技士』、『剣の妖精』本人ですよ」

「ソ、ソフィア様!?」

「本当に実在していたなんて……。 あ、あの、よろしければ手合わせを……」

「カティナちゃん? 思い切り脱線してるわよ?」

「は! コホン……『剣の妖精』が認めるのならば、仕方ない。 貴様を連れて行ってやろう。 そ、その代わり……」

「……アリア、事態が終息したら手合わせしてやれ」

「は、はい、シオン様……」

「良いのか!? 感謝する!」


 感激したようにガッツポーズを取るカティナさん。

 良くわからない方向ではあるが、着地点には辿り着いたらしい。

 こうして僕は、地下水路に向かうことになったのだが――


「わたしも連れて行って下さい」


 凛とした声が玉座の間に響く。

 姫様たちは目を丸くしていたが、僕は平然と聞いた。


「付いて来れるのか、サーシャ姉さん?」

「迷惑は掛けないわ」

「わかった」

「ち、ちょっと待て! 勝手に決めるな!」

「大丈夫ですよ、カティナさん。 彼女は責任を持って、僕が守ります」

「しかし……」

「お願いします。 わたしはどうしても、レリウスの最期を見届けたいんです」

「……勝手にしろ。 わたしは知らんからな」

「有難うございます」


 明後日の方を向いて了承したカティナさんに、深く頭を下げたサーシャ姉さん。

 この展開に関しては、ある意味予想通りだ。

 そして、このあとに起こるだろうことも、大体わかっている。

 だからこそ僕は、先手を打つことにした。


「女王様、アリエスの守りは万全ですか?」

「……正直に申し上げて、充分だとは言えません。 この件に対して王国軍の力を注いでいるので、今はギルドに頼っている部分が大きいです」

「ギルド長のわたしがここにいるのは、その打ち合わせがあったからなのよ」

「だそうです、姫様」

「……シオンさんは、何でもお見通しですね。 つまり、わたしたちは付いて来ず、アリエスを守れと言いたいのでしょう?」

「そんな偉そうな言い方をするつもりはありませんが……言いたいことは間違っていません」

「ま、相手が魔族なら、そう言うこともあり得るわよね。 カスールでも、そんな感じだったし」

「今度こそ負けません……」

「ソフィア姫……リルム=ベネットさん……アリア=クラークさん……アリエスの為に力を貸して下さるのですか?」

「ずっとじゃないわよ、シオンが帰って来るまでの間だからね?」

「……恩に着ます」

「別にいらないわよ」


 プイッと顔を背けるリルム。

 彼女は魔族を許せないだけだと言うかもしれないが、心のどこかにアリエスを守りたい気持ちがあるように感じた。

 方針を決めた僕たちは、それぞれの持ち場に向かう。

 姫様たちはユーティさんの指示に従い、街の構造を把握したあとに要所を任されるらしい。

 一方の僕とサーシャ姉さんは、カティナさんの準備が整い次第、地下水路に出発する段取りだ。

 その待ち時間を、別室で過ごすことになったのだが――


「シオン」


 背後からルナに呼び止められた。

 先の話し合い中、ほとんど口を開かなかった彼女が今更になって何の用だろう――などと思うことはなく、見当は付いている。

 無言で先を促した僕に向かって、ルナは鋭い声を発した。


「これがラストチャンスよ。 今回の戦いで結果を出せなかったら、乳女は置いて行くわ。 文句はないわね?」

「わかっている」

「本当に? 特訓を始めてから、1度も戦闘に参加していないのよ? 今までは敢えて何も言わなかったけれど、それもここまでだから」

「心配するな、特訓の成果は必ず出す」

「……良いわ。 貴方がそこまで言うなら、少しは期待してあげる」

「有難う。 ところで、礼の件はどうだ?」

「今のところ、何とも言えないわね。 貴方の勘違いではないかしら?」

「それならそれで構わない。 引き続き、よろしく頼む」

「はいはい、わかったわよ。 じゃあ、頑張ってね」

「あぁ、ルナもな」

「わたしは適当にするわよ」


 手をヒラヒラ振りながら、歩み行くルナ。

 そんな彼女を苦笑交じりに見送り、表情を改めて待機場所を目指した。

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