第18話 『殺影』
定刻に姫様とリルムを起こした僕は、揃って朝食を食べてから、出発の準備を始めた。
アリアがやけに張り切っていることを、姫様たちは不思議そうにしていたが、知らぬ存ぜぬを貫いている。
【転円神域】を2人にも教えようか迷ったが、あれは神力の消費が激しいので、全員が動けなくなるリスクを避ける為に、今回はアリアに任せることにした。
そうして準備を終えた僕たちは、最後に魔家を元の模型に戻して魔箱に仕舞い、森の奥に向き直る。
既に戦闘態勢は整えており、打ち合わせも済ませた。
こちらの居場所がバレている以上、悠長に森を進むのは得策じゃない。
それゆえ僕たちは、最速で森を突破することに決めた。
先頭を僕が務め、2番手がアリア、続いて姫様、最後尾がリルム。
改めて方針を確認した僕は、視線を前方に向けたまま、3人に声を掛ける。
「ここからは、出来るだけ止まらずに走ります。 遅れず付いて来て下さい」
「わかりました、シオンさん」
「お任せ下さい、お兄……シ、シオン様!」
「メンドクサイけど、やってやるわよ」
三者三様の返事を受けて、僕はこっそりと苦笑を浮かべる。
しかし、すぐに表情を引き締めてチラリとアリアの様子を窺うと、大きく頷き返して来た。
どうやら、【転円神域】の準備は万端らしい。
それを悟った僕は顔を前方に戻して、静かに合図を出す。
「行きます」
告げると同時に駆け出した。
パーティの中で、単純な速度が最も劣っているのはリルムなので、基本的には彼女に合わせている。
それでもかなりのスピードを誇り、真っ直ぐに走ればすぐに障害物にぶつかってしまう。
だが――
「相変わらず、メチャクチャね……」
「リルムさん、集中して下さい」
姫様たちの会話を聞き流しながら、速度を落とさずに目の前の大木を斬り刻み、転がっている岩を蹴り砕き、邪魔するものを全て排除した。
トレントたちが立ち塞がることもあったが、結果は変わらない。
そうして暫く走り続け、この調子ならそのまま森を突破出来そうだ――と、甘い考えが過ぎりそうになった瞬間――
「……! シオン様!」
進行方向左手から、狙撃手が攻撃して来た。
アリアの注意が届く前に反応していた僕は、容易に見えない何かを斬り飛ばす。
昨日の情報と合わせてわかったのは、神力の塊と言うこと。
言うなれば、神力の弾丸。
同時に足を止めたが、それは狙撃手を脅威に感じたからだけじゃない。
「アリア、わかるか?」
「……はい。 前方500メトル地点に、86人の聖痕者を確認。 こちらに向かって進行中です。 そのうち1人がミゲルであることから、魔蝕教で間違いありません」
「上出来だ」
そう言っている間に、2度目の狙撃。
これも難なく防いだ。
今のところ狙撃手は、僕だけを狙っている。
そして、1人だけ別の場所で待機していることを思えば、僕を誘い出そうとしている可能性が高い。
そこまで考えが及びながら、誘いに乗るべきか否か、中々答えを出せなかった。
誘いに乗れば、狙撃手は僕が何とかしてみせるが、姫様たちが他の魔蝕教の標的になるのは避けられないだろう。
逆に誘いに乗らなければ、他の魔蝕教からは3人を守ることが出来るかもしれないが、狙撃手が僕以外を狙い出しかねない。
どちらを選んでも彼女たちを危険に曝すことに、抵抗を覚えていると――
「何を悩んでんのよ、サッサと行きなさい。 こっちは、あたしたちだけで充分だから」
「リルム……」
「狙撃手は、あんたをご所望なんでしょ? なら、期待に応えてあげなさいよ。 ただし! 喧嘩を売る相手を間違えたって、後悔させてやりなさい!」
「リルムさんの言う通りです。 シオンさん、こちらのことは心配せず、存分に相手をしてあげて下さいね」
「仮に狙撃手が途中でターゲットを変えても、わたしが必ず守ってみせます。 ですから、安心して下さい」
「姫様……アリア……わかりました、行って来ます」
「その代わり、どうしてアリアだけが遠くの敵を知覚出来たのか、帰って来たら説明してもらいますよ?」
「……約束します。 では、ご武運を」
最後に、ニコリと笑った姫様から釘を刺されたことに苦笑をこぼしつつ、3度目の狙撃を斬り払う。
まるで、早く来いと催促されているかのようだ。
敵の目的が何かは判然としないが、こちらからも宣戦布告しておこう。
狙撃手がいる方に直剣を向けた僕は、神力を高めて魔法を放った。
「【閃雷】」
森の奥に消えた白い雷の光線。
今回はたぶん掠りもしていないが、それで構わない。
あくまでも今から行くと言う、意思表示に過ぎないからな。
改めて3人の顔を見渡すと、笑顔を見せてくれた。
そのことに背中を押された僕は、狙撃手の方に向かって足を踏み出す。
1人になったことで全速力を出せ、瞬く間に姫様たちが遠ざかった。
僕だけなら魔明は必要ないのだが、狙撃手に狙わせる為に、敢えて点けたままにしている。
すると、思惑通り狙撃手から攻撃が飛んで来たが、これまでの単発と違い、3連射。
更に、3発ともが同じ軌道を辿っているので、察知することも捌くのも難しい。
それでも僕は、2発を双剣で弾いて、3発目は体を捻ることで躱す。
ほとんど速度を減じることもなく、足を動かし続けた。
ところが、今度は5発。
時間差で放たれた攻撃は、僕の胸と両腕、両脚を狙っており、これもまた防ぎ難い。
反射的に、前方の地面に身を投げた僕の頭上擦れ擦れを、5発の弾丸が通過する。
受け身を取って前に転がりながら、勢いを付けて立ち上がり――6発目が襲い掛かった。
僕の行動を予見しての一撃であり、通常ならここで終わっていただろうが、残念ながら届かない。
「ふッ……!」
相手の動きを読んでいたのは、こちらも同じ。
この狙撃手なら必ず隙を逃さないとわかっていた僕は、立ち上がりながら直剣を振り上げて6発目に対処した。
近付いたお陰で感じられるようになった狙撃手の気配に、微かな動揺が混じる。
しかし、それはほんの一瞬で、すぐさま攻撃が再開された。
この時点で、残り約100メトル。
接近すればするほど攻撃も激しくなったが、僕を仕留めるには至らない。
そうして遂に、50メトルに差し掛かろうとした、そのとき――
「……ッ!」
背後から撃たれた。
今までとは真逆の方向からの攻撃に、ここ最近……いや、外の世界に出てから初めて、本気で防御行動を取る。
急ブレーキを掛けて反転しながら、直剣を水平に振り切った。
甲高い音を奏でて飛来した弾丸を断ち切り、窮地を脱する。
新手かと考えた僕は警戒を強めたが、どうもそうじゃない。
【転円神域】に反応があるのは、相変わらず狙撃手のみ。
ただし、狙撃手の居場所は先刻までと変わって、僕の背後になっている。
どうやって一瞬で移動したのか――と考える暇もなく、次々と攻撃が仕掛けられた。
右、左、前、後ろ、左前方、右後方、また右後方……やりたい放題だな。
あらゆる方向からの攻撃に対して、僕は守りを固めざるを得ない。
だが、それによって明らかになったことがある。
1つは、瞬間移動がスキルによるものだと言うこと。
毎回移動する直前に、神力を練り上げているからな。
それと、移動出来る範囲には制限があること。
何故なら、この攻撃方法になってから狙撃手は、常に50メトル以内にいるからだ。
もし自由自在に場所を移動出来るなら、遠くに行った方が安全なはず。
もっとも、いずれにせよ面倒なことに変わりはない。
常に転々と場所を変えている為、打って出ることが出来ず、張り付けにされてしまっていた。
とは言え、それもここまでだ。
瞬間移動のスキルは厄介だったが、あまりにも多用し過ぎたな。
何度目とも知れない狙撃を凌いだ僕は、全神経を集中させる。
そして――
「【閃雷】」
狙撃手が次に移動する場所を特定して、攻撃が来るより先に魔法を撃った。
今度こそ明確に、狙撃手から困惑した空気を感じたが、無視して疾走する。
50メトルなど、僕なら一瞬で踏破可能。
最短距離を走り抜けた先で、遂に狙撃手の姿を視界に捉えた。
身長は150セルチ前後で、濡れ羽色の髪をツーサイドアップにしており、黒曜石のような瞳が特徴的。
胸元の果実はそれなりに大きく、追い詰められているにもかかわらず妖艶な微笑を浮かべている。
黒を基調としたゴスロリ服――昔、着させられたことがある――に、薔薇の飾りが付いたヘッドドレス。
【転円神域】によっておおよその姿は把握していたが、改めて美少女だと思った。
森の中で活動するには適した格好とは言えないが、そのようなことはどうでも良い。
僕の関心を奪ったのは、彼女が手に持つ細長い物。
棒……いや、筒か?
真っ直ぐではなく、持ち手の部分が緩やかに湾曲している。
興味は尽きなかったが、今は後回しだ。
狙撃手がスキルを発動する兆候を掴んだ僕は、左手の直剣を投げ放つ。
猛烈なスピードで飛来した刃を前にして、狙撃手はスキルを諦め、飛び退ることで回避。
そこに僕は追撃を仕掛けたが、筒の先端を突き付けられて、咄嗟に右に跳躍する。
その直後、筒から神力の弾丸が撃ち出され、背後の大木に風穴を空けた。
なるほど、見たことのない武器だが、今のが狙撃手の攻撃手段らしい。
直剣を再生成した僕は、油断なく狙撃手と対峙する。
見た目にそぐわぬ力量を持っているが、それを言い出せば僕のパーティメンバーは皆そうだ。
しかし……彼女からは、濃密な死の匂いがする。
その点だけは、姫様たちと違っていた。
ある意味で親近感を覚えながら、僕は狙撃手を注意深く観察する。
彼女の狙撃は脅威だが、この距離になれば負けるとは思えない。
そう結論を下した僕は、先手を打つべく脚に力を溜め――
「やっぱり貴方は最高ね、シオン=ホワイト。 素敵過ぎて興奮しちゃうわ」
言葉通り興奮した様子で、人差し指を舐める狙撃手。
なんとなく、姫様を思い出すな。
本人に言えば、怒られるかもしれないが。
それはともかく、相手に会話する意思があるのなら、聞いておきたいことがある。
「キミは特殊階位なのか?」
「もう、真っ先に聞くのがそれなの?」
「僕にとっては重要なことだからな。 それで、どうなんだ?」
「内緒。 ……と言いたいところだけれど、気分が良いから教えてあげる。 お察しの通り、わたしは特殊階位。 名前は『殺影』よ」
「……随分と、素直に答えてくれるんだな」
「信じられない? でも貴方なら、これを見れば納得してくれるんじゃないかしら? 銃って言うのだけれど」
そう言いながら狙撃手は、筒……銃を掲げて見せた。
確かにあのような武器を使う階位は、今まで見たことがない。
それゆえに反論出来なかった僕は、次の問を投げ付ける。
「では、姫様とキミの他に、特殊階位を知っているか?」
「答えてあげても良いけれど、条件があるわ」
「条件だと? 今のキミが、条件を出せる立場だとでも?」
「あら怖い。 でも、今わたしを殺したら、何も聞けず仕舞いになるわよ?」
「……言ってみろ」
「ふふ、有難う。 大丈夫よ、別に難しいことではないから。 ただ、わたしのことはルナと呼んで欲しいの」
「それくらいなら良いだろう。 ルナ、姫様とキミの他の特殊階位について、知っていることを話せ」
「何も知らないわ」
「……良い度胸をしている」
「そんなに怒らないで。 わたしは答えるとは言ったけれど、知っているとは言っていないわ」
クスクスと笑う狙撃手……ではなく、ルナ。
完全にふざけている。
正直かなり腹が立ったが、彼女にはまだ確認したいことがあった。
内心で怒りを鎮めた僕は、気を取り直して尋ね掛ける。
「次の質問だが、ルナは魔蝕教の一員か?」
「違うわよ、あんな連中と一緒にしないで。 わたしはただ、ソフィア=グレイセスを殺すように雇われただけ」
「それなら、どうして僕を狙う? 標的は姫様なのだろう?」
僕としては当然の疑問を持っただけで、そこに他意はない。
ところが結果として、それがルナに火を点けることになった。
「わたし、貴方にベタ惚れなのよ」
「……何だと?」
「もう、女の子に2回も告白させようなんて、意地悪ね。 でも、そんなところも……」
「そうじゃない。 聞こえてはいたが、理解出来なかっただけだ。 僕たちは今日初めて会ったのに、どうしてそんな感情が持てる?」
「あら、時間は関係ないでしょう? それに、貴方は知らないかもしれないけれど、わたしはここ最近ずっと見ていたのよ。 本当に、夢のような時間だったわ。 恋に落ちるには、充分なほどね」
「仮にルナの言っていることが本当だとして、それなら敵対するのはおかしくないか? 普通なら、一緒に行動しようとすると思うが」
「ふふ、そうかもしれないわね。 でも、好きだからこそ壊したい。 好きだからこそ殺して、自分だけのものにしたい。 そう考えるのは、それほどおかしなことかしら?」
「やはり、理解出来ないな。 だが、僕を殺すことが目的なら、あとにしてくれ。 魔蝕教を撃退したら、いくらでも相手になってやる」
「そうは行かないわ。 わたしが、どれだけこのときを待ちわびたと思っているの? 魔蝕教を倒したあと、本当に1対1で殺し合ってくれるのか疑わしいしね」
「どうしてもやるのか?」
「えぇ、絶対よ」
「わかった。 そこまで言うなら、ここでキミを殺すまでだ」
説得が無理だと悟った僕は、双剣を構えた。
対するルナは、恍惚とした表情で身を震わせていたが――
「もう1つ、教えておいてあげる」
「何だ?」
「確かにわたしは、遠距離攻撃が得意だけれど……」
瞬間、彼女の両手に2つの銃が握られる。
先ほどまで持っていた物より小さく、短い。
それが何を意味するのかわからない僕は、警戒の度合いを引き上げ――
「接近戦が苦手だなんて、言った覚えはないわよ?」
乱射。
2つの銃から、夥しい数の弾丸を撃ち出された。
トレントの枝の矢などとは比べ物にならない、威力と連射力。
射程はさほどなさそうだが、1発が重い。
双剣で全ての弾丸を斬り飛ばしながら分析した僕は、連射の間隙を突いて踏み込んだ。
どれだけ連射力が高かろうが、神力をエネルギーとしているなら、無限に続くことはない。
予想通りルナがインターバルを取った隙に、確実に仕留めようとして――気付いた。
ルナの口が、蠱惑的な笑みを描いていることに。
一気に危険を感じた僕だが、動きを止めることはしない。
すると、あと数歩と言うところに来て――
「【戯れましょう】」
ルナがスキルを発動する。
どのような効果か身構えていたところ、背後に新たな気配が出現していた。
小さな、本当に微々たる力を持った何か。
【転円神域】を通して伝わった情報から、神力で出来た黒猫だと言うことはわかったが、詳細は不明。
しかし、感じる力から判断するなら、無防備で攻撃を受けたところで、大したダメージにはならないだろう。
それならば、無視して本体のルナを狙った方が良い。
そう思いそうになった僕だが、寸前でその思考にストップを掛けた。
この期に及んで、ただの黒猫に援護を任せるのは不自然。
だとすれば、この黒猫には何かしらの秘密があるはず。
意識を切り替えた途端に、黒猫が跳び掛かって来た。
それなりの速度だが、やはり脅威とは思えない。
だが僕は回避を選択して、その場から離れる。
すると黒猫の攻撃は空振りし、木の根を爪で浅く傷付け――腐食させた。
なるほど、毒か。
僕に基本的な毒は効かないが、特殊階位のスキルを試す気にはならないな。
とは言え、わかっていれば対処のしようはいくらでもある。
気を取り直した僕は再度仕掛けようとしたが、その前にルナが楽しそうに口を挟んだ。
「ふふ、そんなに慌てないで? まだ始まったばかりなのだから」
「生憎だが、長々と付き合うつもりはない」
「つれないわね。 わたしはこんなにも、貴方を愛しているのに」
「僕には関係ないな。 攻撃して来るなら、敵だ」
「はぁ……仕方ないわね。 やっぱり殺して、わたしだけのものにしてあげる」
「やれるものなら、やってみろ。 言っておくが、黒猫1匹で凌ぎ切れると思うな」
「そんなこと、最初から思っていないわよ。 でもね……」
ルナが呟いた瞬間、新たに2つの気配が現れた。
神力で作られた、黒蛇と黒鳥。
黒猫と同質の存在で、直接的な攻撃力は皆無に等しいが、恐らく毒を持っている。
3体はまるで使い魔の如く、ルナを守っているように見えた。
1体1体の力は取るに足らないが……これは、少し長引くかもしれない。
内心で僕が気を引き締めたことに気付いたのか、ルナが嬉しそうに告げた。
「この子たちもいれば、良い勝負が出来るんじゃないかしら?」
「グレイセスを出てから尾行されている気がしていたが、そのスキルの仕業か」
「そうよ。 言ったでしょう? ずっと貴方を見ていたって」
「1つ疑問が解消して、スッキリした。 では、続けるぞ」
「せっかちね。 まぁ、でも、わたしもそろそろ本気で行かせてもらうわ」
舌なめずりしたルナに従って、使い魔たちの姿が森の暗闇に溶ける。
【転円神域】で場所は把握出来るが、あまりにも力が弱過ぎて、少しでも油断すれば意識外に消えてしまいそうだ。
脅威を感じないと言うことが、逆に僕にとっては不利な要素になっている。
いや、恐らくその隠密性こそが、このスキルの神髄。
もっとも、それがわかっているなら、意識しておけば済む話――じゃない。
「さぁ、殺し合いましょう、シオン=ホワイト」
神力の弾丸を乱れ撃つルナ。
使い魔と対照的に彼女自身の神力は強力で、否が応でも反応してしまう。
弾丸の雨を防ぎながら神力を練り上げた僕は、連射が途切れると同時に直剣を突き付け、魔法を発動しようとしたが――
「……!」
右から黒猫、左から黒蛇が噛み付いて来た。
魔法をキャンセルした僕は、後方に跳躍することで躱したが、今度はそこに黒鳥による羽根の矢が襲い掛かる。
その全てを双剣で叩き落としたものの、ルナが立ち直る時間を与えてしまった。
やはり、こうなったか。
ルナの攻撃に対処している間、どうしても使い魔から微かに意識が逸れてしまう。
【転円神域】と言えど万能ではなく、それを扱う聖痕者に情報が届かなければ、何の意味もない。
ルナはその仕組みを巧みに利用して、僕の知覚外からの攻撃を成功させていた。
先に使い魔を始末することも考えたが、高確率で彼女の邪魔が入るだろう。
それでも、やろうと思えば何とでもなるが……ここは敢えて別のパターンで行くか。
姫様たちを助けに行きたい気持ちを押さえ付けて、信じることに決めた僕は、ルナに言い放つ。
「ルナ、キミは僕に勝てない」
「言ってくれるわね。 この膠着状態を打破する、良い方法でも見付かったのかしら?」
「あぁ、今からそれを証明してやる」
「……ふふ、やっとわたしと向き合ってくれたようね。 嬉しいわ。 もっと……もっとわたしを見て、シオン=ホワイト!」
感激したように叫んだルナが、銃を乱射した。
これまでよりも一層速く、強い。
双剣で弾丸を斬り払いながら僕は、彼女との戦いに決着を付けるべく、その道筋を歩み始めた。




