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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第1章

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第18話 『殺影』

 定刻に姫様とリルムを起こした僕は、揃って朝食を食べてから、出発の準備を始めた。

 アリアがやけに張り切っていることを、姫様たちは不思議そうにしていたが、知らぬ存ぜぬを貫いている。

 【転円神域】を2人にも教えようか迷ったが、あれは神力の消費が激しいので、全員が動けなくなるリスクを避ける為に、今回はアリアに任せることにした。

 そうして準備を終えた僕たちは、最後に魔家を元の模型に戻して魔箱に仕舞い、森の奥に向き直る。

 既に戦闘態勢は整えており、打ち合わせも済ませた。

 こちらの居場所がバレている以上、悠長に森を進むのは得策じゃない。

 それゆえ僕たちは、最速で森を突破することに決めた。

 先頭を僕が務め、2番手がアリア、続いて姫様、最後尾がリルム。

 改めて方針を確認した僕は、視線を前方に向けたまま、3人に声を掛ける。


「ここからは、出来るだけ止まらずに走ります。 遅れず付いて来て下さい」

「わかりました、シオンさん」

「お任せ下さい、お兄……シ、シオン様!」

「メンドクサイけど、やってやるわよ」


 三者三様の返事を受けて、僕はこっそりと苦笑を浮かべる。

 しかし、すぐに表情を引き締めてチラリとアリアの様子を窺うと、大きく頷き返して来た。

 どうやら、【転円神域】の準備は万端らしい。

 それを悟った僕は顔を前方に戻して、静かに合図を出す。


「行きます」


 告げると同時に駆け出した。

 パーティの中で、単純な速度が最も劣っているのはリルムなので、基本的には彼女に合わせている。

 それでもかなりのスピードを誇り、真っ直ぐに走ればすぐに障害物にぶつかってしまう。

 だが――


「相変わらず、メチャクチャね……」

「リルムさん、集中して下さい」


 姫様たちの会話を聞き流しながら、速度を落とさずに目の前の大木を斬り刻み、転がっている岩を蹴り砕き、邪魔するものを全て排除した。

 トレントたちが立ち塞がることもあったが、結果は変わらない。

 そうして暫く走り続け、この調子ならそのまま森を突破出来そうだ――と、甘い考えが過ぎりそうになった瞬間――


「……! シオン様!」


 進行方向左手から、狙撃手が攻撃して来た。

 アリアの注意が届く前に反応していた僕は、容易に見えない何かを斬り飛ばす。

 昨日の情報と合わせてわかったのは、神力の塊と言うこと。

 言うなれば、神力の弾丸。

 同時に足を止めたが、それは狙撃手を脅威に感じたからだけじゃない。


「アリア、わかるか?」

「……はい。 前方500メトル地点に、86人の聖痕者を確認。 こちらに向かって進行中です。 そのうち1人がミゲルであることから、魔蝕教で間違いありません」

「上出来だ」


 そう言っている間に、2度目の狙撃。

 これも難なく防いだ。

 今のところ狙撃手は、僕だけを狙っている。

 そして、1人だけ別の場所で待機していることを思えば、僕を誘い出そうとしている可能性が高い。

 そこまで考えが及びながら、誘いに乗るべきか否か、中々答えを出せなかった。

 誘いに乗れば、狙撃手は僕が何とかしてみせるが、姫様たちが他の魔蝕教の標的になるのは避けられないだろう。

 逆に誘いに乗らなければ、他の魔蝕教からは3人を守ることが出来るかもしれないが、狙撃手が僕以外を狙い出しかねない。

 どちらを選んでも彼女たちを危険に曝すことに、抵抗を覚えていると――


「何を悩んでんのよ、サッサと行きなさい。 こっちは、あたしたちだけで充分だから」

「リルム……」

「狙撃手は、あんたをご所望なんでしょ? なら、期待に応えてあげなさいよ。 ただし! 喧嘩を売る相手を間違えたって、後悔させてやりなさい!」

「リルムさんの言う通りです。 シオンさん、こちらのことは心配せず、存分に相手をしてあげて下さいね」

「仮に狙撃手が途中でターゲットを変えても、わたしが必ず守ってみせます。 ですから、安心して下さい」

「姫様……アリア……わかりました、行って来ます」

「その代わり、どうしてアリアだけが遠くの敵を知覚出来たのか、帰って来たら説明してもらいますよ?」

「……約束します。 では、ご武運を」


 最後に、ニコリと笑った姫様から釘を刺されたことに苦笑をこぼしつつ、3度目の狙撃を斬り払う。

 まるで、早く来いと催促されているかのようだ。

 敵の目的が何かは判然としないが、こちらからも宣戦布告しておこう。

 狙撃手がいる方に直剣を向けた僕は、神力を高めて魔法を放った。


「【閃雷】」


 森の奥に消えた白い雷の光線。

 今回はたぶん掠りもしていないが、それで構わない。

 あくまでも今から行くと言う、意思表示に過ぎないからな。

 改めて3人の顔を見渡すと、笑顔を見せてくれた。

 そのことに背中を押された僕は、狙撃手の方に向かって足を踏み出す。

 1人になったことで全速力を出せ、瞬く間に姫様たちが遠ざかった。

 僕だけなら魔明は必要ないのだが、狙撃手に狙わせる為に、敢えて点けたままにしている。

 すると、思惑通り狙撃手から攻撃が飛んで来たが、これまでの単発と違い、3連射。

 更に、3発ともが同じ軌道を辿っているので、察知することも捌くのも難しい。

 それでも僕は、2発を双剣で弾いて、3発目は体を捻ることで躱す。

 ほとんど速度を減じることもなく、足を動かし続けた。

 ところが、今度は5発。

 時間差で放たれた攻撃は、僕の胸と両腕、両脚を狙っており、これもまた防ぎ難い。

 反射的に、前方の地面に身を投げた僕の頭上擦れ擦れを、5発の弾丸が通過する。

 受け身を取って前に転がりながら、勢いを付けて立ち上がり――6発目が襲い掛かった。

 僕の行動を予見しての一撃であり、通常ならここで終わっていただろうが、残念ながら届かない。

 

「ふッ……!」


 相手の動きを読んでいたのは、こちらも同じ。

 この狙撃手なら必ず隙を逃さないとわかっていた僕は、立ち上がりながら直剣を振り上げて6発目に対処した。

 近付いたお陰で感じられるようになった狙撃手の気配に、微かな動揺が混じる。

 しかし、それはほんの一瞬で、すぐさま攻撃が再開された。

 この時点で、残り約100メトル。

 接近すればするほど攻撃も激しくなったが、僕を仕留めるには至らない。

 そうして遂に、50メトルに差し掛かろうとした、そのとき――


「……ッ!」


 背後から撃たれた。

 今までとは真逆の方向からの攻撃に、ここ最近……いや、外の世界に出てから初めて、本気で防御行動を取る。

 急ブレーキを掛けて反転しながら、直剣を水平に振り切った。

 甲高い音を奏でて飛来した弾丸を断ち切り、窮地を脱する。

 新手かと考えた僕は警戒を強めたが、どうもそうじゃない。

 【転円神域】に反応があるのは、相変わらず狙撃手のみ。

 ただし、狙撃手の居場所は先刻までと変わって、僕の背後になっている。

 どうやって一瞬で移動したのか――と考える暇もなく、次々と攻撃が仕掛けられた。

 右、左、前、後ろ、左前方、右後方、また右後方……やりたい放題だな。

 あらゆる方向からの攻撃に対して、僕は守りを固めざるを得ない。

 だが、それによって明らかになったことがある。

 1つは、瞬間移動がスキルによるものだと言うこと。

 毎回移動する直前に、神力を練り上げているからな。

 それと、移動出来る範囲には制限があること。

 何故なら、この攻撃方法になってから狙撃手は、常に50メトル以内にいるからだ。

 もし自由自在に場所を移動出来るなら、遠くに行った方が安全なはず。

 もっとも、いずれにせよ面倒なことに変わりはない。

 常に転々と場所を変えている為、打って出ることが出来ず、張り付けにされてしまっていた。

 とは言え、それもここまでだ。

 瞬間移動のスキルは厄介だったが、あまりにも多用し過ぎたな。

 何度目とも知れない狙撃を凌いだ僕は、全神経を集中させる。

 そして――


「【閃雷】」


 狙撃手が次に移動する場所を特定して、攻撃が来るより先に魔法を撃った。

 今度こそ明確に、狙撃手から困惑した空気を感じたが、無視して疾走する。

 50メトルなど、僕なら一瞬で踏破可能。

 最短距離を走り抜けた先で、遂に狙撃手の姿を視界に捉えた。

 身長は150セルチ前後で、濡れ羽色の髪をツーサイドアップにしており、黒曜石のような瞳が特徴的。

 胸元の果実はそれなりに大きく、追い詰められているにもかかわらず妖艶な微笑を浮かべている。

 黒を基調としたゴスロリ服――昔、着させられたことがある――に、薔薇の飾りが付いたヘッドドレス。

 【転円神域】によっておおよその姿は把握していたが、改めて美少女だと思った。

 森の中で活動するには適した格好とは言えないが、そのようなことはどうでも良い。

 僕の関心を奪ったのは、彼女が手に持つ細長い物。

 棒……いや、筒か?

 真っ直ぐではなく、持ち手の部分が緩やかに湾曲している。

 興味は尽きなかったが、今は後回しだ。

 狙撃手がスキルを発動する兆候を掴んだ僕は、左手の直剣を投げ放つ。

 猛烈なスピードで飛来した刃を前にして、狙撃手はスキルを諦め、飛び退ることで回避。

 そこに僕は追撃を仕掛けたが、筒の先端を突き付けられて、咄嗟に右に跳躍する。

 その直後、筒から神力の弾丸が撃ち出され、背後の大木に風穴を空けた。

 なるほど、見たことのない武器だが、今のが狙撃手の攻撃手段らしい。

 直剣を再生成した僕は、油断なく狙撃手と対峙する。

 見た目にそぐわぬ力量を持っているが、それを言い出せば僕のパーティメンバーは皆そうだ。

 しかし……彼女からは、濃密な死の匂いがする。

 その点だけは、姫様たちと違っていた。

 ある意味で親近感を覚えながら、僕は狙撃手を注意深く観察する。

 彼女の狙撃は脅威だが、この距離になれば負けるとは思えない。

 そう結論を下した僕は、先手を打つべく脚に力を溜め――


「やっぱり貴方は最高ね、シオン=ホワイト。 素敵過ぎて興奮しちゃうわ」


 言葉通り興奮した様子で、人差し指を舐める狙撃手。

 なんとなく、姫様を思い出すな。

 本人に言えば、怒られるかもしれないが。

 それはともかく、相手に会話する意思があるのなら、聞いておきたいことがある。


「キミは特殊階位なのか?」

「もう、真っ先に聞くのがそれなの?」

「僕にとっては重要なことだからな。 それで、どうなんだ?」

「内緒。 ……と言いたいところだけれど、気分が良いから教えてあげる。 お察しの通り、わたしは特殊階位。 名前は『殺影(シェイド)』よ」

「……随分と、素直に答えてくれるんだな」

「信じられない? でも貴方なら、これを見れば納得してくれるんじゃないかしら? 銃って言うのだけれど」


 そう言いながら狙撃手は、筒……銃を掲げて見せた。

 確かにあのような武器を使う階位は、今まで見たことがない。

 それゆえに反論出来なかった僕は、次の問を投げ付ける。


「では、姫様とキミの他に、特殊階位を知っているか?」

「答えてあげても良いけれど、条件があるわ」

「条件だと? 今のキミが、条件を出せる立場だとでも?」

「あら怖い。 でも、今わたしを殺したら、何も聞けず仕舞いになるわよ?」

「……言ってみろ」

「ふふ、有難う。 大丈夫よ、別に難しいことではないから。 ただ、わたしのことはルナと呼んで欲しいの」

「それくらいなら良いだろう。 ルナ、姫様とキミの他の特殊階位について、知っていることを話せ」

「何も知らないわ」

「……良い度胸をしている」

「そんなに怒らないで。 わたしは答えるとは言ったけれど、知っているとは言っていないわ」


 クスクスと笑う狙撃手……ではなく、ルナ。

 完全にふざけている。

 正直かなり腹が立ったが、彼女にはまだ確認したいことがあった。

 内心で怒りを鎮めた僕は、気を取り直して尋ね掛ける。


「次の質問だが、ルナは魔蝕教の一員か?」 

「違うわよ、あんな連中と一緒にしないで。 わたしはただ、ソフィア=グレイセスを殺すように雇われただけ」

「それなら、どうして僕を狙う? 標的は姫様なのだろう?」


 僕としては当然の疑問を持っただけで、そこに他意はない。

 ところが結果として、それがルナに火を点けることになった。


「わたし、貴方にベタ惚れなのよ」

「……何だと?」

「もう、女の子に2回も告白させようなんて、意地悪ね。 でも、そんなところも……」

「そうじゃない。 聞こえてはいたが、理解出来なかっただけだ。 僕たちは今日初めて会ったのに、どうしてそんな感情が持てる?」

「あら、時間は関係ないでしょう? それに、貴方は知らないかもしれないけれど、わたしはここ最近ずっと見ていたのよ。 本当に、夢のような時間だったわ。 恋に落ちるには、充分なほどね」

「仮にルナの言っていることが本当だとして、それなら敵対するのはおかしくないか? 普通なら、一緒に行動しようとすると思うが」

「ふふ、そうかもしれないわね。 でも、好きだからこそ壊したい。 好きだからこそ殺して、自分だけのものにしたい。 そう考えるのは、それほどおかしなことかしら?」

「やはり、理解出来ないな。 だが、僕を殺すことが目的なら、あとにしてくれ。 魔蝕教を撃退したら、いくらでも相手になってやる」

「そうは行かないわ。 わたしが、どれだけこのときを待ちわびたと思っているの? 魔蝕教を倒したあと、本当に1対1で殺し合ってくれるのか疑わしいしね」

「どうしてもやるのか?」

「えぇ、絶対よ」

「わかった。 そこまで言うなら、ここでキミを殺すまでだ」


 説得が無理だと悟った僕は、双剣を構えた。

 対するルナは、恍惚とした表情で身を震わせていたが――


「もう1つ、教えておいてあげる」

「何だ?」

「確かにわたしは、遠距離攻撃が得意だけれど……」


 瞬間、彼女の両手に2つの銃が握られる。

 先ほどまで持っていた物より小さく、短い。

 それが何を意味するのかわからない僕は、警戒の度合いを引き上げ――


「接近戦が苦手だなんて、言った覚えはないわよ?」


 乱射。

 2つの銃から、夥しい数の弾丸を撃ち出された。

 トレントの枝の矢などとは比べ物にならない、威力と連射力。

 射程はさほどなさそうだが、1発が重い。

 双剣で全ての弾丸を斬り飛ばしながら分析した僕は、連射の間隙を突いて踏み込んだ。

 どれだけ連射力が高かろうが、神力をエネルギーとしているなら、無限に続くことはない。

 予想通りルナがインターバルを取った隙に、確実に仕留めようとして――気付いた。

 ルナの口が、蠱惑的な笑みを描いていることに。

 一気に危険を感じた僕だが、動きを止めることはしない。

 すると、あと数歩と言うところに来て――


「【戯れましょう(ジュエ)】」


 ルナがスキルを発動する。

 どのような効果か身構えていたところ、背後に新たな気配が出現していた。

 小さな、本当に微々たる力を持った何か。

 【転円神域】を通して伝わった情報から、神力で出来た黒猫だと言うことはわかったが、詳細は不明。

 しかし、感じる力から判断するなら、無防備で攻撃を受けたところで、大したダメージにはならないだろう。

 それならば、無視して本体のルナを狙った方が良い。

 そう思いそうになった僕だが、寸前でその思考にストップを掛けた。

 この期に及んで、ただの黒猫に援護を任せるのは不自然。

 だとすれば、この黒猫には何かしらの秘密があるはず。

 意識を切り替えた途端に、黒猫が跳び掛かって来た。

 それなりの速度だが、やはり脅威とは思えない。

 だが僕は回避を選択して、その場から離れる。

 すると黒猫の攻撃は空振りし、木の根を爪で浅く傷付け――腐食させた。

 なるほど、毒か。

 僕に基本的な毒は効かないが、特殊階位のスキルを試す気にはならないな。

 とは言え、わかっていれば対処のしようはいくらでもある。

 気を取り直した僕は再度仕掛けようとしたが、その前にルナが楽しそうに口を挟んだ。


「ふふ、そんなに慌てないで? まだ始まったばかりなのだから」

「生憎だが、長々と付き合うつもりはない」

「つれないわね。 わたしはこんなにも、貴方を愛しているのに」

「僕には関係ないな。 攻撃して来るなら、敵だ」

「はぁ……仕方ないわね。 やっぱり殺して、わたしだけのものにしてあげる」

「やれるものなら、やってみろ。 言っておくが、黒猫1匹で凌ぎ切れると思うな」

「そんなこと、最初から思っていないわよ。 でもね……」


 ルナが呟いた瞬間、新たに2つの気配が現れた。

 神力で作られた、黒蛇と黒鳥。

 黒猫と同質の存在で、直接的な攻撃力は皆無に等しいが、恐らく毒を持っている。

 3体はまるで使い魔の如く、ルナを守っているように見えた。

 1体1体の力は取るに足らないが……これは、少し長引くかもしれない。

 内心で僕が気を引き締めたことに気付いたのか、ルナが嬉しそうに告げた。


「この子たちもいれば、良い勝負が出来るんじゃないかしら?」

「グレイセスを出てから尾行されている気がしていたが、そのスキルの仕業か」

「そうよ。 言ったでしょう? ずっと貴方を見ていたって」

「1つ疑問が解消して、スッキリした。 では、続けるぞ」

「せっかちね。 まぁ、でも、わたしもそろそろ本気で行かせてもらうわ」


 舌なめずりしたルナに従って、使い魔たちの姿が森の暗闇に溶ける。

 【転円神域】で場所は把握出来るが、あまりにも力が弱過ぎて、少しでも油断すれば意識外に消えてしまいそうだ。

 脅威を感じないと言うことが、逆に僕にとっては不利な要素になっている。

 いや、恐らくその隠密性こそが、このスキルの神髄。

 もっとも、それがわかっているなら、意識しておけば済む話――じゃない。


「さぁ、殺し合いましょう、シオン=ホワイト」


 神力の弾丸を乱れ撃つルナ。

 使い魔と対照的に彼女自身の神力は強力で、否が応でも反応してしまう。

 弾丸の雨を防ぎながら神力を練り上げた僕は、連射が途切れると同時に直剣を突き付け、魔法を発動しようとしたが――


「……!」


 右から黒猫、左から黒蛇が噛み付いて来た。

 魔法をキャンセルした僕は、後方に跳躍することで躱したが、今度はそこに黒鳥による羽根の矢が襲い掛かる。

 その全てを双剣で叩き落としたものの、ルナが立ち直る時間を与えてしまった。

 やはり、こうなったか。

 ルナの攻撃に対処している間、どうしても使い魔から微かに意識が逸れてしまう。

 【転円神域】と言えど万能ではなく、それを扱う聖痕者に情報が届かなければ、何の意味もない。

 ルナはその仕組みを巧みに利用して、僕の知覚外からの攻撃を成功させていた。

 先に使い魔を始末することも考えたが、高確率で彼女の邪魔が入るだろう。

 それでも、やろうと思えば何とでもなるが……ここは敢えて別のパターンで行くか。

 姫様たちを助けに行きたい気持ちを押さえ付けて、信じることに決めた僕は、ルナに言い放つ。


「ルナ、キミは僕に勝てない」

「言ってくれるわね。 この膠着状態を打破する、良い方法でも見付かったのかしら?」

「あぁ、今からそれを証明してやる」

「……ふふ、やっとわたしと向き合ってくれたようね。 嬉しいわ。 もっと……もっとわたしを見て、シオン=ホワイト!」


 感激したように叫んだルナが、銃を乱射した。

 これまでよりも一層速く、強い。

 双剣で弾丸を斬り払いながら僕は、彼女との戦いに決着を付けるべく、その道筋を歩み始めた。

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