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白雷の聖痕者  作者: YY
第1章
11/87

第10話 怪しい謁見

 太陽は姿を現したが、まだまだ早い時間帯。

 爽やかな風が、草原を吹き抜ける。

 気候も穏やかで、とても気持ちが良い。

 光浄の大陸は女神へリアの加護が強いからか、天気が大きく荒れることがなく、そう言う意味でも暮らし易い土地だ。

 今いる草原は街道から離れており、モンスターが出現する確率が高くなっている。

 それでもこのルートを選んでいるのは、魔蝕教の襲撃を避ける為だ。

 どれだけ効果があるかはわからないが、馬鹿正直に街道を行くよりはマシだろう。

 グレイセスを出発したのも早朝で、出来る限り人目に付かないようにした。

 ニーナとウェルムさんは見送りたがっていたが、昨晩のうちに挨拶をすることで、納得してもらった。

 悲しそうにしていたニーナも、最後には笑みを見せてくれた。

 本当に、健気な子だと思う。

 ニーナから借りたヘアゴムに触れながら、彼女の笑顔を思い出した僕は、あの親子の為にも必ず魔王を倒すと誓った。

 エレン、これは正しいことだよな?

 今度は風に揺られるコートに目を落とし、内心でひとりごちる。

 やはり答えが返って来ることはないが、なんとなく「そうだよ!」と笑ってくれている気がした。

 勝手な妄想だとしても、力が湧いて来る。

 薄く微笑んだ僕は()()から水筒を取り出し、水を口に含んだ。

 少しずつ慣れて来たが、何もないところから物を出し入れするのは、奇妙な感覚がする。

 これは魔箱(マジック・ボックス)と言う貴重な魔道具で、確認されている限りでは、世界に1つしか存在しないらしい。

 ボックスと名付けられているものの、本体は片手で持てるほどの水晶。

 旅立つ前に与えられたのだが、最初に姫様から説明を受けたときは度肝を抜かれた。

 リルムに至っては、目を輝かせて子どものようにはしゃぎ回っていたな。

 貯蔵量が決まっているとは言え、途轍もない収納スペースを誇る。

 どう言う仕組みか知らないが、生肉などを新鮮なまま保存出来る点でも、非常に有用。

 付け加えるなら、共有のスペースと私物を仕舞う個人的なスペースを分けられる、便利機能まで備わっている。

 何より、戦闘に邪魔な物を身に付ける必要がなくなるのが、最大のメリットだ。

 その他にも国宝級の魔道具が授けられ、まさに国一丸となって、魔王討伐に力を注いでいることがわかった。

 それに関しては、本当に感謝しているのだが――


「面倒なことにならなければ良いが……」


 昨日の出来事を思い出した僕は天を仰ぎ、嘆息するのだった。











 選別審査大会の翌日、僕は王城に赴いた。

 町のどこからでも見えるので大きいのはわかっていたが、近くで見ると、その迫力に圧倒されそうだ。

 建城から長い年月が経っているにもかかわらず、古びているとは思えず、神聖で力強い雰囲気を感じる。

 ここに呼び出されたのは姫様と旅の詳細を話し合う為だが、国王様と王妃様に挨拶するようにも言われた。

 出来れば遠慮したかったが、姫様に加えて国王様たちの要望だと言われては断り辛い。

 リルムが先に辞退していることもあって、僕だけは出席しなければならない気にもなっている。

 内心で若干彼女を恨みつつ足を踏み出すと、2人の門番が素早く武器を構えたが、僕の顔を見て体勢を戻した。

 どうやら、既にこちらのことは伝わっているらしい。

 しかし素通りは出来ず、どことなく緊張した様子で声を掛けて来た。


「シオン=ホワイトさんですね?」

「はい」

「お話は伺っています。 ようこそ、おいで下さいました」

「こちらこそ、お招き頂き有難うございます」


 本当は来たくなかったが。


「国王様たちは、入って右手の廊下を進んだ先の部屋でお待ちです」

「わかりました、案内有難うございます」

「いえ、それが仕事ですから。 ただ、入る前にこちらを付けてもらえますか?」


 そう言って門番が取り出したのは、鈍色の武骨な腕輪。

 狙いが分からなかったので、取り敢えず聞いてみた。


「これは?」

「神力を封じる魔道具です。 効果範囲は王城の敷地内のみですが、1度付けたら外に出るか、国王様や王妃様、姫様の許可がない限り外せません」

「なるほど。 もし僕が敵だったら、国王様たちに危害を加えるかもしれない……と言うことですか」

「お気を悪くされたのなら申し訳ありませんが、これも王国の安全の為です。 何卒、ご容赦下さい」

「とんでもありません、むしろ安心しました。 危機管理意識が高いのは、良いことです」


 とは言えまだ甘いが、最低限の水準には達している。

 そう思いつつ、受け取った腕輪を躊躇なく身に付けた。

 それを見た門番は、ホッと息をついている。

 魔道具を過信しているようにも感じるが、言及するのはやめておいた。

 不用意なことを言うと、いらぬ揉め事を起こしかねない。

 胸の内を悟らせずに会釈した僕は、門を潜って城内に入ろうとしたが――


「あ、あの!」


 意を決したかのように、呼び止められた。

 肩越しに振り向いた僕が視線で先を促すと、門番は躊躇いながらも言い放った。


「あ……握手してくれませんか!?」

「あ! お前ズルいぞ!」

「うるせぇ! こんなチャンス、もう2度とないかもしれねぇんだ! 行くしかねぇだろ!」

「そ、それなら俺だって! シオン=ホワイトさん、俺とも握手して下さい!」


 それまでの真面目な様子と打って変わって、急に低次元な言い争いを繰り広げる門番たち。

 思わず脱力しそうだったが、要求自体は大したことないので、サッサと済ませよう。


「別に構いませんが」

「ほ、本当ですか!?」

「有難うございます!」


 順に握手を交わすと、門番たちは感激していた。

 何が嬉しいのか、さっぱりわからない。

 内心で小首を傾げた僕は、今度こそ城内に足を踏み入れる。

 外観に負けず劣らず、内装も綺麗だ。

 そんなことを考えながら、案内の通り右側の廊下に向かう。

 玉座は上階にあるはずなので、別の場所で会うらしい。

 廊下を暫く進んだ先、部屋の前に1人の兵士が立っており、身振りで中に入るように指示された。

 確かなことはわからないが、この青年も中々の使い手に感じる。

 軽く頭を下げた僕が扉をノックすると、すぐに返事が返って来た。


「入っておくれ」


 聞こえた声は若い男性のものだったが、それに反して熟達した雰囲気もある。

 興味深く思いつつも、ひとまずは言われた通りにした。


「失礼します」


 断りを入れて中に入った僕の目に飛び込んで来たのは、姫様とアリア、そして1組の男女。

 予想以上に小さな部屋で、テーブルと人数分の椅子――アリアは立っているので4脚――と、ティーセットを置いているカートくらいしかない。

 状況を確認しつつ入口に立っていた僕に、男性が朗らかな声を発した。


「そんなところにいないで、座りたまえ」

「かしこまりました」


 男性に促された僕は、姫様の右隣の椅子に座る。

 彼女は何も言わなかったが、昨日のように、どこか熱っぽい目を向けて来た。

 テーブルを挟んで向かい側に男性、その隣に女性、背後にアリアと言った位置取り。

 なんとなくアウェイに思った僕は、微かに居心地が悪かったが、男性はあくまでもフレンドリーに言葉を連ねる。


「キミがシオン=ホワイトくんだね? 僕はアルバート=グレイセス。 一応、聖王国グレイセスの国王だ」


 柔和な笑みを湛える国王様。

 身長は僕より遥かに高く、180セルチはありそうだ。

 それでいてスマートな体形だが、漂って来る神力は強者のもの。

 姫様の父親と言うことは、若くても40歳前後のはずだが、青年のように若々しい。

 少し癖の付いた濃いブラウンの髪に、優しさと雄々しさが同居した翠色の瞳。

 白の礼服を着こなしており、貴公子と言った風貌。

 様々な特徴があるが、何より僕を男性扱いしてくれたことに、好感が持てた。

 密かに国王様を高く評価していると、今度は隣に座った女性が口を開く。


「もう、アルバートったら。 一応ではなく、正真正銘の国王でしょう?」

「そうだけど、未だに僕は自分が国王って柄ではないと思っているよ」

「まったく……貴方がそんな調子だと、国民に示しが付かないじゃない。 あ、自己紹介がまだだったわね。 わたしはエミリア=グレイセス。 この国の王妃よ」


 楽しそうに笑う王妃様。

 彼女もそれなりの年齢のはずだが、どう見ても姫様とは母娘ではなく姉妹だ。

 経産婦とは到底思えないほど美しく、顔付きや髪と瞳の色などはそっくりで、胸の発育が良いことも共通している。

 何なら姫様よりも大きい。

 違うところを挙げるなら、姫様の髪型がハーフアップなのに対して、王妃様は縦巻きロール。

 純白の豪華なドレスで身を包んでおり、彼女が姫だと言われても、何も知らなければ納得してしまいかねない。

 だが……ただ綺麗なだけの人物ではないような気がした。

 強大な神力を持っていることもあるが、少し引っ掛かるのは正体不明の威圧感。

 この辺りも、姫様と似ているかもしれない。

 一瞬でそこまで考えた僕だが、そのようなことは露ほども表に出さず、淡々と返事をする。


「初めまして、シオン=ホワイトです。 本日はお招き頂き、誠に有難うございます」


 席を立って、深々と頭を下げた。

 エレンから多くのことを学んだものの、流石に王国のトップに対する礼儀までは教わっていない。

 それゆえに、可能な限り丁寧な対応を心掛けたのだが、その必要はなかったようだ。


「そうかしこまらないでおくれ。 僕たちはキミと、仲良くなりたいだけなんだ」

「そうよ。 今日は身分のことは忘れて、楽しく過ごしましょう」

「お2人の言う通りです。 シオンさん、もっと楽にして下さい」

「……わかりました」


 はっきり言って逆に困る。

 何せ、相手は王国のトップに君臨する人たちで、僕は素性もあやふやな一般人。

 身分を気にするなと言われても、無理な話だ。

 それでも断ることはなく、なるべく期待に添うようにしたいと思う。

 勿論、最低限の礼儀は忘れない。

 この部屋を選んだのも、僕を緊張させない為の配慮かもしれないな。

 そうして僕が、自分の中でボーダーを引いていると、改めて国王様が話し始めた。


「それにしても、昨日の映像を見たけど、シオンくんは本当に強いね。 キミほどの実力者なら、安心してソフィアを任せられる」

「本当ね。 わたしも見たけど、びっくりしたわ。 見た目も凄く可愛いし、ソフィアが気に入るのも頷けるってものよ」

「お、お母様!」

「あら、何を恥ずかしがっているの? 昨日からずっと、彼の話をしていたじゃない」

「そ、そうですけれど……。 あ! ち、違うのです、シオンさん! わたしは純粋に、貴方の実力と人柄を見て決めた訳でして……」


 両手の人差し指を突き合わせて、何やら口ごもっている姫様。

 顔が赤い。

 そんな彼女を国王様たちは、微笑ましそうに眺めている。

 良くわからないが、取り敢えず返事だけはしておくか。


「有難うございます、姫様。 ご期待に応えられるように、精一杯頑張ります」

「え……あ、はい、有難うございます……」


 何故だろう、姫様が少し気落ちしてしまった。

 理由がわからず胸中で首を捻っていると、国王様と王妃様が僕を見て、小さく溜息をついている。

 失礼を働いてしまったか……?

 怒っていると言うよりは呆れているようだが、どちらにせよ良い反応ではない。

 とは言え、こう言う場面における僕の手札は、途轍もなく貧弱。

 だからこそ無言を貫いていると、1つ咳払いをした国王様が、ニコリと笑って口を開いた。


「取り敢えず、お茶にしよう。 アリア、よろしくね」

「か、かしこまりました!」


 国王様に声を掛けられたアリアは、緊張しつつも手際良く準備を始める。

 メイドの格好をしているのは、伊達ではないらしい。

 間もなくして全員分の紅茶を淹れると、また僕の背後に下がった。

 なんとなく避けられている気がするが、嫌われているのだろうか。

 彼女に何かした記憶はないが、知らない間に気分を害したのかもしれない。

 しかし、ひとまずそのことは忘れよう。

 今は国王様たちの対応に、専念しなければならない。

 ところが、どのような話をするのか警戒していた僕をよそに、その後はこれと言って問題なかった。

 敢えて言うなら、アリアが淹れてくれた紅茶が美味し過ぎて、驚いたくらいだろう。

 試合内容に関して聞かれたときは、魔法のことに勘付かれたかと思ったが、そうではないらしい。

 いや、わかっていながら聞かずにいる……と言った方が、正しいかもしれないな。

 どちらにせよ、聞かれないのなら好都合。

 無難な返答をしていると、次第に話題は僕の趣味嗜好に移って行ったが、これに関しては話すことに抵抗はなかった。

 だが、全員が話を真剣に聞いていて、そのことに若干の違和感がある。

 特に姫様の食い付き具合が尋常ではなく、一言一句を聞き逃すまいとしているようだったな。

 そのことを不思議に思いつつ、僕が素直に質問に答えていると、国王様の雰囲気が一変した。

 表面上はにこやかなままだが、間違いなく迫力を増している。

 ここからが本番かもしれない。

 人知れず気を引き締めていると、国王様がテーブルに身を乗り出し――


「ところでシオンくん、好きな女性はいるのかな?」


 などと尋ねて来た。

 瞬間、姫様の肩がピクリと跳ね、王妃様は瞳に鋭い光を宿し、こちらを凝視している。

 いったいどうしたんだ……?

 頭の中は疑問符でいっぱいだったが、答え自体は淀みなく返した。


「います」

「ほう……。 それはいったい誰かな?」


 国王様から、剣呑な空気が醸し出される。

 王妃様の目も鋭さを増し、姫様は身を固くしていた。

 僕は3人の様子に困惑しながら、臆することはなく言葉を続けた。


「薬屋のニーナです。 彼女には、いつもお世話になっているので」

「薬屋のニーナ……? 僕の記憶が正しければ、彼女はまだ10歳かそこらだったはずだけど?」

「そうですね。 あと、もう1人の同行者であるリルム=ベネットも好きです。 少し変わったところはありますが、良好な関係を築けそうだと考えています」

「……1つ聞くけど、その好きは恋愛感情としての好きかい?」

「恋愛感情? 僕はただ、彼女たちが好きなだけですが」

「……なるほどね」


 僕の言葉を聞いた国王様と王妃様が、意味ありげにアイコンタクトを取った。

 一方の姫様は何やら複雑そうな顔で、こちらをしげしげと眺めている。

 さっきから何なんだ、この親子は。

 僅かに敬意を失いかけている僕の気持ちを知ってか知らずか、今度は王妃様から問が飛んで来た。


「シオンくん、念の為に聞かせてもらうけど、恋愛感情が何かはわかってる?」

「言葉通りの意味だとすれば、特定の人物に強く惹かれる感情……と言ったところでしょうか?」

「うーん、ちょっと固いけど……大体合ってるかしら。 じゃあ、今まで恋愛したことはあるの?」

「断言は出来ませんが、ないと思います。 大切な人はいましたが、恋愛とは似て非なる感情だったかと」

「なるほどねぇ……。 ソフィア、これはかなりの強敵よ」

「お、お母様! わたしは、その……」


 顔を真っ赤にして俯く姫様。

 何がどうなっている……?

 正直なところ、理解が及ばない展開の連続だ。

 そうして僕が困り果てていると、救いの手が差し伸べられた。


「あ、あの……国王様、王妃様、そろそろ本題に入らないと、次の予定が……」

「おっと、もうそんな時間か。 楽しい時間は過ぎるのが早いね」

「まったくだわ。 もっとお話したかったのに」


 おっかなびっくり進言したアリアによって、ようやくまともな話し合いが出来そうだ。

 アリア、感謝する。

 振り返って目線で礼を告げたが、彼女は焦ってそっぽを向いてしまった。

 やはり嫌われているのだろうか。

 国王様と王妃様は残念そうにしながらも、すぐさま意識を切り替えたようで、真面目な面持ちになっている。

 この辺りは、見事だと言えるかもしれない。

 すると、同じく気を持ち直した様子の姫様も姿勢を正し、真剣な声音で宣言した。


「お父様、お母様、わたしはグレイセスを発ちます」

「うん、遂にこのときが来たね。 可愛い娘を危険な目に遭わせるのは、胸が痛むけど……わかっていたことだ」

「そうね……。 ソフィア、いつ出発するかは決まっているの?」

「シオンさんが良ければ、明日にでもと思っていますが……どうでしょうか?」

「僕なら大丈夫です。 リルムの都合にもよりますが、少し時間をもらえるなら、今日にでも可能です」

「今日はやめておいた方が良いんじゃないかしら。 明るいうちに出発すると目立つから、魔蝕教に狙われるかもしれないわ。 だからと言って、夜に出るのも危険だし」

「エミリアの言う通りだね。 僕の案としては、明日の早朝をお勧めするよ。 それなら、リスクを最小限に抑えられる」

「そうですね……わたしも、お父様の案を支持します。 シオンさん、良いですか?」

「はい。 リルムには、僕から伝えておきます」


 先ほどまでとは別人かの如く、驚くほどスムーズに進む話し合い。

 最初からこうあって欲しかったが。

 それからも、何時にどこから王国を出るかなど、詳細を詰めて行く。

 与えられる魔道具の説明なども受け、順調に旅の打ち合わせは続いた。

 ところが僕は今更になって、基本かつ重要事項を聞いていないことに気付いた。

 このタイミングで口を挟むのは気が引けるが……今のうちに、把握しておかなければならない。


「質問しても良いですか?」

「はい、どうぞ。 あ……も、もしかして、わたしの好みのタイプですか?」

「姫様が何を言っているのかわかりませんが、僕が知りたいのは旅の目的です。 最終的には魔王討伐なんでしょうけど、道中の具体的なことは知りません」

「そ、そうですか……。 えぇと……道中の具体的な目的でしたね。 実のところ、わたしたちも良くわかっていないのです」

「わかっていない……?」

「はい。 ヘリア様からは魔王を討伐するように言われただけですし、過去の記録にも詳しい情報は残っていません。 ただ、方針は決まっています」

「なるほど……。 では、決まっている範囲で構いませんので、教えてもらえますか?」

「わかりました。 まずは、これを見て下さい」


 そう言って姫様が取り出したのは、手のひらサイズのペンダントらしき物。

 らしき物と言ったのは、それが石で出来ているからだ。

 3つの穴が三角形状に空いており、不思議な形をしている。

 だが、それよりも気になるのは……神力を感じること。

 魔道具かと思ったが、それなら感じるのは魔力のはず。

 僕が興味津々にしていることに気付いたのか、姫様が少し得意そうに解説を始める。


「これはグレイセス王家に伝わる、神器(レガリア)と呼ばれる物です。 これまではただの石にしか見えませんでしたけれど、ヘリア様から天啓を授かったときに神力を宿しました」

「天啓を授かったときにですか……。 それで、その神器は何に使うんですか?」

「実はこの神器には、魔王を弱体化させる力があると言われているのです。 ですが、今のままではその効果を発揮出来ません。 なので、最初の目的は神器の力を解放することにあります。 ただ……」

「その方法がわからないと?」

「はい……。 しかし、過去の『輝光』が世界各地を旅したのは間違いないので、わたしもそれに倣うつもりです。 そして、最初に向かうのは清豊の大陸です」

「ふむ……おおよそのことはわかりました、有難うございます」


 姫様から説明を受けた僕は、椅子に座ったまま頭を下げた。

 どうにもまだ、不確かなことが多いようだ。

 女神ヘリアが、どうして情報を与えないのかも謎。

 神器が持つ魔王を弱体化させる力も、どこまで信用出来るかわからない。

 とは言え、グレイセス王家に代々伝わっているのなら、全くの無価値ではないのだろう。

 そのことを思えば、姫様の方針は間違っていないかもしれないな。

 最初に目指すのが清豊の大陸と言うのも、納得出来た。

 この世界には、6つの大陸が存在する。

 そのうち5つが円環を作り、最後の1つが中心にあるらしい。

 光浄の大陸を北に据えて時計回りに、清豊の大陸、熱砂の大陸、天遊の大陸、石窟の大陸と続く。

 そして、中心にあるのは真夜の大陸と呼ばれ、魔族が住んでいるようだ。

 5つの大陸は魔族に対抗する為、協力体制にはあるのだが、完全に信頼関係を築けているとは言い難い。

 そんな中でも光浄の大陸と清豊の大陸は、比較的友好関係を続けている。

 大陸自体の安全性が、清豊の大陸は高い方だと言う観点からも、最初の目的地としては妥当。

 考えを纏めながら僕は話し合いを続け、ようやくして全ての確認事項を終えた。


「こんなところかな」

「そうね。 ソフィア、他に聞いておきたいことはある?」

「いえ、わたしは大丈夫です。 シオンさんは?」

「僕も大丈夫です。 丁寧に教えてくれて、有難うございました」

「いやいや。 これからキミには、ソフィアがお世話になるんだから。 いろいろと」

「そうよ、シオンくん。 ソフィアをよろしくね。 いろいろと」

「……はい」


 怪しげな光を瞳に灯す、国王様と王妃様。

 明らかに含みがあるが、僕としては了承するしかない。

 視界の端で姫様が赤面しているが、気にしないことにした。

 背後でアリアが溜息をついているのが、やけに大きく聞こえる。

 こうして僕は、何らかの企みに巻き込まれながら、旅立つことになった。

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