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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第二章 修羅の道
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2

「…あぁ、彼は青春部部員予定のスズカゼくんか」


スズシロはポツリとそう言った。スズシロも写真でスズカゼくんを見ているため思い出したのかもしれない。

俺は「はい」と頷く。


「ってことはスズシロちゃんも青春部の部員なんすね!それはちょー豪華絢爛(ごうかけんらん)なメンツの部活っすねぇ!」


スズカゼくんはそう言いながら勢いよくスズシロの方を見た。


「…ここだけの話、スズカゼくんが青春部に入ってくれたら更に豪華になるのだけれど、どうだろう」


そうスズシロが声の調子を落として囁くように言った。


「えーめっちゃ魅力的な提案っすねぇ!是非是非」


そう言ってスズカゼくんはクシャリと目を閉じて大きく口を開け勢いよく頭を縦に振った。

そんなスズカゼくんを俺は目を細めて睨む。俺の時と反応が大違いだ。


「ってまぁ流石に冗談っすけどね。部活に入ると色々と面倒ごとも増えそうっすからね!」


そう一言で言い切って高らかに笑った。

俺は小さくため息を吐く。ミシマ先生とはまた違う跳ねるような不安定さをスズカゼくんからは感じていた。

ふと、そこでスズカゼくんが昼間に言っていた「俺の人生で面白い事が何より優先されるっすから」という発言を思い出し顔を上げて口を開いた。


「そういえばスズカゼくん、一つ面白い話を知ったよ」


「ん?なんすか、それは是非聞きたいっすね!」


そう言ってスズカゼくんは手を合わせ目を輝かせながら俺の方を見る。


「美術部、一年のエイカベニって子が部長になったよ」


「うぇえええ!?マジっすか!?ええ、そんな事あるんすねぇ」


鼻の穴から下を器用に引き伸ばし目を大きく見開いてそう言った。

俺はそんな顔に少し笑う。


「いやー面白いっす!自分でハードルを上げて尚飛び越えていく面白さ。キジョウくんお見それしました」


そう言って笑顔で頭を下げた。

俺は軽く手を横に振りながら


「いやいや偶然だよ。多分明日には広まってる事だろうし」


「でも、面白い話には役者も口上も語りも欠かせないっすから、今キジョウくんから聞けてよかったっす」


「そう?なら良かった」


っす。と言ってイタルくんは頷く。

俺はそんな様子に苦笑いを浮かべた。

す、だけ残って元の文がなくなっている。


「あれシノー、とガクくんとイタルくんじゃん何してんの?」


俺たちは声の方向を見る。俺とスズシロのクラスメイトだった。

俺の名前を覚えてくれていたのにも関わらず俺は失礼ながら名前をまだ覚えられていない。


「俺は偶然会っただけっすね、帰ろうとしたらちょうど出くわした感じっす」


「私とガクくんは部活作りの件でミシマ先生と話をしていた」


俺もそれに頷いておく。


「そ、んでミシマ先生と話は終わったん?」


「あぁ、少し前にね」


「んじゃ一緒に帰ろうよシノ」


「わかった。じゃあ二人ともまた明日」


そう言ってスズシロはクラスメイトと帰って行く。

残された俺とスズカゼくんは帰り道が途中まで一緒だったので話しながら下校していた。

そんな時、スズカゼくんが唐突に住宅街にある公園の前で立ち止まる。


「…どうしたの?」


そう言いながらスズカゼくんが眺めている公園を俺も見る。

その公園は住宅街の角にポツンと存在していた。手入れはされているようだがブランコに滑り台なんかの遊具で遊んでいる子供は一人も見当たらない少し寂しげな公園。公園の真ん中には満開の桜が一本あり広い空へ自由に枝を伸ばし桜の花をつけている。ちょうど見頃だった。


「なんかエモいっすね。この公園」


そうスズカゼくんは隣で呟いた。

俺が「確かに」と頷き返事をした時、ちょうど強い風が吹きサァーッと音を立てながら桜が大きく揺れる。白い桜の花びらが空へ舞って桜吹雪が起きた。


「うわっ!エッモー!」


そうスズカゼくんが声を上げながら公園に駆けて行く。そのまま手を広げ桜吹雪の中へと飛び込んだ。スズカゼくんの癖のある髪が風に大きく揺られ気持ち良さげに手を広げ目を瞑って風を感じている。

スズカゼくんはどこまでも自由だ。帰宅途中の高校生がたまに公園の前を通る事を気にして躊躇った俺とは違う。


(…まぁ良いか)


俺もそんな一陣の風が過ぎた後、頭の後ろを掻きながら公園の中へと入った。

もう既にクラスではスズシロと部活を作るという話で注目を集めてしまっている。公園で遊んでいたくらいの噂はきっと誤差だ。


「マジ凄かったすねぇキジョウくん!」


満面の笑みでそう言ったスズカゼくんにうん、と頷く。


「…そういえば青春部が出来たら花見をするらしいよ」


「へぇーそうなんすか、それはメンツによるっすけど楽しそうっすね」


スズカゼくんはそう言って強く頷いた。

高校生らしからぬ無邪気さを持ちつつ大切な所で失言しない。スズカゼくんはそういう人だと昼間から少し分かってきた。


「スズカゼくんは芯の強さを持ってるよね」


そう桜を見上げながら口に出す。

薄い桃色の花びらの隙間から青い空が見えた。

スズカゼくんの芯の所にあるのはきっと「面白い事をする」なのだろう。


「そうっすかね?まぁよく頑固とは言われるっすね」


そう言いながらスズカゼくんはブランコの方へ向かう。

俺はその後に続いた。


「キジョウくんはどうしてゲームクリエイター部に入ったんすか?」


そうブランコに座りつつスズカゼくんは言った。

俺も隣のブランコに座り軽く漕ぎながら「知ってたんだ」と答えた。


「あのゲームやった事あるっすからね。キジョウガクって自己紹介の時に聞いて思い出したっすよ」


俺は「へー」と軽く返事をしてなぜ入ったかを思い出す。

答えは簡単だった。


「部長が作ったゲームに憧れたから、かな。一眼見て天才だと思ったよ。実際天才だったし」


「そうなんすね。それで楽しかったんすか?ゲームクリエイター部は」


「うん。良い人ばっかりだったし、何より部長の統治っていうのかな、それが上手かったから」


「そうなんすか。それは良い思い出になったっすね」


俺は「うーん」と曖昧に返事をする。あの一年間は良い思い出になった。けれど後からきたその分の反動まで考えると良い思い出だけとは言い難い。


「スズカゼくんはどうして音楽を作ってるの?」


そう聞いてみた。

スズカゼくんは「うーん」と言いながら少し空を見た。

その間もスズカゼくんの乗るブランコの速さは上がっていく。もう一メートルは超えていそうな高さまでスズカゼくんのブランコは上がっていた。


「音楽は感情をガツンと動かしてくれるじゃないっすか。涙が出てきたりテンションが上がったり踊り出したくなったり、音楽のあれが好きなんすよ。面白くて」


「へーじゃあ音楽を作るときって大変だなとか、まぁ言ったらさ、面白くないときってないの?」


俺はゲームを作っている時よくある。

その度頭を抱えてそれでもやるしかないと気を取り直して喰らいつくがスズカゼくんは面白い事しかしない、と言っていたしどうしているのだろう。


「んーないっすね!」


「…凄いね。俺なんてバグに詰まる度にやめたくなるよ」


「キジョウくんの方がすごいっすよ。作るのが面白く無くなったら作ってないっすもん俺」


「そうなんだ」


「そうっすね。後はちょっとでも出来たら聞いて、そしたらテンション上がっちゃって更に作ってって感じっすね。そしたらいつの間にか出来てるっす」


「天才じゃん」


「いやいや天才じゃないっすよ。初めの方は下手だけど楽しいからやってただけっす。公開してない不協和音がたくさんあるっすよ」


そう言ってスズカゼくんは笑った。


「そうなんだ」


「っす。よっと」


頷く俺の目の前でスズカゼくんは当たり前のようにブランコが一番高くなったタイミングで飛んだ。


「はぁ!?」


そのまま綺麗なフォームでブランコ周りにあった保護柵を飛び越え膝を曲げて着地する。


「帰るっすよキジョウくん。春っぽい曲作るっす」


そう言いながらスズカゼくんは涼しい顔で立ち上がり膝の土を払い俺の方を向いた。


「あ、あぁ」


俺は軽く口が開きっぱなしだったもののなんとかそう言って頷く。

ただスズカゼくんに合わせて俺のブランコもかなりのスピードが乗ってしまっている。


(…このまま普通にスピードが落ちるのを待ってもらうのも悪いよな)


それにあんな風に飄々と飛ばれると俺もやらなくちゃいけない気がしてくる。

奥歯を噛み締め、鼻から息を吸う。


(いくぞ、いくぞ、いくぞ)


次、ブランコが一番高い所になるタイミングで手を離す。


「キジョウくん危ないっすよ。ブランコから飛ぶのは。慣れてないと怪我するっす」


「やっぱり!?そうだよね!?」


俺はそう言って溜めた息を大きく吐き出した。

その後、しばらくブランコのスピードが落ちるのを待ってもらっていると公園の出入り口の方から二人の男子生徒が俺たちの方に指を刺して走ってきた。ネクタイの色的に上級生だと分かる。

俺はブランコから立ち上がり、走ってくるその二人を待った。


「君、スズカゼくんだよね!曲聴いた事あるよ!フォローしてる!」


「…そうっすか」


と、スズカゼくんは保護柵に腰掛けたままそう言った。一応上級生にその態度はどうかと思うがスズカゼくんは少し不機嫌そうだ。少なくとも職員室前で出会った時より大分声のテンションが低い。

一瞬、先輩はそんなスズカゼくんの態度に眉間に皺を寄せていたのを俺は見逃さなかった。というか隣の俺は無視らしい。


「え、軽音部入ってよ。絶対楽しいからさ」


「いや、一応見たっすけど冷めたんで嫌っすね。てか話つまんないんでどっか行ってもらえるっすか」


「は?舐めてんだろお前」


それからは一瞬の事だった。

スズカゼくんが制服の襟を掴まれ持ち上げられている。

俺は慌てて止めに入るもののかなり力が強い。

もう一人の先輩はニヤニヤと笑いつつ見ているだけだ。


(最悪だ)


そんな時だった。


「そこの方、うちの学校の生徒ですよね。学校に電話しますよ」


はっきりと強い口調で女の人の声がする。

俺はその声の方向を見た。

灰色のふわふわした長い髪、大きな目、キッと横一文字に結ばれた桃色の唇。

スマホを掲げてこちらを睨むような目つきで見ている。

リボンはスズシロと同じ色だから一年生だが見たことのない女子生徒だ。


(…いや、見たことがある!)


写真で二度見ていた。


紫雲雨菜(シウンアマナ)さん」


青春部メンバー予定、シウンアマナ、特技執筆。

あの紙の情報を思い出す。


「…どーして私の名前を」


眉を顰めながらそう言った。

どうやら怪しまれたようだ。


「おいおい、ちょっとした冗談だよ」


「そーそー、なんか誤解があるって」


そう言って先輩はスズカゼくんを離した。スズシロくんはそのまま喉を抑えつつドサリと地面に崩れ落ちる。

良かった、と安堵する俺の横で二人がシウンさんへ駆け出していた。


「マジか」


「「頼む!このことは高校に言わないでくれ!」」


急いで振り返った俺の目の前で二人はシウンさんに勢いよく頭を下げていた。


「このまま何事もなく去ってくれるのなら」


そう強い口調でシウンさんは腕を組みながら言った。

上級者生二人とシウンさんの身長はかなり違うものの見上げているはずのシウンさんが終始圧倒している。


「分かったすぐ出る!ただマジでちょっと揶揄っただけなんだ」


「そうですか」


どちらかのいえば童顔なシウンさんだがキッパリと冷めた口調で言い切る。

その後二人は頷きながら公園の外へ走って行った。


(つえぇ)


そんな二人を見送りつつ舌を巻いていた俺の横でスズカゼくんは立ち上がって軽く一度咳き込んでから


「助かったっす()()()


そう言った。

スズシロの時はスズシロちゃんだったので二人はどうやら知り合いらしい。

そんな俺の予想を裏付けるように


「…どーせスズカゼくんが面白半分に揶揄ったのでしょう。あの先輩たちが可哀想ー」


と、シウンさんが先程までとは打って変わってゆったりとした調子で言って目を伏せ頬を抑えながらため息をついた。

俺はそんな二人の間に挟まれ頬を掻きながら


「…二人は、どう言ったお関係で…?」


そう聞いてみた。

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