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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第二章 修羅の道
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「一旦八方塞がりといった感じかな」


への字口でスズシロはそう言った。


「そうですね」


俺はそう言ってから大きく息を吐き出して「どーしよ」と続けた。


「出来ることといえばもう一度昼休みに声をかけたメンバーに再度、何か良い条件を付けて話をしてみるとか…後はミシマ先生に他の候補者を出してもらうとかか」


「まぁそうですよね」


くしゃりと頭を掻く。

そんな時、美術室からは「うそっ」や「ありえない」と叫びのような声が上がった。

チラリと美術室の方を見て「あちらも大変そうだ」とスズシロは肩をすくめている。


「とりあえず俺はミシマ先生の元へ行ってきます。今朝渡したゲーム案がどうなったかも見たいので」


「ついでに今日の報告といった感じかい?」


「そうですね。えっとスズシロはどうする?」


と、言いつつ敬語とタメ口が混ざった変な日本語だなと苦笑いをする。

まだうまく友達の距離感を掴めていないらしい。


「そうだな、じゃあそれに同行しても良いだろうか。報告をガクくんに任せっぱなしというのも悪い。というのは半分ほど建前で本当はゲーム作りに興味があってな」


ニコリとそう微笑んでいうので「もちろん」と頷く。

俺もこうサラリと冗談が言えるようになりたいものだ。


「ミシマ先生いらっしゃいますかー?」


放課後の職員室、教員の方は割とまばらだった。

その中で紙に赤ペンを入れているミシマ先生を見つける。

三度目となると流石にミシマ先生の席の位置も覚えていた。


「失礼します」


「おぉ、来たか。だいぶ修正終わったぞ。ちょうどいいシノも一緒か」


そう言いながら今朝渡したゲーム案が返された。

受け取って軽く見る。かなり細部まで赤ペンが入っているもののシステム面の修正がほとんどだ。

フリー素材の寄せ集めになりそうなデザイン面の方が俺としては課題だったが、それは仕方ないと割り切ったのだろうか。

一旦俺はゲーム案を見終えたので隣のスズシロに渡す。


「ミシマ先生、ゲーム案の話の前にメンバー集めの報告なんですけど全員から断られました」


「まぁ普通に誘えばそうだろう。シノもガクも初めは断っていたし予想はついていたんじゃないか?」


ミシマ先生は頷きながら軽い調子で言った。

俺は少し苦い顔をする。

難しいとは思っていたが全員から断られるとも思っていなかった。


「…それと」


俺は一息置いてから


「エイカベニさんなんですが美術部部長になりました」


そう言った。


「あーやっぱり。あの制度だとそうなるよね」


そう言った後ミシマ先生はハッハッハッーと高らかに笑い飛ばした。

俺は眉を顰める。

それなりに重大な話をしたと思うのだがミシマ先生にとってエイカさんはその程度だっということだろうか。


「いや何、変わらず彼女をメンバーに誘ってくれ。別に部長であろうと部活の兼任は出来るだろ」


「ですがミシマ先生。変わらず彼女をメンバーに誘うというのも勿論分かりますが、この学校の部活の制度で部長と部員を兼任となるとあまり美術部側に良くないかと思いますが」


スズシロはその後、ありがとう、と言ってゲーム案を俺に渡した。

俺は受け取りつつ首を傾げる。スズシロが言っていたこの学校の制度、というのはなんの話だろう。


「ん?あぁ美術部で部長クラスの奴が他の部活ではただの部員クラスだって事か」


「えぇ、不本意ですがそういう形になってしまうかと」


「気にすんな。あの制度なら俺たちのせいじゃない。どうせいずれそうなると思っていたさ」


まぁ流石に一発で部長になる生徒が出るとは思わなかったが、と曖昧な笑みを浮かべながら言ったミシマ先生の方を見ながら俺は「あのー」と小さく手を上げる。


「水を差すようで申し訳ない。この学校の制度ってなんですか?」


腕を組んで眉間に皺を寄せていたスズシロがパッと表情を変えて俺の方を見る。


「いや、私こそすまない。説明不足だった。この学校の部活、その評価をつける制度の話だ。詳しい事は生徒会にしか知らされていないから分からないが、生徒間に広がっている憶測の話は聞いている」


「ちょうど良い。二人に前渡そうと思って忘れていた紙がある。前年度三学期の部活ランキング表だ」


そう言ってミシマ先生はデスクから紙を取り出した。

紙には25組の部活の名前、評価点数、そして配られた部活動活動資金が書かれていて一番下に生徒会運営費も書かれている。

俺は紙に書かれているのを目で追いながら次第に表情が曇っていった。

パッと目に付いたのはランキング毎の部活動活動資金の差だ。


(これは…)


25位の放送部と1位である野球部の金額は二万以上違う。

というか三学期といえば一月も冬休みだし三月も春休み、それで二万ほどの部活動活動資金をもらっているのはかなり不満を募らせるような気がした。

生徒会運営費も三学期だけで一万弱ある。明らかに部費が足りていないであろう部活も見受けられる中でこれはどうなのだろう。


「まぁガク、言いたい事は分かるがその制度を変える事自体は難しいだろう。大凡の保護者からの評判はいいしな」


「…そうなんですか?」


俺は紙から目を離して顔を上げる。


「部活に入っている生徒のほとんどは毎年2000円の部費分なんて簡単に元が取れる。ただでさえ部活なんて金がかかるんだ。ユニフォーム代だけでも全額浮いた家庭なんて絶対にこの制度を続けてほしいだろ。俺も親だから子供の通ってる高校にこの制度が欲しい。そしてなるべく順位の高い部活に入ってほしい」


「世知辛い…」


ていうかミシマ先生に子供いたんだ。


「それだけじゃない。学期毎のテストの点や学校内での素行なんかも部活ランキングの評価対象だから勉学の面でも部活内での勉強会があったり、寝坊予防の活動をする部活もあって大凡好評だ」


「…逆にどうして他の高校がしないか不思議なほどですね」


「できないからだろ。うちほど優秀な生徒会は見たことがない。うちの生徒会の完全な管理体制じゃなければ部活でよくある、よくない問題がすぐ発生するさ。それを教師も保護者も理解している…それも凄い事だがな」


俺はひとまず頷いておく。

恐らく先程スズシロが話していた部活の制度というのがさっきミシマ先生が言っていた事に繋がるのだろう。


「そもそもこの学校は他に比べ部活に当てられてる資金多いんだよ。文化祭とか超盛り上がってるし部活も結構結果を残してる所多いから。毎年この高校が出してる報告書見れば分かるけど」


「ちなみにガクくん、チア部は生徒会を通して何円かの部費さえ流せば踊ってくれるらしいぞ」


若干、乗り気な様子でスズシロがそう言った。目が輝いているようにすら見えてくる。

俺は苦笑いしながら「そうなんだ」と頷いておいた。

部費ってそんな感じで流していいのかと思わなくはないが…というか青春部にチアリーダーをつけて何を応援してもらうんだ。


「ただ俺としては生徒会が公表している唯一の評価基準、各部活に参加している生徒の能力というのは少し残酷かつ不透明ではあると思うがな」


そう言ってミシマ先生は顔を顰めた。

スズシロも「現にうちの高校の部活は厳しいと噂があったしな」と補足を入れる。確かに俺も入学式でそんなことを聞いた気がする。


「まぁただ、かなり謎だった部活の仕組みについてはわかりました」


他の高校よりこの高校は部費の使い方の自由度が高く部活に入っている生徒はランキングをあげて貰える部費を多くしようとしているのだろう。

そしてスズシロが気にしていた美術部では部長であり仮に青春部に入るなら部員になってしまうという問題もようやく本格的に見えてきた。

まぁただやりようはいくらでもあるので恐らくスズシロの本当の目的はエイカさんじゃない誰かを新しく推薦してもらう事…は考えすぎだろうか。


「よし、なら話を戻すか。メンバー勧誘の一旦の報告は分かった。引き続き同じメンバーを誘ってくれ」


そうサラリとミシマ先生は言った。

俺の「変更無しということですか」という質問にも同じような調子で


「あぁ」


と頷かれた。


「俺は楽しみにしてるぞ。二人がどういう手を打つか。天才ゲーマーと称されるスズシロと天才の背中を追い続けるガクの一手は」


ニマニマと嫌な表情でミシマ先生はそう言う。

自然と俺とスズシロはお互い顔を見合わせていた。俺はわざと作って顰めっ面をしてスズシロは大袈裟に肩をすくめた。

そんな期待をされても困るというものだ。


「まぁただちょっと部活作りはやる気が出てないみたいだが、どっかで出すだろ本気とやらを」


(…酷い言われようだ)


俺はそう心の中でため息を吐いて本題のゲーム案の修正へと話は進む。

修正部分に対して俺は基本的に頷くことしか出来ないでいた。なにしろ必要な技術面においての知識量が段違いでむしろミシマ先生が求める事に対して俺の理解が出来ない事が多くミシマ先生を手間取らせてしまっていた。

それから俺たちは一時間ほど打ち合わせをして俺はあらかた修正に対しての質問を終えた。これからミシマ先生は部活の見回りに行くらしく職員室を出て行ったので俺たちも後に続く事にする。


「スズシロはこの後どうする?俺は一旦家に帰ってこのゲーム案の修正を見つつ作業するけど」


「そうか…なら私も今日のところは家でゲームをしつつエイカさんの事を少し調べてみるとするよ」


「うん。分かった」


そう頷きながら職員室を出た時だった。


「あれ?キジョウくんお昼ぶりっすね、あれスズシロちゃんもいる」


そう誰かが気さくに話しかけてきた。

俺たちは立ち止まり話しかけてきた方を見る。

透き通るような水色の少し長い癖っ毛のある髪、耳に銀のピアスをしてネックレスを首から下げて制服を着崩し少しどこかチャラい。そんな男子生徒が笑いながら軽く手を上げていた。


「お昼ぶりスズカゼくん」


俺は涼風至(スズカゼイタル)、青春部メンバー予定の一人である彼に軽く手を振り返した。

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