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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第一章 お互いを知って
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6

俺は一旦、リビングにバックを置いて中からミシマ先生から受け取った青春部メンバー予定の紙を取り出す。それから一つずつ確認しながら机に並べた。


(全員、他のクラス。名前と写真と特技以外なく、特にこれといった共通点も見当たらない)


強いて言うならミシマ先生の言っていたもう既に修羅の道を歩いているメンバーという事が共通点になるのか…なんだよ既に修羅の道を歩いているって。

顰めっ面で紙をしばらく眺めていたものの特に何か浮かぶわけでもなく一旦、夕食を食べるため紙をバックに戻して部屋に置く。


(分かっんねぇ事だらけだ色々と)


自室の扉を閉めてから大きく息を吐き出した。

ともかく明日はこの紙に書かれた生徒たちに青春部の勧誘を行わなくちゃいけない。

チラリと机の上に置かれたままのパソコンを見てから俺は部屋を出た。

今後俺のゲーム作りは大丈夫なんだろうか。頼むぞミシマ先生。

そんな事を考えていた翌日の事だった。


「で、そう言えばガクのゲーム作りはどこで詰まってるんだ?」


朝のホームルームが終わったタイミングでミシマ先生からそう声をかけられた。

俺は眉を顰め、口を軽く開け教卓に肘をついているミシマ先生の方を見上げた。


「なんだよ。そんな怪しむなって、普通に助けるさ。俺だって久々にゲーム作りはしたいし」


「えぇ」


「そのかわり言った事、ちゃんと守ること」


人差し指を立ててそう言う。

俺は頷いた後バックに手を伸ばし一応と持ってきた今作っているゲームの設定資料を取り出した。


「とりあえずこれの確認をしてほしいです。このシステムの段階までは完成してるんですけど、正直言ってなんかうまくいかなさそうというか、人気にならなさそうで」


「人気ねぇ…まぁ良いや。オッケー確認しとく。ここの所のシステムまでは出来ているんだね」


「はい。お願いします」


そう言って俺は頭を下げる。

ミシマ先生は「はいはーい」と答えつつヒラヒラとゲームの設定資料を振りながら教室から去っていった。

ちょうど顔を上げたタイミングでスズシロが先程ミシマ先生が出て行った教室の扉の方を見ながらやってきた。


「さっきミシマ先生が持って行ったのはガクくんが今作っているゲームの資料かい?」


「あぁうん」


俺は頷く。

どうやらスズシロは先程のやりとりを見ていたらしい。


「ちゃんと約束通りゲーム作りの方も手伝ってくれるんだな。ミシマ先生は」


「えぇ、本当に関われば関わるほどよくわかんなくなってきます」


そう言って俺は肩を竦める。

スズシロは少し考えるような素振りの後


「あぁ、ただミシマ先生がゲーム作りに動き出したという事は逆に言えば私たちの方も青春部作りの方に動き出さなくてはいけない。ミシマ先生からしてみれば私たちに青春部を作らせる動きをしたという事かもしれないぞ」


「どうでしょう。ミシマ先生がそこまで考えているか現時点では全く底が知れません」


そもそも何故ミシマ先生は青春部を作ろうとしているのか、作ってただ本当に夢に向かっている生徒達に青春をさせるのが目的なのかすら今のところ分かっていない。


「そうだな。まぁただ…」


スズシロはそこで言葉を止め、少し考えるような間が空く。


「まぁ、ただそう言っていても仕方ないのでとりあえずこの先の問題は青春部を動かし始めてからって感じで」


「それしか、ないだろうな。あとはタイミングが有れば直接ミシマ先生に伺ってみるとかだな。答えてくれるかどうかは置いて」


「えぇ」


そこから二人で話し合い一旦昼休みに青春部メンバー予定の人に声をかけに向かうことにする。

俺は特技、作曲の男子生徒を担当しスズシロが残り二人の女子生徒の方を担当する。

昼休みになり満を持して二人、勇んで教室を出たものの


「俺の方はダメでした。申し訳ない」


男子生徒からは青春部が動き出して面白そうなら入る。青春部に勧誘に来たことは覚えておく、と言われてしまった。なんならバイトも既にしているらしく忙しそうで強くは言えなかった。


「残念ながら私の方も断られてしまった。既に部活の勧誘を受けていてそこに入るか考えているらしい。あと一人は探したのだがどこにいるかさっぱり」


スズシロはそう言って肩を竦める。


「弁当を持って教室を出たのは同じクラスの生徒が見たらしいが、食堂を探しても中庭を探しても屋上を探しても見つからず…お手上げといった具合だ」


「じゃあ、まぁ一旦その生徒は放課後にしましょうか」


「あぁそうだな」


そう言って放課後にまた集合する事になった。

授業中、最後の一人も難しそうだな、と青春部予定メンバーの紙を机の下で眺めていた。

名前栄花紅(エイカベニ)。特技、イラストを描く事…か。

添えられた写真に視線を移す。

カメラから若干視線を逸らした大きな目。ピンと張った長いまつ毛。灰色の混ざった紫色の髪の毛は長く、先の方は緩くウェーブがかかっている。よく見れば黒いピアスも耳にしている。これだけ特徴が有ればこの学校でも割と探せると思うが…


「あれ…」


放課になってすぐにエイカさんの元へ向かう為に教室を出た俺たちは同じようなタイミングで隣の教室から出てきたエイカさんを見つけた。

すぐさまスズシロが「あぁ」と呟いたかと思えば


「少し待ってくれないか、そこの方」


と、手を上げて駆け出していった。

エイカさんの方は声をかけられて尚気がついていない様子でそのまま進みスズシロが肩を叩いた所でイヤホンを外して立ち止まった。


「なんですか?」


そう淡々と抑揚無く言って振り返ったタイミングで俺も合流する。

怪訝そうに眉を顰め突然話しかけてきた俺たちを警戒しているようだ。


「突然話しかけてすまない。貴女はエイカベニさんだろう?私たちは青春部の勧誘をしているのだがどうだろう?まだ部活に入っていなければ是非一考してほしい」


「…部活の勧誘」


パス、それともう話しかけないでもらえる。じゃ私行くからくらい言いそうなオーラを感じつつ俺たちは返事を待った。

正直、あまり期待出来そうにない。


「…じゃあ、もし今からいく試験であーしが低い点数を取ったら部活でもなんでもしてあげる」


「試験?」


俺はそう言って首を傾げた。

放課の今から試験があるのか?

そんな時、エイカさんは俺を睨むような目付きで真っ直ぐ見た。


「あなた…どこかで」


そう口にした。

ただ俺はエイカさんを知らない為、両手をあげ何もない事をアピールする。


「まぁ良いか。そう美術部の試験。美術の先生が出すお題を今から描くの、だからその間待っていられるのならだけど」


「あぁ、もちろん待つさ」


そう言ってスズシロが強く頷く。

俺も頷いた。それくらい部員になってくれるのならなんて事はない。


「そ」


と、言ってエイカさんは先を行く。俺たちはその後ろをついていった。


「じゃあ」


そう言ってエイカさんは俺たちの方も見ずさっさと美術室へ入っていった。

しばらく時間がかかりそうなので俺は廊下の壁に背中を預ける。隣で同じようにしてスズシロが立った。


「美術部って入部に試験がいるんですかね」


「いや、いらないはずだ。美術部員の子が友達にいるがそんな話は無かった」


「そうなんだ」


と、頷きながら俺は廊下から歩いてくる女子生徒二人組に目をやった。

スケッチブックを持って談笑している。胸元のリボンの色がスズシロと違うので恐らく上級生だ。

俺はその二人の元へと近づいて声をかけた。


「すいません。突然なんですけど二人は美術部員だったりしませんか?」


二人は一瞬目を丸くしていたもののすぐに「あっはい部員です。何か美術部に用事ですか?」と頷いた。


「今、中で試験が行われてるって聞いてどういうものなのか聞きたくて」


「試験?」


「あれじゃない?もううちらはやったけど美術部の入部する時にやったやつ」


「あぁ画力テストか」


俺は「画力テスト」と呟く。

高校の美術部でそんな美大みたいな事をしているのか。


「うーん、なんていうか。自分の絵の実力を数値化して今後どれを改善していくか顧問の先生に見てもらうやつなんだよね」


「その点数で部長、副部長決めたりするんだけど…それがどうかしたの?」


「いえ…実は同級生の子が低い点数を取ったら何でも言う事を聞くと言って挑んだんですけど、どれくらいが低いのかってわかります?」


俺がそう言い切る前に二人は吹き出して笑っている。

しばらく笑った後


「ごめんね。笑っちゃって、すごいお友達だね」


と、言われた。

友達というか部員予定だが言ったら話がこじれそうなので黙っておく。

それからその美術部員の先輩たちは少し考えるような間を空けてから


「えっと、低い、低いか。一年生でしょ?50点以下くらいが割と低い方かな」


「でも50点もたまにいるから、この高校の美術部は入ってからが本番だし」


「普通にテスト厳しいからねぇ」


俺は「そうなんですね」と頷く。


「ちなみにそれって100点中って事ですか?」


「いや、500点満点中、5項目に分かれてるやつなんだけど、まぁ見て貰えば早いかも」


「え、君も美術部に入りたいとか?」


「あーいえ、別にそういうわけではなくて、今はその同級生を待ってる所です」


「そうなんだ。じゃあそんな時間はかからないと思うけど」


そう言って二人は美術室へと入っていった。

俺はお礼をして頭を下げる。

振り返るとスズシロは同級生の生徒と話していた。

邪魔するわけにもいかないのでしばらく廊下の壁に立ちスマホを触っていた。


(張り紙…)


ふと、美術部の部屋の磨りガラスの窓に張り紙がある事に気がつく。

近づいて見てみると画力テストのランキングだった。


(三年生で410点が一番上、400点台の三人は全て三年生か)


「あ」


俺は表の中で一年生の最高得点を叩き出していた名前に覚えがあった。

一年生で300点前半という二年生にも負けない得点を叩き出していたのは元ゲームクリエイター部のイラストを担当していた部員だった。


(中学でこれ以上に上手い絵を描ける人はいないだろ)


あの伝説になったゲームを作った時も三年生に混じってメインのイラストを担当していた。

その裏付けされた実力は本物。

これで恐らくエイカさんが一年最高得点を叩き出す事は無い。

俺は大丈夫、と呟いて再び廊下の壁に戻った。

そんな時、スズシロが話し終えたらしくやってくる。


「あっシノちゃーん。エイカのテスト終わったらしいよー」


美術部の扉を開けて先程スズシロと話していた生徒が俺たちへ声をかけた。


「はーい、ありがとう」


そう返事をしてスズシロは俺の方へ向き直った。


「エイカさんと同じクラスの生徒に話を聞いたのだが、そもそも教室で絵を描いているのすら見た事がないらしい。ずっと一人で音楽を聴きながら机で寝ていると言っていた。美術部にエイカさんが入ることすら驚いていたほどだ」


「特技、イラストを描く事なのにか…」


俺は首を傾げる。

何か間違いでもあったのか…

そんな時、美術室の後ろの扉が開きエイカさんが出てきた。


「本当に待ってたんだ」


駆け寄る俺たちの方を見て相変わらず淡々とした口調でそう言った。


「もちろん、まぁ貴女が低い点を取るとは思っていないのだが私たちもそれなりの事情があってね。万が一の確率にでも縋りたいのさ」


スズシロはフッと笑いながらそう言った。

俺はその隣に立って正面に立つエイカさんの様子を伺う。落ち込んだようには見えないが、そもそもあまり感情を表に出すタイプにも思えない。


「そう…あーし、478点だったから」


「え…」


「暫定あーしが美術部部長になったって事」


エイカさんは淡々とそう言った。


「うそ…」


口から思わず言葉がこぼれ落ちた。

腹から力が抜けて笑いすら出そうになってくる。


「騒がれるの面倒だしあーしもう行くから、あと部活の話は無しで。これなら低くは無いでしょ」


とエイカさんは言い残し唖然とする俺達をおいて去っていった。

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