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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第一章 お互いを知って
6/19

5

俺は目を見開き息を飲んだ。

飛び込んできたのは視界いっぱいに広がるゲームソフト。ずらっと壁一面に広がる棚に陳列されている。

他にもたくさんのゲームに関連したものが部屋に散りばめらていてパッと見の印象は女の子の部屋というより博物館に近い。部屋が白くシンプルな家具で統一されているから余計にそう感じるのかもしれない。


「すげぇ」


思わず声が出る。

しばらくポカンと口を開けたまま眺めていた。


「…これさ、私のコレクションなんだ」


「へぇ…すごっ」


そう口にしながら棚へ近づく。

一度手を伸ばしてから引っ込めてスズシロの方へ振り返り「これ見てもいい?」と聞いた。コレクションというだけあってきっと大切なものだ。迂闊に触るわけにはいかない。


「え?あ、うん。もちろん」


そう言って目を丸くしたスズシロがコクコクと頭を上下に振り頷いた。

俺はゲームソフトの入った薄い箱を引き抜いて見る。ゲームソフトは世界中に沢山あるのだろうと漠然としたイメージで分かっていたつもりだったが実際目にするとその数の多さに圧倒された。

これをスズシロは集めていったのか。


「すごいな」


手に取ったゲームソフトを戻しながらそう言って振り返った。


「そっそうか。そんなに褒められるとは思っていなかった。もしかしたら引かれるかなと、身構えていた過去の自分が恥ずかしい限りだ」


ハハハッと軽く笑いながらスズシロはどこか視線を彷徨わせながらそう言った。


「実は初めて私のコレクションだと紹介した。いつもは父のものを置いていると紹介している。まぁそれもあながち嘘じゃないが、父は父でまた別にコレクションしている。もっぱら父は本当にコレクションしているだけで私と違いゲームをあまりしないが」


「へぇ」


俺は頷く。

どうやらスズシロのコレクション癖は遺伝らしい。

にしても父は父なんだ。


「ガクくんにそう言ってもらえて良かったよ」


そう言ってスズシロはやっと俺の方を見た。それから笑いながらベットに腰掛ける。

少しシーツに皺の寄ったシンプルなベット。ベットの上にはゲームのキャラクターのぬいぐるみが置かれている。俺は見てはいけないような若干の気まずさから視線を逸らした。


「あっそうだ。じゃあこれも見てくれガクくん!これも私の自慢の一つなんだが」


そう言って(おもむろ)にベットを弾ませて立ち上がり部屋にあったクローゼットを開く。

それからスズシロはクローゼットの中から箱を抱えて戻ってきた。箱の中にはガラスのトロフィーやら何かの表彰状らしきものが見える。


「これはゲームの公式大会優勝カップ。これはイベントの優勝カップ。オンライン大会での準優勝の表彰。そのほかにも色々あるが私の良かった戦績達だ。中学生という制限の中で頑張って集めたものだ」


そう言いながら箱をベットに置いてトロフィー達をベットの上に並べていく。

そのトロフィーがどれだけすごいものかゲームの大会などチェックしない俺には分からない。

けれど


「すごい!天才!」


そう言って俺はできる限りの笑みで手を叩いた。

そう言われて嬉しい事は分かる。


「だろ!?やはりわかってくれるか!」


スズシロは目を輝かせながら顔を近づけ俺の手を取ってグッと握った。

頷き笑いながら、思う。俺の想像以上にスズシロは変わっていた。


「本当にゲーム好きなんですね」


「あぁ、好きだ。誰よりも好きだ」


スズシロはそう強く言って頷いた。


「そしてきっとこのコレクションにガクくんの作ったゲームは並ぶ。そうあのゲームをやって感じたよ」


「こんな名作揃いの棚にですか?」


あまりに強く言い切るので俺は少し気圧され苦笑いしながらそう言った。

正直、今の行き詰まった状態でここに並ぶようなゲームが作れるとは思えない。


「あぁ、絶対並ぶ」


真っ直ぐ俺の目を見ながらそういうので俺は目を丸くしてから「そうですね」と頷いて笑った。


「シノちゃん、盛り上がってる所悪いんだけどお茶とお菓子用意したから。お部屋の前に置いておくね」


扉の奥からそんな声がかかる。


「はーい」


そう答えスズシロはパッと握っていた手を放し扉の方へと浮かれた調子で歩いて行った。

俺はそれを見ながら小さく息を吐き出す。心臓の鼓動は少し早く握りしめていた手は少し汗ばんでいる。手にはまだ少しスズシロの手の感触が残っていた。


(…嬉しい)


そんな手を眺めながら思い出す。名作揃いの棚に絶対並ぶ、そう強く言われた。

心の奥が温かいような気がしてフッと小さく笑った。


「さて、お茶とお菓子がきた事だしゲームでもしよう」


そう言いながらスズシロはお盆にクッキーとグラスのコップを乗せたものを持ってやってきた。

部屋の真ん中にあった小さなテーブルにお盆を乗せ二つクッションを並べ鼻歌交じりにゲームの準備を始めた。当たり前のようにあったがパソコンがニ台にモニターが三つある。それ以外にも様々なゲームの本体がテレビの周りに収納されているのが見えた。

しかし、ゲームか。了承してしまったが俺は…


「何かガクくんはやりたいゲームなんかあったりする?」


「え、いや特には」


「そうなのか、じゃあ予定通り今流行りのバトロワにしよう。あれならどんな層でも楽しめるだろう」


「はいっ!!」


「ん?」


手を真っ直ぐ上げた俺にスズシロは首を傾げた。


「俺…超ゲーム下手だけど…良い?」


苦笑いしながら頬を掻いた。

ゲームでは嫌な思い出がある。中学の頃ゲームクリエイター部でゲーセンに行って太鼓のゲームはかんたんがクリア出来なかったしレーシングゲームは最下位しか取れなかった。

そんな俺の心配をよそにスズシロは高らかに笑い飛ばし


「そうだったのか。まぁ今回はガクくんが楽しんでくれるだけで嬉しいからガクくんは姫になったつもりで私に勝利を奢ら(キャリー)させてくれ」


「カッコいい」


そう言いながらついつい笑ってしまった。

あまりにもカッコ良すぎる。


「だろ?」


ドヤ顔でそう言って、試合が始まった。


「ガッガクくん、そんな格好で…


そこまで言って堪えきれなくなったように吹き出した。

颯爽と飛行機から降り立って戦場へ行ったスズシロの後を同じように追ったはずがプールの飛び込みに失敗したような腹打ちの格好で俺は降下していく。レバーを前に倒すことを教わるまでだいぶ空中を散歩していた。


「ガッガクくん、どうして首ッ首を傾げてるんだい」


そう言ってスズシロが隣でコントローラーを置いて笑い転げた。

俺はというとゲーム内のキャラクターと同じく首を傾げる。ゲーム内のキャラは頑張って両手を振って戦場を走っているけれど。どうして首を傾げているのかは俺が聞きたい。何か悩みでもあるのだろうか。


「ポヒュ?」


「ガッガクくん、それはちょっと待って、今笑かさないで、敵、敵」


そう言って笑いながらスズシロはまた敵の部隊を壊滅させた。

俺はそれを見守りながら手元に残った銃を見る。久々に敵を見たので一生懸命狙った撃った銃だったが多分、これは救難信号を上げる信号拳銃だ。なるほど、こんなものもあるのか。まぁあるか戦場だし助けは呼びたいよな。


「すっ凄いよ。そこまでいけば才能だガクくん!」


結局、なんやかんやありつつ一試合目から宣言通り勝利を奢ってくれたスズシロは笑いながらそう言った。

そうだろうか、ゲームが下手な才能は特にほしくなかった。ランクよりは簡単らしいモードとはいえ敵をバッタバッタと薙ぎ倒していくスズシロの方がそんな才能よりもきっと凄い。

まぁゲームは面白かったから良かったが、自分の下手さには少し呆れた。

口を尖らせながら「そう?」と何気なくスズシロの方を見た。

スズシロはまだ笑っていた。


「…ッ」


顔を赤らめ涙を浮かべながら顔をかかった髪を耳に掛けつつ「あぁ」と俺の方を見て頷く。

俺はその時のスズシロをうまく見れずゆっくり顔を逸らした。

なんだか俺だけドギマギして調子が狂う。


(スズシロは俺のことなんとも思ってないんだろうな)


多分、スズシロはみんなにこんな感じだ。


「そんな面白い?」


「あぁ、あぁ」


強く何度も頷き、その度金色の髪が大きく前後に揺れている。

そういえばスズシロはゲーム中もほとんどずっと笑っていた。その笑いに釣られて俺も面白くなってくる。そんなに笑ってもらえるならゲームをやった甲斐があったというものだ。

フッと笑い軽く腕を伸ばして部屋の壁に飾られたゲームの棚に再び目をやる。これだけのゲームをやった事があると知らないことなんか無くなって逆に俺の初心者具合がスズシロにとって新鮮だったのかも知れない。

それからしばらくしてようやく笑いが収まったスズシロは目に浮かんだ涙を拭いながら


「私の方が凄く楽しんでしまったよ。ありがとう」


ニコリと笑ってそう言った。

そう言う事を簡単に言って…俺は心の中でため息をつきつつ「俺も楽しみましたから」と返した。

それからもう何戦かして全勝した所でスズシロのお母さんから夕飯を食べていく?と聞かれ、家に夕飯があるので帰ります、と答え二人に見送られながらスズシロの家を出た。


「また明日…か」


まだ少し肌寒い春の夜道を歩きながら俺はそう呟いて笑った。


「ただいまー」


「おかえりー遅かったね」


リビングから父親の声がする。久々におかえりと言われた。


「うん、友達の家で遊んでた」


「「友達!?」」


両親揃って驚いた。


「へぇーよかった。ついにかぁ」


「もう出来ないものかと思ってた」


「失礼だな」


そう答えながら何気なくリビングに入りつけっぱなしのテレビを見た。


「関東では桜の見頃はあと数日で終わりを迎え〜


ふと、ミシマ先生の言っていた事を思い出す。

「直近に控えているのは花見だ。あと1人加入して同好会にしたら少し北の方へ遠征しに行く。2人には桜が散る前に1人加入させてくれ」


「…まずい」

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