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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第一章 お互いを知って
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3

「…どっどうして…ですか?」


なんとかそう声に出した。

スズシロさんはふむ、と小さく呟いて軽く眉間に皺を寄せ顔を逸らし顎に手を添えた。

それから少しの間があって


「君の才能に惚れたから…かな」


そう言った後、スズシロさんは「こう直接声に出すと少し恥ずかしいな」と言って歯に噛むように少し笑った。

俺は「…あぁ」と呟く。それからゆっくりと俯いてアスファルトの地面を眺めた。

スズシロさんが昨日持っていた懐かしいパッケージを思い出す。あのゲームを企画して大まかな内容を決めたのは、部長だ。

ただスズシロさんの気持ちは痛いほどに分かる。部長の作ったゲームは万人を魅了する力がある。俺もそうだ。初めて部長の作った第1作品目を見てゲーム制作なんてした事の無かった俺がその日のうちにゲームクリエイター部へ入部していた。なんなら全然関係ない言語だったけどプログラミングの教科書を勢いで買ってしまうほどなのだから。


「スズシロさんが惚れた才能は俺のじゃなく、部長のものです」


なんとか笑顔を作りながらハハハ、と力無く笑ってそう言った。

一瞬、スズシロさんにそう言ってもらって思わず舞い上がりそうになった心の分だけ少し痛い。


「え?」


スズシロさんはそう言って目を丸くする。

そのあと、不思議そうに首を傾げながら


「でも、あのゲームはゲームクリエイター部部長もゲームプランナーも机上學になっていたぞ」


「え?」


今度は俺が実に間抜けな声を出していた。


「俺が部長の頃に作ったゲームは公開していないはずです。データも中学の部活用パソコンか、俺のパソコンにしか無い…はず」


他の部員がディスクに移した…いや、それはほぼ無い。その確率はゼロに等しいと言い切れる。

俺はまだ自分のゲームが誰かによってディスクになっている事実を疑っていた。


「それはどんなゲームでした?」


「ん?中学生たちが夜の学校を探索する雰囲気のあるホラーゲームだったな。万人受けはしないだろうが私は面白いと感じたよ。まぁ、だから中途半端な所で終わっていて大変残念だった」


そうスズシロさんが言い終える前から少しずつ俺の眉間に皺が寄っていった。


「それは…確かに俺が部長の頃に作りかけたゲームです。途中で作るのをやめてしまったんですけど…でも、なんで…」


「そうか!なら良かったよ。こんな告白をしておいて人違いでした、なんて事になれば私はきっと蒸発してしまうからな」


そう言ってスズシロさんは高らかに笑う声がした。

俺は「はい」と呟くように答える。それからディスクを作ったのは誰が何のためにしたのか、心の中で首を傾げ俯いて頭を回す。

部員の誰か、という線はおそらく消していい。それならば中学校にいた教員の誰か、例えば顧問…いや、それも無い。パソコンの使い方すら分からない、と言っていた。

じゃあミシマ先生が中学校へ行ってディスクに写した。

それもあり得ないだろう。パソコンの知識はあるだろうからディスクへ写すくらいの事は出来ても、それをする理由がない。そもそも、俺がミシマ先生の生徒になるとは限らないじゃないか。

いや…まてよ。


(じゃあなんで、俺にミシマ先生が考えたあのゲームを渡したんだ。さも当たり前のように机から取り出していた。てっきり常に引き出しにゲームソフトをしまっている人かと思ったが、そうじゃなくて事前に俺たちに渡すように準備していたからではないのか。そもそもミシマ先生は部活を初めから作るつもりだった。それなら担任かどうかはあまり関係がない)


「で、私の意見は言ったわけだがキジョウくんはどうだろうか?青春部とやらを作るのには賛成か反対か。この際私の意見は聞いていなかったことにしてくれても構わない。気にせず正直な意見を私は聞きたい」


そんな声がして俺はハッと顔を上げる。

それから少し何を言うか考えて


「本当は部活なんて作りたくありません」


「あぁ」


「でも、ミシマ先生の力は借りたい。借りなければ割と俺の考えているゲーム案が手詰まりな感じがあるんです」


「…ミシマ先生の力を借りたいと言うのは、先生が昔、ゲームプランナーをやっていたからかな」


俺は目を丸くする。


「知っていたんですか」


「あぁ、昨日キジョウくんが持っていたパッケージに思いあたる節があってね。調べてみたらゲームプランナーがミシマ先生で驚いたよ」


「はい。俺もです。まさかあんな先生が泣ける作品を作っていたなんて」


「確かに」


そう言って二人で小さく笑う。


「だから、仕方なくですがミシマ先生の考えに乗ろうかな、と。それに…」


俺はそこで少し言い淀む。

仮にスズシロさんが部活作りに賛成をした時の案は事前に少しだけ考えていた。

が、まさかスズシロさんがあんな事を言うとは思っていなかったので、そこから言葉をどう続けるかは考えていなかった。だから今、どう答えるか考える。


「ん?」


スズシロさんは首を傾げた。

俺は小さく息を吐き出してから


「俺の足りていない才能に何か見出してくれた人がここにいるんです。それに答えられるよう頑張りたいって思います」


そう言って俺は強く頷いた。

それにスズシロさんは応えるかのように小さく頷き


「…それは…伝えてよかった。すごくホッとした」


スズシロさんはそう言って微笑むように笑った。

その笑顔はいつもの凛々しさのあるカッコいい笑顔ではなく緩く可愛らしい笑顔で俺の顔が少し熱くなった。

思わず少し顔を逸らして「じゃ、じゃあミシマ先生の元へ報告へいきましょうか」と口に出す。


「あぁ」


それから二人で校舎の中を進む。

俺は雑談がてらふと、何気なく思い出した事を口にする。


「そういえばスズシロさんはよくパッケージだけで探し当てましたね。あれって結構、実は俺が知らなかっただけでゲーム好きの中では有名な作品だったりするんですか?」


「え、あぁ…まぁ、いや、あまり有名ではないな。何せあの会社で売れたゲームソフトはあの一本きりだから」


「へーじゃあ偶然見かけたことがあってって感じなんですね」


「んー…あぁ、そうだ」


スズシロさんはどこかぎこちなくそう言って頷いた。

にしても売れたソフトが一本だけで、今ミシマ先生が教員をしているのはなんの関係もないと願いたい。


「あぁ、ちなみにあの会社の2作品目以降、ゲームプランナーの名前はミシマ先生では無くなっていたよ」


「それって…」


「まぁ色々あったのだろう。と、信じたい」


「あの先生ですからね。どうでしょう」


「全くだ」


二人で顔を見合わせ小さく笑う。

そうこう話していると職員室の扉の前へやってきていた。


「失礼します。ミシマ先生はいらっしゃいますでしょうか」


そう声をかけると昨日いた机の方から「おーこっちこっち」と声がした。

「失礼します」と声をかけてから入る。

俺は進みながら職員室に広がる重い空気に手汗が滲んだ。唾を飲み込む。

ミシマ先生だけはそんな空気の中、昨日と同じような格好で「おはよー部活の件、決まった?」と軽く言った。


「はい。作る事で二人とも合意しました」


俺はそう真っ直ぐ姿勢を正して言った。


「そうか、良かった。じゃあ色々と問題が山積みだから一個ずつ解決していこうか」


「…問題、ですか」


スズシロさんが怪訝そうな表情でそう言った。

俺も少し眉間に皺がよる。


「あぁ。まずは…部活を作るための定員が3名だから、と言っても同好会から始まるんだが。そこら辺は置いといて。あと1人青春部へ勧誘してこなくちゃならない」


「そうですね」


「という事で、これだ」


俺とスズシロさんにそれぞれ紙の束が渡される。中身は生徒の写真と特技が履歴書のような形で載ったものが3枚ある。全て俺たちと同じ一年生のものだ。


「これは…」


「これは青春部へ誘うメンバーだ。そしてこの生徒達以外の加入は認めない」


「え?」


「青春とは修羅の道だからな」


「えぇ」


青春が修羅の道なんて聞いたことがなかった。何かミシマ先生は盛大な勘違いをしているような気がする。

いや、待てよ…盛大な勘違いしているのは俺たちの方なんじゃないか?


「一体、青春部は何をする部活なんですか」


ゴクリ、と俺は唾を飲み込んだ。

ミシマ先生ならばとんでもない提案をしてくる可能性がある。

それこそ「確かに、これは修羅の道だ」となってしまうようなとんでもない青春を…

隣を見るとスズシロさんも「確かに、それを聞いていなかった」と表情を険しくしている。


「あぁ、それはこの紙にまとめている。部活の予定表だ」


ミシマ先生はそう言って椅子を回転させ机の上にあった紙の束を取って俺たちへ渡す。

机の上にはあと1セット何かを書いた紙束が見えた。

ただまずは部活の内容を確認しなくては、と受け取った紙に目を落とす。


「…」


俺はゆっくりと息を吐き静かに固唾を呑んだ。

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