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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第一章 お互いを知って
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2

俺が断ります、と口に出す前にミシマ先生がピッと人差し指を立て封じる。


「と、言ってもだ。俺とシノもガクも面識が無い、シノとガクお互いにしてもだ。だからまずは知る所から始めよう」


スズシロさんが手を挙げる。


「キジョウくんがどうこうではなく、お互いの事を知った所で部活は作りません」


同じく、と俺も続く。

知る事は別に良い。クラスメイトだし。が、それで青春部を作ろうとはならない。というか何があれば青春部を作ろとするのか俺には分からない。というかまず青春部ってなんだ。


「いや、必ず作る。二人とも作りたくなる」


「何を根拠に」


スズシロさんがそう口にする。

それを読んでいたかのようにミシマ先生は自分のデスクの引き出しを開けた。

何気なくその動作を眺めていた俺はさも当たり前のように取り出された二つのゲームのパッケージに目を疑った。


「…なっなんで職場にゲームソフトを持ち込んでるんですか」


「ん?教育に必要だからね。教科書みたいなもんだよ」


ミシマ先生は涼しい顔でそう言った。


「これをガクに、これをシノに」


てっきり反対に渡されると思っていたゲームのソフトだったが俺が受け取ったのは市販の封が切られた状態にある四角形の平たいパッケージで、知らないゲームソフトだ。パッケージにはちょっと年季が入っている。


「これは?」


「それをやれば二人とも気持ちが変わる。じゃあ短い用事と言ったし二人とも帰って良し!まだ質問があるなら今回だけ特別に等価交換でなんでも答えよう。ただし一個答えたら君らも絶対一個正直に答える。そして俺は女子供なんであろうと容赦しない!」


満面の笑みでサムズアップしながらそう言った。


「…無いです」


多分、ミシマ先生は本当に容赦なく嫌な質問をするだろう。

スズシロさんも同じく「特に」と答えた。若干、軽蔑の視線が混じっていたような気もする。

それから職員室を出てスズシロさんはクラスメイトを教室に残しているらしく俺はそのまま帰る為、別れた。

俺は歩きながら腕を組んで首を捻る。


(なんで…)


スズシロさんが不思議そうに眺めていたあれは俺達が一年以上前に作り上げ市長特別賞を受賞したゲームのパッケージだった。

だが、販売はしていない。俺たちのゲームはネットでダウンロードすれば誰でもできるようになっている。あれは商品説明の為に何個か作っただけのパッケージで先輩たちが卒業するときにほぼ全てゲームのディスクと共に配った。後は中学に何個かパッケージだけの状態で予備がある位だ。なぜそれをミシマ先生は持っているのか。


(あと、これなんだ?)


バックから受け取ったパッケージを取り出した。

開けてみると中にはなんの変哲もないゲームソフト。

表のパッケージには女性キャラクターが多く見受けられる。

恋愛シュミレーション系のゲームだろうか。一応確認したが年齢制限はかかっていない。


(まぁやってみたら分かるか)


きっと俺はこれをやった所で青春部を作ろうとはならないだろうし、スズシロさんがゲーム好きだとしても俺たちが作ったゲームをやった所で青春部を作ろうとはならないはずだ。

そこにはなんの関連性もない。


(本当に何を考えているんだミシマ先生は)


家に帰り入学式の様子を家族に軽く話して自室に戻り久々にゲームの本体を起動する。

そこから途中で夕食を食べたものの気がつけば日付が変わる頃までゲームに没頭していた。

そこでようやくゲームは一応のクリア。その後、最後のムービーが流れ始めた。

俺は画面から視線を外し鼻をかんだ。鼻を噛むのはゲームを初めて何度目か分からない。そして濡れた目で深く頷く。その拍子に涙が床へ落ちていった。目の周りが少し熱く多分、赤く腫れているだろう。


(ちょー良かった)


俺は深く息を吐き出す。目が腫れてしまっていてもそれで良かった。

物語の序盤までよくあるただの恋愛ゲームかと思っていた。途中からヒロイン、主人公双方の家族の思いと絆が合わさったハートフルな物語を展開し始めた辺りで既に涙腺をやられた。

一本の映画を見終えたような気持ちが心の中にある。


(こういうゲームを俺も作りたい)


深く頷く。

このゲームを作った会社の別のゲームもやってみたい。参考資料としてもあるが、そうでなくとも普通にやってみたい。

ちょうどゲーム画面はエンドロールが流れている事だし、と画面に視線を戻した時だった。


ーーゲームプランナー…三島夏貴


「ミシマナツキッ!?」


目を疑った。

もう一度、目を擦ってじっくりみる。が、その事実は変わらない。


「えええええええええ!?」


ハッと口を閉じる。そういえば深夜だ。

にしても…衝撃だ。

一旦、息を吐き出してから顔を上げて机の上に置いたパソコンを眺める。パソコンの中には俺が作った日の目を浴びる事の無いゲームの設定資料、企画書なんかが入っていた。

うーん、と首を傾げて唸る。


「ミシマ先生のアドバイスは欲しい。だけど青春部を作るのは嫌だ」


ていうか、青春部って何なんだよ。

部活をするのが青春の一部だろ。青春を部活にするんじゃない。

ただ、このゲームがミシマ先生のアイデアから作られたというのなら今、現在進行形で俺が詰まっている問題の解決につながるかもしれない。


(俺は天才じゃない。誰もが驚く革命的なアイデアというのは作れない)


ただ、ミシマ先生ならば。

何か、そのヒントでも教えてくれないだろうか。


「…等価交換」


そうミシマ先生は言った。

一個、答える代わりに絶対正直に質問に答えるという等価交換。

そしてミシマ先生は嫌な質問をするだろう、という予感もある。

何を質問するかというのすら決まっていない。


「…けど………だめだ。一旦、風呂入ろう」


湯船に浸かると気持ちが大分落ち着いてくる。

狭くなっていた視野が広がり、そういえばミシマ先生は「今回だけ特別に」と言っていたのを思い出す。

手を伸ばし息を吐いた。


「保留だな」


詳しい説明も受けていない中での判断は禁物だ。

それにスズシロさんの方が気持ち変わらず断る可能性もある。

そうだ。スズシロさんが断る場合、ミシマ先生はどうするのだろう。また別の選択肢が提示される可能性もある。それに賭けても良いだろう。


(きっと分の悪い賭けじゃない)


スズシロさんが青春部制作に乗り気になる未来が見えないし。

キリッとした顔ではっきりと部活は作りません、そう言い切ったスズシロさんの横顔を思い出す。

カッコいいな。


「ていうか何があったら青春部を作りたいってなるんだよ」


俺はそう呟いて小さく笑った。

その翌日の事。

朝、俺が登校すると靴箱の前にいたスズシロさんが手を振って俺の方へと笑顔で駆け寄って来た。

そんな姿に俺の心臓は大きく飛び上がる。

突然の出来事過ぎて頬を赤らめ薄く笑う俺にスズシロさんは一息ついて真剣な眼差しで


「キジョウくん。私は青春部を作って良いと思う。それが昨日一晩考えた答えだ」


(ん?ん?んんんんんんんんん??)


俺の眉間に深い皺が寄っていく。

聞き間違いだと思いたかったが一言一句聞き逃さないようにしていた過去の自分を思い出す。

一旦落ち着いて目を閉じ大きく息を吸う。


(いったいスズシロさんにこの一晩で何があった!?)


俺はカッと目を見開いた。

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