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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第三章 価値
16/19

4

「あーしの評価があーしの中で全てだから。あーしが欲しいと思ったもの以外に興味は無い」


「…それが今回は美術部部長だったっていうことか?」


「うん。画力テストで点数が高い人がなれるって知って出来ると思ったから」


「実際できてるしな」


「でも、こんな終わり方は認めない」


扉を隔てていたけれど、その声ははっきりと聞こえた。

俺は思わず笑っていた。


「馬鹿にしてる?」


「してないよ。すげぇかっこいいなと思ったからさ。見習いたいよ」


ここで折れて後悔するより最後まで立ち向かう。

その姿はすげぇカッコいい。

昔の俺に見せてやりたいくらいだ。


「馬鹿にしてるじゃん。どうせあーしなんてハブられて話も聞いてもらえず部長の役目なんて誰かが勝手にやりだすだろって思ってるでしょ」


「思ってないよ」


そう言いながら苦笑いをする。

例えがやけに具体的だ。


「ただ、部活の崩壊は近いかもね。その前になんとか案を考えるけどさ」


「…そうかな」


その声は先ほどの宣言と打って変わって小さかった。


「崩壊させたから分かるよ」


もう既に話を聞いてくれるような状態では無くなってきている。

まだ話し合いに応じるようなフリは続けるだろうけれど、平行線を続けるつもりはお互い毛頭もない事だろうし。いずれ決別の時はきっと来る。


「…ごめん。あれは流石にヤバすぎた。カッとなっちゃって、いつもそうなんだけど。ごめん」


慌てたような口調が聞こえてくる。

俺は首を横に振る。


「気にしてないよ。事実だし」


ただ流石に久々に人から言われた為ショックはあった。

多分再び同じような状況になっても俺は同じような感じになる。

今でもスズシロの言葉に救われている。


「でも言っちゃいけない事だった。ごめん」


「うん」


そう言って俺は頷いてから立ち上がった。


「そもそもエイカさんは美術部を崩壊させないつもりなんだろ」


そう言いつつ尻を叩いて埃を落とす。


「うん」


「じゃあ頑張れ」


「崩壊させなかったら君にとっては交渉決裂じゃない?」


「その時はその時でどうにかするよ」


「…じゃあ、もし上手くいったらティッシュのお礼であーしが青春部に入ってあげる。どれくらい部活にいけるかは分からないけどね」


扉が開く。

そこからほっそりとした白い手が出てきてティッシュを差し出している。

あくまで顔は見せないつもりらしい。


「上手くいった方が絶対お得だな」


「じゃあ上手くいくよう祈ってて」


「はいはい」


そう言ってフッと笑いティッシュを受け取った。

グーッと腕を上げて伸びをする。


「じゃあもう行くから、上手くいくことを祈ってるよ」


そう言って俺はその場を離れた。

そもそも部長としての役目は大体雑務と部員の話を聞くバランサー、たまに大きな部長らしい仕事もするけれど稀だ。

雑務をこなしていれば最低限、部長を続けさせてもらえるのではないか、と思わなくもない。


(ただ部活動活動費用の調整も恐らく部長の仕事…となると話が変わってくるよな)


結局、こんな高校だし分からないことだらけだ、とため息をつきつつ頭を掻く。

ふと、何か違和感を感じた。


(退部…させる。なんてのは基本的に無理だろ。そもそも明らかに部活の邪魔なんてしたら部の評価が下がる。本末転倒だ)


じゃあエイカさんは大丈夫か、とはならないだろ。何かがあるんじゃないか。何もなければ、詰んでいるのなら部員達は諦めているような気がするのだ。

例えば生徒会の作ったルールに沿って強制的に退部出来る措置とか…別の何かとか…


「…て言うことなんですけどミシマ先生何かそんなルールは思い当たりませんか?」


俺は職員室にいたミシマ先生の元にやってきてそのまま質問をぶつけた。


「無いな」


ミシマ先生はしばらく顰めっ面で唸った後、はっきりとそう言い切った。

俺は眉を顰めて「無いんですか?」と聞き直す。


「無い。どころか今は部活動勧誘週間で部の出入りは生徒会を通さなくてもいいが、明明後日には部活動勧誘週間が終わり部の出入りは生徒会まで行く必要がある。入る理由も出る理由もしっかりしていなければいけないし拒否される事だってある。ましてや他の人からの圧力で退部なんて認められる訳がない。逆にそんな事になればその部活に生徒会が監査に入るぞ」


その話を聞いて俺は首を捻った。俺の気のせいなのか?


「分かりました。ありがとうございます」


そう言った後、職員室を離れた。


(とりあえずはエイカさんとの交渉…というより美術部でエイカさんを部長として続けて良い理由を作るって感じかな)


納得がいくまで部長を続けたいとエイカさんは言っていた。

それに沿う形で提案を持っていく必要がある。


(美術部が何かエイカさんを退部させれる手を打つ前に俺が案を出せればいいか)


それが通ってしまえば疑問は残るが解決はする。

疑問は解決した後で調べればいいし。


「て、いう案なんだけどスズシロはこれで良いかな?」


夜、今日あった事とひとまず美術部に提案するものをまとめてスズシロに電話をした。

この案はスズシロにも話を通しておかなければいけない気がしたので少し遅い時間だったがメッセージを送ってみるとすぐに了承の返事が返ってきた。

明日でも良かったが朝にはミシマ先生にこの話を通しに行きたかったので今、返事をくれて助かった。


「あぁもちろん大丈夫だ。ガクくんの好きなようにしてくれ」


「分かった。ありがとう」


俺はそう言ってスマホを耳に当てたまま頷いた。


「にしても良く彼女から青春部に入る、なんて言葉を引き出したものだ。ガクくんだってあの件を言われた時、多少動揺していたし普通、平常心で交渉なんて出来ないような気がするけれどな。少なくとも私がガクくんと同じ立場なら普段通りの力が発揮できないだろう」


「そうか?必要な事だったから。あそこで感情を出すべきじゃないって分かってたし」


「分かっていても難しいものだけれどな」


「じゃあ多分、得意なんだと思うよ。そういう事」


俺はそう軽く言って笑う。


「なんだろうな。度胸とか勝負強さになるのだろうか」


「さぁ、あんまり考えた事ないな。じゃあ伝えたい事は終わったしこんな時間だから切るよ」


そう言ってスマホから耳を離す。


「何か用事でもあるのかい?」


スマホのスピーカーから不服そうな声がした。

俺はスマホを持ってベットから立ち上がりパソコンの置いてある机の方へと向かいながら「いや、案もまとめ終えたし無いけど」と返事をする。


「じゃあこの後はゲーム作りかい?」


「そうだね。まだシステム面で未完成な所があるし」


「それを見せてはもらえないだろうか」


俺は眉を顰めて「見せる?」と聞いた。


「あぁ、ビデオ通話機能があるだろ?ガクくんのゲームがどこまで出来ているのか興味があるのだ。それに本当に未完成のゲームなんてそうそう見る機会がないしな」


見せるのには若干の抵抗があった。

けれど、ゲーム作りを手伝ってくれるとスズシロは言っているのだ。


「分かった」


そう言って椅子に座りパソコンを起動する。

いずれ見せるものだと思えば頷けた。


「見てもあまり面白くないと思うけど」


「そうか?私は興味がある」


マイクが拾わないよう少し離れてため息をつく。

落ち着け、ただゲーム作りの経過を見せるだけだ。


「じゃあビデオに変えるよ」


「あぁ」


と、返事が返ってきたので俺は通話をビデオ通話に切り替える。

画面に映ったスズシロはパジャマ姿だった。

白の透き通るような素材を使ったゆったりとした長袖のパジャマで手を振っている。


「こんばんわ」


見て良いはずのものなのに、俺は自然と視線を逸らしていた。

挨拶にも「あ、あぁ」とまともに返事を返せない。

首の後ろ辺りを手で摩り自分の部屋に視線を彷徨わせつつ


「なんか意外だな。スズシロはもっとシャツみたいなの着てるかと」


「シャツ?着ていてもそれでビデオ通話に出るわけないだろ。何か羽織るさ」


当たり前の返答が返ってきた。


「いや、じゃなくてもっとしっかりした感じのだな」


「これ言うほどしっかりしてないか?」


「してる!ちょっと待って。俺は動揺してるんだと思う」


手を画面にかざし俺は一旦、机に置いてあった茶を飲む。

それから大きく息を吐いた。顔が熱い。

何言ってんだ俺、と呟きながら制服の襟元で扇いだ。

どうしてこう顔を見ただけで上手くいかないんだ。

それから小さく息を吐き出し、再び画面に戻った。


「悪かった。もう大丈夫。可愛いパジャマだな。驚いた」


「…まだ大分動揺しているように見えるが?」


「言わないで!?」


そこでふとスマホの画面を見て気がついた。

そもそもさっさと外カメラに切り替えてしまえばよかった。


「こんな感じなんだけど…」


と、言いつつピントをパソコンに合わせる。

小さくなった画面でスズシロが笑っているのが見えた。


(俺にはそんな事をしている暇がーーーー…あれ?)


俺は首を傾げた。

俺は後悔しないように青春もしてゲームも作る…ならば


(恋愛は青春のうちに含まれないのか?)


「ほぉ、全然分からない。これがプログラミングというやつなのかい?」


画面からそんな声がして意識は現実に戻ってくる。

ひとまず考え事をしている暇は無さそうだ。


「…ん?あぁC#っじゃなくて、そうプログラムのコード。これが命令する文章の一部になる」


「じゃあこれは何を書いているんだ?」


「…これはね、難しい。簡単に言うならビームを出して、そのビームの色々な数字を書いてる」


「ふむ、やはり全然分からないな」


「じゃあ、こっちなら分かると思うよ」


俺は画面を切り替えゲームを作っている方に移る。

スピーカーの先から息を呑む声が聞こえた。


「これは…!」


「うん。スズシロも知ってるホラーゲームの続きにあたる部分」


「こんなジオラマみたいな感じになっているのか」


声のトーンが一段階上がり画面を見ていなくてもスズシロの機嫌が良くなったのが分かった。

俺もここまで喜んでくれると鼻が高い。

その後もゲーム作りの近況報告やスズシロのゲーム雑談を聞いていると、夜はいつの間にかどっぷりと更けていた。流石に俺が風呂の時間という事で解散する流れになる。


「じゃあ、また明日」


「あぁ、おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


俺はそう言って通話を終わり机にスマホを置いた。

長い息を吐き出し背もたれに体を預ける。キィと椅子が軋む音がする。


(おやすみ、か)


なんだろうな、この気持ち。そんな心と裏腹に俺の口角は少し上がっていた。


翌日、朝からミシマ先生の元へ行き考えた案を提出する。

色々と聞かれたものの想定内だったのでスムーズに事は運んだ。


「うん。分かった。じゃあ放課後までには書類作って俺の名前とハンコは入れとく」


「分かりました。ありがとうございます。放課後取りに来ます」


頭を下げて職員室を出る。


(順調だ…)


ホッと息をつき職員室前の廊下から外を眺めた。

下は屋根になっていて登校してくる生徒達が下駄箱に入っていくのが見えた。


「キジョウくん!おはよっす!」


「おはよースズカゼくん」


バタバタと走ってやってきたスズカゼくんに手を振る。


(気にしすぎか?)


首を傾げつつ教室に戻り何事もなく授業は進む。

昼休みになり意味もなく立ち上がりソワソワと廊下を歩いていた。

ふと、一つの教室の前で足が止まる。


「美術室」


見上げたプレートにそう書かれている。

磨りガラスの奥に人の気配があった。


「失礼します」


扉を開けると教室の真ん中でポツンとエイカさんがいた。

机の上に弁当箱が乗っている。


「なに?」


椅子に座ったままこちらを見てそう言った。


「いや、誰かいるなと思って…そういえば案できたよ」


「あーし、まだ諦めてないんですけど」


そう言って睨まれた。

俺は両手を小さく上げる。


「もちろん、なんとかなる方が絶対良いんだが…なんか部員達が諦めてないというか、何かあるような気がするんだよな」


「なんかって?」


「それが分からないからソワソワしてここに来たってわけよ」


俺は笑ってそう言った。

エイカさんは小さく横に首を振りつつ


「…度胸があるんだか無いんだか」


と、こぼす。


「じゃあ飯の邪魔しても悪いし教室帰るわ」


「ん、そーして」


ヒラヒラと手を振られつつ美術室を出る。

とりあえず提出する案は名前を入れてもらった状態でミシマ先生に保管してもらって明後日の部活動勧誘週間終わり間際に持って行ってみるか。

その案を使わずに上手くいけば御の字だし、そう心の中で言い聞かせるように呟く。

ただ小さく何度も頷いて尚、どこか心は晴れないでいた。

その後、何事もなく午後の授業が終わり放課になる。


「ガクくんはこの後どうするんだい?また美術室かい?」


「いや、そんな頻繁にいっても仕方ない気がするしミシマ先生にシステム修正の近況報告だけして帰ろうかな、と」


何気事もないのならそれでいい。

エイカさんにも言ったが美術部がそのままエイカさんを受け入れてくれる方が何よりも丸く収まる。


「そっか、じゃあ今日は私も帰ろうかな」


うん、と頷いた時だった。

スマホが震えた。俺のスマホにメッセージが来るのは珍しい。

ポケットからスマホを取り出し何気なく画面を見て俺は一瞬固まった。


「スズシロ、help!のスタンプがきた」


そう言ってスズシロにスマホを見せた。

次回、クライマックスフェーズの第四章突入になります。

どうぞ今後ともよろしくお願いします。

乃東枯

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