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アオハルゲームメーカー  作者: 夏草枯々
第二章 修羅の道
11/19

4

「俺、全然、あなたのようになれませんでした!ずっと見てたのに、近くにいたのに。全然分かって無かった!」


首を振り涙が溢れた。溢れていた涙がやがて止まらなくなり俺はそう叫びながらへたり込んだ。

部長は振り返りしゃがんで俺の肩に手を置いた。


「ガク、ゲームクリエイター部は君に渡す。自由に使ってくれて構わない」


「…」


「そう言っただろう」


ホッと息が出た。

次の瞬間、頭が沸騰し手が出る。

俺は横に吹き飛び床へ倒れ込んだ。

倒れ込んだまま、まだか、と呟いた。口が切れて血の味がするし殴った自分の拳が痛んだ。

確かに部長はそう言ってくれるかもしれない。

だがここは


「俺の夢だ」


目を開けカーテンの隙間から見える光量の強さから朝だと分かる。

体には衝撃を受けたような力の入った感覚だけがあるものの口から血が出ていたり拳が傷んでいるということは無かった。

瞬きをするとじんわりと涙が滲んでいるのを感じる。

起き上がり涙を手のひらで拭いながら「悪夢だな」と呟いた。

ベットから立ち上がりパソコンを眺める。もっと作業を進めたいもののもう朝ごはんを食べなくては間に合わない時間だった。


(…勝手に許されるな)


大きく息を吐き出して部屋を出た。


「おはようガクくん」


教室の前の廊下でそんな声が聞こえて振り返る。

スズシロだった。ちょうどやってきたらしい。


「おはようスズシロ」


「先ほどあくびをしていたが寝不足かい?」


見られていたのか、と少し苦笑いをする。


「ちょっと修正を張り切り過ぎた」


「そうか、まぁ体を壊さない程度にね」


「ありがとう、そうする」


そう頷き教室の扉を開いた。

俺が教室に入り少し進んでからザワリと教室がどよめいていた。

軽く辺りを見渡す。クラスメイト達の視線は俺のすぐ後ろに注がれていた。


「あぁ…そういえばガクくん、話が変わるのだがエイカベニさんはどうやら現役のイラストレーターをやっているようだ」


「あぁ、え?」


唐突にそんな話をスズシロがするので俺は変な声が出た。

教室の様子には何も触れないらしい。もう既にスズシロはこんな状況に慣れているのかもしれない。


「昨日中学が同じだった子からそんな話が聞けた」


「…あぁ、そうなんだ…ってエイカさん凄いね!?」


そう言いつつ振り返った。

ようやく頭がスズシロの言っていた事を理解する。

現役のイラストレーター…なのか。


「ただそれを知って少し気になった点がある」


「はい」


「何故、そんな彼女が美術部に入ったんだ?」


「…何故って」


話した限り中学から続けてとか、部活で友達が作りたくて、なんて感じにエイカさんは見えない。

そもそも現役でイラストレーターをやっているのなら学校に行く時間すら惜しいような気がする。部活なんてできる暇は無いだろう。


「それでも尚美術部でやりたかった事がエイカさんにはある」


「私もそうだと思った。それでだガクくん、放課後美術部の調査をしたいと思うがどうだろう?」


「分かった。行く」


「オッケーじゃあ放課後」


そう言ってスズシロは手を振り自分の席へと向かった。

すぐにスズシロは友達達に囲まれる。

俺は自分の席に座り適当に授業の準備をしつつ本を取り出した。

不思議とその日はクラス全体が静かでスズシロがやってきたグループだけ盛り上がっていた。

だから


「シノは知ってんの?キジョウってゲームクリエイター部を…


そんな話が聞こえてきた。

俺は静かに立ち上がり教室の外へ向かう。

昔の話が聞こえて不愉快になり教室を出たわけではない。

もちろん、あまり噂されるのは好きじゃない。

けれど一番はスズシロがどういう対応をとるのか見たかった。俺の位置からだと振り返らないといけないがそんな露骨な事をしたく無かったしそれにその件でスズシロに追及されるのならなるべく教室の外がよかった。


「知っている。一時、こっちの中学まで噂が広がってたからね」


そう友達に返事をしスズシロは軽く笑った。

スズシロは知っていたらしい。


(いずれ言わなきゃなと思ってたんだけどな)


廊下の窓から外に顔を出す。それから頬に手を当ててみる。

吐き出した息が白くなるほどではないが少し外は寒い。

なのに…


(なんで顔は少し熱いんだよ)


そんな事をしている暇は俺に無いだろう。


「うい!ガク!おはよ!ゲーム作りで寝てないなんてやめてくれよ」


そんな声と共に突然、背中を叩かれた。

この声はミシマ先生だ。

俺はため息をついて振り返り背中を摩る。


「背骨折れました。今日は保健室で授業受けます」


「別に良いが全部の授業、遅刻と早退、欠席で通すぞ」


「少なくとも欠席とその二つが並ぶことはないでしょ」


「いや、欠席二つで通す」


そう言いながらミシマ先生は手でピースサインを俺に向ける。

やはり別に何も良くなかった。


「…だったら普通に受けます」


「おーそうしろ、そうしろ」


そう笑いながらミシマ先生は教室に入っていった。


「じゃあ行こうか、ガクくん」


放課後、俺とスズシロは教室の外で合流し美術部へと向かう。

美術部へ向かいながらいつもの何気ない雑談が始まった。


「そういえばスズシロはもし部費が入ったら何に使いたいとかある?」


「ん?それはもちろんチア部だ!ズラッと並んでもらって踊っている所をじっくり見たい!」


グッと拳を握りつつ目を輝かせ強くそう言った。

そういえば前も言ってたな。嫌な客だ。

と、いうかそれをさらに後ろから眺める俺の方が気まずいだろ。

確か俺たちのクラスにも一人チア部に入った子がいたはずだし…あの子が踊るのか…


「…ちょっと有りだな!」


「そうだろう!」


「他には何かないの?」


「他か、知っている物だと調理部は凄いぞ」


調理部か。

確か文化部第一位、全体四位の部活だ。


「食堂にある調理部スペシャルランチの新作の試食を食べる権利や毎月調理部が作った特製菓子を食べれる権利、後は運動部が大会の時、手作り弁当を大会場所に持って来てくれる権利なんかがある」


「すげぇな!?」


商売が上手いな。普通に欲しい。


「他だと、軽音部と吹奏楽部は文化祭で出す自分達の出し物の時に良い席を確保してくれる権利があるし、文芸部は毎学期出してる短編集がちょっとお得に買えたりするらしい」


「へー内容を知らないからなんとも言えないけど結構面白そう」


「あぁ、他には昔だが新聞部が勝手に作った水泳部の部長の写真集が売られていたらしいぞ」


「その部長の人権は!?」


「まぁほら学校は治外法権というし…というのは冗談で実は裏で新聞部と繋がっていたらしい。卒業式の日まで部長は隠していたらしいが」


「策士ですね」


まぁ実際アウトな事だと生徒会が黙っていなかっただろう。


「その話はこの学校の有名なエピソードとして今でも語られている」


「そうなんだ」


そんな話をしていると美術部に着いていた。

扉を開けて中を覗く。昨日より少し遅れて来たもののまだエイカさんは来ていないようだ。

前の方では美術部の人たちが集まって何やら真剣な表情で話している。


「あれ?ブチョー」


そんな声がして俺はその声の主を探した。どこか聞いた事のある声だ。

その人は前の集団に混ざらず後ろの席で手を振っていた。


「久しぶり、部長じゃなく元な」


「久しぶり元ブチョー」


美術部の画力テストで発見していた一年の元ゲームクリエイター部の部員だ。

中学と変わらない寝癖があるのですぐに分かった。

俺は軽く手を振りかえしつつ扉を開いて美術室の中へと入る。

美術部の人々は入ってきた俺たちに一瞬視線をやってすぐにそれぞれのやっていたことに戻った。


「何しにきたの?まさか元ブチョーが美術部に入るわけないし、あれスズシロさんじゃん!」


そう言って俺を押し退け立ち上がる。


「初めまして」


スズシロは相変わらずの爽やかな笑顔で対応していた。


「え、うそっ。なんでスズシロさんはブチョーなんかといるんですか?」


「おい、俺の時と対応が違いすぎやしないか」


「当たり前でしょ、今スズシロさんと話してるの邪魔しないで」


この扱いの差である。

スズシロはそんな元部員である彼女の後ろで任せておけと言わんばかりのウィンクをした。

俺は軽く横に寄りつつ肩をすくめて頷く。


「昨日美術部がざわつく事件が起こっただろう?それでどうなったか興味本意で見に来たんだ」


「あぁベニちゃんが部長になっちゃったやつですね」


「そうだ。昨日エイカさんと話していてね。彼女から美術部部長になったのを聞いたんだ」


「へーベニちゃんもやっぱりスズシロさんには甘いんですね」


「いや、私もかなりの塩対応をされてしまった。まさに彼女は孤高の天才なのだろうな」


「あーそうなんですか。すいません。うちの部長が」


「何、天才というのは常に孤高な存在だろう。それもまた覚悟の上さ」


そう言ってフッと笑った。

俺はカッコいいと呟きながら目を輝かせる部員を傍目に前で集まる美術部員の方を見た。


「普通に嫌なんだけどあれが部長とか」

「そもそも美術部の運営をちゃんと出来るかも怪しいし」

「部費の管理も部長だしベニがするんでしょ。やばいって」

「ベニちゃんと色々相談したいけど、それも難しい性格してるよね」


俺はそんな様子に少し眉を顰めた。

どうやら話し合いはエイカさんの部長就任に否定的のようだ。

あまりエイカさんにとって良くない流れになりつつある。


「そういえばこの美術部に入っていると何か特典…例えば就職や受験で有利になるとか、そんな感じなものはあるのかい?」


唐突にスズシロがここに来た本題を切り出した。

俺は視線を二人に戻す。どうせ前の集団はズルズルと悪いところを挙げていくだけだろう。そういう悪い所を言う空気になっているように俺からは見える。


「え?いえ、まぁ履歴書には美術部に三年間所属していたと書けると思いますけど、どちらかといえばもっと実践的なものを教えるのがここの美術部のいい所だと思いますよ」


「実践的な…というのはどんなものなのだろうか?」


「例えばキャラクターを上手く描けるようになりたい人には人体の模写、骨格や筋肉の場所なんかから教わります。胸鎖(きょうさ)乳突筋(にゅうとつきん)はここでこういう形ーとか、ちなみに首のここなんですけど」


そう言いながら顔を傾け首の横ら辺の筋を指でなぞる。

スズシロはそれを見ながら小さく頷いた。


「…それが実践的。より絵のリアリティや解像度を上げる訓練をしていると言うことだろうか」


「そんな感じですね、多分。私もそれがどんな意味があるのかは分かってませんが、でも上手くなってる気がするんで教わってて楽しいです」


「それは何よりだな」


そう言ってスズシロは微笑んで頷く。

俺も少し聞きたいことが出来たので話に混ざる為、少し二人に近づいた。


「凄いな、そんな美大みたいな事を美術部で教えているのか?」


「そうだけど、えっ本当にブチョー美術部に入りに来たの?」


ムッとしていた表情が驚きの表情にパッと変わる。

俺は横に首を振って


「いや、動画で美大の授業を作業しつつ流してたことがあってな」


「えぇ、なんで?」


「一人でゲームを作るにあたって最低限、描けるようになりたくて」


それを聞いて元部員である彼女はゆっくりと俯いていき小さな声で


「…ごめん、まだ作ってんなら手伝おうか?」


そう言ってくれた。

俺はなるべく軽い声色を作り「手伝ってくれるのか?」と聞いてみる。


「…やっぱ、無理。部活しつつは絶対無理だ。ごめん」


「残念だ。やってくれるなら給料くらいは払うつもりだったが、100万くらい」


「…そうやって、変わってないねブチョーは」


大きくため息をつかれた。

俺は変わっていないらしい。何かが変わった気はしないのできっとそうなのだろう。


「…エイカさんなんだが、あまり美術部での立場は良くないみたいだな」


「ん?うん。そうだね。結構誰にでもキツイ態度とるから、部内だとあれじゃ部長は任されないって言われてる」


「そうか…ぶっちゃけて言えば美術部としては今後どんな対応をとりそうなんだ」


「…退部か、部活のルール変更。可能性としてはエイカさんの退部が一番確率が高いかな。自主的なのか強制なのかは分からないけど」


「分かった。ありがとう」


俺は頷きスズシロの方を見る。

スズシロも頷き返してきたので一旦、美術室を出るつもりだった。


「なんでブチョーはベニちゃんの事調べてんの?」


どこか張り詰めたような声色だった。

俺はフッと笑いながら


「部活を作ってんだ。青春部」


そう言い切った。

恥ずかしいが、まぁ良い。

俺が部長だった頃にいたゲームクリエイター部の部員には恥ずかしい所などたくさん見られている。


「青春部!?ブ、ブチョーが青春って似合わなー…え、スズシロさんも?」


「そうだ。まぁ色々あってな。ガクくんと共に部活を作ることにした」


「えぇ、変わったわーブチョー」


そう言ってから小さく俺の元部員は笑う。

そんな時、ガラリと音を立て美術室の扉が開かれた。


「あっベニじゃん」


前にいた集団の誰かがそう言った。

俺は扉の方を見る。スズシロも同じように扉の方を見ている。


「ブチョー、御目当てのベニちゃん来たよ」


そうわざわざ少し大きな声で言った。

俺はそんな冗談に苦笑いを浮かべる。

エイカさんは扉を開けたまま立ち止まり軽く俯き眉を顰めてポツリと「ブチョー」と声にしていた。

それからハッとしたような表情をして顔を上げた。


「あんたをどっかで見た事あると思ったら」


俺はそう話すエイカさんを見ながら、この時にはエイカさんがその後に続ける言葉を多分読めていた。

この数日、直接言われる事はなくても俺を見て「あぁどっかで見た事あると思ったら」と呟く。そんな事は何回かあったから。


「ゲームクリエイター部をめちゃくちゃにした後に解散させた時の部長でしょ」


そう俺を真っ直ぐ見据えてエイカさんは言ったのだった。

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