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男爵閣下、質問してみる

 転がり込んできた分不相応な社会的地位、小さいながらも海産資源の豊かな領地と家屋敷。屋敷の維持管理には住み込みの執事や家事使用人が最低限必要になるとアドバイスされて来たものの…漁業従事者の方々は、お忙しい。


 取り付く島もなかった。

 碌に話も聞いてもらえなかった。


 諦め半分で、玄関に貼った求人。

 ぶらりと現れた、唯一の希望者。

 それが、このエゴ・エリスさん。


 まるで一筋の希望の光……に見えた気がしましたか?

 ※今や一般動詞過去形(疑問文)



「なした?」

「ぁ、ぃぇ」

「なにさ、言ったらいいっしょ」

「拭き掃除、お願いしまぁ~す」

「なんもさ」



 アッシュグレーのゆるふわボブから見え隠れする切れ長の目、紺碧の瞳、薄くて小さな薄紅色のくちびる。小柄で細身の体形に不釣り合いなほど大きいおっぱい。浪漫制服『メイド服』が絶対に似合うと思った。


 即、採用した。


 趣味が高じて高額な見積もりとなった。

 背に腹は代えられない、発注してきた。


 拭き掃除の動作にあわせて揺れる、青い膝丈スカート。


 プリッ プリッ。


 プリッ プリッ。


 プリッ プリッ。


 プリッ プリッ。



 クルリ。



「ボサーッとすんな、手ぇ動かせ」

「はい?」

「それ、執事の募集広告なんだべ」

「あぁ、はいはッ……ぃいいい?!」



   ヒュッ ビッタ――ァン!!



「こったら恰好さす意味わがんね」

「百年もすれば私に時代が追いつく、確信があります!」

「現在進行形だべ? こっぱずかしくって外出できね!」



 憧れのメイド服が、お気に召さなかったらしい。

 初日のあいさつは「はんかくせ」の、一言だけ。

 この地方で『愚者』を指す単語だそうだ――――


 以来、蛇蝎の如く嫌われている。

 不快害虫のように扱われている。

 何度もスリッパで叩かれてきた。

 顔に雑巾を投げつけられたのは、初めてだけど。


 こちらの趣味を押し付けすぎた、良くなかった。

 仕方がない。



「その青いメイド服は譲れないけど、勝手にヘッドドレスにしたのは横暴だったと反省してる。用意しておいたホワイトブリム、これで機嫌を直して……っあ!」



 パシンと払い除けられた手。

 かわいいヒラヒラのホワイトブリムが宙を舞う。

 何故だ、この髪形、あまり他の選択肢は無いが?



「あぁ、もしや……キャップ派?」

「ちげぇよ!」

「あ、違う?」

「あだし一人で全部してるべや!」

「……お仕事の話だったのかな?」

「ヒラヒラ動きにくいっしょや!」



 この恰好をしてくれたら大満足だったんだけど。

 メイドさんって、掃除の他になにをするんだろ?

 よく知らない。



「はっちゃきこいても終わんね、なんぼ何でもゆるくない、こったら広い御屋敷ば一人で掃除できるわけねぇべや!」



 困った、ネイティブ浜言葉。

 ほとんど意味がわからない。

 訛りがヒドイ。



「もしかしたら、なんですけれど」

「なにさ」

「メイド服より、メイドとして従事することが御不満ですか?」

「なしてさ」



 こちらを値踏みする、エリスさんの瞳。

 根拠を示せという無言の圧力を感じた。



「だって……あの時」

「あの時? 何時何分何秒だべなぁ?」



 そらっとぼけた?


 でも、質問には答えている。

 率直に疑問をぶつけてみるか――



「麻袋から出てきた魔物が、王様をブッ殺した時」

「王様ブッ殺したのは他でもない。旦那様だべや」



 ゆるゆると首を振る。

 事実は違った。



「俺は麻袋の結び目を斬って、そのまま担いでいた男の首を落とした。所詮は厨房仕込みの素人剣術、二人目と相打ちになって死んだ。最期、麻袋から這い出てきた娘さんが、王様の首を()ねるのを見ながら、息を引き取ったんだ」


「魔物でなくて娘っコ?」

「魔物でも、人でもない」



 エリスさんの片眉がピクンと揺れた。



「ここにいるんだろ? ……人魚が」









「知らね」

「黙秘?!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] エリスさんの方言と訛りが、何とも親しみ深いですね。 北海道から北陸にかけての地域の雰囲気が感じられます。 [一言] 関西人の私が「はんかくさい」という言葉を知ったのは、秋田のローカルヒーロ…
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